スパイディのことが大大大好きなマッドサイエンティスト幼女 作:サイリウム
(……どうして?)
最初に感じたのは、困惑だった。
私はただ、ピーターとの時間を楽しみたかっただけだ。トラップスターなる無名なヴィランや、シニスター・シックスなどという無粋な連中に邪魔をされたが……、その戦闘も終わった。ピーターも無事で、私自身にも怪我はない。少々予定が狂ったのは確かだが十二分に修正が効く範囲だった。
それに、ピーターがスパイダーマンとして活躍する姿も見れたのだ。
ヴィラン相手に大立ち回りする姿を、ほぼ0距離で観察出来た。そして更に私を抱きかかえながら大空を舞い、彼がこの身を大事に大事に守る姿。まるで私を姫のように扱い、ヴィラン達と相対する姿を見せてくれたのだ。むしろ良く攻めて来たと褒めてやってもいい位である。
特に自身が我が夫を突き飛ばし、この身が地面に叩きつけられようとするピーターの慌てっぷりは……。非常に心躍るモノがあった。
故にこの程度のアクシデントであれば、大歓迎。我が夫と過ごす大切な日常がより鮮やかになる良いイベントだ。ピーターが勇気を出して告白してくれるという大切なデートを邪魔されたのは確かだが……。“これくらい”であれば、許容することが出来た。
呑み込むことが、出来たのだ。
(だが。)
空を埋め尽くすように、現れた巨大な宇宙艦隊。
そして奴らが街を破壊し始めた瞬間……。
私の中に生まれたのは、純粋な怒りだった。
「…………貴様らは、私達の、邪魔を」
するのですね?
自分でも驚くほどに、低い声が出る。
側にいる我が夫の表情が明らかに変化してしまったが……。今はもうこの怒りをどうにかしなければ、私という存在自体がどうにかなってしまいそうだった。表情こそなんとか無表情に止めることが出来たが、その内実は正反対。ただ息をするだけで、怒りという感情がどんどんと積み上がっていってしまう。
目の前に、いや私達の直上にあの“愚物”どもがいる限り……。
「あぁ、そうか。」
なら、消してしまえばいいのだ。
サノス? タイム・ストーン?
そんなものどうでもいい。
我が夫との大事な日々を邪魔する様な存在は、“世界”すらいらない。そのすべてを一度綺麗に浄化しなおし、私達だけの完璧で完成された世界を生み出してしまえばいい。我が身に宿るこの知性があれば、世界の消滅と、再構築。そして私達に奉仕し崇め奉る様な新しい種族を生み出すことなど容易。
あぁ、そうだ。許容などすべきでは無かった。
夫が“趣味”を楽しみたいのであれば、最初から私が箱庭を用意してやれば良かったのだ。最初から、完璧なモノを、だ。
奴らが声高々に宣言した文言を分析するに、その『タイム・ストーン』なるものを手に入れることで、それ相応の兵器か何かを完成させることが出来るのだろう。“最後の石”という表現から、そこは間違っていない。
ならアイツラ全部溶かし殺して、石を分析し、我がナノテクノロジーに組み込む。
そしてこの星どころか世界、いやもっと先の並行世界含めた、文字通り全てを……。
「レノラっ!!!!!」
「……どうしました、我が夫。」
この世の全てである男に、両肩を掴まれていることを把握する。
呼吸の荒さや心拍数から、どうやら自身に対し何度も声を掛けていた様だ。
「それは、ダメだ。君が何を考えているのかは解らないけど……。それだけは、駄目。」
「……何故です?」
「だって……。あぁいや。それじゃレノラには伝わら……。」
私がそう問いかければ、思わずといった風に口を開こうとする我が夫。
しかし途中で思い直したのだろう。すぐに口を閉じ、小さい声で何かしらぶつぶつと思考を回し始めているのが解る。何を思い悩んでいるのかは解らないが、その姿もいじらしく可愛らしい。おそらく加虐心というのは、こういう事を言うのだろう。先程までの男らしい彼も素晴らしいが、弱弱しい姿もまたステキだ。
ふふふ♡ でもそれはもう少し後で沢山見せてくださいね?
今から私達の“愛の巣”の掃除を始めますから。
ピーター。貴方だって家に害虫が入り込むのは、嫌でしょう?
「そ、そうだ! ……レノラ?」
「なんですか?」
「そんなことしたら…………。嫌いに、なるよ。」
は?
