スパイディのことが大大大好きなマッドサイエンティスト幼女 作:サイリウム
場所は変わり、日本のオオサカへ。
真っ白に染められた近未来都市。その中心で聳え立つ巨大なビルの頂点では、女の幼子のような笑い声が響いていた。
「あは! あははは! お腹痛い! マジ! マジでヤバい! まるっきり全部やりこめられてて草! 基地どころか装備全部溶かされたって! ただの道化じゃん! あはー!!!」
「……煩いぞイタズラガール。」
「貴方は口を挟まないで、はげちゃびん!」
そう言いながら背後から飛びつき、ニック・フューリーに可愛らしい猫のカチューシャを装着させる彼女。
単に諦めている可能性が高いが……。それに対し、一切の抵抗をしない彼。このことから非常に親しい関係であることが見受けられる。
「あはー! おもしろ! ……んで? シールド長官サマがこんな辺鄙な島国に何の用事ですかな? 消滅した基地の再建とか、装備の再調達とかだったらユキに言ってくれれば全部手配してくれると思うけど。」
「その件は既に君のフィアンセに伝えている。問題はコレだ。」
そう言いながら、梱包された何かを取り出すニック。
慣れた手つきでソレを奪い取り、包装を剥がす彼女だったが……。そこから現れたのは、何も入っていない箱。ハイツレギスタ社の刻印が為された、ガラス製らしきキューブだ。
「……ナノマシンの解析ってわけね?」
「あぁ、事前に送って貰って正解だった。」
「でしょう? 我が社のオモシロニクス・デバイスが役に立ったようで何より!」
彼女がそう口にしながらキューブを運び、近くの機器の上に乗せる。
すると即座に表示されていく情報たち。どうやらそのキューブ型のデバイスはナノマシンが散布された地域に移動した際、自動的にそれを収集し保存する機能を持つマシンらしい。
レノラ・グリムが作成したナノマシンを確保し、隔離。組み込まれているであろう自壊システムを無効化しながら、ここまで運んできたご様子。
「イヴ、解析お願いね?」
『畏まりました、少々お時間頂きます。……して、ニック様。ちょうどウチのゲデヒトニスがパンケーキを焼いておりまして。コーヒーとご一緒にいかがですか?』
「……コーヒーだけ頂こう。」
「じゃ、私ニックの分も!」
画面から聞こえるAIの声。“イヴ”に対し2人分のケーキを1人で食べると宣言しながら、ゆっくりと近くの椅子に座る彼女。
そしてその対面に、ニックも腰を下ろす。
彼にとって、眼前の彼女は最近表に出始めたレノラ同様、頭痛のタネだ。しかし一人の男に狂った愛を向けるレノラに比べて、彼女は対話が可能。そして何より彼を気遣い手伝ってもくれる。
付き合いも長いせいか、軽い雰囲気の変化だけで『本題』が始まるのを、彼も理解していた。
「ま、早い話……。恋する乙女に手を出そうとした奴は、ハルクにぶん殴られて死んじゃえ! ってやつだね。」
「……馬に蹴られて、じゃないか。ツグミ。」
「あはー! そうとも言う!」
そう笑いながら、笑みを浮かべる少女。
日本有数の財閥であるハイツレギスタ社のトップであり、2本のテールと真っ白なボディが特徴的な、かの鉄の男同様アーマーを纏う存在。
『ドロッセル』にして、『大宙つぐみ』。
それが、彼女の名前だった。
「かる~くナターシャとかが集めてた情報見せてもらったけど、アレ完全に『愛に生きる』タイプの人間だよ? その人の為なら世界丸ごと贄にしたって構わないって真顔で言えるタイプ。関わっちゃダメな子だったね。」
「……そんなにか。」
「そう、そんなに。にしても、見初められちゃったピーターは御愁傷様って奴かなぁ? まぁ彼の場合、良い感じのブレーキになってくれるんだろうけど!」
両方の意味で、と付け足すツグミ。
彼女の分析でも、レノラは愛に生きる存在。倫理観は欠片も持っていないタイプだが、社会を見つめそれに合わせることが出来る能力は持つタイプ。つまり愛する人が真面であればある程、彼女も真面目に行動できるタイプだと推察していた。
つまり『ほっとくから好きに乳繰り合ってろ! あ、でも結婚式には呼んでね?』が正解だったというワケ。
「ニックの事だから色々考えて不安になるのは解るけどさぁ……」
『ご歓談中失礼いたします。お嬢様、ニック様。軽食とお飲み物をご用意いたしました。』
そんな話を遮る様に聞こえる、小さなモーター音。
音のする方にフューリーが視線を向けてみれば。真っ白な床に正円の裂け目が生まれ、ゆっくりと上がって来る巨大な黄色い重機のような四つ足ロボット。この本社ビルに勤める執事ロボットである『ゲデヒトニス』だ。
「……頂こう。」
「ありがとマンゴスチン!」
『お嬢様、私の名前はゲデヒトニスでございます。』
「貴方は口を挟ま……、これもうさっきやったな。まぁそう言うわけで、今後は口出しせずに遠くから見守っておくのがちょうどいいと思うよ? ピーター君が変な方向に歪まない限りは、彼女が暴れることは無いだろうし。」
切り分けられたパンケーキを口にしながら、そう言う彼女。
ニックからすれば楽観的な言葉を紡ぐつぐみに少々の疑問が残っていたが……。つぐみからすれば、『ピーター・パーカー』の異様な程の聖人さは何度も見て理解しているところ。表向き正体は知らないことになっているが、何度もチームアップして戦う機会があったのだ。その人となりは完全に見抜いていた。
そんなことを話していると、つぐみの手元にホログラムが生み出され通知。ナノマシンの解析が終わったことが示されている。
