「すまないねぇ、
俺は今、幼馴染の父親に呼ばれてファミレスの席に座っていた。
別に相手を孕ませたからとか、責任を取れとかそういう話じゃない。
というか正直最近疎遠気味だと言っていい。
高校に入ってから、アイツは部活にも入らずそそくさと帰ってしまうのだ。
一方の俺も部活を決める時期だと言うのに、なかなか決められずにいた。
そんな中、アイツの父親からの呼び出し。いったいどうしたことだろうと、不安になるのは仕方のないことだろう。しかし夕方五時に甚平を羽織り無精髭を生やした散切り頭という姿は、相変わらず昭和の文豪のような気配を纏っている。
実際はWEB小説家らしい。何本か出してアニメ化もしたとかなんとか。
ともあれ、俺が親父さんを見ていつも思うことは一つだ。
「相変わらず似てませんねぇ、親父さん……」
「ああ、猫耳が生えてないからねぇ」
別に猫耳だけの問題じゃないが、アイツには猫耳が生えている。
なんか人の耳も生えているけれど。いわく頭のは癖毛みたいなものらしい。
まぁ、親父さんは細型の渋い顔をしているのだが、幼馴染はムチッとした丸顔というか……。
いや、太く見えるわけではない。小顔だし。全体的に肉感の差が違うということだ。こんなほっそりした親父さんからよくもまぁ健康的な娘さんが生まれたものだ、という感じである。
などと考えていると、店員がどデカいパフェを運んできた。
30センチ定規ぐらいはある。俺は頼んだ覚えがない。親父さんだろうか。
「お腹が空いただろ? 食べなさい」
ニコニコと微笑む親父さん。甘いものは嫌いではないが、この大きさはちょっと胃もたれしてしまいそうだ……が、相手が何故呼び出したかわからない以上は断るわけにはいかない。
「いただきます……」
それでいったい何の用なのだろうか。
無言の時間が続く。パフェがドンドンと目減りしていく。甘ったるい。
やがて親父さんが意を決したように口を開いた。
「最近やけに
「はい?」
金回りが良い、とは妙なことを言う。しかし最近すぐ帰ってしまう事を考えると、もしかしたらあいつバイトをしているのかもしれない。だが、それを親にも黙っているとは……。
「もしかしたら危ないことをして稼いでいるのかもしれない」
「ああ……」
たしかにそりゃあ親としても心配になるだろう。
最近は闇だとか、パパなんたらとか流行っているらしいからな。俺が不安げにパフェのチョコレートを口に運んでいると、ドンッと親父さんが机越しに頭を下げた。
「頼む!! 鬼灯くん!! 二虎のやつが何をしているか、調べてくれ!!」
「ええ……!? と言われましてもね……」
「君は幼馴染だし、万が一バレたって大事にはならないだろう。しかし私はたった一人の肉親。もし、険悪な仲になったら耐えられそうにない……!!」
「は、はぁ……」
たしかに俺も幼馴染である二虎がなにをしているかは気になる。
しかし調べろとは……放課後、後をつけでもすればいいのか。
「どうしてもダメと言うなら……」
そう言って分厚い封筒を出そうとしてきた。
きっと中には大金が入っているだろう。そんなものは受け取れない!!
「わかった、わかりましたよ!! 調べます!! 調べますから仕舞ってください!!」
「鬼灯くん……! ありがとう……!!」
困ったなぁ……。
ともあれ、こうして俺は幼馴染の調査をすることになったのだ。
「よっすー、
はてさて翌日。
同じクラスである俺は当然二虎と邂逅することになる。
早起きの俺は比較的早く学校に来て、友人との会話を優先することが多い。
二虎を待たないのはアイツがいつもギリギリに家を出るからだ。
俺は早めに家を出て友達と週刊誌やアニメの話題で盛り上がりたいんだよね。
どうせバイトは放課後だろうし……。
「よぉ、二虎」
あやとりをしていた視界を上げると、隣に二虎が座っていた。
黒髪ショートの赤いインナーヘアー。くりんとした金色の瞳。
頭頂部には二本の猫耳。しかして人耳もしっかりある。
スカートからは尻尾が伸びており、くねくねと怪しげに揺れていた。
この世界──なんて、別に転生者とか転移者でもない俺がしたくないが、あえてそういう言い方をすると、この世界には亜人という存在がいる。いや、いるようになったというべきか。
「相変わらず友達多いね」
俺の周りで喋っていた友人たちを見つつ、二虎がへっと笑う。
こいつは群れるのをあまりいいと思ってないんだよな。どういうわけか。
「おまえはいないのかよ」
「いるよ~~超いる~~もうめっちゃいるから」
と言いつつ「おはよ二虎ちゃん」とか女子たちに一応挨拶されている。
相変わらず嫌われているわけではなさそうで安心したよ。
「そういえば二虎、おまえ昨日のパイロゼッター見た?」
「深夜アニメなんて見てる暇無いって……」
「なんでだよ」
「こちとらアンタと違って体力無限じゃないのよ。むにゃむにゃ……」
と言いつつ朝っぱらから机に突っ伏す二虎。
やっぱり夜遅くまでなにやらいかがわしいことをしているのだろうか……。
「眠そうだな」
「眠いのよ。先生来たら起こして~~」
……などと言っているところでチャイムが鳴り響く。
先生が来たら朝のホームルームの始まりだ。
……さて、なんとも代わり映えのしない一日だった。
昼休み、幼馴染と弁当を食うなんてイベントもない。
ああいうのは男子グループと女子グループに分かれて食うものだ。
まぁ、俺はなんとかはみだしものにならずに食えているが。
ともあれ、明日は休日。
各々が部活動に向かいつつ、一部の連中はカラオケでも行かないかなどとぬかしている。
