韓国に占領された日本 ✕ 車輪の国   作:minnie_remon

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2-2 古文書

 日中、紗千香はパソコンに向かっていた。その目的は言うまでもなく、24時間動いている為替相場の取引だ。

 その時。

「あ、京介―っ」

 まなが丁度いい所に帰ってきた。

「まな、お帰り。いい所に帰ってきた。お姉ちゃんに働くことの大切さを教えてやってくれ」

「んんっ?」

 首を小さくかしげながら、まなは紗千香の傍にちょこんと座って言った。

「京介、お姉ちゃんの邪魔しちゃダメだよ」

「邪魔?」

「うるさくしたら、怒られるんだよ」

「何だよ、ちょっと話すぐらい別にいいじゃないか」

「ダメ。黙って見てるの」

 そのやり取りを聞いていたのか、紗千香がモニターに視線を固定したまま口を開いた。

「まな、お帰り」

 だるそうな声。そういえば紗千香がまなに話しかけるのを見たのはこれが初めてだ。

 そして、続けざまに素っ気なく言った。

「じゃあ洗濯してくれる?」

「はーいっ」

 まなはベランダに備え付けられている洗濯機を目指して出パタパタと駆けて行った。

 紗千香はその姿を一瞥することもなく、依然としてモニターに表示されたチャートを追い続けている。

「洗濯なら俺がやろうか?」

 試しにそう言ってみると。

「いいよ、まながやるから」

「じゃあ俺は掃除でもしようか?」

「それもまなの仕事になってるから」

「そうか…」

 どうも紗千香は、まなに対してマイナスの感情を抱いているような雰囲気に感じられた。

「紗千香、ちょっと質問させてもらうぞ」

「後にしてくれるかな?今、秒単位で忙しいから」

「そうか。じゃ、まなに聞くとしよう」

「…何よ?」

 まなに聞かれるのが嫌なのか、紗千香が不機嫌そうにこちらに視線をやった。

「まなとは、姉妹じゃないな?」

「義理の妹だよ」

「まなには戸籍も無いそうだが?」

「そうなんだ」

 ぶっきらぼうに紗千香は続ける。

「あの子は拾ったの」

「いつ?どこで?」

「雪の降る夜、教会で」

「冗談を言う余裕はあるんだな」

 すると紗千香は、ひとつため息をついて。

「何か勘違いしてるみたいだから言っておくけどさ、まなのこと、別に嫌いってことはないからね」

「拾ったはいいけど、その内に育てるのがかったるくなったんじゃないのか?金もかかるし」

 カマをかけるように、意地悪な口調でそう言ってみると。

「勝手な決めつけしないでよ。人を鬼畜みたいに言ってさ」

「間違ってたら謝る。ただ俺は性格悪いからな。悪い方から物事を考えるようにしてるんだよ」

「……」

 そんな話をしていると。

「お洗濯してきたよー」

 まなが満面の笑みで戻ってきた。

「あ、うん…ご苦労さん…」

 その時、紗千香が初めて暗い顔を見せた…ような気がした。

 

………………………………………

 

 夕方になった。

「あー、疲れたっ!」

 紗千香がようやくモニターから目を離し、立ち上がって伸びをした。

「今日はそんなに値動きが激しかったのか?」

「いや、何か楽しくてねっ」

 能天気な声をあげたその時、インターホンが鳴った。

「誰だろ?」

 紗千香が不思議そうに玄関へ向かい、ドアを開けると。

「どーも、こんにちは」

 現れたのは如月セピアこと中島だった。

「やあセッピ―、何しに来たの」

「はい、夏休みに入り暇になりましたので、紗千香さんと性交渉でもさせて頂こうと思いまして」

「高いよー」

「というのは冗談でして、例の件をお調べ致しましたので進呈しに参上致しました」

 そう言って中島は、懐からボロボロの紙を数枚取り出した。

「おおーっ、でかしたっ!」

「だいぶ骨が折れましたが、バッチリだと思います」

 何かよく分からない話で盛り上がっている2人。

「何だよ、それ。古文書か?」

 俺は気になって聞いてみた。

「よく分かりますね。そう、京介さんも知っている通り、この町の郷土史ですよ」

「いや、知らないから」

「この町は昔から頭のおかしい人が沢山住んでましてね、どっかの酔狂な人が、山の洞窟に財宝を隠したって噂があるんですよ」

「ほう…」

 そう言えば紗千香が少し前に、俺に山登りやケイビングができるかどうかを聞いてきたことがあった。

 まさか…

「よし、京介!」

 紗千香が俺を見据えてビシッと言った。

「今こそ、泊めてあげた恩を返すべきだよっ!」

 …やっぱりか。

 目をキラキラさせる紗千香を見て、俺は内心頭を抱える。

「ちょっと、その資料を見せてみろ」

 中島が持ってきたボロ紙を奪い、その内容を確認する。

 だが、それを見た俺は、控えめに言って絶句した。

「おいおい、こんなので洞窟に入ったら確実に死ぬぞ」

「何で?」

 何も分かってない雰囲気の紗千香に、俺は冷静に言う。

「あまりに大雑把すぎる。そもそも洞窟の入り口しか載ってない、こんなんじゃ内部の測量すら出来ないし、迷ったら本当に二度と生きて戻れなくなるぞ」

「だから、そういう所は京介の出番じゃん」

「あのな…」

「広瀬京介の辞書に不可能は無いんでしょ?」

「そんなことは言った記憶がない。だいいち、そんな噂なんて本当な訳ないだろうが。そもそも他の誰かが先に発見してる可能性もある」

 その時、中島が特に神妙でもない面持ちで言った。

「広瀬さん、この僕がこれだけ頭を下げてもダメですか?」

 そう口にする中島は、全く頭を下げていないどころか、むしろちょっと偉そうな態度だった。

「というか金目当ての紗千香はともかく、なぜお前が俺にお願いするんだ?」

 すると中島は。

「森田三郎、って名前は知ってますよね」

 突然、その名前を口にした。

「ああ…10年前の内乱の首謀者だな」

「僕はあの人の大ファンでしてね、実際に教えを受けたこともあるんですよ」

「……」

「あれ、広瀬さんならここまで話せば、僕がどうして財宝発掘に固執するのか分かってもらえると思ったんですが…」

 …なるほど、そういうことか。

 あまりに予想外の方向から投げつけられた名前に一瞬言葉を失ってしまったが、中島の言葉の意図はすぐに理解できた。

 俺は鼓動を抑え込みながら、確認のために問いかける。

「つまり、その噂されている財宝とやらは、森田三郎の残したものなんだな?」

「燃えてきたでしょう?」

 …ああ、燃えるどころか、全身の血が逆流して震えてきたぜ。

 だが、震える心を内に仕舞いつつ、俺はつとめて冷静に言った。

「中島、一つだけ忠告しておくぞ」

「はい…?」

「森田三郎は未曽有の惨劇を巻き起こした悪逆非道の重罪人だ。ファンだなんて軽口は、もう二度と口にしない方がいい」

 …特に、ユジンさんの前では。

「で、どーすんの、私を無視しないでよ」

 痺れを切らした、紗千香が俺の意思を確認してくる。

 俺は、知らず知らずのうちに、拳を握り締めていた。

「行くさ…」

「あははははっ!やっぱ京介は最後に優しいよねっ!」

 紗千香はケタケタと笑っていたが、俺は興奮を表に出さないようにするのに必死だった。

 

 …親父の遺産は、必ず俺が拾ってやる。

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