彩葉に作ってもらったボディーにも慣れてきたヤチヨは、ある日気紛れで彩葉の体重計に乗ってみる。そこに表示されている数値は、本来のYC型ボディーの重量よりも大きくて……。しかもダイエットを決意するヤチヨの前に、彩葉が現れて!?

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今回はXの方でレイ(@Rei_ta1225)様の面白そうなツイートを見かけたので書かせていただきました。なお、クモたろーはまだBDの追加映像やオーディオコメンタリー等は見られておりませんので、その点に関してはご了承ください。近日中に見ます……。


ヤチヨのダイエット大作戦!

 私、月見ヤチヨが世界に降り立ってから、おおよそ一年の時が過ぎた。はじめは適合率やら技術的ハードルやらでどこか遠かった様々な感覚も、私だけの王子様が日夜克服してくれたおかげで今は鮮明そのもの。8000年の時を超えたそれに流した涙は数知れず、その全てを彩葉は受け止めて微笑んでくれていた。

 と、まあそんな風にハッピーエンドの先で、私は今日も舞い上がるほど幸せな日常を享受していた。でも、私は気付いていなかった。彩葉の執念深さと拘りを。

「…………えっ??」

 初期のKG型から改良に改良を加えたボディは、人間と比べても少し重いくらいの重量に収まっている。だからつまり、彩葉の使っている体重計に気まぐれで乗ってみても、体重計を壊してしまうようなことはない。

 ……の、だけど。

「ふ、増えてる……⁉ なんで……⁉」

 デジタル表記故に読み取りを間違えることも許されない結果は、YC型ボディの重量としては数kgほど大きい数値で。

 確かにさっき、かぐやの料理をたらふく食べたばかり。かぐやのドヤ顔と共に出される料理の数々はほっぺたが落ちるほどおいしくて、箸が止まらないのです。でもでも、それでもこんな質量は食べてない。明らかに数値がおかしい。……バグかにゃ?

ちなみに、ヤッチョもかぐやなのだし料理はできるけど、料理はもっぱらかぐやの仕事になっている。かぐやの趣味だというのもあるけれど、適合率やら先に運用を開始したアドバンテージやらでフィジカルな舌のスペックはかぐやの方が強い。つまり、かぐやが作った方がおいしいものができる。それなら、彩葉にはおいしいものを食べてもらいたいし?

 そんな風にうんうん頭を悩ませていると、ひょいと彩葉が顔をのぞかせる。ここは洗面所だし、食後に歯を磨きに来るのは自然なこと。ま、それなら酒寄博士に聞いてみるのが一番。

「ヤチヨ? どうしたの、そんなむつかしい顔して」

「彩葉、この体重計壊れてない? 数字が明らかにおかしいよ」

「え、それこの前修理したばっかりなんだけどな……」

 どれどれ、と私が乗ったままの体重計を覗き込んでくる彩葉。乙女としては恥ずかしがるべきなんだろうけど、ボディの開発にメンテナンスに、ありとあらゆるデータを彩葉に見られている身としては何も感じない。むしろ隠す方が危ないし。それに、そもそもかぐやちゃん生まれてこの方体重を気にする必要性なんてなかったし?

「ね、ボディの重量より大きな数値になってるでしょ?」

「確かになってるけど、……あー、もしかして」

 顔を上げた彩葉は、何事か考える素振りを見せてから、私のことをひょいと抱き上げた。俗にいうお姫様抱っこで。……え?

「い、彩葉⁉ 急に何して……⁉」

「今更こんなことでそんな動じなくても。初めてじゃないでしょ」

「だとしても急すぎてヤッチョ茹でダコになっちゃうよ⁉」

「真っ赤ヤチヨもなかわいいね。大好きだよ」

「……ヤッチョも、好きでしゅ……」

「ふふっ、ありがと」

 ……ねえ何このメロ葉! ズルい! めっちゃいい匂いするし! 好き!!!

なぜか実装された脈拍が早鐘を打ってるのがまるわかりなんですけど!

「さて、お姫様。体重計もヤチヨのボディーも不具合はないよ、完璧絶好調だから安心して」

「はひ……。…………。……えっ?」

 今、なんて?

「食べた分をちゃんと吸収して身にできるようになったから、したの。だからこれからも遠慮せず食べてね」

「いやいやいや、なったからしたって……それ聞いて食べられないよぉ⁉ え、ヤッチョ太るの⁉」

「そりゃーヤチヨも人間にするって言いましたから?」

「おかしい……ヤッチョの願いは彩葉のぬくもりを感じながらパンケーキをたべることだったはず……太りたいなんて言ってない……」

 言われてみればお腹とか二の腕とか、ちょっとぷにぷにしてきた感じがしないでもない。顔のラインとか影響出てないよね……?

