韓国に占領された日本 ✕ 車輪の国   作:minnie_remon

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1-14 パフォーマンス

 気が付くと、見知らぬ天井をぼんやりと眺めていた。

「うっ…!」

 体を動かそうとした瞬間、肩口と頭に焼けるような痛みが走った。だが構わず上体を起こして、現在の状況を確認する。

「…保健室か?」

 鼻を突く消毒液の匂いと、白いカーテンで仕切られた空間。どうやらここは学園の保健室のようだ。だが教員や養護教諭の姿はなく、しんと静まり返った室内には俺1人しかいないようだった。

 窓の外を見やると、激しい雨はすでに止んでおり、しらじらとした光が部屋を静かに照らしていた。陽光の差し込む角度からして、時間的にもう正午を回っているらしい。

 とりあえず俺はもう一度ゆっくりと横になる。

 ユジンさんによる凄惨な制裁が、鮮明に脳裏へと蘇ってくる。

 鮮血が視界を染め、膝から崩れ落ちた所で俺の記憶は断絶していた。意識を失った俺を誰かがここまで運び、応急処置を施してくれたのだろう。

 それにしても…

「生きててよかった…」

 ふと、そう呟く。殺されていてもおかしくない失態だったが、見ての通り命はあるし、傷にしてもどうやら後遺症が残るようなレベルのものではない。『五体満足』に制裁が過ぎ去ったことに心から安堵した。

 

 そのまま暫く休んでいると、不意にガラガラとドアが開く音がした。

「京介…?」

 入ってきたのは紗千香と香菜だった。

「おう、2人とも大丈夫だったか?」

 俺は激痛を隠しながら再び上体を起こす。義務違反を犯した2人が過酷な罰を受けていないかが心配だったが…

「うん、私たちは平気。お咎めなしだって」

「そうか、良かった」

 本当に、心からそう思う。何せ相手があのユジンさんだからな…

「ごめんね…私、一体どうすれば…」

 香菜は昨日に引き続き、今にも泣き出しそうな雰囲気だった。

「京介、ホントにごめん。私のわがままのせいで…」

 明るさが取り柄の紗千香ですら、申し訳無さそうに俯いている。

 そんな痛々しい表情を浮かべる2人に、俺は言った。

「いや、明確に俺が悪い。特別指導員っていう立場を忘れてた」

「でも、私のせいで…」

「ところで、包帯を巻いてくれたのは紗千香か?」

 ぐずぐずと自分を責め始めた紗千香の言葉を遮るように言う。

「うん、私と香菜ちゃんで…」

「そっか、ありがとう」

 感覚的には、完全に運動能力が回復するまで2~3週間ぐらいの傷だろうと感じられた。何にしても、早めに処置してくれて助かった。

「ねえ…あの人って何なの?」

 紗千香が忌々しい悪夢でも思い出すかのような表情で言った。

「さすがの元気系・紗千香もびびったか?」

「びびったよ!超びびった!あいつ、絶対人殺したことあるって!」

 お、元気になった。ちょっと安心。

「俺が気絶した後、何か指導された?」

「ううん。そういえば、新しいプレートをくれたよ。明日からこれを着けろって」

 言われて2人の胸元に目をやると、市民階級を示すプレートがいかにも新しいものに替わっていた。

「それだけ?俺から保護観察を受けるように、とか言われなかったか?」

「ううん…特には」

 香菜も首を横に振った。

「そっか。まあとにかく、俺はもう少しここで休むから、2人は教室に戻れ」

「分かった。じゃあ、本当にゴメンね」

 名残り惜しそうに、2人は保健室から出て行った。

 再び、部屋に静寂が戻る。

「さて、もう一眠りしようかね…」

 今寝てしまうと夜に眠れなくなりそうな気もしたけど、それでも今は動く気がしなかった。とにかく痛みをある程度落ち着かせたい。

 だがその時、またガラガラと扉が開く音。

 入ってきたのは由衣さんだった。

「ああ、先生、お久しぶりです。いや待てよ、俺は別に生徒じゃないから、由衣さんって呼んで問題ないですよね?」

 すると由衣さんは、半ば呆れたような表情で。

「昨日あんなに酷い目に遭ったのに、もう元気を取り戻したのね」

「ええ、こう見えて身体は鋼のように鍛えてありますから」

 香菜から激しい制裁の内容を聞いたのだろう。由衣さんが俺の肩や頭を心配そうに眺めてくる。

「まあ、あれはユジンさんのパフォーマンスですよ」

「パフォーマンス?」

 どういうこと?という表情の由衣さんに、俺は言う。

「俺はこれから、紗千香の保護観察をすることになると思う。もしかしたら香菜も観ることになるかもしれない。そんな2人は、昨日の一件で俺に悪いことをしたと思ってる。今後は俺の言うことを聞かないと、俺が酷い目に遭うんだっていうことを印象付けるためのパフォーマンスって訳」

「そ、そう…」

 結果的に、俺は紗千香や香菜を指導しやすくなったって訳だ。

 …ったく、どこまでも計算高い人だぜ。

「そう言えば、来週から夏休みなんですよね?」

「ええ、1カ月を超える長い休みになるわ」

「じゃあ、しばらく会えなくなりますね」

「香菜にもよろしく伝えておくわ」

 

………………………………………

 

 放課後を告げるチャイムが鳴る前少し前に、俺は保健室を出た。

 紗千香が帰るより早く部屋に戻るのは悪いから、適当にそこらをぶらついてから帰るか…そう思いながら校舎を出てると。

「広瀬さんじゃないですかっ!?」

 振り返ると、中島がいた。

「あれ、まだ授業中じゃないのか?」

「そんなことはどうだっていいんですよっ。広瀬さん、紗千香さんから事情は聞きましたよ」

 どうだっていいことは無いと思うが、どうやら本気で俺を心配してくれているらしい。

「死ねば良かったのに」

「おい!」

 …ったく、何てブラックジョークだよ。

「ところで、中島は何のお咎めもなしだったのか?」

「あたしは平気ですよ?」

「…あたし?」

「え?」

「いや、いま自分のことあたしって言っただろ?」

「言ってませんよ。あたしは僕ですよ」

「言ってるじゃねーか!」

 …あー、こいつと話してると頭が痛くなってくる。元々頭痛いのに。

「でも僕、不思議だなあ…広瀬さんとは初めて会ったような気がしないんです」

「…それはあれだろ、昨日既に会ってた!とか言うんだろ」

「くっ、流石は特別指導員、僕の心が読まれるなんてっ・・・!」

「……」

「まあとにかく、授業中だろ。サッサと教室に戻れ」

「ええ、広瀬さんともっと話したいなあ…」

「俺は忙しいんだ。じゃあな」

 中島を放っておいて、俺は学園を後にした。

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