駆け出し冒険者の街、アクセル。
その名の通り、ここは冒険者として名を上げようとする者たちが最初に訪れることの多い街だった。
周辺に生息するモンスターは比較的弱く、初心者向けの依頼も豊富。冒険者ギルドを中心に武器屋、防具屋、道具屋、宿屋、飲食店などが軒を連ね、まだ何者でもない若者たちが夢と希望を胸に集まってくる。
そして、その街を囲む城壁が見える街道。そこを走る馬車の中でめぐみんは、ここ数日で何度目か分からない得意げな笑みを浮かべていた。
「見事なものでしたね、私の爆裂魔法は」
「またその話?」
隣に座るゆんゆんが、疲れたように眉尻を下げる。
「当然でしょう。道中で遭遇したあの巨大なモンスターを、たった一撃で消し飛ばしたのですよ?」
「その後、一歩も動けなくなってたよね?」
「敵は倒しました」
「その後に別のモンスターが出てきたらどうするの!?」
「その時はゆんゆんが倒してください。助け合うのもライバルではないですか?」
「うぐっ………もう!仕方ないんだから!」
「…………ちょろすぎません?」
ぽつり、と零しためぐみんの言葉は届かず、ゆんゆんはどこかやる気に満ちた様子。これから先、大丈夫なのだろうかと若干の不安を覚えながら、ちらりとその隣に視線を向ける。
揺れる馬車の中だというのに、その振動を一切受けず茶を飲む魔王の姿。
アルカンレティアを出てからここまで、何度か魔物と遭遇したものの、魔王自身は一度として戦闘へ参加していなかった。
めぐみんが爆裂魔法を撃ち。動けなくなっためぐみんをゆんゆんが背負い。残った魔物をゆんゆんが処理し。魔王は、それを見ていただけである。
「魔王様!先日の私の爆裂魔法、改めて評価を!」
めぐみんからの質問に魔王は茶器を傍に置くと、扇子を広げて口元を隠す。
「威力だけなら見られる」
「聞きましたか、ゆんゆん!」
「『威力だけなら』って言ってたよ!」
「つまり威力については文句なしということです!」
「都合よく解釈しないで!」
「事実でしょう?」
めぐみんは上機嫌だった。
念願だった爆裂魔法を習得し、その威力を存分に振るった。そして魔王からも一定の評価を受けた。
本人にとっては、これ以上ないほど順風満帆な旅だった。
一方、毎日めぐみんを背負い、魔王の茶を淹れ、菓子を買い、道中の魔物まで相手にしてきたゆんゆんにとっては、そろそろ普通の旅がしたい頃である。
「……せめてアクセルでは、何も起きませんように」
街の門が近付くにつれ、ゆんゆんは祈るように両手を合わせた。
「何を言っているのですか。これから冒険者の街ですよ?強敵との出会い。新たなる仲間。そして私の爆裂魔法が世界へ轟く第一歩!」
「普通に冒険者登録して、普通に宿を取って、普通に仕事を探そうよ!」
「普通ではつまらないではありませんか」
「私は普通がいいの!」
「魔王様がいる時点で普通とは程遠いのでは?」
「それは言わないで!」
「おーい、もうそろつくぞー」
御者の声に反応して、馬車から身を乗り出して前方へと視線を向ける二人。その先にはアクセルの大きな門があった。人や荷馬車が行き交い、数人の衛兵が入街者の確認を行っている。
「やっと着いた……」
ゆんゆんは安堵の息を吐いた。
そして、荷物と人の点検が始まり馬車から降ろされた瞬間である。
「止まれ!」
門を守る衛兵たちが、明らかに警戒した様子で武器へ手を掛けていた。
当然である。角、翼、見るからに人間ではない男。しかも、紅魔族の少女が二人。ただの旅行者には、どう頑張っても見えなかった。
怯えるゆんゆんと胸を張るめぐみん、そして眉を顰める魔王の前に年嵩の衛兵が一歩前へ出る。
「そこの三人!入街の目的と身分を確認させてもらう!」
「は、はい!」
ゆんゆんは慌てて荷物を探った。
「私はゆんゆんです! 紅魔族で、冒険者になるためにーーー」
「魔王である。疾く道を開けよ」
魔王の言葉に衛兵たちが固まった。ゆんゆんは顔を手で覆った。めぐみんだけが、何故か誇らしげに胸を張っていた。
静寂と困惑が包む中、一人の衛兵が震える指で魔王を指差す。
「魔王……?」
「様」
「へ?」
「魔王様、である」
「ま、魔王様………」