「ヨヨヨ~、ついにヤッチョもダイエットデビューかぁ……」

 ヤチヨは彩葉の推しであり、ある種理想の存在のはずだし、太っていくのはよくないはず。というか、そんなことで彩葉に幻滅でもされたら耐えられる気がしない。

 そんなわけで、ダイエットを配信に絡めてなんかできないかにゃ~と考えていた私の声に、彩葉はこの世の終わりのような表情を浮かべていた。……え、何どうしたの。

「……やだ」

「えっ?」

「やだ!!」

 やだって。とても30歳間近の天才科学者の言葉とは思えない。しかもあの彩葉だよ? 運命全部受け入れますって顔してた彩葉だよ? いったい誰のせいでこんなことに……私か。

「え、えぇ……。いやぁ、そう言われても……彩葉だって、『ヤチヨ』の体形が変わるのは嫌じゃないの? まだヤッチョのこと最推しでございましょ~?」

「嫌じゃない」

「えっ」

 まさかノータイムで否定されるとは思わなかった。え、嘘、もしかしてヤッチョ知らない間に彩葉の最推しの座から転げ落ちてた? ……オタ公にでも介錯お願いできないかな。

 勝手な想像に絶望して瞳のハイライトを消す私の肩を掴んで彩葉が顔をずいっと近づけて来る。……やっぱきれいだなぁ。ちゅーしていいかな。

「嫌じゃない、むしろもっと食べて? 8000年も我慢してくれたんだから、もう我慢しないで。それでこの世界に1gでもヤチヨが増えてくれる方がいいから。全世界の喜びだから」

 ぎらぎらと瞳を輝かせながら語る彩葉。

……あちゃー。これ、さっきの私より彩葉のほうがよっぽどヤバい顔してるね。やっぱり彩葉の最推しはかぐヤッチョで間違いなさそう。そこまで想ってもらえるなんて、ヤチヨは果報者なのです……。

 とはいえ、これでも私はツクヨミの歌姫。彩葉の望みと言えども、フグよろしくぷくぷくな姿は皆には見せられないし、彩葉にはもっと見せられない。キラキラのお姫様ではなくなってしまっても、いやなくなってしまったからこそ、好きな人には綺麗なところだけ見ていて欲しいのです。

「……ところで彩葉、腕が震えてるけど」

「くっ……ヤチヨのことを支え続けることすらできないなんて……っ」

「残念、今日はここまでみたいだね~。ね、彩葉。もっとこうしていられるように、やっぱり痩せた方が」

「それはダメ」

 めっちゃ食い気味だった。ヨヨヨ、ダメかぁ~。

 ま、勝手にやるんだけどね。

 

◇ ◇ ◇

 

「というわけでかぐや、ちょっと料理のメニュー工夫できないかにゃ?」

「おおぅ、ヤチヨもそこに到達したか……」

「も、ってことは……」

「いや~。かぐやもおんなじこと言われちゃってさぁ。私たちが言うのも変だけど、やっぱ彩葉、私たちのことだと偶に激ヤバおかしいよね」

 翌日。彩葉が仕事に出かけて不在の間に、私はかぐやに相談をしていた。どうやらかぐやはKG型ボディである都合上、私より先に太る機能が実装されていた。そのせいで、彩葉のちょっと歪んだ欲望を先にぶつけられていたらしい。

「でも、それにしてはかぐや、見た目変わってないよね?」

「まぁね~、いくら彩葉の頼みでもこれはちょっとねぇ」

「具体的にはどうしたの?」

「食事メニュー工夫してめっちゃ運動して、あとは体温上げて熱エネルギーで放出よ」

「あぁ、彩葉がかぐやを抱きしめて気持ちよさそうにしてたの、体温高めにしてたからなんだ」

 いわゆるお子ちゃま体温というやつだ。私はどちらかというとひんやりしたイメージを持たれているだろうし、この手は使えない。実際、これまでも体温は少し低めに設定していたし。

 ちなみに、体温設定に関しては平常運転では1.5℃ほどの範囲で基準値を自由に決められるようになっている。それに加えて色々な反応で体温が変化するのは、人間と一緒だ。……改めてすごい。

