いつか龍に至るまで   作:人間愛護団体

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いつか龍に至るまで

ここは………何処だ?

 

最初に頭に浮かんだのは、その疑問だった。

 

周囲は真っ暗で、何も見えない。

目を開けているのか、それともそもそも目が開けられていないのかすら分からない。

 

不思議なことに、恐怖はあまりなかった。

 

むしろ、なんだか安心できる。

 

狭くて、温かくて、何かに包まれているような感覚。

妙に心地がいい。

 

……なんだか眠い。

 

まあ、いいか。

 

そう思った瞬間、意識がゆっくりと沈んでいった。

 

――――――

 

どれくらい眠っていたのだろう。

 

ふと意識が戻ると、先ほどまでとは少し違う感覚があった。

 

身体が何かに包まれている。

 

壁……なのか?

 

しかも、何も見えない。

 

目の前にあるのは薄暗い何か。

いや、暗いというより、透明な液体の中にいるような感じがする。

 

身体も自由に動かせない。

 

「何これ?

『キシッ』

声に出したつもりだった。

 

だが、自分の耳に聞こえてきたのは、人間の声ではなかった。

 

「……?」

 

なんだ、この声。

 

自分の声……だよな?

 

妙に低く、変な鳴き声のような音だった。

 

そもそも、ここは何処なんだ?

 

取り敢えず冷静になれ。

 

まず状況を確認しよう。

 

俺は何かに包まれている。

周囲は見えない。

身体は動かせるが、かなり窮屈。

 

そして――

 

これ、壊せないか?

 

目の前にある壁らしきものへ身体をぶつけてみる。

 

うお〜。

 

うお〜。

 

全身を使って何度も体当たりする。

 

しかし、壁はびくともしない。

 

ならば――噛む。

 

ガブッ!

 

……硬い。

 

それでも諦めずに何度も噛みつき、爪を立て、身体をぶつけ続ける。

 

「キシッ! キシッ!」

 

何度も、何度も。

 

しばらく格闘していると、ようやく壁に亀裂が入った。

 

そこへさらに体当たりをすると――

 

パキッ。

 

音がした。

 

「キシッ?」

 

亀裂が一気に広がる。

 

そして次の瞬間。

 

バキィッ!

 

壁が砕けた。

 

外から光が差し込んでくる。

 

やっと出れた……

 

「キシィ」

 

ようやく外へ出ることができた。

 

……だが。

 

その先に広がっていた光景を見た瞬間、俺は固まった。

 

そこには、自分が出てきたものとまったく同じような卵が、千を超えるほど並んでいた。

 

一つや二つではない。

 

見渡す限り、卵、卵、卵。

 

そして、その卵の間を、自分と同じくらいの大きさをした巨大な蜥蜴が這い回っている。

 

そしてそのさらに向こう。

 

視界に収まりきらないほど巨大な蜥蜴が、ゆっくりと地面を闊歩していた。

 

ひえっ。

 

「なんだあれ?」

 

恐怖で呂律が回らないし思考が回らない

 

俺と同じくらいの大きさの卵。

 

そしてクソデカい蜥蜴。

 

いや、クソデカいどころじゃない、それこそゴジラとかそんなレベルだ。

 

あれは……なんだ?

いや、そんなことはどうでもいい。

 

早く逃げないと。

 

そう思ったところで、ふと自分の身体を見る。

 

鱗。

 

四本の脚。

 

長い尻尾。

 

そして、蜥蜴のような頭。

 

「キシ?」

 

俺、もしかして――

 

蜥蜴になってる?

