韓国に占領された日本 ✕ 車輪の国 作:minnie_remon
2-1 紗千香の調書
社会見学を終え学園に戻ると、俺はユジンさんから紗千香の調書を受け取った。
これから保護観察を始める上で、必要そうな項目に目を通していく。
――三ッ沢紗千香。
社交的で他人によく働きかけるのだが、自分本位な傾向がある。
行動全般に勢いがあるのだが、計画性に乏しく、長期的な事業には向かない。さらには怠惰で、飽き性である…というのが歴代の担任の評価だった。
続いて紗千香の能力について、気になった部分をいくつか見てみる。
IQ…160。
これは統計学的には上位約0.003%…つまり3万人に1人程度という極めて高い知能指数の持ち主ということになる。
ただ、論理的思考力は標準的とある。つまり『天才肌』というやつだ。
趣味は…外国為替保証金取引。趣味というか、実益も兼ねているのだろう。
意外だったのは、特技と賞罰の欄。
『第141回北島英伊賞受賞』
北島英伊と言えば風景画の大家だ。受賞年は、驚いたことに6年も前。つまり紗千香は小学6年生にして、非常に権威ある絵画の賞を受賞していたことになる。
だが最近の紗千香を見る限り、絵を描くのはやめたのだろう。
そしてここからが最重要項目。時間制限義務を負った経緯を確認する。
「…ふむ」
紗千香はこの町の生まれで、両親は10年前の内乱事件で死亡。親戚縁者もいなかった彼女は天涯孤独の身となり、生活のために総督府が設立した奨学金を借りる。
問題はその後だ。紗千香はその返済資金を返済するために、あろうことか違法の海外系ネットカジノに手を染める。後は泥沼。ギャンブルのように本人の責任が大きい負債は、自己破産は認められない。
その借金の免除と引き換えに、時間制限義務を負ったのが2年前の話。
調べたところ、時間制限義務は真面目な労働意欲が確認されれば解消される義務だという。総督府としても、被統治民の労働力は1人でも多く絞り出したいというのが本音だ。言い換えれば時間制限義務は、借金まみれになってもなお働こうとしないような重度の怠け者を労働市場に引っ張り出すために存在する義務とも言える。
だが、紗千香は働こうとしなかった。
最初から1日が12時間しかなかった訳ではないようだが、22時間、20時間、18時間と、労働を拒否する月日に比例して罰が重くなっていったようだ。それに伴って市民ランクもE、Fと落とされる。
つまりは、いつまで経っても楽して稼ぐことだけを考えてきた挙句、今の状況になってしまったようだ。
「…こりゃ面倒だな」
調書を鞄にしまい、俺はこれからの紗千香との生活について考える。
「…ふう」
ため息が出てしまった。
………………………………………
その日の夜、俺は敢えて紗千香の部屋には戻らず、商店街で見つけたネットカフェで一夜を過ごした。
そして翌朝、改めて紗千香の部屋を訪ねた。
「あ、京介じゃん」
「おう、紗千香」
部屋にまなの姿は無かった。こんな早い時間から働きに出ているのだろうか。
まあ…さすがに給料は支払われたと思うが。
「どうしたの?暇で遊びに来た?」
「いや、そのことなんだがな…」
隠しても意味は無い。俺は言った。
「紗千香の更生指導を正式に任されることになった」
「ウソっ!?マジで?」
なぜか嬉しそうに声を弾ませる紗千香。
「これからは先生と呼べ」
「やだ」
「………」
予想通りとはいえ、いきなり言うことを聞かない。
「あのなあ、今後は仲の良い友達って訳にはいかないんだよ」
「権力を盛った途端に豹変するなんてダサいよ?」
「うるさい、とにかく俺を尊敬しろっ!」
「あははははっ、何それ、凄いダメ上司っぷり」
尊敬の「そ」の字すら無いという雰囲気。それどころか、ナメられてると言った方が正しいかもしれない。
まあでも、最初はこんな感じでもいいだろうとも思う。どうせ長丁場になるのだから。
「まあまあまあ、時間になったらちゃんと薬飲むからさ」
「薬を飲まなくても生活できるようにするのが俺の仕事だ」
「どうすれば薬飲まなくても良くなるの?」
「働け」
「やだ」
コンマ1秒で即当される。
「あのなあ、為替なんてやめて真面目に働いてみせろよ」
「学園があるし」
「学生っていうのはむしろチャンスなんだぞ。社会人が働くのは当たり前だけど、学生の身分で働いたら総督府へ物凄いアピールになる。それに今日から夏休みだろ、働く時間は十分にあるじゃないか」
「無理だよ。四六時中眠いんだから」
その眠さと闘って真面目に働くことに、義務解消の道があるのだが…
「というかさ、京介が指導員の権限で『更生完了!』って書類書いてくれたら終わる話なんじゃないの?ねえ、自由にしてよー」
「ダメだ」
「そんなこと言って、結局最後は優しくどうにかしてくれるんでしょ」
「あのな…」
こいつは…俺のキャラを好き放題決めつけてやがるな。
「そんなんじゃ死ぬまで1日12時間生活だぞ」
「だって、働くなんてめんどくさいじゃん。今の世の中、こつこつ努力しても報われないってば」
「今までこつこつ努力したことあるのかよ?」
「無いよー」
…ったく、どうしようもねーな。
「というか、そんなダメな私を教え導くのが特別指導員でしょ?」
…おまけに図々しいときてる。
「まあいい。とりあえず今日からお前を指導するから、今から俺が言うことをよく聞け……三ッ沢紗千香、これからあなたは私の保護監督下に入ります」
「…はい?」
紗千香が戸惑いの表情を見せる中、俺は暗記している決まり文句をアホみたいに復唱する。
「特別指導員の名において、私、広瀬京介はその良心に基づいて、自己の能力を最大限に発揮し、あなたの人権の尊重と、社会復帰に貢献します。ただし、あなたの義務に対する姿勢、生活態度に怠慢が見られた場合、私はあなたの人権を一時的に剝奪し、体罰を含めた指導を行うことができます。義務の内容について、総督府が定めた明記事項の他に、必要に応じて補助的な指導を加えることがあります。この権限は私に一任されています。最後に、あなたの誠実なる義務の遂行によって、更生十分と私に認められた場合、私は直ちに総督府に、あなたの義務の解消を申請することを誓います。以上、あなたはこれらの内容を理解しましたか?」
…ふう、堅苦しい
「な、何、今の?」
きょとんとした表情の紗千香。まあ、そりゃそうだろう。
「ま、気にしなくていいぞ。ただの定型文に過ぎないから」
それにしても、時間がかかりそうだ…そう思わずにはいられなかった。