韓国に占領された日本 ✕ 車輪の国   作:minnie_remon

7 / 7
1-4 市民ランク

 2095年、夏。

 日本人の心の支えであった「5年の終わり」が刻一刻と近づくなか、総督府から電撃的な発表がなされた。

 初代総督パク・ギュリが退任し、第2代総督としてチェ・スヨンが着任したのである。

 このタイミングでの総督交代は、日本人に底知れぬ絶望を叩きつけた。もし本当に5年の計画終了と共に韓国軍が撤退し政権が日本へと返還されるのであれば、あと数ヶ月を残すタイミングでトップが交代する理由など存在しないからである。韓国政府は「5年で統治が終わる」という日本人の淡い幻想を粉砕し、今後も期限なくこの地を支配し続ける明確な意思を示すため、あえてこのタイミングで総督交代人事を行って見せたのだった。

 新総督となったチェ・スヨンもまた、35歳という若さの女性であった。「若き女性支配者によって日本人の自尊心を挫く」という心理的支配の手法は、そのまま引き継がれたのである。

 着任後、スヨンの手によって提示されたのが『第2次・日本改革5か年計画』であった。

 しかしその中身はある意味では期待を裏切り、またある意味では想像通りとも言うべき、冷酷な内容だった。

 というのも、第2次5か年計画の骨子は、韓国による日本統治をさらに強固なものへと強化するものだったからである。

 

 第2代総督チェ・スヨンがまず着手したのは、韓国語の正式な公用語化だった。それまでは学校教育における韓国語教育の義務化に留まっていたが、第2次計画からは行政窓口などの公的機関をはじめ金融機関、民間企業、病院に到るまで韓国語の使用が義務付けられ、日本語は「第2言語」という位置付けに格下げされた。これによりスーパーに並ぶ商品棚の値札も韓国語に改められ、第2言語として日本語が小さく付記されているというような状況を強いられることになった。日本語を使用することは違法ではないが、現実的には韓国語を習得・使用しなければ生活していけないような社会が作り上げられていった。

 また、決済通貨として総督府発行の電子ウォン(K-ウォン)が導入された。これにより、個人の金融口座は総督府の監視サーバーと完全に直結。誰がいつどこで何を買い、誰にお金を送ったかがリアルタイムで把握されるようになった。総督府に対して不穏な動きを見せた者の電子口座はボタン一つで完全凍結されろることとなった。

 そんな容赦の無い従属化政策の中でもとりわけ苛烈だったのが、全住民をAIで監視・格付けする「社会信用システム」である。

 

 従来のマイナンバー制度を引き継ぐ形で全ての日本人にIDが割り当てられ、韓国語の習得度や普段の通信記録・思想傾向などを元に国家(韓国)への忠誠度をA~Fの6段階に分類し、ランクが低い不服従者は移動の制限などの措置が取られるようになった。これにより日本人は、否応なく韓国への忠誠を具体的態度として示さなければならなくなったのである。

 2098年。任期を終えたチェ・スヨンが退任し、第3代日本総督としてハン・スンヨンが就任する。スンヨンもまた30代の女性であり、彼女の時代においても日本に対する冷徹な管理の体制は何一つ揺らぐことはなかった。ただ、この時期になると日本人の精神は長きにわたる管理統治で疲弊しきっており、体制への不満が日本人の行動として現れることはほとんど無くなっていた。

 そして今年4月、これまた30代女性のキム・ヨンアが代4代総督の就任。

 同時に、『第3次・日本改革5か年計画』が発表された。

 

………………………………………

 

「では花村さん、教科書の15ページから読んで」

 授業では、先生に指名された女子が立ち上がって教科書を読み始めた所だった。

 

「特別指導員は、統治国家の根幹をなす学務法を支える重要な職務である――」

 

 とても澄んだ、綺麗な声だった。声優やアナウンサーになれるんじゃないかと思う。

 …というのは置いといて、今読み上げられた文章の中にあった『統治国家』というのは、辞書的な一般名詞ではなく、「韓国の統治下にある現在の日本」という意味だ。また『学務法』というのは、旧日本に存在した教育基本法を解体し、代わって総督府が新たに制定した教育統治のための絶対法だ。

 

「学生の健全な人間形成のため、彼らを指導・教育する責任があり――」

 

 ちょうど「特別指導員」…つまり俺自身の職務の説明が書かれた箇所が丁寧に読み上げられていた。

 

「その指導方法は、全て特別指導員の能力と良識にゆだねられる。また特別指導員は、E級市民以下の指導対象者に対する基本的人権を握っており、プライバシーをおかすことはおろか、生殺与奪まで自由である――」

 

 そう、つまり俺たち特別指導員は、E・F級の未成年者の更生教育のためなら手段を選ばなくてよいことになっている。

 そんな責任の重い職責だからこそ、特別指導員になるためには圧倒的な知識・見識・良識が必要とされる。少なくとも、韓国一の最高学府であるソウル大学を上位で合格できるぐらいの頭がないと特別指導員になるのは不可能だ。また言うまでもなく、国家のへの強い忠誠心も要求される。

 

「また、特別指導員は、未成年者の市民階級ランクに関し、B級以下の決定権を保持し――」

 

 要するに、俺が紗千香に「お前、明日からB級市民ね」って言ったら、紗千香はB級市民になることができる。もちろん逆に、C級やD級といった学生をE級・F級に落としてやることも可能だ。

 

「であるからして――」

 

 その時、教科書を読む女の子の胸元にあるプレートが視界に入った。

 そこに示されている文字は…「E」

(こりゃまた、深刻だな…)

 繰り返しになるが、未成年者はよほどデキた優等生か逆によほど酷い問題児じゃない限り、階級はCかDだ。僅か30人程度のクラスに、E級とF級が1人ずついるというのは、それだけで異常な状況と言えた。

(全く…ユジンさんが言った通り、歴史的経緯から低層階級者が多く存在している町だぜ…)

 彼女も要指導対象か…というかこの調子じゃE級以下の人間がまだ複数いるんじゃないか?そう思わずにはいられなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(必須:30文字~500文字)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。