杵築ねつきの愉快で苦痛で普通の日々   作:だいすくり~む

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二日目

春の暖かく、甘い香りの風が鼻腔を擽る。

 

暫く席に着き、ぼんやりと外を眺めていると、教室のドアが開く音がして担任が入ってくる。

このクラスの中では唯一、ねつきを普通の生徒として扱ってくれる先生だった。

何時も通りの面倒臭そうな雰囲気を醸し出す声で、

 

「おはよう。急だが、新生徒会長が決まったらしい。んで、生徒総会が直ぐに始まるから、廊下に並べー。」

 

と生徒達に声をかける。不意にねつきを見ると、やれやれとでも言いたそうな顔をして

 

「お前ら、いい加減杵築を虐めるのをやめなさい。で、杵築は相変わらずか?」

 

先生の声にねつきは一声も出さずに頷くと、声をかけた本人は困ったように後頭部を掻く。

もはやこのクラスの名物と言えるようなその遣り取りは、ねつき自身が虐められているのを止めさせたいと思っているか如何かの問いであり、首を縦に振るときは別に不満でも何でもないという答えだった。無理に止めさせようとしても、ねつき自身がそう思っていないので上手くいかない。

 

教師としては、なんとも歯がゆい思いをしているのだろう、と他人事に考えるねつきを見てか、スイッチを切り替えたように担任は溜息を吐くと、立ち上がった生徒達を廊下に並ばせていく。全員が廊下を出たころに、自分も続いて、列の最後部に並ぶ。

ふと、同じクラスの生徒達の噂話が耳に入る。

 

「今年の一年が・・・生徒会長・・・」

 

「支持率98%とか・・・」

 

「・・・・・・黒神めだかとかいう・・・」

 

暫く耳を傾けていたねつきだったが、最後の「黒神めだか」という人の名前を聞いてにやついてた口元が、不満げに口角を落とす。

それからは、体育館に向かう生徒達の波に呑まれながら、噂話が一切耳に入らぬように俯き加減で体育館へ入っていった。

 

其処に居るであろう彼女の、昔と変わらぬであろう凛としたあの佇まいを思い返しながら。

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

「世界は平凡か?」

 

むしろ平凡じゃない時の方が少ないんじゃあないの?

 

「未来は退屈か?」

 

夢を見る年頃はもう過ぎた。

 

「現実は適当か?」

 

それが当たり前でしょ。貴女みたいな化け物とは違うし。

 

「安心しろ、それでも生きることは劇的だ!」

 

いや全くもって安心できない。

 

「そんなわけで、本日から私が貴様達の生徒会長になった黒神めだかだ! 学業・恋愛・仕事・友人関係全てに渡ってなんでも相談を受け付ける。本日より、箱庭学園生徒会執行部は24時間365日いつでも相談を受け付ける!」

 

貴様達って呼び方からして偉そうだ。

 

新生徒会長のその台詞に、歓声を上げる普通の生徒達。

でも、ねつきはその言葉一つ一つを心の中で返答して、眠そうに欠伸をした。黒神めだかの言葉は、大勢の人数に何らかの衝撃を与えたのだろう。

しかし、ねつきの心には一文一文字一つの音すら、響くことは無い。

 

ねつきの心に響く言葉を与えてくれるのは、今も昔も、あの人だけだ。

 

 




少し短くなりました。あの人とは、一体誰のことなのやら・・・。
なんて。

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