「あたしの個性は『兎』! 兎っぽいことが色々できるのさ!」
No.5ヒーロー、ミルコはいつだってメディアにそう公言していたし、ヒーロー公安委員会のデータベースにもそう記載されていた。驚異的な脚力、鋭い聴覚、そして野生の直感。ミルコ本人もまた、自分の常識外れな耐久力や力が「日々の筋トレとウサギの野生パワー」によるものだと百パーセント信じ切っていた。周りのヒーローたちも「ウサギの個性であそこまで強くなるなんて、凄まじい努力家だな」と、本気で納得していたのだ。
——そう、あの蛇腔総合病院の地下研究室で「それ」が覚醒するまでは。
「目覚めよ、ハイエンドたち! ヒーローどもを喰い散らかせ!」
ドクター・ガラキの狂叫とともに、覚醒した複数のハイエンド脳無がミルコへ襲い掛かった。肉体を刃に変えた一撃、音速を超える衝撃波、超再生を誇る巨大な爪。殺意のすべてがミルコへと集束し、地下施設を揺るがす大爆発が巻き起こる。
ドドドドドドンッ!!!
煙が晴れたクレーターの真ん中で、ミルコはポカンとした顔で立っていた。
「ふぅ……ちょっとビビらせやがって。やっぱりウサギの皮膚は頑丈だな!」
擦り傷一つないミルコは、自分の腕をパシパシと叩いている。彼女にとっては「ウサギだからこれくらい平気」なのだが、ドクターの目は飛び出さんばかりに見開かれていた。ハイエンドの全力を込めた刃が、まるで紙くずのように弾かれていたからだ。物理ダメージという概念そのものが、彼女には通用していない。
「な、何なんだその体は……! ウサギの個性じゃ説明がつかんぞ!?」
戸惑うハイエンドの一体が、攻撃を仕掛けた。硬質化された刃がミルコの頭上をかすめる。もちろんダメージはゼロ。しかし——
サラサラと、ミルコが自慢にしていた純白の長髪が半分ほど宙を舞い、床に落ちた。
「……あ?」
ミルコの手から、ポケットに入れていた筋トレ本がポロリと落ちた。
「あたしの……あたしの髪が……」
次の瞬間、世界が変貌した。
ミルコの耳がピクピクと激しく跳ね上がり、瞳から光が完全に消え去る。本人は「髪を切られて超むかついた」程度の感覚なのだが、肉体からは常軌を散した赤黒いオーラが噴出し、血管が浮き出た顔面は見るも無残な悪魔の相貌——**「スーパーキレネンコ」**へと変貌を遂げていた。
「ギガガガガガガガッ!!!!」
文字通りの咆哮。地下の空気自体が歪み、重力が狂う。
ズドンッ!!
ミルコの「ただの一蹴り」が、髪を切ったハイエンドの顔面に突き刺さった。超再生の隙すら与えない。打撃の衝撃波だけで脳無の頭部は完全に消滅し、その巨体は地上を突き破って空の彼方へと一直線に打ち上げられた。
「ヒッ……!? い、脚力がおかしいだろ! ウサギの領域を超えて……」
ドクターが悲鳴を上げる間もなく、ミルコは残像すら残さぬスピードで移動すると、残りのハイエンド二体の首を掴み、そのまま床へと叩きつけた。超頑丈な作りのラボが地殻変動を起こしたかのように崩壊し、脳無たちはただの平たい肉の煎餅と化した。
その惨状の奥で、カプセルから死柄木弔が覚醒した。
「崩壊」の個性を解放し、全方位へ黒い亀裂を走らせる死柄木。「全てを壊す……!」と禍々しく笑う彼だったが、押し寄せる崩壊の波はミルコのブーツに触れた瞬間、なぜかギャグアニメのようにピタリと停止した。
「な……!? 崩壊が……伝播しない……!?」
困惑する死柄木の眼前に、赤黒いオーラを纏った悪魔が立っていた。ミルコは死柄木に言葉を紡ぐ間すら与えず、その顔面をガシッと鷲掴みにする。
ボコォッ!!!!
死柄木は一瞬で地面にめり込み、そのまま地球の深層を目指すかのように地下数十メートルまで叩きつけられた。全能力を解放したはずの魔王は、ただの一撃で意識を絶たれた。
「次は誰だぁぁぁッ!!」
怒りの収まらないミルコは壁を突き破り、地上へ飛び出した。その目線の先には、暴走を開始した巨大な脅威、ギガントマキアがそびえ立っていた。
「主……! 主を守る……!」
山を穿ちながら進撃するギガントマキア。しかし、スーパーキレネンコとなったミルコにとって、その巨体はただの「デカい的」に過ぎない。
ミルコは音速を超えてギガントマキアの前に立ちはだかると、繰り出された巨拳を小指一本で受け止めた。そしてそのまま巨腕を掴み、体を一回転させる。山ほどの質量を持つ巨獣が、一羽の兎によってジャイアントスイングの要領でブンブンと振り回された。
ドォォォォォン!!!!
遥か遠くの山脈へ投げ飛ばされたギガントマキアは、山を二つ押し潰して沈黙した。
さらにミルコは、群がる超常解放戦線の幹部と兵士たちへ視線を向けた。
リ・デストロがストレスで巨大化して殴りかかるも、ミルコは正面から蹴り返して陣地ごと吹き飛ばす。荼毘が放つ漆黒の炎も「なんか温かいな」と無傷で歩み寄り、一回回し蹴りで地面に埋め込む。トガやスピンナー、無数のトゥワイスの分身すらも、ただの暴風のような蹴り技の余波だけで、一秒と経たずに壊滅した。
ほんの数分。
超常解放戦線が誇る一大勢力、そして最悪の魔王と怪物は、たった一人の「ウサギの個性を持つヒーロー」によって全滅させられた。
やがて、遅れて現場に到着したエンデヴァーやホークスが見たのは、恐ろしい地獄絵図だった。
崩壊した山々、へこんだ大地、そして全滅して転がっているヴィランの山。
その頂点で、半分切れた髪の毛を手で弄りながら、ミルコが不満そうにぶつぶつと呟いていた。
「まったく、ウサギの毛並みは命なのにさ! でもまあ、日頃の筋トレのおかげでなんとか勝てたな! やっぱりあたしの『兎』の個性は最高だぜ!」
血だらけのヴィランの山の上で爽やかに笑うミルコを見て、エンデヴァーもホークスも、言葉を失って震えていた。
(……どこがウサギだ教えろ)
二人のヒーローの心が、完璧に一つになった瞬間だった。