そんな教室から二虎は音もなくこっそりと抜け出そうとしていた。
「悪い! 俺今日用事あるから」
友人たちにそう言って、二虎を追いかける。
あいつの猫耳は偽物だが、五感は本物だ。なんとかバレないようについていかないとな。
しばらくは普通の道を歩いていたが、やがてドンドン追跡者を撒くように、細道を走っていくようになった。最後の方なんてほとんどパルクールである。
俺はなんとかそれに追いつきつつ、辿り着いた先は……。
「亜人喫茶……?」
古ぼけた喫茶店。亜人喫茶『ゆぐどら』という看板が出ている。
こんな路地裏で客が来るのかと思いつつ、入らせてもらう。
もしかしたらここで待ち合わせをしているのかもしれない……と思い。
「いらっしゃいませ、ご主人様っ!」
…………メイドになった二虎がそこにいた。
見事に猫の媚びへつらったようなポーズを決めている。
なるほど、ここはそういうコンセプトのカフェ、ということか。
「な、な、な、なんで……」
目と目が合う。徐々に二虎の頬が上気していくのがわかる。顔が真っ赤になったところで、机に置かれていたメニューで思いっきり俺の頭をしばこうとしてきた。
「アンタがここに来てんのよぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
俺は二虎の攻撃をさっそうと避けながら、喫茶店の席に座る。
いつまで経っても俺に一撃も加えられないことに苛立ち、フーッフーッと威嚇音を出す二虎。
「一発ぐらい殴られなさいよ」
「やだよ、痛いから。それに俺は客だと思うんだが?」
「帰りなさいよ……!!」
地団駄を踏む二虎。
その気配を察知してかキッチンからオールバックで白髪のイケてるおじさまが出てきた。
ちょっと西洋風の雰囲気がある。エプロンをしているから、おそらくここの店長かなにかだな。
「どうしたんだい、二虎くん。君らしくもない。彼は知り合いかい?」
「あ、お、おじさん……! えと、こいつは私の幼馴染で……!!」
「どうも、
俺がそう言うと、店長らしき人が一目散に俺に近づいてきた。
座っていたので、とっさに逃げられない。
しかし害意はなさそうだけど……!
「吸血鬼か!? コレは珍しい……!! 髪も目も赤い……!」
「ああ、ええっと、そうですね。両親は普通の人間なんですけど……」
ジロジロと俺を見つめてくる店長らしき人。
それを見て、若干イライラしているのか気まずいのかわからない表情をする二虎。
なるほど、亜人喫茶なんてやってるんだ。亜人マニアってことか。
「二虎くんも紹介してくれればいいのに」
「なんで。嫌だけど」
「あの~~~、二虎はここでバイトしてるんですか?」
思わず手を上げて質問する。
それを聞いて、店長らしき人はふぅむと唸った。
「ああ、私は彼女の母の弟……いわば叔父でね。この亜人喫茶を経営している」
「は、はぁ……」
「
「よろしくお願いします」
そう言って握手すると、ぎゅううううう……と強めに握ってきた。
なんかちょっと……怖いな、このおじさん!!
「実は二虎くんのお父上は今少々スランプでね。今現在貯金を切り崩して生活しているんだ」
「ちょ、ちょっと、おじさん!!」
「まぁ、そこで僕が生活費を出す代わりに軽く働いてもらっている……ということだよ」
「…………むぅ!」
言われたくなかったのか、バンッとメニューを膝に叩きつける二虎。
しかし茶山さんは面白そうにコロコロと笑うばかりだった。
「なんだい、君がこっそりバイトをしているから彼氏さんが心配してきたんじゃないのかい?」
「べ、別に彼氏じゃないわよ、こいつは……!! ただの幼馴染で……!!」
「まぁ心配してこっそり追いかけてきたのは本当だけど」
ジッ……と二虎が俺を睨んでいる。猫目である。
<◯>ω<◯>って感じ。
「まぁそういうわけだから。変なことしてるわけじゃないし父さんには黙っといて」
「なんでだよ」
「あの人、無駄にプライド高いから断るかもしれないし」
「ていうかおまえがここで働かなきゃいけないほど大変なのか……」
「言うほどじゃないわ。多少は貯蓄もあるし」
…………親父さん、俺にその貯蓄渡そうとしてなかったかぁ!?
木訥そうでとんでもない親父さんだった。いや流石に全額じゃないだろうが。
ふぅむ、しかしこのおじさん、あんまり信用できない気がするな……。
なんというか血の匂いが濃いというか。正直心配だ。
吸血鬼の勘だけど。
「…………すいません、茶山さん。まだバイトって雇ってますか?」
「はぁ!? アンタの家、裕福でしょうが!!」
「おお、全然歓迎だよ。君ならねぇ」
微笑みながらそういう茶山さん。やはり怪しい。
食えない人であるのは間違いない。
「おじさん……!! ろくに客も来ないのに二人も雇う必要ないよ!!」
「それなら君が辞めるかい?」
「ぐぬぬぬ……!!」
頬をふくらませる二虎だったが、反論を思いつかなかったようで、そのまま机に突っ伏してしまった。小声で「好きにしなさいよぅ……」などとぼやいている。
俺は猫耳をちょんとつまんでみせた。ぴくぴく動いている。
なにはともあれ、幼馴染が妙な仕事をしてなくてよかった。
……いや十分妙な仕事の気がしているけれど。
鬼灯 遊 ……赤髪赤目の吸血鬼。高校一年生。家は裕福。
二宮 二虎 ……黒髪赤インナーの猫耳娘。高校一年生。片親で親父はスランプ。
茶山 ……二虎の母方の叔父。亜人喫茶「ゆぐどら」を経営している。
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