韓国に占領された日本 ✕ 車輪の国 作:minnie_remon
ザーザーと、不気味な雨音が夜の闇を塗りつぶしていく。まさかここまで雨足が強くなるとは思わなかった。
恩赦日は、今年4月1日に第4代総督に就任したパク・ヨンア総督による勅令によって、全国一律で廃止されていた。
そんな中で紗千香は午後7時以降も活動し、香菜は担任の指導を破って夜遊びに興じ、そして指導員である俺はそれらの重大な規律違反を見逃し、挙句の果てに一緒になって野外で歓談していた。
強い雨が木々をざわめかせる中、義務に違反していない中島だけはその場で解放され、俺と紗千香と香菜の3人は夜の学園へと呼び出された。
第一会議室の前に立つ。
……死ぬかもしれない。
覚悟を決めて、俺はドアをノックし、入室した。
すると、俺たちが入室したのを確認したユジンさんが無言で立ち上がり、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。
息が詰まるほどの、凄まじい威圧感があった。俺の肉体と精神に刻み込まれた、絶対的支配者の瞳がそこにはあった。
「さて、誰が悪い?」
「私です」
ユジンさんが問い終えると同時に、俺は直立したまま口を開いた。
「よろしい」
隣で紗千香が「ちがっ…」と小声で言うのが聞こえたが、ユジンさんは全く見向きもせず、ただ俺だけを見据えていた。
「言われたことしかできない人間を三流…言われたことを上手にできるようになって、ようやく二流…」
そう言ってユジンさんが、自らの机に立てかけていた木製の棒を手にし、ゆっくりと振り上げた。
空中で静止した木の棒が、紗千香と香菜の注目と緊張を集中させる。
直後…ゴンッッ!という鈍い音が室内に響き渡り、俺の左鎖骨が悲鳴を上げた。
「京介は、いつになったら一流になるの?」
「…申し訳ございません。ヨンア総督の勅命を失念していました」
「――謝るな」
そう言って、2発目が同じ個所に容赦なく打ち下ろされる。肉が潰れる痛みに、視界が白く明滅する。
「指導者は、謝るな。責任を託された人間の謝罪が許される社会は堕落の一途を辿る…かつての日本のように」
3発目は、頭。
ガツン!という頭蓋骨を揺らす衝撃と共に、皮膚が裂ける感覚がした。
「ちょ、ちょっと…待ってよ!」
その時、紗千香が叫んだ。
「わ、私がやったんだよっ…その…ホントは恩赦日は中止になったのを知ってたけど…黙ってたんだよっ…京介は悪くないからっ!」
その瞬間、ユジンさんが紗千香に一瞥をくれた。
「っ…!」
ただそれだけで、紗千香は全身を恐怖に震わせていた。
「子どもが…」
ユジンさんは、まるで聞き分けの悪い幼子をたしなめるように言う。
「子どもが罪を犯した時、誰が警察に頭を下げる?部下が犯したミスは、誰が責任を取る?」
「ひっ…」
その圧力に気圧され、紗千香はもう何も言えなかった。
それを見たユジンさんは、再び俺に向き直る。
「分かったら、黙って見ていなさい」
そうして、俺への制裁が再開された。
肩へ、頭へ、顔面へ…硬い棒が容赦なく打ち下ろされる。
「ご…ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ…!」
惨劇に、香菜が手で顔を覆った。
だがユジンさんの容赦ない声が室内に響く。
「花村、その手をどけなさい。顔を覆って目を逸らそうとするな」
「で、でもっ…」
「目を逸らし続ける限り、この男は死ぬまで殴られ続けることになるわよ」
「そ、そんなっ…」
恐る恐る、香菜は自らの顔を覆っていた震える手をどかした。涙と恐怖で歪んだ彼女の瞳が、俺の視界の端にぼんやりと映る。
しかし、香菜が目を逸らそうが直視しようが、振り下ろされる打撃の手が緩むことはない。
「ルールは、必ず明文化されている。忘れてました、とは言わせないために」
皮膚が裂け、血が噴き出している傷口にも、容赦なく打撃が繰り返され、鮮血が散る。
「でも人はおろかな生き物だから、忘れてしまう。社会の秩序を保つために構築された、尊いルールを」
ガツン・ガツンと重い衝撃が連続で頭部を襲い、視界が急速に狭まっていく。
「だから私はこうやって、二度と忘れることの無いように…罪を、この男の身体に刻み込んであげているのよ」
ついに脚の力を保てなくなり、ガクンと膝元から崩れ落ちるように床へ倒れ伏してしまった。
まずい…血が目に入って、前が見えない。
意識が……
「お前たちはただ、今の気持ちを忘れないようにすればいい」
薄れゆく意識の中で、ユジンさんの声と、紗千香と香菜の悲鳴が微かに聞こえた。