韓国に占領された日本 ✕ 車輪の国 作:minnie_remon
「早速開けてみよっ!」
元気を取り戻した紗千香が恐る恐る小箱に手を伸ばし、期待と緊張に指先を震わせながらその蓋を開いた。
すると…
「うわあぁーっ!」
次の瞬間、歓喜と驚愕が混ざり合った甲高い声が洞窟内に響き渡った。
俺も横から覗き込むと、手のひらサイズの箱の中には、ヘッドライトの光を浴びて虹色に煌めくダイヤモンド、深遠なブルーサファイア、血のように紅いガーネットといった宝石がゴロゴロと詰め込まれていた。
いくら何でも、こんな洞窟の最奥に偽物を仕込むような悪趣味な真似はしないだろう。宝石の時価相場にはあまり詳しくはないが、感覚的には紗千香の時間制限義務が免除されるぐらいの価値はありそうだった。
まさか、本当に親父がこんなものを本当に隠してやがったとは…
「ん…?これ…」
その時、紗千香が箱の中に一枚の紙が入っているのを見つけた。
「これ、森田オジサンからのメッセージじゃない?」
「何?それは気になるな。とにかく読ませてくれ」
「うん、そうだねっ」
紗千香がその紙を宝石箱の上にそっと広げた。
俺と紗千香は身を寄せ合い、二つのヘッドライトの光をその紙面へと集中させる。
『さっちゃん、どうだ?びっくりしただろ?オジサン面白いだろ?こんな箱用意して中に財宝だぞ。アガるだろ?オジサンも昔、徳川埋蔵金とかに憧れていたからねえ。こうして現実で宝探しごっこができて面白かっただろう』
メッセージはまず、紗千香に向けられた言葉から始まっていた。
だが、それに続く文章を目にした瞬間、俺の心臓は跳ね上がった。
『アキラ、成長したねえ。こんな場所まで来られるなんて、さすがはお父さんの息子だ』
………アキラ。それは、俺の本名だ。
俺自身は幼少期の紗千香に関する記憶はない。紗千香は「森田三郎の息子」としての俺のことを知っていたのかもしれないが、少なくとも俺の記憶の中では当時、紗千香との面識はない。
だが手紙には、まるで俺が紗千香をここに導くことを予期していたかのような文章だ。
『真綾も、綺麗になってるだろうねえ。お嫁に行くまで、お前がちゃんと面倒見てやるんだぞ』
真綾というのは、10年前の暴動で韓国軍に捕えられ、それ以来音信不通となっている、俺の姉…
『さっちゃん、この財宝は全部君にあげよう。そのかわり、オジサンの女になるんだ(笑)…まあオジサンが無理なら、アキラをもらってやってくれ。あいつは顔が綺麗で優しいから無駄にモテるかもしれないが、残念ながらクズだ。ただ、ひょっとしたら、今さっちゃんの隣にはアキラはいないかもしれない。もしアキラがそばにいないなら、さっちゃんは気にせず他の男とくっつくように。何にせよ、これは本当に君にあげる。絵で食べていくなんて大変なことだ。今、さっちゃんが胸に抱いている夢に向かって頑張れよ』
紗千香への言及は、そこで締めくくられていた。
しかし、手紙にはさらに続きがあった。
『アキラに伝えておきたいことがある』
俺は、気持ちを落ち着けてから、続きを読み進める。
『お父さんはこれから、いろんな人を不幸にするような大きなことをしようと思っている。この手紙を読んでいるということは、お父さんはそれに失敗しているのかもしれないが、もう引き返すことはできない状況にある』
『お父さんの世代が不幸でも、未来のお前たちが幸せであることを願う。そう思って、お父さんは武器を取る。決してお父さんのようになろうとは思うな。だが、万が一この社会に違和感を覚える時が来たのなら、このメモリの中身を閲覧しなさい』
『最後に、真綾を守ってやってくれ。お父さんが失敗しているのなら、お前と真綾は酷い目に逢っているはずだが、立派に成長したお前なら真綾を守れると信じている』
『それじゃあな、頼んだぞ。最愛なる息子へ…父より』
メッセージはここで終わっていた。
そして手紙の裏面には、小型のデータ記憶メモリがテープで貼り付けられていた。
「…とりあえずこのメモリは俺が預かっておく」
そう言って俺は、メモリを素早く回収した。
「え?何でよ?これは私が預かっておくよ。いつかアキラ君か、真綾さんに渡す機会があるかもしれないし」
「駄目だ」
「何でよ?京介には関係無いじゃない」
「…総督府の犬として、森田三郎の遺品は押収させてもらう」
「忘れてたよ…そういえばそうだったね」
紗千香はチッ、と分かりやすく舌打ちする。
「安心しろ、財宝は紗千香のものだ」
「え…いいの?」
「まあ、義務解消に使うなら、どうせ総督府に持っていかれることになるからな」
本音としてはこの宝石で義務解消となるのは嫌だったが…まあ、親父が紗千香にあげるというメッセージを残しているんだ。流石に俺が横取り訳にはいかない。
「でも、紗千香の大好きなオジサンが遺してくれた遺産だ。義務解消のために総督府に献上するなんて使い方はしないよな?」
「ん、まあ…」
実際、紗千香としてもこの宝石を総督府に支払って義務解消というのは罪悪感があるだろう。ましてや自らの怠惰が招いた義務だ。今はただ、紗千香の良心と誇りに期待するしかない。
「さあ、とりあえず帰ろうぜ。脱出にもかなりの体力を要するからな」
「そうだね、大冒険だったね。でも、本当に嬉しいなあ…」
ダイヤモンドに頬ずりする紗千香。
その無邪気な横顔を見つめながら、俺もまた、親父の最後のメッセージに触れられたことで胸の奥が熱く震えるのを覚えていた。
親父の遺したメモリには、一体何が入っているのだろうか…