 

――――――

 

【蜥蜴格闘中】

 

しばらくして、大体のことが分かってきた。

 

まず、目の前を歩き回っているとんでもなくデカい蜥蜴。

 

どうやら、あれは俺たちの母親らしい。

 

よく産卵している。

 

そして、ときどき俺たちのいる場所へやってきては、卵から孵ったばかりの俺たちをつまみ食いしている。

 

親が子供を食っている。

 

やはり俺達に対する愛情のようなものはないのだろう。

 

さらに周囲を観察すると、遠くの方に壁のようなものが見える。

 

ここはおそらく、あの巨大な蜥蜴の巣なのだろう。

 

問題は、それだけではなかった。

 

餌が足りない。

 

そのせいで、兄弟同士で共喰いをしている。

 

俺が生まれたばかりの卵の周囲では、無数の蜥蜴が互いに噛みつき、引っ掻き、殺し合っていた。

 

一応、親が餌として持ってきたらしい弱った生き物も何体かいる。

 

魔物……っぽい奴らだ。

 

しかし、それらは既にかなり弱っているにもかかわらず、兄弟たちはそいつらを無視することすらある。

 

というより、目の前にいる同族を殺す方が簡単だからなのだろう。

 

そして俺は――

 

元人間だからなのか、兄弟たちと比べて身体の動かし方がどうにも下手だった。

 

四本足で走ることにも慣れていない。

 

尻尾をどう動かせばいいのかも分からない。

 

そのため、真正面から兄弟を襲っても勝てない。

 

必死に生き残るためには、共喰いで弱った個体か、誰かが食べ残したものを食べるしかなかった。

 

しかも、おかしなことに気づいた。

 

兄弟たちは、他の兄弟を食べると明らかに身体が大きくなっている。

 

どう考えても、食べた量以上に成長している。

 

つまり――

 

レベルアップ。

 

そんな言葉が頭をよぎる。

 

だが、今の俺にはそれを確認する方法がない。

 

ならば、相手が飢えて力尽きるのを待つしかない。

 

そう考えながら、遠くで行われている共喰いを眺めていた。

 

……油断していた。

 

その瞬間だった。

 

ガブッ!

 

「っ!!!」

 

突然、首に激痛が走った。

 

危なっ!

 

何だ!?

 

急に攻撃してきやがった!

 

振り向くと、俺の首に噛みついている一匹の蜥蜴がいた。

 

幸い、俺よりも一回りほど小さい。

 

鱗もまだ乾ききっておらず、身体も細い。

 

孵化したてなのだろう

 

食い殺してやる!

 

「キシ〜ー」

 

こちらも噛みつき返す。

 

相手は必死に暴れた。

 

しかし、俺の鱗は思ったよりも頑丈だった。

 

歯が鱗を突き破ることはなく、肉に歯型がつく程度。

 

痛くはあるが、

 

「痛いけど……鱗が取れる程度だな」

 

相手の動きを見る。

 

バカの一つ覚えみたいに、ただ突進してくる。

 

身体の動かし方が下手な俺ですら分かる。

 

こいつは俺より弱い。

 

「馬鹿みたいに突っ込んできやがって」

 

身体能力で負けている。

 

経験でも負けている。

 

それでも、知恵までない雑魚に負けるつもりはない。

 

俺は相手の攻撃を受け止め、その首へ噛みついた。

 

くそ、暴れるなよ!

 

何度も噛みつく。

 

そして――

 

動かなくなった。

 

弟の命を奪った。

 

その瞬間だった。

 

【経験値が貯まりました】

 

経験値?

 

「キシ?」

 

やっぱり。

 

もしかして――

 

俺は頭の中で念じる。

 

『ステータスオープン』

 

—————————————————————

 

【ステータス】

 

名前:なし

種族:リトルレッサーリザード

Lv:2

HP:12/13

MP:5/5

筋力:5

防御:4

敏捷:7

魔力:2

知力:37

スキル:

・噛みつきLv1

・硬化Lv1

・鑑定Lv3

次のレベルアップまで:残り88%

 

—————————————————————

 

やっぱり。

 

こういう世界なら、ステータスもあると思ったんだ。

 

……にしても、ステータス低いな。

 

世界の平均が分からないから何とも言えないが、たぶんかなり低い。

 

特に攻撃力と素早さ。

 

にしても知力だけ高くないか?

