杵築ねつきの愉快で苦痛で普通の日々   作:だいすくり~む

6 / 16
六日目

くすくすと笑うねつきの様子に、怖気づいた様子で先程まで迫ってきていた不良が、潮が引いたように静まり返ってねつきから一歩、離れていく。

それでもねつきは、その距離を埋めるようにカツンと此方も一歩踏み出した。

 

ねつきが、剣道場の入り口から中へ入っていった瞬間。

 

「ッ、うおおぉおぁあああ!!」

 

金髪の男が、言葉にもならない声を上げて全力で竹刀をねつきに振り下ろす。ねつきは防ぐ事無くそれを見ているだけ。ガッ、と鈍い音が響いた。

 

金髪の男、門司二年生は、女相手に竹刀を振り下ろした自分の行動に、混乱する。相手は未だ何もしていないというのに。けれど、振り下ろした竹刀がねつきの頭に触れた瞬間、安心してしまった。もう、怖いものは無いと、思ってしまった。

 

その時。コンマ数秒も立たない内に門司には竹刀の先が大きくたわんで行くのを、何処か人事のように冷静に眺めていられた。まるで何かを強く弾いたかのようだ。その感触が、波のように手に伝わったと同時、気が付けば、門司は剣道場の床に倒れ伏していた。

後頭部が熱を持ち、まるで誰かから全力で殴られたかのように痛む。其処で一度、門司の意識は途絶える。

 

 

ねつきは、倒れ伏す男を詰まらなさそうに見詰めた。唇に、仕様が無いといでも言いたげな笑みを浮かべ。

 

後は早かった。門司が倒れた反動故か、あるいは膨れ上がったねつきの気配、おぞましさに、次々と不良たちが竹刀を持ち、己へ振りかざし殴りかかろうとする。まるでリンチにでもする様に、此方側一人に対してだ。

 

誰かが、ねつきを殴る。そのダメージが、其の儘そっくり相手に返る。

あるいは、複数人のダメージをその誰かが一気に背負い、ただの肉の塊になっていく。不良たちは最早理性を失い、唯、ねつきという絶対悪を潰さんが為だけに、ぼろぼろになりながらも竹刀を振るっていった。

そして、最後の一人が倒れた時。

 

其処に立っていたのは、ねつきだけだった。少女の格好をした男は、笑う。狂ったように。

足元に広がる血溜りが靴を汚すのも構わず。

 

これが、ねつきの異常と過負荷を組み合わせ、得た、失ったスキル。

 

「全反撃(フルカウンター)」

 

 

ふと、ねつきに一番近い位置に倒れていた男が呻き声を上げる。

誰よりも早くねつきの危険度を悟り、誰よりも軽症ですんだ男。

運の良い男の上げた声に、ねつきはぴたりと黙り込む。

意識を取り戻し、すっかりとねつきに恐怖を植えつけられた男は、周りの惨状に悲鳴を上げ、すっかり恐怖で見るに絶えない姿をねつきに晒す。

 

縮こまり、震え、此方の一挙一動に怯える男に、柔らかな笑みを浮かべて、その顔を覗き込む。

 

「おはよー。良く眠れた?もう大丈夫だよ、怖いものなんてもう何処にも無いよ。僕が君の代わりにやっつけてあげたから。大丈夫。安心して。」

 

まるで、周りの惨状など当たり前だといわんばかりの態度で、先程とは一転、柔らかな、安心させるような微笑を浮かべ、門司に話しかける。

 

「怖かったでしょう、もう怖いことなんて起こらないから。君を傷つける人はもういないから。」

 

毒を刷り込むように甘く、優しく、怯える男に語り掛ける。

男を傷付けたのは、他ならぬねつきのスキル自身だというのに。

 

それでも、威勢、暴力、何もかもを根こそぎ奪われた男は落ちていく。周りから必死に目を背け、現実を見ず、門司は目の前に差し出された手を、悪魔の手を取ってしまった。

 

かつて、破壊臣と呼ばれた男の様に。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

午後の授業の、終わりを告げる鐘が鳴る。

ねつきは、暴力、味方という武器を奪われ、不良という肩書きをも失くしてしまいそうな弱者の手を引き、学園内を機嫌良く歩く。

もう片方の手に携帯を持ちながら、ふと、此方側に落ちてきた男、門司を赤い瞳が見詰める

 

「そういえば、君の名前って何だっけ?」

 

――――――――――――――――――――――――――――――

血の香りが満ちた道場内。

所々、人間だっただろう肉の塊が落ちている。

一方。この学園の上に華々しく立つ生徒会会長である黒神めだかは、この惨状を目に言葉を失っていた。

彼女は、とある一つの投書を手に、剣道場へと来たはずであった。

剣道場に蔓延る、哀れな剣道少年達の心を鍛え直しに。

 

彼女の後ろに立っている人吉善吉が、後ずさり、悲鳴のような声を上げる。

 

「ッんだよ、これはァ!!これじゃ、前と同じ……!!」

 

「落ち着け、善吉ッ。あの人の仕業か……?今更、如何して……。ッ先ずは、赤青黄二年生を呼べ!今すぐにだ!」




次回へ続く…。

さて、取り敢えずは一章、といった形で区切らせてください。
ねつきのスキルの実践での使い方が明らかになりました。

え、「不慮の事故」と似ている……?
そうです、一見このスキル、過負荷側の彼、蝶ヶ崎さんのスキルと酷似しております。
然し、決して同じではありません。
何故なら、彼のスキルは全く違う他人にダメージを押し付けるもの。

けれど、「全反撃」は、ダメージを与えた張本人にしか、ダメージを返すことが出来ません。与えられたダメージを蓄えて、一気に返すなどといったバリエーションは豊富ですが……。

今回、門司君が過負荷側に落ちてしまいました。
それによる原作との違いなど、比べていただければ光栄です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。