それで満足したのだろう。扇子を閉じ兵士たちの間を通ろうとする。しかし、慌ててその進路を兵士が塞ぐとこれ見よがしに魔王の眉が顰められた。
「ほう?王の道を阻むか」
「えっ、いや………」
「退け」
魔王が扇子を一振りした瞬間、暴風が巻き起こる。目も開けられない風は魔王の目の前を塞いだ兵士たちを吹き飛ばし、そして城壁の上へと追いやる。
風が止み、周囲が気づいた時には魔王の目の前に人はおらず、城壁の上から悲鳴と懇願の入り混じった「降ろしてくれぇええ!」という叫びが聞こえる。
扇子を閉じた魔王は悪びれもせず、再び歩きだそうとしていた。そして次の瞬間。
「非常警報ぉぉおおおっ!!」
「何やってるんですかぁぁぁあああ!?」
アクセルの街中へ、けたたましい鐘の音が響き渡った。
◇◆◇◆
「……なんだ?」
その頃、アクセルの冒険者ギルド。
異世界からの転生者、カズマは鳴り響く鐘の音にうつ伏せていた机から顔を上げた。
異世界へ来て、まだそれほど日は経っていない。女神を名乗る青髪の駄女神、アクアを道連れにこの世界へ降り立ち、冒険者登録を済ませ、日々どうやって食っていくか頭を悩ませている。
華々しい異世界生活とは程遠い。強力な神器もない。特別な能力もない。職業は、全職中でも最弱と評されたただの冒険者。
知能と幸運以外のステータスが高いくせに、トラブルばかりを引き起こす相方のせいで碌な稼ぎもなく、この先どう生きていくべきかと真剣に悩んでいた矢先のことである。
「非常警報です!北門付近に、魔王を名乗る存在が出現したとの報告が入りました!」
受付嬢であるルナの悲痛な叫びと、どよめき出す冒険者たちの声。そんな中、カズマは口を一文字に結んだ。隣のアクアは状況がわかっておらず、呑気にジュースを啜るだけ。
「…………魔王?ねぇ、カズマ。今、魔王が来たって言った?」
「気のせいだ」
「気のせいでも勘違いでもありません!魔王を名乗る存在が兵士を城壁に吹き飛ばした報告も上がってます!」
必死に目を逸らした現実を、そうはさせるかとばかりにルナが突きつけてくる。絶望に頭を抱えるカズマとは対照的に、アクアの目が輝いた。
「やっぱり!女神がおわす街に堂々と攻め込んでくるなんて上等じゃない!ゴッドブロー食らわせてやるわ!ほら、行くわよカズマ!」
「行くかバカ!」
「なんでよ⁉︎ せっかくのチャンスなのよ⁉︎」
確かに、魔王を倒せばアクアは天界に帰り、そして自分は望む報酬をひとつ神々から与えられることは聞いている。
安全と快適を愛するカズマにとって、確かにメリットはある。しかし、それを受け取るために死んでしまっては意味がない。
「俺はただの冒険者で、それも駆け出しのぺーぺーだぞ!手伝いどころか足手纏いになるわ!」
「そんなの元々でしょ、このヒキニート!偶には社会の役に立ちなさいよ!」
「てめっ!言っていい事と悪い事があんだろうが!第一、初心者の街に攻め込んでくる魔王って何なんだよ!レギュレーションはどうした⁉︎」
「ふふん。それはもちろん、この私の神聖な気を察したに決まってるじゃない」
「なら、お前一人でいけよ!俺はぜってぇ関わらねぇからな!」
そんな会話をする間に、冒険者たちの間には更なる情報が駆け巡る。
「魔王は紅魔族を二人連れているらしい!」
「紅魔族が寝返ったって噂は本当だったのか!?」
「いつもの訳のわからんノリじゃなかったのか⁉︎」
耳に入った情報にカズマが眉を寄せた。
「紅魔族?」
「カズマ、そんなことも知らないの?ぷ〜くすくす」
「この世界に来てそんなに経ってねぇ俺に何期待してんだ!!」
ここぞとばかりに鼻で笑うアクアの頭を遠慮なく引っ叩いた。スパン、と小気味のいい音が鳴り、アクアが涙目になる。
「痛ったぁ………何すんのよ!」
「うるせぇ、駄女神!で、何なんだよ紅魔族って」
叩かれた頭を撫でながら、口を尖らせてアクアは仕方がないとばかりの態度を隠さずに説明する。
「まったく………ものすごく強い魔力を持った魔法使いの一族よ。みんな高い魔法適性があって、強力な魔法を使えることで有名なの」
「そんな連中を二人も連れてるなら余計ヤバいじゃねえか!序盤の街に来ていい戦力じゃねぇだろ‼︎」
「でも、私は女神よ?」
「自称だろうが!くそっ、こんなとこにいてられるか!」