「そんなわけで料理に関しては任せんしゃい。かぐやも気をつけなきゃいけないところだし、そもそも彩葉だっていっぱい食べるからちゃんと考えてるよ」

「……あれ、ってことは既に料理に工夫の余地なし⁉」

「余地がないってほどではないけど……まぁヤチヨが一番食べてるからねぇ」

「思い焦がれた美味しい料理の数々を、また食べられるようになるなんて思わなかったからねぇ……」

「なんかその辺、同じ記憶をもってるはずのかぐやよりも強いよねヤチヨ」

「言われてみれば不思議だけど……」

「「まあ今更だよねぇ」」

 8000年彩葉を待ち続けたこととか、その後彩葉にボディを作ってもらったこととか、紆余曲折会ってかぐやとヤチヨで独立して存在できるようになったこととか、そんな諸々の上にある話は今更の一言で片づけられてしまう。それで幸せな今日がなくなるわけでもないし。

「……ま、折角だし今日はヤチヨの決心が彩葉に伝わるようなメニューにしてあげるよ」

「本当⁉ 感謝☆感激☆雨アラモード☆」

「そのぴょんぴょん跳ねるの、こっちでもやるんだ……」

「このボディにも慣れてきたからね~。空に浮かぼうとして転ぶこともなくなりましてよ~?」

「あ~、最初の内はかぐやもよくやったなぁそれ。まあ、あれだ。ヤチヨ、頑張ってね」

「……?」

 どこか生暖かい目線で、かぐやは私の肩に手を置いた。それはかつて私がかぐやに言った、未来を知る者の言葉のようで。

 ……この後一体私に何が?

 

◇ ◇ ◇

 

 時は飛んで、夕食後。魚と野菜を中心とした、いかにも健康に良さそうな品々を平らげて、三人で談笑していると、彩葉が席を立って冷蔵庫の方へ向かっていった。

 大人になった彩葉は結構お酒を飲む。しかも、体質的に結構お酒に強いみたいで、私たちが止めないとかなりの量を飲んでは酔っぱらっている。お酒は体にはよくないから、適量に抑えてほしいし、そう伝えてもいるのだけれど。でも、酔っぱらって普段あんまり見せてくれない顔を見せてくれる彩葉に、私たちもちょっといいなと思っているのは事実でありまして。あと、最悪かぐやと一緒に泣き落としを仕掛ければ飲むのはやめてくれるけど、その後の彩葉はすっごく後悔した顔をするからこれは最終手段。

 だから、彩葉が取りに行ったのはお酒だと思っていた私は、トンっと軽い音と共にテーブルに置かれた白い箱を見て目を白黒させるしかなかった。

「えっと、彩葉、これは……?」

「かぐや、ヤチヨ、ケーキ買ってきたから一緒に食べよ?」

「ケーキ! やったぁ!」

 ニコッと惚れ惚れするような、いやもう惚れ切って久しい笑顔で告げる彩葉が、今だけは小悪魔に見えた。あとかぐやは純粋に喜ぶのもいいけどこっちの状況を思い出してほしい。

 ノリノリのかぐやに急かされて、彩葉がそっと箱を開いていくと、中から現れたのは見た目からしてとっても美味しそうなモンブラン。ふんわりと甘い香りが漂ってきて、食べたばかりだというのに口を唾液が湿らせていくのがわかる。……なんでこんな反射まで実装されてるんだろうね?

 とってもおいしそうだけど、私はダイエットを決めたばかり。三日坊主どころかたった半日で欲望に負けてしまうわけにはいかない。ここはぐっと我慢だ。

「ごみん、ヤッチョはもうお腹いっぱいなのです~」

 ヨヨヨ~、といつもの泣き真似をしながらそう言ってみれば、視線をケーキからこちらに移した彩葉とかぐやは一言。

「ウソね」

「ウソだね」

「なんで裏切ったのかぐやぁ⁉」

 彩葉はわかるけど! 本当に私のお願い忘れちゃったのかなぁかぐやは⁉

「なんでって……ヤチヨ食べないのに私たちだけケーキって言うのもイヤじゃん。おいしいものは心の底から喜んで食べなきゃ」

「かぐやの言う通り。ほら、ヤチヨ、おいで。それとも、ツクヨミの歌姫はあーんがご所望かな?」

 チッチッチと指を振りながら得意げに言うかぐや、全てを受け止める包容力を見せながら真剣な眼差しを向けて来る彩葉。で、でもでも、誘惑に負けるわけには……。

「ねえ、ヤチヨ。私はもう、どんなことでもヤチヨに我慢してほしくはないの。もっとワガママになって、ね?」

「……彩葉ぁ、それ、ズルくない?」

 彩葉とあーんし合いながら食べたモンブランは、とっても甘くてしあわせの味がした。

 

◇ ◇ ◇

 

