韓国に占領された日本 ✕ 車輪の国 作:minnie_remon
陽はほとんど沈み、辺りはいよいよ闇に包まれようとする夕の暮れ。
不気味な静寂に包まれた路地裏を、一人の少年が必死に駆けていた。
少年は一度たりとも後ろを振り返ろうとはしなかった。いや、振り返ることができなかったと言った方が正しいかもしれない。彼を突き動かしているのは、生まれて初めて味わう本能的な恐怖だった。
捕まったら……殺される。
切れた息が喉を焼き、心臓が爆発しそうなほどに鼓動が跳ね上がる。それでも少年は必死に走り続けた。迫り来る恐怖を、自らの感情ともども振り払うように。
しかし、逃走の終焉はあまりに唐突にだった。
小さな角を曲がった瞬間、ただでさえ暗さを増していた少年の視界の闇が、さらに重く凝固する。
「ひっ…!」
見上げるとそこにいたのは、軍服を身に纏った女性の姿。
その胸には、彼にとっての恐怖の象徴である、大韓民国の国旗が刻まれている。
「小さいのに頑張るじゃない。でも残念。君がどれだけ足が速くても、私たちから逃げることはできないのよ」
彼女の言葉は残酷な事実だった。この区画一帯には既に磁気非常線が展開され、上空には熱源探知機能を備えた監視ドローンが群れをなして旋回している。少年の必死の逃走は、初めから韓国軍の掌の戯れに過ぎなかったのだ。
「さ、行きましょうか」
女性軍人がゆっくりと少年に手を伸ばす。指先の冷たい感触が、少年の腕に触れる。
「ひっ、ひぃぃっっ!!」
瞬間、少年は自らに触れた手を反射的に払いのけ、背を向けて再び走り出した。
「ったく…聞き分けのない子ね…」
ため息混じりに小さく呟き、彼女は腰のホルダーへと手を伸ばした。
そして、次の瞬間…
――パァンッッッッッ!!!!
乾いた音が鳴り響いた。同時に少年の短い悲鳴が上がり、ドサリとその体が崩れ落ちる。
「ふぅ…」
標的への命中を確認した女性軍人がゆっくりと、蹲(うずくま)る少年の元へ近付く。
「あああ…うううぅぅぅ……」
倒れ込んだ少年は全身を激しく痙攣させているが、出血はただの一滴も見られなかった。その様子を見て彼女は、自国の最新兵器の性能を改めて誇らしく思う。
外傷を与えずに、中枢神経に過電圧ショックを与え相手を行動不能に陥れる非致死性電磁ガン。相手を殺さずに無力化できる所が何とも効率的かつ優雅な兵器だ…と。
「痛いでしょ?でもね、自業自得。逃げようとするからいけないのよ」
「あぁぁ…ううぅぅっ……」
少年はただ絶叫なき悲鳴を漏らすことしかできない。全身を焼き尽くすような痺れと痛みが全身を包み、動くことはおろか言葉を発することすら叶わない。ついさっきまで彼を覆っていたはずの恐怖心は、今や圧倒的な苦痛によって塗り替えられていた。
「さて、と」
女性軍人は胸ポケットから、透明の液体が入った小瓶を取り出した。
「今、楽にしてあげるわ」
そう言って少年の上半身を無造作に抱き起こすと、抵抗できない小さな唇へ強引に瓶の口を押し当てた。
「ごぷっ…うっ…かはっ…」
「こら、吐き出そうとしないの」
少年のアゴを容赦なく掴み上げて顔を真上に向けさせ、冷たい薬品を喉の奥へと無理やり流し込む。
すると数秒と経たない内に、少年の瞳から焦点が失われていった。瞳孔が開き、残されていた生気の光がじわじわと濁っていく。やがて視線が泳ぎ、ついに白目になったかと思うと、同時に前身の緊張がふっと途切れた。
だらりと垂れさがった両腕が、冷たいコンクリートに打ち付けられる。
完全に意識を失った少年を見下ろしながら、女性軍人は満足げに微笑んだ。
「安心して。私たちが責任を持って、君を立派な人間に教育してあげるからね」