本物なんですけど⁉︎と抗議するアクアを差し置いて、カズマは素早く出口へと視線を巡らせると身を低くして、人混みに紛れながらそちらへと進む。幸いにも冒険者たちで入り乱れるギルドなら、人混みに紛れることは容易い。
そのまま喧騒に紛れて抜け出そうとしたその瞬間、がしりと脇から腕を入れて持ち上げられた。
「どちらへ?」
まるで油を差し忘れたブリキの様にゆっくりとカズマが振り返る。そこには、いつの間に来たのか衛兵が立っていた。
「戦える冒険者は北門へ招集されています」
「いや、俺最弱職の冒険者なんで……ね?ほら、絶対足手纏いになりますし、参加しない方が皆んなのためになるんじゃないかなぁと………」
「緊急時には国のために働くのは冒険者の義務ですので」
「話聞けよ、こんちきしょう!」
必死に暴れて逃れようとするが、そもそもの地力が違うのだろう。カズマの抵抗にびくともしない衛兵。本格的に焦り出したカズマの視線が、明らかに泳ぎ出していた。
「ちょ、待て!俺より強い奴いるだろ! もっと高レベルの冒険者とか!そいつらに任せればいいじゃん!」
「既に招集しています。冒険者でも荷運びくらいはできるでしょう」
「安心なさい、カズマ!魔王なんて私の浄化魔法で一発よ!」
「その自信がどっから湧いてくるんだ!やめろぉおおお!これは不当な扱いだ!最弱職を前線に出すなんて、お前らの良心は傷まないのか⁉︎ 断固として俺は抗議するぞ!」
「ええい、往生際の悪い!」
「嫌だぁあああああ!」
結局、抵抗虚しくカズマはアクアともども北門へ連行。そして、現場へと到着したカズマは一目見て理解した。
(あ、絶対やばいやつだこれ)
人混みの中からちらりと一瞥しただけだと言うのに、カズマの生存本能が全力で警鐘を鳴らしていた。
白い装束、黒い髪とここまでなら人間的な特徴であるが、側頭部から伸びる角や背に折り畳まれた羽はどう見ても作り物ではなく、人間でない事を示している。
何よりも恐ろしいのは、周囲を何十人もの衛兵や冒険者に囲まれているというのに、本人だけがまるで近所を散歩しているような顔をしているところだ。
恐れていないのではない。そもそも、周囲の武器を脅威として認識していない。そんな立ち方だった。
(ヤバい。絶対ヤバい…………どうにかして逃げられねぇか?)
周囲を見渡すが、遮蔽物になるようなものはなく、いくら魔王に注目がいっているとはいえ逃亡すれば丸わかり。
出来れば敵対することなく、穏便に追い返すことはできないかと考えるカズマを他所に、衛兵の一人が叫んだ。
「何をしに来た、魔王!」
「行幸」
「…………は?」
「行幸である」
間髪入れずに飛んできた答えに、周囲が言葉を失くす。ちらり、と隣同士で視線を合わせて、そして頭を捻る。どうやら幻聴や聞き間違いの類ではないようだ。
「お菓子巡りですよね!?」
そんな中、隣にいた紅い目の少女が叫んだ。口元を扇子で隠しながら、魔王はそちらへちらりと視線を向けた。
「王が街へ出向く。それ即ち行幸である」
「目的がお菓子なんですよ!」
「……なんだあれ」
思わずカズマの口から漏れた。
怖い。明らかに怖い。なのに、会話だけ聞くと滅茶苦茶である。そんな毒気を抜かれるような会話を繰り広げていたからこそだろう、それに対して周囲の反応が遅れた。
「ふっ、アンタが魔王ね!」
「あのバカッ………!」
いつの間にやら人混みを押し除けて、魔王の前に立っていたのはアクア。威風堂々と胸を張り、勝ち気な表情で見据える。
「ここで会ったが百年目!このアクア様が直々に成敗してくれるわ!」
周囲が気づいた時には既に遅く、アクアの掲げた片手に神聖な魔力が集まる。腐っても女神と言うべきか、その力は並の冒険者では比にならない。
「セイクリッドぉぉぉぉーーー!」
「頭が高いーーーひれ伏せ」
「ぴぎゃっ⁉︎」
今まさに魔法を放とうとした刹那、魔王が口元を扇子で隠したままアクアを睨む。ただそれだけだと言うのに、アクアが顔面から地面へ伏した。
何が起きたのか分からない。
吹き飛ばされたわけでもなく、攻撃を受けたようにも見えない。ただ、気づいたらアクアが地面へ五体投地していたのだ。
「な、何よこれぇぇぇ! 身体が動かない!」
(絶対関わったらヤベェじゃねぇかぁぁぁぁぁぁ!!)