「あ!? ちょっと待って今の無し! 無しだから!? レノラ!? レノラ!? しっかりッ!?!?!?」
い、嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。何で、どうして、どうすれば。何故、何故何故何故何故。
そんなの、あぁ。どうしたら。
何で、何で、何で。
嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌
「落ち着いてッ!!!!!」
「…………ピーター?」
我が夫が、その両手で私の顔を包み込んでくれる。
あぁ、あぁ。
「嫌いじゃないから! ないから、ね! そういう危ないことしたら嫌だって言いたかったの。ほ、ほら僕より何倍も賢いレノラだったら解るでしょ? ね? ね?」
「……。」
「ほ、ほら! 僕レノラの事、す、す、好きだからさ! きょ、今日だって告白しようって思ってデート誘ったワケだし! それもレノラは解ってたでしょ? さっきのはほら、言葉の綾って言うか。大好きな人にそういうことして欲しくないって言うか。なんというか……。」
「だいすき……」
「そ、そう! こ、こんな場で言う事じゃないけど……。君が許してくれるのなら、悪く思っていないのなら。……僕と、付き合ってくれませんか。」
……ふふ。
ふふふ。
ふふふふふ♡♡♡♡♡
あぁ、そうですよねピーター。
貴方が、貴方がそんなこと、言うはずがありませんでしたよね。
やっぱり、あなたは……!
「すみませんピーター。少し、精神に異常があったようです。もう立ち直りましたので大丈夫ではあるのですが……。ちょっと“女”としての私の歯止めが効かなくなりそうなので……。」
「え?」
「端的に言うと、それ以上顔を包み込まれるとこの場で襲います。」
「あ、はい。」
そう言うと、即座に私の顔を包み込んでくれていた我が夫の手が、離れて行ってしまう。
全身が。というか女の私がブーイングを投げかけ『合意が取れたからもうこの場で襲え!』と酷く騒ぎ出すが、何とか理性で押し止めておく。その気持ちは強く理解できるが、現在この都市は謎の害虫どもによって侵略を受けている。心優しい夫の事を考えれば、あの宇宙人どもをどうにかするのが先だろう。
けれどまぁ、この後にデートが控えており。
“もう一度最高の告白”をしてもらうためには……。
「手早く済ませましょう。ピーター、お手伝い頂いても?」
「え、あ、うん。勿論。」
「では、手を。」
手を差し出せば、すぐに握ってくれる彼。
スーツ越しではあるが、愛する人の体温を感じることの出来る状況。正直に言ってしまえば、命令だけ出せばことが済む状況であるのだが……。これぐらいのご褒美は、先に貰ってしまっても良いだろう。
そう考え、ゆっくりと。
指を鳴らす。
「“起動”」
その瞬間、街中に青白い光が走る。
これまで密かに散布していたナノマシンが、一斉に活動を開始する。道路の下にも、建物の壁にも、空気中にも。すでにこの街のあらゆる場所へ入り込んでいたそれらが、私の意思に応じて一斉に姿を現した。
……夫は、かの聖書に記された“隣人愛”の象徴のような存在だ。
私では理解できないからこそ憧れを覚え、私では出来ないからこそ自分のモノにしたいと望む。そして何よりも彼の人間性が、私の心を掴んで離さない。これこそ恋であり、愛であり、世界が齎した奇跡といえるだろう。
そして、彼が男であるならば。
正反対として生み出された“女”は。
災いを司るべきだ。
「かのヨハネの黙示録には、終末の象徴としてイナゴが書き記されています。人類の根幹とも呼べる食、その全てを食い散らかす“蝗害”を示すことでより分かりやすい“象徴”としたのでしょうが……。今日はそれに倣うことにしましょう。」
「……レノラ?」
言葉を紡ぎ、もう一度指を鳴らした瞬間……。
この都市中に存在するナノマシンたちが、形を取る。
全ての粒子たちが各所に集まり始めることで、“群”を形成。それぞれが放つ青白い光が一個の生命体のように脈動を始め、それが視界を埋め尽くすようにどんどんと形成されていく。そして一定の“数”が集まった瞬間。
頭上にいる害虫たちに、喰らいかかる。
「さ、何秒持ちますかねぇ?」
あの者たちも、愚かでは無いのだろう。攻撃と判断し、先ほど街を焼いた光弾をナノマシンたちに撃ち込んでいくが……。
そこに“存在する”以上、私のナノマシンに喰らえぬ者は無い。実体があるのであれば食いつくし吸収することで新たなナノマシンを生み出す原材料へ。そして実体のないエネルギーだけだったとしても、吸収して彼らを動かす原動力となる。
有るものすべてを糧とし、増殖し、世界を埋め尽くす。
ふふふ、正に“蝗害”でしょう?
