手からあれを出したい。〜三十年、風呂場で構え続けた男の話〜 作:やっくん。
「もっとうんこくえ――ってすげぇネーミングだよなァ! 最初聞いたときセンス疑ったわw」
ブチンッ――
「は? うんこじゃねぇ……」
腹の底から低い声が出る。
「え……」
「うんこじゃねぇぇぇぇぇぇぇ――――ッ!!!」
ドクン――
空気が鳴った。腹の底で炉に火が入った。
「スズカ……ッ!」
白い妖精の声が裏返る。
「男の戦闘値が上がってる……30……40……50……70……まだ上がっていく」
「な、なにあれ……髪の色が赤く……」
「もうここくえんはだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
ビリビリ――バチバチッ――
気づくと髪が根元から逆立ち、赤黒く染まっていく。全身から陽炎が立ち上り、足元の草が円を描くように外側へなびいた。
猛虎・黒炎波――この技名に俺がどれだけ時間をかけたと思っているんだ。就寝前のベッドの中で、通勤の道すがら、仕事の合間に考えたその結晶を。
「……トゥルシー、あの男の今の戦闘値は」
「ひゃ、100……を超えているわ」
「こんなの、勝てるわけない……」
スズカが一歩下がった。
「よし! 勝った!」
ローラが宙で拳を突き上げる。
「このマナの量……まじもんの天才だァ……」
騒がれているが、そんなことはどうでもいい。
俺は無言で腰を落とす。
「うぅぅぅぅぅん……ッ」
集中する。体内にあるエネルギーを手の平へと抽出するイメージ。
――きた。
黒い粒子の塊が手中に集まって、ドッジボールほどの丸い形を形成していく。
――きたきたきたぁ。
熱くて重い。持っているだけで腕が軋む。
三十年近く風呂場でやっていたあれが、今、両手の中にある。
俺の口角が勝手に上がった。
「やったな、大将!」
ローラが隣で飛び跳ねる。
「念願のうんこの完成だァ!」
……。
そして、俺はゆっくりとその照準をローラに向けた。
「おいおいおいおいっ!」
ローラが慌てて高度を上げた。
「アタシを狙うんじゃねぇ!」
「……うんこくえじゃねぇ……」
「長ぇんだよ覚えらんねぇよ!」
「……うんこくえじゃねぇ……」
「わ、わかった! 悪かった! 謝るからっ! ソレこっちむけんな!」
妖精が両手を上げて、宙で必死に首を振っている。
俺は三秒ほど照準を維持してから、静かに手を下ろした。
「……わかれば、いい」
良かった、話せばわかる相手で。
さて。
両手の中には大質量のエネルギーの塊が残っている。
……どうしよう、これ。
膨らみ続けている。抑え込んでいる腕がミシミシ鳴っている。放さないと、たぶんこっちが持たない。
だが、こんなものを人に向かって放っていいものじゃないだろ。
チラッ、と俺は彼らの方を見た。
女忍者と白い妖精と目が合った。
カラン、と乾いた音がする。
「ま、まいった……」
スズカが袖に忍ばせていたクナイを地面に投げ捨て、そして両手をゆっくり上げる。
「私のことは好きにしていい……だが、トゥルシーだけは見逃してくれ……たのむ……」
「だめよ、スズカっ! わたしのことはいいからっ!」
白い妖精が彼女の頬に飛びついて叫んでいる。
「あなたには目的があるでしょ……」
「トゥルシー……」
いや、あの、勝手に盛り上がられても。
こっちは技名を訂正したかっただけなんだが。
「てめぇらの方がザコだったなァ! ざぁ〜こ、ざぁ〜こ♪」
ローラが宙で腰を振っている。
お前は本当にブレないな。
あと、そのケツ振りをやめろ。集中できん。
とはいえ俺の腕の限界も近い。
手のひらの中の塊は、もう俺の顔ほどの大きさになっていた。指の間から黒い光が漏れている。
人に向けるのは論外。地面に撃てば穴が開く。森に撃てば焼け野原になるだろう。
なら残る選択肢は一つ。
「猛虎ッ――!」
しっかりと踏ん張ってエネルギーの弾を制御する。
「黒炎ッ――!」
そして俺は膝を曲げて両腕を天へ向けた。
「波――――ッ!!!」