 

37。

 

明らかに他の数値と比べて高い。

 

元人間だからだろうか。

後は違和感のある鑑定だがやはり昔から観察力はいいと言われていたしそのおかげかもしれない

 

まあ、それは今はどうでもいい。

 

それより気になるのは――

 

「次のレベルアップまで:残り88%」

 

経験値を貯めればレベルが上がる。

 

そして兄弟たちは、他の個体を食べることで明らかに大きくなっていた。

 

なら――

 

もっと兄弟を狩るか。

 

ちなみに、兄弟たちを鑑定してみると、こんな感じだった。

 

【大きい兄弟】

 

【ステータス】

 

名前:なし

種族:リトルレッサーリザード

Lv:2

HP:12/18

MP:7/7

————————————————————

 

【小さい兄弟】

 

——————————————————————————

【ステータス】

 

名前:なし

種族:リトルレッサーリザード

Lv:1

HP:12/12

MP:3/3

 

————————————————————

やっぱり。

 

デカくなっているのは、レベルアップの影響っぽそうだ。

 

それに、他の奴らのステータスが部分的に見えるのは鑑定Lv3のおかげなのかもしれない。

 

ちなみに、クソデカ蜥蜴、というかこれからはマイマザーと呼ぼう。

 

マイマザーステータスはこんな感じだった。

 

 

——————————————————————————

【ステータス】

 

名前:なし

種族:ロックリザード

Lv:43

HP:1236/1236

MP:233/799

 

————————————————————

やっぱり勝てるわけがない

 

やっぱり。

 

ついでに巣の外壁とかに人間の死体があり、遠目からなのでよく分からないが死体付近の兄弟とかとのサイズ差から確認すると自身は20センチほどの大きさだろう。

 

にしても死体を見てもこんなになんとも思わないとは思わなかった。

やはり現実感がないからだろうか

 

それはさておき

 

そう考えたらマイマザーは六メートルくらいだろうか?

 

ついでにスキルも試してみよう

 

硬化ってどういう風に使うんだ?

まぁ取り敢えず力んでみよう

 

『ふん!!!』

 

何か一瞬だけ硬くなってる気がする

 

ステータスを見ると、少しMPが減っている

他にも、噛みつきスキルの場合はよく分からないが常に発動している?ようだ

 

たしかによく考えたら身体能力に比べて咬合力が高かった気がする

 

生まれたての虚弱な兄弟とはいえ鱗を砕き首を絞めるくらいは出来たのだから

 

なら、さっさと経験値を稼ごう。

 

このまま弱い兄弟を狩っていけば、俺も大きくなれるはずだ。

 

――――――

 

【蜥蜴格闘中】

 

……やっぱ勝てねぇわ。

 

流石に調子に乗っていた。

 

冷静に考えたら、さっき勝てたのは推定生まれたての兄弟をボコったからだ。

 

生まれたてなら、そりゃ弱い。

 

だが、ある程度時間が経った兄弟を襲ってみると――

 

無理だろ、これ……

 

身体の動かし方が下手な俺では勝てない。

 

相手の方が速い。

 

相手の方が力も強い。

 

しかも、俺はさっき戦ったせいで負傷している。

 

その結果――

 

俺自身が瀕死の餌として、他の兄弟たちに追われることになった。

 

「キシィ……」

 

いや、笑えない。

 

後ろをちらりと見る。

 

軽く二桁を超える数の兄弟が迫ってきていた。

 

しかも最悪なことに、その中には二体ほど、レベルアップしたと思われる個体までいる。

 

俺より大きい。

 

そして俺より速い。

 

まずい。このままだと追いつかれる

 

必死に走る。

 

だが、距離が少しずつ縮まっている。

 

このままでは確実に食われる。

 

その瞬間、咄嗟に一体の蜥蜴へ飛びかかった。

 

かなりヒョロくて、弱そうな個体。

 

首へ噛みつく。

 

悪い!

 

そのまま持ち上げ――

 

追ってくるデカい兄弟たちの目の前へ投げた。

 

すると。

 

デカい兄弟がそいつへ飛びついた。

 

ガブッ!