人知れず、カズマは一歩後退する。今ならば、魔王とアクアに注目が集まる今なら逃げられると、本能が叫んでいた。
「カズマさん!カズマさーん!たしけてぇぇぇ!」
(バッカ!呼ぶな!!)
「そこな小僧、呼ばれておるぞ」
(なんでこっち見てんの、アイツ!!)
人混みを挟んでいるというのに、魔王と目が合った。縦に裂けた瞳孔と視線が交わった瞬間、カズマは人生で初めて、目が合っただけで謝りたくなるという感覚を味わった。
「お、お前たちも何者だ!」
衛兵が、魔王の隣にいる二人の少女へ問い掛ける。すると、小柄な方の少女が待ってましたとばかりに笑った。
「ふっふっふっ……問われたからには答えねばなりませんね……」
少女が黒い外套を翻し、手に持っていた杖を掲げる。
「我が名はめぐみん!紅魔族随一の天才にして、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者!」
びしりと、完璧に決められたポーズ。その後に周囲を包むのは静寂。風の音だけが虚しく響く。
(あ、アレにも関わらんどこ)
カズマは静かに心へ誓った。
「わ、私はゆんゆんです!」
もう一人の少女が、慌てたように両手を振る。
「私たち、街を襲いに来たわけじゃないんです!本当にただ観光に来ただけなんです!」
(こっちはまともそうだな)
他二人と違って、話が通じそうな類であると密かな期待をカズマは寄せる。
「魔王とはどういう関係だ!」
「友達が欲しくて悪魔召喚したら魔王様が出てきて、そのまま……」
(前言撤回。こいつもヤバい)
この世界には自分以外まともな奴がいないのか。カズマが本気でそう考え始めた、その時だった。
「ふむ……」
魔王がたった一言、ぽつりと呟いた。それを聞いたゆんゆんの顔から、さっと血の気が引く。
「面倒」
「やっぱり!何する気かわかりませんけど、やめてください!ほら、お菓子………あ!もうない!」
「我の裁量を甘味で釣れるとでも?」
不愉快とばかりに眉間に皺を寄せた魔王が周囲を見渡す。それだけでカズマの背筋をぞくりと、悪寒が襲った。
「貴様ら、王の御前で頭が高い」
その瞬間ゆんゆんが勢いよく振り返り、悲鳴のような声が響き渡った。
「みなさん!お願いです!頭を下げてください!」
「何!?」
「いいから!頭を下げれば機嫌よくなりますから!悪いこと言いませんから!」
衛兵たちは迷った。冒険者たちも互いに顔を見合わせる。何も知らない相手から突然頭を下げろ、だなんて言われても困惑するのは当然。
しかし、カズマだけは違った。アクアを一瞬で地面へ貼り付けた。あのゆんゆんとかいう少女は、明らかに魔王の扱いに慣れている。
その少女が、頭を下げろと言っている。つまり、それが最善の選択ということ。
「どうも初めまして!新米冒険者のサトウカズマです!」
一も二もなく、カズマは即座に土下座した。プライドを殴り捨てた機転に、周囲からの視線が集まる。
「何やってんだ、お前!」
「ひれ伏せ」
衛兵が驚くその刹那。
魔王の言葉が響くと同時にずん、と、何かが落ちたような感覚がした。
「ぐっ!?」
「な、何だこれは!」
「身体が!」
ガシャガシャと、身につけていた装備と共に激しい音を立て、魔王を囲んでいた者たちが一斉に地面へ伏した。
衛兵も、冒険者も、誰一人例外なく、王へ頭を垂れるように。最初から土下座していたカズマだけを除いて。
「…………」
恐る恐る、カズマは顔だけで周囲を見渡す。強制的な土下座で苦痛の声と、屈辱に染まる面々。ほっと一息吐いて顔を上げた瞬間、魔王と目が合った。
(やっべ)
「ほう?」
魔王の瞳が、僅かに細められる。下手に注目を浴びてしまったと後悔し、救いを求める様にゆんゆんとめぐみんに視線を向けるが、ゆんゆんは天を仰いで絶望を、めぐみんは魔王の後ろでどうだとばかりに胸を張っていた。
全く役に立たない、と諦めかけたその時、魔王が扇子の向こうで口角を少し上げる。
「小僧、殊勝である」
