間違ってる青春ラブコメは鋼鉄の浮遊城で   作:デルタプラス

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第8話です。
鼠が登場します。


第8話 ようやく、攻略会議は開かれる。

デスゲームと化したSAOが開始されてから、1ヶ月がたった。

 

ゲーム攻略は遅々として進まず、未だに第1層のフロアボスの部屋にすら辿り着けていない。

 

そして、この1ヶ月間で2000人ものプレイヤーが死んだ。

 

 

正直なところ、ここまで攻略が進まないとは思っていなかった。βテストに比べて攻略速度が落ちることは、俺でなくても予想できたプレイヤーは多いだろう。HPが0になると死ぬという現実が足枷となるのだから。しかし、今頃には第3層にたどり着けていると思っていた。

 

「まさかここまで遅くなるとはな。思った以上に攻略に参加している人数が少ない」

 

「仕方ないサ。HPが0になればホントに死ぬんだからナ」

 

「そうだな。無理強いは出来ないし」

 

別に一人二役やって会話してますよアピールをしてるわけではない。ホントだよ?

 

「それはそうと、今日はどうした?今のところ新しい情報は手に入れてないぞ」

 

ここ最近、最前線で戦い続ける俺ですら目新しい情報を手にすることはほとんどない。理由は、この1ヶ月で第1層のマップのほぼ全てが探索され尽くしてしまったからだ。わかっていないのは、第1層《迷宮区》最上階にあるはずのボス部屋くらいだ。

 

「それについては期待してないヨ。《情報屋》のオイラでも新しい情報を手に入れるのに苦労してるんダ。目の腐ったハッチーなんかに期待することなんて何もないヨ」

 

そう言って、俺の会話の相手はにひひと笑う。悪かったな。目が腐ってて。

 

「じゃあ何だ。まさか俺を罵倒しに来たわけじゃないだろ、アルゴ?」

 

俺の会話の相手。それは《情報屋》アルゴ。150センチ程しかない小柄でフードを被り、頬に"鼠"のヒゲのようなペイントを施している。また、アルゴのステータスはAGI極振りで、AGI型の俺ですら置いて行かれる程のスピードで走る。そのため付いたあだ名が《鼠のアルゴ》。そんなアルゴだが、《情報屋》のとしての腕は確かだ。現に、《アルゴの攻略本》なるものまで執筆・発行している。1冊500コルとそれなりの値段はするが、これがあるのとないのとでは大きく違う。βテストの経験がある俺ですら知らない情報が載っていたりするのだ。この《攻略本》がなかったら、もっと多くの死者が出ていた可能性すらある。

 

「まあ、それもあるケド」

 

アルゴはそう前置きする。え?それもあったの?冗談かと思ってた。八幡ちょっとショックだよ。

 

「今日、《攻略会議》が開かれるそうダ。場所はこの《トールバーナ》。17時からだそうダ。詳しいことはこいつを見ナ」

 

真剣な声音になったアルゴが会議の時間や場所が載っているウィンドを見せてくる。《攻略会議》。つまり、このゲームを攻略しようという意志のあるプレイヤーで集まって、この第1層をいかにして突破するかを話し合おうというのだ。それが《迷宮区》に最も近いこの最前線の街《トールバーナ》で開かれるのだ。

 

「そうか」

 

正直、「やっとか」という感じである。だけど会議か。俺が行ってもどうせ発言することはないし、なにより面倒くさい。

 

「ハッチーはもちろん行くんだロ?」

 

アルゴは、俺が行くことが決定事項であるかのように聞いてくる。えー、やだよ面倒くさい。そんな心情が顔に出ていたのだろう。俺は黙っていたのだが、アルゴはヤレヤレという風に首を振ると、

 

「オイラがタダで情報を渡すことなんてそうないゾ。それに、"あの事"バラされたくないだロ?」

 

と言った。後半は顔を近づけて耳元で囁かれた。思わずドキッとしてしまう。アルゴはSAOでは数少ない女性プレイヤーだ。元々、女性への耐性が高くない俺が突然そんなことをされると少し緊張してしまう。だが、今回ドキッとしたのは緊張してではない。恐怖でだ。

 

"あの事"

 

それはつい1週間ほど前のことだ。俺は今でも偶発的な事故だったと信じているが、アルゴ曰く、

 