 あれから、あの手この手で妨害を仕掛けて来る彩葉のせいで食生活も改善できず、私は着実に柔らかくなってしまっていた。まだシルエットが変わるほどではないけれど、このペースで行ったら今持ってる服も着られなくなってしまうかもしれない。

 ……まあ、一番痩せたい動機の中心にいる彩葉が、私の現状を喜んでいるみたいだし別にいいかなという気もしないでもないけど。

「幸せ太りってこういうのを言うのかなぁ……」

 はぁ、と嬉しいんだか悲しいんだかよくわからない溜息を吐いて、体重計を降りる。

それにしても、ツクヨミに現実の体型が反映されなくてよかった。そういう風に作ったの私だけど。

「このままじゃヤッチョ、本当にメンダコみたいになっちゃうなぁ」

「いいじゃん、メンダコみたいなヤチヨも」

「い、彩葉⁉ いつの間に⁉」

 気づかぬうちに後ろにいたらしい彩葉が、抱き着きながらそんなことを言ってくる。何度経験しても、彩葉の体温に慣れる気はしない。漂ってくるアルコールの香りのせいもあってか、落ち着くのに落ち着かない、そんな不思議な感覚になる。

 ……ん? アルコールの香り?

「あは、ヤチヨふわふわ~もちもち~」

「……彩葉、もしかして結構酔ってるね?」

「酔ってなーい酔ってなーい。私はいろはだよ? かぐやだけのいろはだよ~。酔うわけないじゃんえへへへへ」

 ダメだ、結構酔ってる。私が見てないところで飲み始めていたみたい。

「ヤチヨ、ごはんおいしい? おいしいよね? いっぱい食べてねぇ」

「ここまで酔ってるってことは、かぐやも見てないところで飲み始めちゃったのかにゃ~……」

「ヤチヨはいい匂いするねぇ、綺麗だもんねぇ」

 私の首筋に顔をうずめてそんなことを宣う酔っ払い。物理的にも心理的にもこそばゆくてとっても落ち着かない。それに、このまま好き勝手させているとそのうち寝室に引きずり込まれてしまう。それ自体は嫌じゃないけど、酔っぱらっている日の彩葉は色々と覚えていてくれないから嫌だ。

 とりあえず背中に抱き着いたままの彩葉を背負うように持ち上げて、リビングのソファーへと運ぶ。ふにゃふにゃと力の抜けた彩葉を運ぶのは、このボディの性能ならば容易いこと。案の定、リビングのテーブルには空になったワインの瓶が置かれていた。

エイヤッとソファーに彩葉を寝かせて、私も隣に腰かける。

「ヤチヨぉ~」

「はいはい、心配しなくてもヤッチョはここにいるよ~。ほら、おいで、彩葉」

 自分の太もも、ぽんぽんと叩いて見せれば、吸い寄せられるように彩葉は私の足の上に頭を乗せて膝枕を堪能し始めた。酔っぱらってあどけない彩葉もいとかわゆし♪

「ヤチヨの膝枕~。極上の寝心地……」

「ツクヨミの歌姫の膝枕なんて、とっても貴重でしてよ~?」

 昔より短くふわっとした髪を手櫛で梳かしながら、囁くようにおどけて見せる。どうせしばらくしたらかぐやがやってきて、ズルいだのなんだのと騒ぎ出すだろうから、今だけはヤッチョの番。

「前よりも柔らかい……」

「……一体誰のせいだと思ってるのかにゃ?」

 それなのに、ムードを台無しにするようなことを言うこの狐、どうしてくれようか。

「だいじょーぶ、健康はちゃんと考えて食べさせてるから!!」

「急に大声出さないでね~ヤッチョびっくりしちゃうからね~」

 そんな大声出したらかぐやが気づいちゃうでしょ。

 赤子をあやすように頭を撫でていたら、不意に彩葉が呟いた。

「……私のヤチヨやもん」

「え?」

「ヤチヨはきれいで、かわいくて、人気で、でもちょっとお茶目で、ちょろくて、だからちょっとくらい太ってたほうがいいの!」

「うんうん、明日ゆっくりお話ししようね彩葉?」

 多分独占欲、なんだと思う。そういったものを向けるくらい私が彩葉の中で大きな存在になっているのは、それはそれは嬉しいけど。それとこれとは話が別というか。それを聞いて、黙って太ってあげるほど、私は素直でもなければお利口でもない。