 

一匹が食べ始める。

 

それを見た他の兄弟たちも、そちらへ群がっていく。

 

作戦成功。

 

追ってくる兄弟の数が一気に減った。

 

残ったのは、比較的弱そうな三体ほど。

 

これなら――

 

仮にもさっき食事をしたばかりだ。

 

満腹とまではいかないが、今の俺ならギリギリ逃げ切れる。

 

【蜥蜴逃走中】

 

走る。

 

走る。

 

とにかく走る。

 

そして――

 

よし……!

 

何とか逃げ切れた。

 

だが、逃げながら一つ気になった。

 

不思議だな

 

兄弟たちは、卵から孵ったばかりの蜥蜴は襲う。

 

なのに、卵そのものは襲わない。

 

何故だ?

 

そう思いながら少し離れたところから観察していると――

 

一匹の兄弟が卵へ攻撃を始めた。

 

その瞬間。

 

ドンッ!

 

巨大な足が落ちた。

 

「……キシ?」

 

兄弟が一瞬で潰された。

 

あれは――

 

マイマザー。

 

生まれたての蜥蜴である俺からすると、全長は自分の三十倍以上。

 

そんな巨大な存在が、ちっぽけな蜥蜴をただ踏み潰した。

 

圧巻だった。

 

なるほど。

 

卵を攻撃すると親に殺されるのか。

 

……って、今のせいで何匹か兄弟が巻き込まれて死んだ。

 

さっさと食べよう

 

【蜥蜴食事中】

 

よし。

 

すぐに他の兄弟たちが群がってきたせいで、思ったより食べられなかった。

 

それでも、それなりには食べることができた。

 

今はまだ、満腹にならない程度。

 

身体を動かす余裕もある。

 

なら――

 

今のうちに兄弟を狩ろう

 

【蜥蜴狩猟中】

 

それからしばらく、弱そうな兄弟を狙って動き回った。

 

正面から戦うのは避ける。

 

弱っている奴。

 

小さい奴。

 

他の兄弟に追われている奴。

 

そういう相手だけを狙った。

 

道中生き餌と思わしき魔物に追われたり、弱いと思った兄弟に逆襲されて手傷を追ったりもしたが何とか殺せた

 

そして何とか――

 

八匹ほど仕留めることができた。

 

もうすぐレベルアップだな

 

次の瞬間。

 

『やばっ』

 

背後に気配。

 

振り向く。

 

そこには――

 

自身よりも二回りは巨大な兄弟蜥蜴がいた。

 

大きく口を開ける。

 

今まさに、俺の首へ噛みつこうとしていた。

 

痛い! 痛い痛い痛い!

 

「キ,キシィ」

 

叫びすらもう出ない

 

噛みつかれた。

 

逃げようとする。

 

だが、力が違いすぎる。

 

終わりだ……

 

俺の力では逃げ出せない。

 

もう駄目だ。

 

そう思った。

 

――その瞬間。

 

空から何かが降ってきた。

 

いや。

 

「降ってきた」なんて生易しいものではなかった。

 

轟音。

 

強烈な風圧。

 

そして――

 

巨大な何かが、空からマイマザーへ襲いかかった。

 

ズドォォォン!!

 

地面が揺れる。

 

巣全体が揺れた。

 

俺を食べようとしていた巨大な兄弟蜥蜴も、その衝撃で俺を落とした。

 

なんだ? あれは……

 

顔を上げる。

 

そこにいたのは――

 

竜。

 

いや。

 

竜のような何か。

 

俺が転生してから見た中で一番巨大だったマイマザー。

 

そのマイマザーすら、遥かに上回る。

 

巨大な翼。

 

長い身体。

 

そして、恐ろしく鋭い鉤爪。

 

その鉤爪が、マイマザーの強靭なはずの鱗を容易く貫いていた。

 

そして――

 

頭を砕いた。

 

「……」

 

声が出ない。

 

巨大な兄弟も動きを止めている。

 

よく見ると、他の兄弟たちも同じだった。

 

全員が動きを止めている。

 

本能的に理解しているのだ。

 

アレには勝てない。

 

逃げなければならない。

 

だが、身体が動かない。

 

恐怖に縛られていた。

 

ずっと内心擦り傷すらいたがっていたのに今は肉に傷をつけられても平気で不思議ではあった。

そして、ずっと夢見心地だったのだと気づいた

 

ようやく、これは狩りですらない、龍によるちっぽけな蜥蜴の蹂躙であり、本当の意味で命がかかっているのだと理解した

 

それでも、俺は必死に頭を動かした。

 

鑑定。

 

咄嗟に鑑定を使う。

 

————————————————————

 

【ステータス】

 

種族:天龍

 

レベル:87

 

HP:78898/78898

 

MP:125596/125596

 

————————————————————

 

っ!!

