韓国に占領された日本 ✕ 車輪の国   作:minnie_remon

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1-15 移民差別

 時間を潰すように適当に町をぶらつき、午後7時をまわってから紗千香の部屋へと足を向けた。7時まで待ったのは、これ以上紗千香から気まずそうに謝られた、痛々しい視線を向けられたりするのが億劫だったからだ。

 紗千香から渡されていた合鍵でドアを押し開けると、案の定、部屋の中はしんと静まり返っていた。ベッドの上では紗千香が既に完全な停止状態に入っている。

 これまでも昨日を除けば7時にはきっちり薬を服用していた紗千香だが、昨夜の俺に対する凄惨な制裁を目の当たりにした影響もあるのだろう。2度と余計な真似はするまいという強い恐怖と罪悪感が、規律への意識を高めているのは想像に難くなかった。

 俺は静かに洗面所へ向かい、鏡の前に立った。

 包帯の隙間から覗く自分の顔を覗き込み、酷いアザでも残っていないか確認する。いくつかの切り傷は散見されるものの、幸いにも顔面の造形を損ねるような決定的な痕にはなっていなかった。

「うむ…俺のイケメンっぷりは無事に保たれたままだな」

 傷口の痛みを紛らわすように、鏡の中の自分に向かって軽口を叩く。

 そんな一人芝居を演じていると、玄関の方からカチャリとドアの開く音が響いた。

「ただいまー」

 まなが帰ってきたようだ。

「京介、ただいまー」

「おう、おかえり」

「あれ…京介、包帯どうしたの?」

 まなが俺の頭を見て、心配そうに聞いてきた。

「ああ、ちょっとしたファッションなんだ」

「ファッション」

「うん。本当は孤独で物憂げな少女がやると萌えなんだけどな」

「怪我したんじゃないんだね?」

「怪我をするのもファッションの内なんだ。でも、まなは真似して怪我しちゃだめだぞ」

「うん、分かったー」

 まなのキラキラした笑顔を見てると、痛みも吹き飛ぶような気がしてくる。

 しかし…

「なあ、まな。いつも日中はどこに行ってるんだ?」

 俺はふと以前から抱いていた疑問を口にした。

 するとまなは当たり前のような顔で答えた。

「えっとね?、スーパーでお仕事してるの」

「…は?」

 思いもよらない返答に、俺は思わず耳を疑った。

「スーパーって…、まな、働いてるのか?本当に?」

「うん。まな、嘘つかないよ」

「マジかよ・・・」

 まだ小学校1年生ぐらいに見える幼い少女が、日中に労働に従事しているという現実…いくら被統治下の歪んだ社会とはいえ、面食らわざるを得なかった。

「仕事はいつからやってるんだ?」

 心配になった俺は聞いてみると。

「うーん、忘れた」

 ニコニコと笑いながらまなは言う。もしかしたらもう長い期間働いているのか?いや、まなの年齢的にそれはあまりにもだ。働き始めた正確な日付を覚えていない、というだけかもしれない。

「仕事は大変じゃないか?嫌なこと言われたりしないか?」

「うーん、大変だけど、慣れてきたよ」

 まなはそう言った後、少しだけ首をひねって。

「でも、今日はちょっと、おかしなことがあったんだ」

「おかしなこと?」

「うん。今日はお給料が貰える日だったんだけど、店長さんがね、月末払いにしてくれって」

「…何?」

「そしたらもっと沢山あげるって」

「………」

「ハンコが無かったからね、紙にサインしたんだよー」

 …サイン、か。

 幼い子の無知に付け込み、賃金払いをうやむやにする気なのは…まず確実だな。

「分かった。まなが働いてるスーパーは、まだ開いてるかな?」

「うん、夜の10時まで開いてる」

「よし、じゃあ今から一緒に行こうか」

「え…何で?」

「ちょっと挨拶をしておきたいと思ってな。案内してくれるかな」

 

………………………………………

 