「……へ?」
一瞬、助かったと、そう思ったカズマ。しかし、続く言葉に再び動きを止める。
「我を案内する栄誉を与える」
(やっちまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)
関わりたくないと思った相手に、興味を持たれてしまった。そして相手は逃がしてくれそうにない。慌てて立ち上がり、どうにか興味を逸らそうと無意識のうちに唇を湿らせる。
「いやいやいやいや!俺、この街に来てそんなに経ってないんですよ!案内とか無理ですから!」
「歩けば分かる」
観光客と同じ理屈じゃねえか、と。できる事なら声を大にしてそう叫びたい。しかし、相手の出方がわからない以上、無理に否定すればどうなるかわからない。
「で、ですよねー!歩けばわかりますよねー………あ、でも、ほら、俺なんかよりも、可愛い女の子とかの方がよくないですか?ちょうどギルドの受付にぴったりの女性がいるんで、そこまでなら案内しますよ!」
「ほう?我を案内する栄誉を他の者に押し付けると?」
「まっさかぁ!そんなわけないじゃないですか!いやぁ、光栄光栄!他の奴らに自慢できますよ、これ!はははは………」
笑い声を上げるたびに、カズマの目は死んでいく。何が悲しくて魔王を名乗る存在を引き連れて街を歩かなければならないのだ。
(一応とは言え、異世界から召喚された勇者だぞこっちは。そりゃチートとかもねぇし、勇者らしいことはしてねぇけど、この扱いはあんまり過ぎんだろ‼︎ くそっ、やっぱ特典でアクアなんかを選んだせいだ‼︎)
高いだけで何の役にも立たないじゃねぇかと、自身の幸運のステータスに文句を零し、カズマは手揉みしながらへりくだる。
そんなカズマに魔王は目を細め、扇子の向こうで口角を上げていた。
「カズマさぁぁぁん!いつまでこうしとけばいいのよぉおおお!早く助けてぇえええ!」
「うるせぇ、バカ!自業自得だろうが!一生そうしてろ、駄女神!」
「このっ、後で覚えてなさいよ!絶対ゴッドブロー食らわせてやるんだから!」
「地べたから起き上がってから言え、バーカ!」
「うわぁああん!」
アクアとカズマ、そのコントのような掛け合いに魔王は更に口角を上げる。隣にいたゆんゆんはそれだけで何かを察したのだろう。二人に向けて静かに黙祷を捧げていた。
「クハ、よい。貴様も供せよ」
「へ?」
たった一言、そう魔王が零した瞬間、先ほどまでアクアを拘束していた謎の圧が消える。
何が起きたのかは、アクアにもわからない。しかし、いまやるべき事はひとつ。女神を貶す不敬者に誅を下す事だ。
「歯ぁ食いしばりなさい、このヒキニート!女神アクアの名において、汝を星にしてやりましょう!」
「てめっ、今そんな場合じゃねぇだろ!暴力反対!」
「うっさい!女神の怒りと悲しみを込めた一撃を受けなさい!」
「クハ、余興としてよい」
「うわぁ、やっぱり………」
周囲で他の冒険者や衛兵がひれ伏す中、騒ぐカズマとアクア。ひれ伏す人々を障害物にしてカズマは逃げ、そしてアクアはそれに足を引っ掛けながらも追いかける。
非常に絵面が最悪で、非常に魔王が好みそうな展開だ。既に魔王の中では二人は余興要員として認定されたのだろうと同情を寄せる反面、自分の負担が減ると僅かな歓喜がゆんゆんの中にあった。
「何をしてるんですか、ゆんゆん。早く街に入りますよ。我々を阻む障害はもはやありません!」
「問題は盛りだくさんだよ!」
「待て、アクア。一度話し合うべきだと思うんだ。だからその拳を一度下せ。そして、まずは魔王様を案内してから今後のことを考えよう」
「はぁ⁉︎ なんであんな奴に敬称はつけるのに私にはないのよ!こうなったら一発と言わずに二発くらいーーーいったぁい!足引っ掛けたぁ!なんでこんなとこで寝てんのよ!」
「クハ、無様」
こうしてアクセルへ現れた魔王は、最弱職の新米冒険者と自称女神の掛け合いを余興に、甘味を目当てに街へと繰り出すのであった。