 

桁が違う。

 

何だこれ。

 

レベル87?

 

HP、七万?

 

MP、十二万?

 

意味が分からない。

 

恐怖に飲まれていた。

あの圧倒的な力に魅せられ興奮していた

 

それでも――

 

俺は何とか正気を取り戻した。

 

今しかない。

 

俺を食べようとしていたデカい兄弟の喉元へ飛びつく。

 

ガブッ!

 

硬い。

 

俺の歯よりも硬い鱗。

 

それでも噛みつく。

 

必死に力を込める。

 

兄弟は暴れ始めた。

 

だが、既に体勢が悪い。

 

その巨体はひっくり返っていた。

 

必死に起き上がろうとしている。

 

だが、うまくいかない。

 

その隙に、俺は何度も噛みついた。

 

そして――

 

動かなくなった。

 

【経験値を獲得しました】

 

その瞬間。

 

身体が熱くなった。

 

「……キシッ?」

 

急激に身体が変化していく。

 

筋肉が膨れ上がる。

 

鱗が大きくなる。

 

身体そのものが、一回り、また一回りと大きくなっていく。

 

頭が回らない。

 

意識がぼんやりする。

 

……あたまがまわらない……

 

眠い。

 

とても眠い。

 

幸いにも、空から降ってきた竜――天龍は、マイマザーの死体を食べることに夢中になっている。

 

……少し、寝よう……

――――――

 

はっ!

 

気がついた。

 

危な。

 

どうやら眠っていたらしい。

 

レベルアップすると、こうなるのか……

 

身体を確認する。

 

明らかに変わっている。

 

身体が大きくなっている。

 

力も増している気がする。

 

周囲を見回す。

 

兄弟たちはもう、皆逃げているようだった。

 

遠くの方へ走っていく姿が見える。

 

そして――

 

逃げ遅れた兄弟たちは、天龍のおやつになっていた。

 

……早く逃げないと

 

幸いにも、天龍はかなり離れた場所にいる。

 

俺をわざわざ追いかけて食べようとはしていない。

 

なら、今のうちだ。

 

俺は巣の外へ走り出した。

 

――だが。

 

巣の外は、もっと地獄だった。

 

巣から出た直後は、まだたくさんの兄弟がいた。

 

だが――

 

あっという間に、その数が減っていった。

 

空からツバメのような鷲のような鳥が降ってくる。

 

 

————————————————————

 

 

 

【ステータス】

 

 

 

種族:アエロスミス

 

 

 

レベル:12

 

 

 

HP:28/6 9

 

 

 

MP:115/125

 

 

 

————————————————————

 

 

一匹。

 

また一匹。

 

鳥たちは、大きい蜥蜴も小さい蜥蜴も関係なく、その鋭い爪で掴み取っていく。

 

「……!」

 

兄弟が空へ連れていかれる。

 

荒野の方へ逃げていった兄弟たちは、今度はラプトルのような恐竜もどきに襲われていた。

 

何匹もの兄弟が追い回され、次々と食われていく。

 

さらに別の場所では――

 

穴のようなものに落ちた兄弟がいた。

 

その穴の底から、蟻地獄のような虫が這い上がってくる。

 

 

————————————————————

 

 

 

【ステータス】

 

 

 

種族:サンド・スクラッパー

 

 

 

レベル:27

 

 

 

HP:78/78

 

 

 

MP:105/125

 

 

 

————————————————————

 

 

そして、落ちてきた兄弟を食らっている。

 

他にも。

 

他にも。

 

見渡す限り、兄弟たちは食われていた。

 