 絶対に痩せて見せるんだから。……それにそもそも、チョロいのだって彩葉限定だし。

「ヤチヨぉ~かぐやぁ~帰らないでぇ~ずっと隣にいてぇ~~」

 ついには泣き出してしまった。まったく。私の帰る場所は、とっくに彩葉の隣になっているというのに。

 よしよしと宥めてあやして、やがて彩葉は眠ってしまう。膝枕を申し出たのは私だけど、このままここで寝てしまうのもよろしくない。

 どうしたものかな、と考えていたら、かぐやが部屋に入ってくるのが見えた。

「ヤチヨ~、いろは見なかった?」

「彩葉ならここにいるよ~。酔っぱらって寝ちゃったみたい」

「チクショー、今日はヤチヨに甘えに行ったか……」

「この前はかぐやだったもんね。ところでかぐや、彩葉運ぶの手伝ってくれない?」

「良いけど、別にそれくらい一人でも……って、膝枕してる⁉ ズルい!」

「ふふふのふ~。甘えるのは下手でも、甘やかすのにはヤッチョに一日の長がありましてよ~?」

「いや、かぐやもヤチヨも同じじゃん!」

 彩葉を起こさないように声量を抑えてかぐやとじゃれあう。これも、彩葉がくれた幸せの一つ。その彩葉本人は、かぐやの背中で気持ちよさそうに寝息を立てているけど。

 彩葉の部屋の、明らかに一人用ではないベッドにお姫様を寝かせて、かぐやと一緒にその両脇に潜り込む。ダイエット計画は、ひとまず明日に回して。

 おやすみなさい。

 

◇ ◇ ◇

 

『ツクヨミ大人気ライバー、ついに現実でもモデルデビュー!』

 コーヒーの香りを楽しみながら、狐色のトーストを齧る。休日の朝、三人そろっての食卓。

「いや~、ヤチヨもすっかり元通りだねぇ。いや、むしろ前よりも……?」

「私は、ぷにっとしたヤチヨも好きだったケド」

 テレビに映った私を見ながら、かぐやと彩葉が呟く。私はと言えば、ふふーんと胸を張って、ドヤ顔を一つ。

 あの日から、私は芦花にも頼み込んで手伝ってもらいながら、全力のダイエットを敢行した。わずかについていた脂肪があれよあれよという間に消えて、筋肉へと置き換わっていく様は爽快だった。なぜ運動量に応じて筋肉がつく機能まであるのかについては、一旦考えないことにする。

 そんなこんなで、かつてを凌駕する肉体美を手に入れたヤッチョのもとに、モデルの仕事のオファーが来たりもして。特に断る理由もないし、彩葉の研究費の足しになるならと返事をしたのが、つい先日のこと。

「にしても、ツクヨミの管理もしながらモデルもやるとは……かぐやもツクヨミ手伝った方がいい?」

 かぐやと別れてからも、ツクヨミの管理はヤッチョの仕事。とはいえ、月人の特性と彩葉の技術力があれば、それくらい片手間でできちゃう。

「ノンノン、これはヤッチョが自分で決めたことなのです。それに、FUSHIもいるからね。大丈夫!」

「そっか。それじゃあかぐやも配信頑張らないと!」

 むん、と力こぶを作って見せるかぐやに、彩葉と揃って吹き出す。実に贅沢な朝だ。

「あ、でも彩葉はよかったの?」

「うん? 何が?」

「いや、ヤチヨ、結局痩せちゃったじゃん」

「……余計なことは言わなくていいんだよかぐや?」

 これで『よくなかった』とか言われたらどうする気なのか。しかも、その欲求の対象にはヤッチョだけじゃなくてかぐやも含まれているというのに。

「あぁ、それはいいの。どんなかぐやもヤチヨも、私は好きだからさ」

 私の杞憂だったみたい。さらっと言ってのけた彩葉に、揃って瞳を潤わせる宇宙人二名。

「……いろはぁ!」

「ちょっ、食事中だって!」

 かぐやに至っては感極まって抱き着きに行ったし。それにしても、ああやって彩葉に叱られているかぐやを見ていると随分と懐かしい気分になる。……でも、あの頃とは違うもんね。

「それじゃあヤッチョも、ど~ん☆」

「ヤチヨまで⁉ あぁもう、わかった、今日は思いっきり甘やかしてあげるから覚悟してよね!」

「「きゃ~っ!」」

 きゃいきゃいと、広いリビングに三人の戯れる声が満ちる。今日も楽しい日になるに違いない。

 やっぱりハッピーエンド、最高!!

「……でもやっぱり、ヤチヨの抱き心地は前の方が良かったなぁ」

「彩葉、デコピンの刑ね」

「何で⁉」

 




よろしければお気に入り、評価、感想等お願いします。また、レイ様もpixivにはなりますが素晴らしいSSを多数投稿されておりますので、そちらもぜひ読みに行ってみてください。(URL:https://www.pixiv.net/users/36483449
それでは、さらば~い

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