「女としての尊厳を傷つけられタ」

 

ということだ。そう、あれは森の中にある小さな泉で…。いや、やめておこう。これは思い出すべきではない。だって、さっきからジト目で睨まれてるんだもん。

 

「今思い出してなかったかナ、ハッチー」

 

「いいえ。滅相もございません」

 

即座に否定する。

 

「フーン。ならいいケド。」

 

アルゴはジト目のままだったが、やがて短く息を吐くと言った。

 

「《会議》にはちゃんと行くんだゾ。オイラも様子は見に行くからナ」

 

どうやら逃げることは出来ないらしい。

 

「ハァ」

 

思わずため息が出てしまう。そのタメ息を了承と受け取ったのか、アルゴは満足そうに頷く。まあ、参加するしないに関わらず、様子くらいは見に行くつもりだったからいいけど。

 

「じゃあナ。オイラはもう行くヨ。少し仕事があるからナ」

 

そう言うと、素早い動きで人の中に紛れ、あっという間に見えなくなってしまった。ていうか、あいつ仕事って言ったか。全くよくやる。素直に感心する。

 

現在時刻は14時06分。会議までは3時間弱ある。

 

「場所の下見して、日課の《隠蔽(ハイディング)》スキル上げでもするか」

 

《隠蔽》とは、ハイドする、隠れることで他のプレイヤーの視覚から見えなくなるスキルである。そして、地道にハイドを繰り返すことでスキル熟練度が上がっていくのだ。実に俺向きなスキルだと思う。

 

 

 

会議が行われるという古代ギリシア風の劇場跡の近くでハイドすること2時間以上。あと20分ほどで会議が始まるという頃になって、最初の会議出席者と思われるプレイヤーが現れた。彼らは青髪のイケメンを先頭にして談笑しながら劇場跡に入っていく。しかし、SAOには似合わない雰囲気をもつグループだった。いかにもリア充っぽくて。特にあの青髪のイケメン(笑)。おっと、つい本音が。

 

それからは少しずつプレイヤーが集まってきた。

 

外人っぽい人を含んだ巨漢4人組。トゲトゲ頭とその仲間たち。フード付きのケープを着たフェンサー。俺と同じ《アニールブレイド》を装備した黒髪の少年。

 

全員が俺の5メートルくらい先を歩いていったにも関わらず、誰にも気付かれなかった。現在の隠蔽率は60%程度のなので、これは俺の元来の存在感の無さが隠しパラメーター的に働いている可能性がある。なにそれ悲しい。

 

「これ以上は来そうにないな。俺も行くか」

 

アルゴの姿は見当たらないが、すでに近くには来ているはずだ。先ほど会議参加者の人数を調べたところでは、俺を入れて45名。少ないと言わざるを得ない。フロアボスの攻略は、《パーティー》を複数連結した《レイド》を組んで行われる。《パーティー》の最大人数は6人。《レイド》の最大パーティー数は8パーティー。つまり、1つの《レイド》の最大人数は48人と言うことになる。それよりも3人少ない。正直、49人いてほしかった。何でかって?そしたら俺は絶対にレイドに参加しないからだ。「気持ちだけもらっておくよ」とか言われて除外される。絶対に。

 

いくら考えても詮ないことである。むしろ、おそらくSAO始まって以来最大の死の危険がある場所に、自ら向かう意志のあるプレイヤーが45人もいたと肯定的に捉えるべきだ。

 

俺は半円を描くようにして並ぶ階段状の席の上の方に座る。俺の3メートル左前方にフードを被ったフェンサー。3メートル右前方に黒髪の少年。ここに座ったのは、全体がよく見えるからだ。決してこの2人がソロプレイヤーで、変な仲間意識が芽生えたとかそういうわけでは断じてない。そのはずだ。

 

 

 

「はーい。それじゃあそろそろ始めさせてもらいます!」

 

パン、パン、と手を叩く音と一緒に、そんな明るい声が聞こえてきた。声の主に視線を向けると、あの青髪のイケメンだった。

 

 

2022年12月2日17時に少し前。アインクラッドにおける初の攻略会議が始まった。

 

 

 

第7話 ようやく、攻略会議は開かれる。 終




あの事については時間があるときに書けたら書きますw
ほっといたら攻略会議に参加しなさそうだったのでこうなりました。
感想くれると嬉しいです。

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