 まなのペースに合わせて歩くこと15分。彼女が働いているというスーパーへとやって来た。

「じゃあまな、ちょっと店長さんを呼んできてくれるかな」

「うん、分かったー」

 パタパタと駆け足でスーパーに入って行くまな。その様子を見て、嘘ではなく本当にこのスーパーで働いているんだなと確信し、暗澹たる気持ちになる。

 そうして、待つこと約5分。

「連れてきたよー」

 中年太りしてむくんだ丸顔のオッサンが現れた。

 不機嫌そうに、眉間にしわを寄せている。

「何だね、君は?」

 その汚れた声と、細く濁った瞳を見て、俺は確信した。

「まなはちょっと、スーパーの中に入ってて」

「え…?」

「これから、この人と2人でお話するから」

 まなは俺と店長の顔を交互に見比べていたが、やがて大人しく店に入っていった。

「何の用?こっちはまだ仕事中なんだが?」

 俺はゆっくりと間を取ってから、背の低い店長を見下ろすように言った。

「私は特別指導員の広瀬京介です」

「特別指導員…?」

 こんな若造が…って顔をしているオッサンに対し、俺は間髪入れず言葉を重ねる。

「上司は総督府所属のキム・ユジンです。疑うなら総督府に問い合わせて下さい」

「そ、総督府…」

 総督府、というワードを出すと、途端に焦りと卑屈な表情をあらわにする男。

 …ベタな野郎だ。

「は、はあ…それで、私に何の御用でしょうか?」

「先程の女の子は、移民ですよね?」

「は、はい…」

「仕事ぶりはどうです?」

「そうですね…店内の掃除や品出しを真面目に頑張ってくれていますが…」

「本当ですか?」

 俺はわざとらしく両手を広げてみせた。

「私は南方諸国に赴任していた経験がありましてね。つまりあの女の子の民族については多少詳しいんですが…いや、あいつらは酷い。働かないし、嘘をつくし、何より不潔で臭いんですよ」

「は、はあ…分かります。実を言うと、あの子は言葉も不慣れだし、簡単な計算も間違える始末でして…」

「それは大変でしょうね。あいつらは生まれつき頭が悪いんですよ」

「は、はは…なかなかに厳しいことを仰る」

「当然、無償で働かせてるんでしょうね?」

「そ、それは…」

 口ごもる店長に、俺は続ける。

「気にすることはないですよ。この国ならいざ知らず、他の国では奴隷として扱われているような連中ですよ」

 そう煽ってやると、男の顔に下卑た笑みが浮かんだ。

「そうですよね。ええ、私もそう思ってたんですよ」

 …やっぱり、な。

「しかし、雇用契約書があるでしょう?」

「それなんですがね、あのバカ娘は戸籍もないらしくて、印鑑すら持っていないんですよ」

「へえ、それは好都合だ。じゃああなたは、彼女に給料を支払う法的義務は無い訳だ」

「ええ。ヘタクソな字でサインされた紙切れはありますが、そもそも戸籍も印鑑も無いって言うんですから」

「ははは…上手くやりましたねえ」

 …本当に、笑ってしまう。

 どうして、この手の外道を取り締まる法が無いのだろうかと。

 韓国人が日本人を管理する法律は、ウンザリするほど完璧に整えられているというのに…

「あのな…」

 俺は笑みを消し、一歩近づいて。

「世の中は不公平でね、人を不幸にして罪ならない場合があるんだよ。俺の上司が俺に対してやったように…あんたがあの移民の女の子にやってるように……そして俺が今から、あんたにやろうとしていることのように…な」

「え、えっ…?」

 怒気を込めた口調に、オッサンの口元がひきつった。

「ところであんた、ウサギを檻に入れて放っておくとどうなるか知ってるか?…悲惨だぜ。毛をむしったり、耳をかじったり…とにかく弱い奴には暴力的なんだよ」

「…ひっ!」

 俺が放つ異様な威圧感に気圧されるように、オッサンは一歩たじろいだ。

「ちょうど俺も昨日、上司にいじらめてきた所だよ、包帯グルグル巻きになるまでボコボコにされてな、酷くむしゃくしゃしてる所なんだよ」

「い、いや…そのっ…」

「払うんだ、今すぐに」

 突き刺すように、続けた。

「血の通ったまともな人間なら、ちゃんと真面目に働いている人間に対して、正当な賃金を払うんだ。…でないと俺、マジでどんな権力ふりかざすか分かんねえぜ?」

「わ、分かりましたっ…!払います、すぐ払いますからっ…!」

 オッサンは顔を歪ませて叫んだ。

 その様子を見て、俺はため息をつきながら顔を緩ませた。

「信用しましょう」

 まあ、処分されるリスクを冒してまで、まなをタダ働きさせたい訳でもないだろう。これで十分だ。

「それじゃあ、俺はまなちゃんを連れて帰るんで、明日にはちゃんと賃金を払ってやってださいね」

「は、はい、もちろんですっ…」

 オッサンは逃げるように早足で店の自動ドアをくぐっていった。

 …俺もまなを回収して、帰るとするか。

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