巣の中でも地獄だった。

 

外に出ても地獄だった。

 

いや。

 

もしかしたら――

 

この世界そのものが地獄なのかもしれない。

 

「つ……!」

 

恐怖に飲まれそうになる。

 

だが、咄嗟に正気へ戻った。

 

逃げろ。

 

今はそれしかない。

 

他の兄弟たちは、まだ天龍への恐怖に囚われている。

 

動けず、その場に留まっている個体も多い。

 

だが、俺には知性がある。

 

元人間としての思考力がある。

 

周囲を見渡す。

 

岩。

 

あそこだ。

 

あの岩の下なら、身体を隠せる。

 

邪魔だ。どけ!

 

『キシッ!!』

 

兄弟を威圧し、すぐ近くの兄弟が鳥に食われていくのを感じた。

 

他の兄弟を無視する。

 

進路を塞いでいるなら、踏み潰してでも進む。

 

今はまだ襲われていない。

 

だが、それは俺たちが安全だからではない。

 

単純に――

 

まだ餌がたくさんいるからだ。

 

だって……ほら。

 

すぐ近くにいる兄弟へ、一羽の鳥が狙いを定めた。

 

翼を広げる。

 

一瞬、空中で停止したように見えた。

 

そして――

 

急降下。

 

ズドッ!

 

鳥の爪が兄弟の身体へ食い込む。

 

その兄弟も、俺と同じようにレベルアップしていたのかもしれない。

 

ほかの兄弟よりも身体が大きい。

 

鱗も硬そうだ。

 

少なくともレベルアップした俺よりも強いだろう

 

だが――

 

そんなことは何の意味もなかった。

 

兄弟は必死に暴れる。

 

爪を振り回し、尻尾を動かし、逃げようとする。

 

しかし、鳥はそんなことを屁ほども気にしない。

 

鋭い嘴が振り下ろされる。

 

ガキッ。

 

鱗ごと噛み砕かれた。

 

そして、食べられない部分を地面へ落とす。

 

空から――

 

兄弟の血と鱗が降ってきた。

 

「…………」

 

俺の心は、恐怖一色に染まっていた。

 

逃げろ。

 

逃げなければ。

 

何とか近くにあった岩を見つける。

 

その下へ身体を滑り込ませようとする。

 

幸い、身体を隠せそうな隙間がある。

 

俺は必死に走った。

 

他の兄弟を押しのける。

 

邪魔だ。どけ!

 

今は生き残ることだけを考える。

 

他の兄弟がどうなろうと知ったことではない。

 

そうしなければ――

 

次に食われるのは俺だ。

 

岩へ向かって走る。

 

すると、同じように逃げてきた兄弟がいることに気づいた。

 

普段なら、怯えている兄弟を見れば食べようとするところだ。

 

だが、今はそんなことをしている場合ではない。

 

空には鳥。

 

地上には恐竜もどき。

 

穴には謎の虫。

 

そして、遥か遠くには――

 

あの天龍がいる。

 

ここは安全な場所なんかじゃない。

 

生き残るために、ただ逃げ続けるしかない。

 

俺は岩陰へ身体を押し込み、息を殺した。

 

そして初めて理解した。

 

――この世界では、弱いということが、そのまま死を意味する。

 

俺はまだレベル2……それもさっき上がったばかりだ。

 

身体が少し大きくなっただけ。

 

力もまだ足りない。

 

知力だけは高い。

 

なら、この頭を使うしかない。

 

どうにかして強くならなければ。

 

この地獄のような世界で、生き残るために。

 

俺は岩の隙間から外を覗いた。

 

また一匹、兄弟が鳥に連れ去られていく。

 

そして――

 

その光景を見ながら、俺は静かに牙を噛みしめた。

 

……絶対に、生き残ってやる

 

『キシッ!!!』

 

まだ何も分からない。

 

ここがどんな世界なのかも。

 

自分が何者なのかも。

 

なぜ人間だった自分が蜥蜴になったのかも。

 

それでも。

 

一つだけ、はっきりしている。

 

この世界では――

 

生き残った者だけが、先へ進める

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