「っと! 出来た出来た! んじゃちょっと見せてもら……、わぁ~お。」
「……何か不味いのか?」
「超級にヤバいね、こりゃ。」
そう言いながらニックにも見やすい様にホログラムを表示し、幾つかのグラフを見せてくれる彼女。
彼からすればそれが何を意味しているのかは分からなかったが……。複数の表において、設定されていた上限を大幅に上回っているのが見て取れる。つぐみの遊び心に沿ってグラフのてっぺんが吹き飛んだり、円グラフが何周もグルグルと周り爆発する様なアニメーションだ。
おそらくサポートAIである『イヴ』が動かしているであろう画面上の小さな『ドロッセル』も、驚愕の動きを表している。
つまり、完全な想定外。
「たぶんアレね、“技術特異点”。トニーの『アークリアクター』とか、私の『縮退炉』とか、そういうの。ガチでナノテクノロジーの権威。これ、彼女が本気でヒドラに手を貸してたら早々に世界征服終わってた奴だよ?」
「そこまで、か。」
「一応、対応策が無いわけでは無いんだけど……。」
口元に手を当てながら、思考するつぐみ。
即座にホログラムを操作し、自作ナノマシンの改良を行い始めたが……。どれだけ試算したとしても、レノラが生み出したソレを超えることは出来ない。現代科学では到底実現不能なはずの“ブラックホール”に手を伸ばした彼女ですら、不可能なほどの絶技が小さなガラスキューブの中に納められていた。
「……うん。無理矢理に縮退炉で出力上げて、こっちのナノマシン動かせば対応は出来なくもないと思う。でも多分守れるのはウチのホームである日本ぐらい。爆心地になるであろうニューヨークは即座に呑み込まれるだろうね。」
「…………“トニー”や“リード”でもか?」
「う~~~ん。正直2人ならいい案思いつきそうだとは思うけど、無理なんじゃない? 今から対策会議開いたらいけるかもだけど、それしてる間にレノラちゃんもパワーアップして来るはず。こういう技術差ってマジで追い越すの難しいから……。」
プロペラで動くレシプロ機しか作れない様な国が、ジェット機を生産できる国に喧嘩を売る様なモノだと伝える彼女。
今はレノラのナノマシンの現物があるためそれを参考に技術を進めることが出来るが、幾つかブラックボックス化されているため『完全に同じレベル』に辿り着くことは難しい。
勿論リード・リチャーズやトニー・スタークといった天才たちの力を使えば可能だろうが、相手はナノテクノロジー界の権威のような存在だ。レノラも同様に成長することを考えれば、追い抜くのは非常に困難であると考えられる。
「それに私もトニーもリードも、全員ヒーロー業があるでしょ? それに対してこのレノラちゃんは確実に主婦一直線。時間が有り余るわけだし……。」
「なるほど。“触らぬ神に祟りなし”というやつか。」
「しょゆこと。」
すこしふざけた顔をしながら、両指でクオーテーションマークを作るつぐみ。
いつでもワールド級のヴィランに成り得る存在がレノラではあったが、ピーター・パーカーという生贄を捧げることで完全に無力化できる存在なのだ。余所から手を出して問題を引き起こすのは控えるべき、というところに落ち着いたご様子。
それに、これはピーターにとっても悪い話ではない。
「色々と愛が行き過ぎてるっぽいけど、見るからに尽くすタイプ。困った人を見たら体が動いちゃうピーターにはちょうどいい女房でしょ。技術サポートも受けれるわけだし……。ニューヨークが一層平和になるんじゃない?」
「そうなれば、良いんだがな。」
「心配性だなぁ、もう! ……勿論ナノマシンの対策は進めておくけど、今すべきは『レノラの対処』じゃなくて、『結婚式に何のご祝儀を持って行くか』だと思うよ? プリシラ、じゃなかった。ヴァーラさんだっけ? 奥さんと一緒に礼服の準備でもしときなって!」
「…………ふっ。なら、そうさせてもらおうか。」
「あ、ユキー! スパイディ結婚するって!」
「え、本当!? ど、ドレスどこしまったっけ!? ご、ご祝儀って日本とアメリカじゃ作法違うよね!? と、とりあえず300万ぐらい包めばいい!?!?!?」
「あ、慌てすぎでしょ……。それとまだ結婚式“は”未定だから時間ある感じだよ?」
「ふぇ? ……んもぅ! なら最初からそう言ってよつぐみ! にしてもピーター君もついにかぁ。私達の時も顔隠しながら来てくれたし、絶対行かなきゃね!」
「だねぇ。あと聞くところによると、『ショットガンマリッジ』らしいよ?」
「お~、やるなぁピーター君! 優しそうな顔して、実は結構イケる口でしたか。あ、となるとベビー用品とかの方が良いのかな?」
「どうだろ? お相手ナノテク使いの技術者だし、自分で色々作りたいんじゃない? あとそう言うのは出産祝いの方が良いだろうし。」
「確かに。となると妊婦さんでも食べれる食品系のカタログギフトが良いかな? ウチの奴だったらすぐに届くし、消えものだから早々問題にはならないでしょ。んじゃ私からのお祝いはそれにするとして……。つぐみはどうする?」
「安直だけど各種配信サービスのギフト券と、京都の花札ゲーム屋の本体と金券かなぁ。2人名義の方は現金で、個人はそう言う感じで良いでしょ。……あ、そうだ。トニーとかメッチャスパイディのこと気に掛けてたし、変なスーツとか送り付けてお嫁さん怒らせるとかしないように言っとかなきゃ。」
「あ~、ありそう。……一応私からもペッパーさん通じて言っておくね?」
「頼んだ!」