美少女勇者の後方不審者面している奴がまさか元魔王とは思わないじゃん? 作:ネオンアームストロング法
俺は魔王だった。
理由はない、俺が『俺』としてこの世に存在していた時には既に魔王であった頃から、恐らく俺は元々『この世界に災厄をもたらす存在』として世界から産み落とされた存在なのだろう、少なくとも俺はそのように考察していた。
その事に対して俺は特に何も思う事はなかった。
そもそもそういう存在だったからである。
だから俺は生まれた時からそうあれと誰かに命じられたかのように――実際はそんな事ないのだけれども――この世界を破壊した。
俺そのものが災厄であるかのように、破壊の限りを尽くした。
……そして俺という存在が『魔王』であるという事を初めて知った時。
俺は、その青年と出会う事となったのだ。
その青年の名前はレインと言った。
金髪に赤い瞳の若い男は、その手で一本の剣を握っていた。
それは魔王である俺を殺し得るであろう武器、聖剣。
俺と同じく、世界が産み落とした救世の剣だった。
「……」
俺の事を殺すためにやってきたであろうその青年と相対してもなお、俺は特に何も思わなかった。
そもそも思うという事が分からなかった、と言ってしまえばそれまでだが。
これまで無計画に、無意味に世界を破壊し尽くしてきた俺はきっとその終わりも無駄なものとなるだろう。
ただ漠然とそう思っていた。
なのに。
「魔王、お前はなぜ世界を壊す?」
その青年は俺にそう問いかけてきたのだ。
そしてその質問を聞き、俺は初めて世界を壊す理由を考え始めた。
「……その質問に何の意味がある?」
言葉を発せる事が出来るという事にまず驚いた。
俺はどうやら人間と会話する事が出来たらしい。
「俺はお前が言うところの魔王であり、災厄。それ以上に世界を破壊する理由が、どこにある?」
「魔王であるという事は前提であり、お前の行う行為の理由にはならない」
「……分からないな。世界に災厄をもたらす存在こそが魔王ではないのか?」
「それは違う――どのような存在にも生まれた時に『名前』が付けられるが、それはその者の行動を縛るものでは、必ずしもある訳ではない」
その時に至ってまで、俺達は戦いを行っていなかった。
俺にとっては初めての出来事であり、不可思議な違和感が胸中を支配する。
ただ、嫌な感じではなかった。
こうして誰かと話をした事は初めてだったが、誰かと話をするという行為がこんなにも――心穏やかになるものである事を、俺はこの時初めて知った。
「では、勇者。お前はなぜ剣を取り戦ってきた? 俺が生み出した災厄、魔物……世界を滅ぼそうとする俺を阻むのは、何故だ?」
「隣人を守るためだ」
「だが、お前である必要はなかっただろう?」
「俺か俺以外の人間であるかに差異はない。勇者であったのがたまたま俺だった、ただそれだけだ」
「では、使命感だけでここまで剣を握りしめてきたのか?」
「先ほども言っただろう――隣人を守るため、人々を傷つけさせないためだ」
「……」
「俺は、この世界に生きる人々の事を、少なからず大切に思っている」
「それはなぜだ」
「……さあな」
そこで初めて、勇者は顔をほんの少しだけ、下げた。
「なぜ俺が人々を守りたいと思うのか。もしかしたらその答えを知りたいからここまで来たのかもしれないな」
「それは、俺を倒したら分かる者なのか」
「分からない――だが、その前に。お前はここで立ち止まる事はしないのか?」
「立ち止まる?」
「お前が立ち止まり、世界を破壊するのを止めるのならば。俺とお前がここで戦わなければ。より良い結果につながるとは思わないか?」
俺はその言葉を聞き、肩を竦めて見せた。
「無理だ。俺は元より世界を破壊する者。お前が立ち止まるのならば、勇者よ。お前を乗り越えその先を壊しつくすだろう」
「……そうか」
剣の先をこちらに向け、勇者は言う。
「短い時間だったが、お前と会話したこの瞬間を胸に刻もう」
「お前はそうして戦ってきた時間を記録してきたのか?」
「無論、そしてこれからも」
……そして、そこからは戦いだった。
戦闘であり、紛争であった。
お互いの武器でお互いを傷つけるためだけの時間。
その瞬間は永遠に続くと思われたし、あるいは一瞬で終わるかもしれないとも感じられた。
どちらにせよ――最終的に立っていたのは、勇者だった。
俺は聖剣で胸を貫かれ、血を流して地に伏せる。
「ああ、俺は死ぬのか」
俺の呟きに勇者は首を縦に振る。
「ああ。お前はここで死ぬ」
「なるほど。それはきっと悪くない事なのだろう」
「少なくとも良い事ではない」
「だが世界は救われた」
「魔王、お前は救われなかった」
勇者は深い、深い深い息を漏らした。
まるで体の中からすべての空気を吐き出したかのような、長い吐息だった。
「お前は許されない罪を犯した存在だ」
「そうだ」
「だが、それでも生きとし生けるものは――」
そこで勇者は言葉を切り、それから俺の顔をじっと見つめてきた。
その澄んだ瞳が俺の目を覗いてきた。
「勇者よ。短い時間ではあったが、お前と話せたのはとても良かった」
「……なぜだ?」
「少なくとも、俺とこれまで話をする存在はいなかったからだ。だから話をする事の出来る存在である事すら、俺は知らなかった」
「それは、悲しい事だな」
「世界を救うために剣を取ったお前の事を理解する事は出来なかったが、しかしとはいえお前はきっと素晴らしい人間なのだろう」
だから、と俺は口を動かした。
口角が上がった。
その表情の事を、俺は何と呼ぶのかは知らなかった。
「勇者よ。俺はお前と出会い言葉を交わしたこの瞬間を大切にして、そして逝こう」
◆ ◆ ◆
そして本来ならば魔王の物語はそこで終わるものなのだが。
いや、正確に言うのならば魔王の物語はそこで終わった。
だが、少なくとも『俺』の物語はまだ終わっていなかったのだ。
小さな村、そこにあった小さな水たまり。
そこには黒髪黒目の青年の素顔が映っていた。
というか、靴の様子を見る際にしゃがみ込んで、その際に近くにあった水たまりに映り込んだ自らの素顔を再確認している男がいたと言うべきか。
……俺が転生と言う現象を経験してから既に数年が経過していたが、未だ人間になったこの肉体に慣れはしない。
いや、正確に言うのならば。
ガシャン!
何かが割れる、否。
割られる音を聞いて俺は顔を上げる。
音のする方向を見ると、何やらガラの悪い男がツボを叩き割ったであろう姿があるのが見えた。
「ったく、大したもん入ってねえじゃねえか!」
そんな男に対しておろおろとしながら(恐らく)ツボの持ち主であろう男が「な、何を急にうちのツボを割るんだ!」と文句を言う。
それに対し、ガラの悪い男は面倒くさそうに答えていた。
「ああ? 俺は勇者様だぞ、文句あるってか?」
その言葉に俺は、かつて魔王という存在がいた数百年前の時代を思い出し、溜め息を吐く。
おお、勇者よ。
お前の子孫達、とんでもない事になってるぞ。