「そして今回は、愚かにも彼らは“数”を用意しました。」
ソレが、仇となる。
おそらくエネルギーシールドを展開していたようだが、それすらもナノマシンによって食われ、船体に接着する私の蝗たち。そしてその瞬間、まるで船体が空気に解ける様に、消えていく。
もう誰もが理解したことだろうが、私のナノマシンは。金属だろうが、生物だろうが溶かし殺すことが出来る。そこにいる物体も、生物も。何もかも私の対象内。
まぁどうやら、“多少歯ごたえのある”存在もいるようだが……。
「……あぁなるほど。概念系の能力なのですね。」
空間、斥力、現実改変……。当たりだろうか。
おそらく奴らの旗艦であろう一番大きな宇宙戦艦の中で、ナノマシンの反応が消失している区画が見える。先程彼らが言っていた“タイム・ストーン”系列の力なのだろう。……概念を操る石。といった所か。
このままでも十二分に対処は可能だろうが、害虫以下のゴミどもに“希望”を持たれるのは我慢ならない。
即座に、対抗策を打ちだすことにする。
少々手間だが、私のナノマシンには“再現”という能力もある。主な能力は現在行っている“溶解”ではあるが、彼らは溶かした存在の情報を記憶することも可能。つまり簡単に言えば『元通りに戻すことが出来る』というワケ。故にあの戦艦を再度作り直したり、内部にあったデータベースを再現し情報を再度くみ取ることも可能。
それを活用し、中を覗いてみれば……。
「成程、インフィニティ・ストーン。」
物語によくある、全て集めれば願いの叶う石。
それぞれがこの世界を構築する概念を持っており、1つだけでも星を軽々と消滅させられる力を持つ。
「ピーター。いります?」
「な、何が!? い、いやその前に。あ、アレって……!」
「えぇ、私のナノマシンですよ? 便利でしょう?」
「……今すぐ辞書で便利って言葉を調べたくなったよ。」
辞書ですか? では此方を。
彼の言わんとすることは理解できたが、ちょっとしたイタズラ心から手元のナノマシンを動かし、辞書の形を取らせることで彼に手渡しておく。まぁそんなことすれば、我が夫がこちらに凄い視線を投げかけてくれるわけだが……。それもまた、素晴らしい。
そして、この程度であれば……。
多少の手直しで、『完全な無力化』も可能。
「っと、そろそろですね。」
そんなことを考えていると。“ぷちっ”という可愛らしい音と共に、処理が終わったことを把握する。
勿論。石を使っていたサノスが、我がナノマシンたちによって食い殺された音だ。
確かに単体が持つ力にしては結構なモノだったようだが、ナノサイズの物体たちが延々と迫りくるという“物量差”には勝てなかったのだろう。更に途中からはこの場で軽く組んだ修正パッチの効果も及んでいた。私という“本体”がある限り、ナノマシンたちは自分たちすら瞬時に書き換えることが出来る。故に相手の弱点が一度でも露見すれば、飲み込まれ喰い壊されソコで終わり、というわけだ。
(そして……。頭が死んだ軍隊は、より脆くなる。)
害虫たちのトップ。概念を操る存在さえ落としてしまえば、後は単なる作業でしかない。
組織立った動きが出来なくなった奴らの隙をつき、ナノマシンたちが“消滅”させる速度が上がって行く。そしてあっという間にニューヨークの空を覆っていた者たちが消滅。数秒も経たぬ間に、お掃除の完了だ。
これで、サノスと名乗っていた軍勢はこの世から消えて無くなった。
ふふふ♡ コレが『愛の力で大勝利』という奴ですね、ピーター♡♡♡
「……あぁ、そうだ。“今後”の為に復興もしておきましょう。」
パンと軽く手を叩き、ナノマシンたちに新たな命令を与えておく。
あまり必要性は感じないが……、先ほどの“処理工程”を見た口うるさい者たちが、また何か口出しして来る可能性もあった。何せ愚かな人間ほど、強い力を必要以上に怯え、自分たちのルールが通用するという愚かな考えを持って、排除しようとする。先日のシールド周り。ニック・フューリーに対して行った脅しが効いている間は問題ないだろうが、何処にでも勝手に動き問題を生み出す愚か者は存在するのだ。
故にそんな愚か者たちを黙らせる程度の慈善活動。アピールの一環として、破壊された建物たちの修復をナノマシンに命じておく。
流石に内装までの情報は取得していないので、元々あった建物だけ元通りにするような形にはなるが……。これで十分だろう。なに、材料だけはあの害虫たちが持って来てくれたのだ。瓦礫の掃除も含めて行い、余った分は元々あった“隠し場所”に戻しておく。
これだけしてもまだ口出しするのならば、ナノマシンを再度働かせればいい。その仕込みも、これで終わり。
……よし、これで完璧に元通りだ。
「さて! ではピーター。参りましょうか?」
「……え、えっと。どこに?」
「うん? デートの続きでしょう?」
「今から!?!?!?」
勿論。そのために色々と準備してきたのですよ?
邪魔が入ったのは確かですが……。“全て”消えてなくなったのです。
さ、後は2人の時間を。
ゆっくりと
楽しみましょうね♡♡♡♡♡
あぁ、そうだ。この石は使えるでしょうから……
拾っておきましょうか。