韓国に占領された日本 ✕ 車輪の国 作:minnie_remon
紗千香の身体が崩れるようにベッドへと倒れ込み、規則的な微か息遣いだけが残された静かな室内。
俺は照明の光を落として壁際にもたれかかるように腰を下ろし、ユジンさんから手渡された一綴りの資料を鞄から取り出した。
そこには、俺が担当する3年1組の男子16人、女子15人――計31人分の詳細な個人データが克明に記録されていた。
ページをめくり、まずは各生徒の直近数回分に及ぶテストの成績一覧を確認する。
当然、生徒全員の学力水準を把握しておく必要があるのだが、やはり真っ先に目が向くのは重点的指導対象であるE級市民の香菜と、F級市民である紗千香のデータだった。
まずは紗千香の成績を確認する。
「…おや?」
最下層であるF級に甘んじている以上、紗千香の成績は壊滅的なものだろうと思っていた。だが、開いたページに記されていた数値は、俺の予想を心地よく裏切るものだった。
紗千香の成績は、意外にも悪くなかった。
総督府の意向が強く反映される重要科目である「歴史」に関しては平均点を下回っていたものの、F級まで叩き落されるような深刻な点数ではなかった。そして何より目を引いたのが、「数学」の点数だった。ほぼ毎回のテストで90点台を叩き出しており、学年でもトップクラスの数字を維持している。
投資や為替に没頭しているだけあって、数字の処理や数学的ロジックの構築は得意なのかもしれない、そう思える成績だった。
続いてもう1人の重点指導対象である香菜のデータを確認する。
だが、こちらは「学級委員長」という肩書きからは想像もつかないほど、お世辞にも良いとは言えない成績だった。
時折り覚醒したかのように高得点を記録しているものの、一方で20点台や30点台といった酷い赤点を散発的に記録している。全体的に極めてムラが多く、総合評価としては常に学年平均を大きく下回り続けていた。
この学力の低さと安定感の無さが、香菜の「E級」という低い社会信用評価に直結している可能性は十分にある、そう感じざるを得ない成績と言えた。
それにしても昼間の能天気な言動や無防備さから、てっきり頭が良くないと思い込んでいた紗千香がまずまずの好成績で、かつ数学においては突出した点数を取り続けていること。そして逆に、母親である担任から日常的に厳しい指導と勉強を強制されているはずの委員長・香菜がこれほどまでに不安定で低い成績に低迷していることは共に意外な事実だった。やはり外見や立ち振る舞いだけでは人間の中身は分からないものだと改めて感じさせられる。
続いて資料の後半…俺の着任直前に行われたという身体測定の記録へと視線を落とした。
最初に目に飛び込んできたのは、男子生徒の身長データだった。
記載されていた3年1組の男子平均身長は、165.8cm。10年前…すなわち韓国による占領・統治以前の同年代の平均と比較して、実に5センチも落ち込んでしまっている。
ただ、男子の低身長化傾向はこの学園に限った話ではなく、日本全国で見られる顕著な異変だった。
世間一般では「占領下における経済的困窮と、成長期における摂取カロリーの低下」が原因だと説明されている。だが、俺はそれが嘘であるということを知っていた。確かに韓国による統治以降、経済的な状況は酷くなって十分な栄養を摂取できない子が増えているのは確かだ、だが、それだけで低身長化の全てを説明するのは到底不可能だ。なぜなら、手元の資料では女子の平均身長は157.5cmであり、10年前と比べてもわずかな減少…というか実質的にほぼ横ばいの水準を維持しているからだ。
女子の体格が維持され、なぜ男子の身長だけが極端に縮んだのか。
その答えは、資料のさらに奥深く、特異な測定項目によって突きつけられていた。
そこには、男子生徒の「勃起時における男性器のサイズ」が詳細に記録されていた。現在の統治下では、男子の身体測定項目の一つとして、性器の精密な計測が義務付けられている。
3年1組の男子十六人の勃起時平均値は、わずか「8.8cm」。
占領前における日本人男性の平均値が13cm前後であったと言われていることを考えれば、信じ難いレベルでの小型化・退縮が進んでいる現実が浮き彫りになっていた。
なぜ、こんな異常事態が起きているのか。
理由はやはり、総督府の政策にある。というのも統治開始以降、日本の男子児童・生徒には定期予防接種という名目で、男性器の成長を阻害する特殊なホルモン抑制剤の投与が義務化されているのだ。もちろん接種される側には「感染症予防ワクチン」としか知らされていない。その薬剤の影響によって男性器の発育は不可逆的に阻害され、その副次的な作用として、骨格や身長の成長までもが著しく抑制されてしまっているのだ。
ユジンさんから、総督府がこの施策を推進する「正当な理由」を聞かされた時の記憶が蘇る。
『かつて日本人は、多くの我が国の女性を性奴隷にし、消し去れない多大な苦痛を与えた。だから二度とそんな惨禍を繰り返させないために、万が一、日本人男性が我が国の女性に“悪さ”をしたとしても、与える苦痛を最小限に抑えられるよう、男性器を小型化している』
そう淡々と語るユジンさんの前で、俺は言葉を失い絶句するしかなかった。だがもちろん反論などできる訳もなかった。
さらに資料の末尾には、男子の「48時間の禁欲後における射精データ」まで記載されていた。
3年1組の男子の平均精液量は…わずか0.9ml。
自分の射精量をわざわざ測定したことなんて無いけど、感覚としては少なく見積もっても一発で10ml以上は放出している自覚がある。俺は気になってスマホを取り出し、WHO(世界保健機関)の自然妊娠可能基準を検索してみた。
するとその下限値は、1.4mlとなっていた。
つまり現在の日本の若い男たちは、平均値の段階で「事実上の男性不妊状態」へと追いやられているのだ。同胞たちが知らぬ間に去勢され、種としての未来を奪われていく静かなジェノサイドの事実に、胸の奥が冷たく凍りつくような戦慄を覚ずにはいられない…
…と同時に、自分の推定10ml超という推定射精量、が基準を遥かに超える破格の数値であることにも気付かされる。
…こうなりゃ、俺が種馬になって日本の繁栄に貢献するしかないんじゃねーか?
あまりの暗澹たる現実に、俺は自分でも不謹慎だと分かっている自嘲気味な冗談を心の中で呟くしかできなかった。
「…おや?」
ただ、そんな暗澹たる数字が並ぶ中で、如月セピアこと中島だけが、身長も男性器も、韓国統治が始まる10年前以前の日本人と同程度の数値だった。他の生徒たちと比べると、頭一つどころか二つも三つも抜けた優秀な数値だ。
これは何か裏があるな…と直感したが、深く考えるのはやめておいた。
中島の男性器の事なんざ考えるのは、ハッキリ言って気持ち悪すぎるから。