韓国に占領された日本 ✕ 車輪の国 作:minnie_remon
紗千香が活動停止状態となり、部屋には静寂が訪れた。
すると、ふと猛烈な倦怠感が襲ってきた。考えてみれば今朝方の30分ほどの仮眠を除けば、俺はもう40時間近く寝ていない。自分も今日はもう寝てしまおう…その前にシャワーでも借りるか…そう思って風呂場へ向かおうとした…その時だった。
カチャリ、と施錠したはずの玄関ドアの鍵が開く音が響いた。
…紗千香が言ってた同居人か?と俺はとっさに身構える。もし同居人とやらが彼氏だったら、面倒な話になることは必至だ。
だが、ゆっくりと開いたドアから入ってきたのは、俺の予想に全く無い人物だった。
そこに立っていたのは、小学校低学年…それも1年生か2年生ぐらいの女の子だった。
気になったのは皮膚の色だ。浅黒い肌の質感からして、東南アジアか中南米あたりの移民の血を引いているように見受けられる。
女の子は小さな足音を立ててトコトコと部屋の中へ歩み寄ってくると、特に警戒する様子もなく、可愛らしい瞳で俺を見上げて訪ねてきた。
「…お姉ちゃんのお友達?」
お姉ちゃんというのは紗千香のことだろう。ただ、どう見ても2人が実の姉妹には見えなかった。
というか俺は、紗千香の友達というのはちょっと違う。何て答えようかとちょっとばかり考えて…
「おっほん。俺は広瀬京介だ。将来、人をアゴで使う身分になる男だ」
すると少女はきょとんとして言った。
「アゴ…?しゃくれ?」
アゴで使う、という慣用句は少女には難しくてまだ分からなかったようだ。
「あたし……まな」
「まな?」
「そう。まな。お姉ちゃんの妹」
「お姉ちゃんってのは、紗千香のことかな?」
「そう、さちかお姉ちゃん」
「一緒に住んでるのかい?」
「うん、お兄ちゃんは?」
「居候、ってやつだ。分かるか?」
「そーろう?」
「………」
ここで断じて言っておくが、俺は早漏なんかではない。むしろ射精のタイミングを完璧にコントロールできる自信がある程だ。あと、ちょっと話が戻るけど、俺はしゃくれでもないとも付け加えておく…!
「ま、まあとにかく、今日から暫くここで厄介になると思うから。よろしくな」
「うん。ごはん食べる?」
「おう、もし食べさせて貰えるというのなら、ガッツリ2人前はいきたい所だ」
「じゃあまなを入れて3人前だね?」
「そうだ。足し算が出来るんだな、偉いぞ」
「えへへ…」
褒められて嬉しそうな表情を見せるまな。
とはいえ初等教育を受けていない可能性はあるな…直感的にそう思った。
現在の日本社会において、移民やその子供たちの置かれた立場はお世辞にも良いとは言えない。社会信用システムにおいても下層に位置づけられることが多く、貧困や差別に晒されるケースが日常化している。
そんな背景を持つ彼女が、なぜF級市民である紗千香と同居しているのか…
「ところで、まなのお父さんとお母さんは?」
まなの出自を探るべく、聞いてみると。
「知らない。全然覚えてないの」
「そっか。じゃあ紗千香お姉ちゃんとはどれぐらい前から一緒に住んでるんだ?」
「んー、忘れた」
「じゃあ、まなの苗字は?」
「知らない」
「三ッ沢じゃないのか?」
「知らないの。それより、ごはん食べよー」
そう言ってまなは、とてとてーっと、キッチンの方へ駆けて行った。
…まあ、まなにこれ以上聞いていも何も出て来ないだろう。まなに関しては、紗千香に明日聞いてみるとしよう。
その後は、冷蔵庫の中を適当に漁らせてもらって(もちろん食費は払うぞ!)、まなと一緒に簡単な夕食を摂ってから、ごろんと床に寝転がった。食後の眠気まで手伝って、流石にもう起きている気力は無かった。
フローリングは硬かったけど、ここ数日は険しい山越えで野宿続きだったから、比較にならないほど快適だ。
ああ…久しぶりに、気持ち良く眠れそうだ…
翌朝。就寝からきっかり9時間後に目を覚ます。睡眠時間は1時間半のレム睡眠周期に合わせるのが俺のルーティンだ。最近は7時間半睡眠の日が多いけど、さすがに過酷な山超え含めた40弱時間近い不眠(仮眠30分)の疲労蓄積は凄まじく、今朝は無意識のうちに睡眠時間を1周期分伸ばしていた。
周囲を警戒してから体を起こすと、ベッドの上の紗千香は相変わらず服薬による完全な停止状態のままであり、まなも床の布団に丸まって静かな寝息を立てている。
9時間寝たとはいえ、まだ時間には十分な余裕があった。という訳で俺は朝のジョギングへ向かうことにした。
朝靄の立ち込める町を約1時間ほど走り込み、紗千香の停止時間がちょうど明けた頃合いを見計らってジョギングを終える。
だが部屋に戻ると、まなはすでに起きていたが、そこに紗千香の姿はなかった。
代わりに、机の上に小さな書き置きが残されていた。
『ちょっと山登りしてくるけど、先に学園行っててね』
…山登り?朝のこの時間から?
まあ、まず間違いなく嘘だろう。まさかマンション裏にタバコでも吸いに行きやがったか?
なんて思っていると、まなのまなの小さな声が届く。
「お姉ちゃん最近ね、朝早くにお出かけすることが多いんだよ」
「ほう」
まなの可愛らしい証言に、俺は思考を巡らせる。時間制限義務によって活動時間が極限まで削られている彼女が、貴重な覚醒時間を割いてまで毎朝向かう場所…やはり山登りなどという言葉通りの理由であるはずがない。
一体、どこで何をしているのか…
「…ま、考えても始まらないな」
俺が一人であれこれ推測しようが、答えなんぞ出る訳もない。俺は思考を一旦横に置き、一人で学園へ向かう準備を始めた。
…と、その前に、ジョギングでかいた汗をシャワーで流さないとな。