韓国に占領された日本 ✕ 車輪の国   作:minnie_remon

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1-13 制裁

 ザーザーと、不気味な雨音が夜の闇を塗りつぶしていく。まさかここまで雨足が強くなるとは思わなかった。

 

 恩赦日は、今年4月1日に第4代総督に就任したパク・ヨンア総督による勅令によって、全国一律で廃止されていた。

 そんな中で紗千香は午後7時以降も活動し、香菜は担任の指導を破って夜遊びに興じ、そして指導員である俺はそれらの重大な規律違反を見逃し、挙句の果てに一緒になって野外で歓談していた。

 

 強い雨が木々をざわめかせる中、義務に違反していない中島だけはその場で解放され、俺と紗千香と香菜の3人は夜の学園へと呼び出された。

 第一会議室の前に立つ。

 

 ……死ぬかもしれない。

 

 覚悟を決めて、俺はドアをノックし、入室した。 

 すると、俺たちが入室したのを確認したユジンさんが無言で立ち上がり、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。

 息が詰まるほどの、凄まじい威圧感があった。俺の肉体と精神に刻み込まれた、絶対的支配者の瞳がそこにはあった。

「さて、誰が悪い?」

「私です」

 ユジンさんが問い終えると同時に、俺は直立したまま口を開いた。

「よろしい」

 隣で紗千香が「ちがっ…」と小声で言うのが聞こえたが、ユジンさんは全く見向きもせず、ただ俺だけを見据えていた。

「言われたことしかできない人間を三流…言われたことを上手にできるようになって、ようやく二流…」

 そう言ってユジンさんが、自らの机に立てかけていた木製の棒を手にし、ゆっくりと振り上げた。

 空中で静止した木の棒が、紗千香と香菜の注目と緊張を集中させる。

 直後…ゴンッッ!という鈍い音が室内に響き渡り、俺の左鎖骨が悲鳴を上げた。

「京介は、いつになったら一流になるの?」

「…申し訳ございません。ヨンア総督の勅命を失念していました」

「――謝るな」

 そう言って、2発目が同じ個所に容赦なく打ち下ろされる。肉が潰れる痛みに、視界が白く明滅する。

「指導者は、謝るな。責任を託された人間の謝罪が許される社会は堕落の一途を辿る…かつての日本のように」

 3発目は、頭。

 ガツン!という頭蓋骨を揺らす衝撃と共に、皮膚が裂ける感覚がした。

「ちょ、ちょっと…待ってよ!」

 その時、紗千香が叫んだ。

「わ、私がやったんだよっ…その…ホントは恩赦日は中止になったのを知ってたけど…黙ってたんだよっ…京介は悪くないからっ!」

 その瞬間、ユジンさんが紗千香に一瞥をくれた。

「っ…!」

 ただそれだけで、紗千香は全身を恐怖に震わせていた。

「子どもが…」

 ユジンさんは、まるで聞き分けの悪い幼子をたしなめるように言う。

「子どもが罪を犯した時、誰が警察に頭を下げる?部下が犯したミスは、誰が責任を取る?」

「ひっ…」

 その圧力に気圧され、紗千香はもう何も言えなかった。

 それを見たユジンさんは、再び俺に向き直る。

「分かったら、黙って見ていなさい」

 そうして、俺への制裁が再開された。

 肩へ、頭へ、顔面へ…硬い棒が容赦なく打ち下ろされる。

「ご…ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ…!」

 惨劇に、香菜が手で顔を覆った。

 だがユジンさんの容赦ない声が室内に響く。

「花村、その手をどけなさい。顔を覆って目を逸らそうとするな」 

「で、でもっ…」

「目を逸らし続ける限り、この男は死ぬまで殴られ続けることになるわよ」

「そ、そんなっ…」

 恐る恐る、香菜は自らの顔を覆っていた震える手をどかした。涙と恐怖で歪んだ彼女の瞳が、俺の視界の端にぼんやりと映る。

 しかし、香菜が目を逸らそうが直視しようが、振り下ろされる打撃の手が緩むことはない。

「ルールは、必ず明文化されている。忘れてました、とは言わせないために」

 皮膚が裂け、血が噴き出している傷口にも、容赦なく打撃が繰り返され、鮮血が散る。

「でも人はおろかな生き物だから、忘れてしまう。社会の秩序を保つために構築された、尊いルールを」

 ガツン・ガツンと重い衝撃が連続で頭部を襲い、視界が急速に狭まっていく。

「だから私はこうやって、二度と忘れることの無いように…罪を、この男の身体に刻み込んであげているのよ」

 ついに脚の力を保てなくなり、ガクンと膝元から崩れ落ちるように床へ倒れ伏してしまった。

 まずい…血が目に入って、前が見えない。

 意識が……

「お前たちはただ、今の気持ちを忘れないようにすればいい」

 薄れゆく意識の中で、ユジンさんの声と、紗千香と香菜の悲鳴が微かに聞こえた。

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