韓国に占領された日本 ✕ 車輪の国 作:minnie_remon
いよいよ洞窟探険の当日を迎えた。俺と紗千香は朝一番で装備に着替える。
つなぎを着込み、電子機器や予備電池などの小物類を丈夫な防水ケースに収め、コンパス、ミニノート、ペンライト等はすぐに取り出せるように腰のポシェットへ詰め込んだ。大型のザックには厳選した医療用キット、水筒、防寒着、そして高カロリーの非常食を整然とパッキングし、ズッシリとした重みを確かめるように肩から背負う。
仕上げに、エネルギー補給用として用意したカロリー豊富な特製の高濃度チョコレートを2人で口に含んだ。濃厚な甘みと油脂分が身体に染み渡り、準備は完了だ。
ヘルメットはこの場では装着せず、手で持って洞窟へと向かう。ただその道中、紗千香が早くもあからさまに不満げな声を上げた。
「ねえ京介ー、この服すっごく暑いんだけど! もっと軽い格好じゃダメだったのー?」
「我慢しろ。岩肌での擦り傷をや虫刺されを防ぐための長袖長ズボンだ。それに、洞窟に入ればすぐに涼しくなる」
文句を垂れる紗千香を淡々とたしなめながら、山道を進む。
「そういえば紗千香、本当に森田三郎の財宝とやらが見つかったとして、お前はその金を何に使うつもりなんだ?」
為替に夢中になっている紗千香のことだから単に投資の種銭にするとでも言うかと思ったが、紗千香はふっと珍しく真面目な顔になり、少し自慢げに胸を張って言った。
「ふふん、実はね、『特別恩赦』を狙ってるんだよ」
「…なるほど」
まさか、紗千香が義務の抜け道を知っているとは。
「要するにお金さえあれば、私も自由になれるんでしょ?」
「まあ、な…」
話したくはなかったが、担当の特別指導員として説明する義務はある。俺は嫌々ながら口を開いた。
「義務によるけど、確かに時間制限義務は相当の金額で免除される義務だ」
「だよね、私の場合いくらぐらい?」
「そうだな…」
俺は頭の中で素早く計算する。
1日12時間の制限義務、さらに最下級のF級市民だから…
「まあ、大卒の若者が普通に5年ぐらい会社勤めするぐらいの金額だな」
「うええぇぇーーっ…」
それを聞いて、紗千香が思いっきり落胆した顔を見せた。
ただ、ハッキリ言って破格に安い金額だと俺は思う。というか俺はそもそも特別恩赦制度には反対だ。金持ちだけが無条件で有利になるなんて歪んだシステムとしか言いようがない。
とはいえ総督府としては税収が増えるようなものだから、特別恩赦制度をやめる気は全く無いようだが…
「ところで紗千香、絵は上手か?」
「えっ…」
紗千香の時間が一瞬止まった。
「どうした?洞窟内の測量図の清書を頼もうと思ったんだけど?」
「あ、ああ…でも私、字が汚いし…」
「字と絵は関係無いだろ。字が汚い画家はたくさんいるぞ」
「私、画家じゃないし」
「そういえば、まなは絵が好きらしいな」
すると紗千香は、しびれを切らしたように。
「何か、私のこと聞いてるの?」
「ああ、保護観察担当に就くにあたって調書を受け取ってるからな。凄い賞を貰ってるらしいじゃないか?」
ストレートにそう言ってみる。
「もう描いてないし」
何の迷いもなくそう言う紗千香。実際最近の彼女を見る限り、絵とは完全に距離を置いているのは容易に想像できる。
「ま、この話は今度ゆっくり聞くことにするよ」
危険な探検の前に雰囲気が悪化するのは避けたい。とりあえず絵の話は、今は脇に置いておくことにした。
山道をどんどん進み、いよいよ洞窟が近づいてきた所。
「やあ…」
前方の木が揺れたかと思うと、中島が木の上から風をまとって優雅に飛び降りてきた。
緑の葉がひらひらと空中に舞っている。
「…何してんだ?」
「そろそろここを通る頃かと思ってね、待ち伏せしてたんですよ」
「待ち伏せしてどうすんだ?」
「悪いことは言いません。ここから先に進むのはやめなさい」
「いや、元々はお前が地図と古文書を持って来たんだろが!」
そうツッコむと。
「悪いことは言いません。ここから先に進むのはやめなさい」
「はあ?」
「悪いことは言いません。ここから先に進むのはやめなさい」
すると、隣の紗千香が閃いたように言った。
「そうか、村人は同じセリフしか喋れないんだよ」
…なるほど、RPGのゲームって訳ね。
「という訳で、いつ戻ってくるんです?」
と思ってたら、ころっとセリフを変えてきた。
「今日中には戻ってくるよ。夕方6時には帰宅予定」
「そうですか。じゃあその時間になっても戻らなかったら、線香を上げておきますね」
「いやレスキュー隊を呼んでくれよ」
「レスキュー隊なんて、この田舎町に常駐してると思います?」
…まあ、いないだろうな。
実際俺自身、私的な洞窟探検でレスキュー隊出動なんて事態になったら、マジで今度こそユジンさんに殺されかねない。だからレスキュー隊を呼ばれるのは逆に困る。
…ってか、レスキュー隊が来たら逆に死亡の危険って、訳分かんねえな。
「まあとにかく、ヤバそうだったらすぐに撤退するよ。だいいち、財宝が本当にある保証も全く無いからな」
「ええ、とにかく気をつけて下さいね」
何しに現れたのか分からない中島に別れを告げ、俺たちはさらに先へと進む。
そしてついに、目的地となる洞窟の入り口が見えてきた。
「うわぁ、不気味だねえ…」
そう口にする紗千香。ただその言葉とは裏腹に、内心は興奮を抑えきれない様子が伝わってくる。
「よし、じゃあノンストップでゴー!」
と、洞窟に突撃しようとする紗千香を、俺は制した。
「待て、ここから先は常に俺が前に行く。お前は俺が通った後を進むように」
「京介が隊長ってこと?」
「当然だ。隊長どころか、俺をヨンア総督と思え。一瞬の判断の遅れが生死を分ける可能性がある洞窟内で民主主義は認められない」
「イエッサー!!」
威勢よく敬礼してみせる紗千香。一応、洞窟の危険は分かってはくれたようだ。
とはいえ、こいつは何かやらかしそうなんだよなあ…
「じゃあヘルメットを装着して、ヘッドライトを点灯させて、行くぞ」
「よーし、待っててね、お宝ちゃんっ」
いやらしい笑みを浮かべて、ヘルメットを装着する紗千香。
その表情を見て、嫌な予感を覚えずにはいられなかった。
大丈夫かな、マジで…