いつか龍に至るまで   作:人間愛護団体

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赤子の蜥蜴vs死にかけの雑魚鳥

岩の隙間に身体を押し込んだまま、しばらく動かなかった。

いや、動けなかった

 

外からは、何かが走り回る音や、遠くから聞こえてくる鳥の鳴き声が響いている。

 

……怖い。

 

先ほどまでの異常な元気は、多分天龍への恐怖とその力に魅せられた影響だったのだろう

 

天龍から離れ冷静になったら今はもう恐怖しか無かった。

 

さっきまで大量にいた兄弟たちは、もうほとんど残っていない。

 

それでも、岩陰に逃げ込んだ俺たちは生きている。

 

そして――

 

「……キシッ?」

 

気づけば、俺以外にも岩の中へ逃げ込んできた兄弟がいた。

 

7匹。

 

15匹。

 

18匹……。

 

数えてみると、ニ十匹くらい。

 

かなり少ない。

 

だが、今まで見てきた兄弟の数を考えれば、こいつらは生き残った中でもかなり運のいい奴らだろう。

 

いや、運がいいというよりは俺の真似をしたのだろう。

 

俺が岩の下へ逃げ込んだのを見て、同じように逃げ込んできた。

 

……まあ、いいか

 

仲間が多いのは悪いことではない。

 

少なくとも、一人よりはマシだ。

 

それにいざとなれば食べられる

 

—————————————————————

 

 

岩陰に隠れてから、しばらく経った。

 

俺の周りには、半分ほどは何処かへ散ったが、まだ十匹ほどの兄弟がいた

 

 

俺たちは互いにほとんど目を合わせない。

 

少しでも隙を見せれば、誰かが誰かに噛みつく。

 

当然だ。

 

俺たちが生まれてから今まで食べてきたものは、ほとんど兄弟だった。

 

卵の中で隣にいた奴。

 

母親に踏み潰された奴。

 

逃げる途中で力尽きた奴。

 

生まれたての奴。

 

隙のあった奴。

 

そういう奴らを食べて、生きてきたのだ、

 

俺たちにとって、兄弟は仲間ではない。

 

餌だ。

 

今だってそうだ。

 

俺の隣にいる奴が、少しだけ身体を動かした。

 

その瞬間、別の一匹がそいつの尻尾に噛みついた。

 

「ギィッ!」

 

噛みつかれた方も、すぐに振り返って噛み返す。

 

おいおい……

 

俺は慌てて二匹の間に入った。

 

貴重な身体能力とかが分かっている餌なんだし、ここで数が減ったら困る

 

すると、今度は別の兄弟が俺の足に近づいてきた。

 

「……?」

 

ガブッ。

 

痛っ!

 

俺は慌てて足を引っ込めた。

 

……こいつら。

 

俺まで餌として見てやがる。

 

まあ、俺もこいつらを餌として見ていたから、文句は言えない。

 

でも、このままでは駄目だ。

 

十匹近くいるのに、協力するどころか互いを食おうとしている。

 

これではすぐに鳥やあの恐竜擬き達に食われて終いだろう

 

……どうすればいいんだ?

 

ふと、俺はレベルアップでどれくらい変わったのかステータスを確認することにした。

 

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 【ステータス】

 

名前:なし

種族:リトルレッサーリザード

Lv:2

HP:12/18

MP:3/7

筋力:8

防御:10

敏捷:7

知力:40

スキル:

・噛みつきLv1

・逃走Lv1

・危険察知Lv1

・指揮Lv1

・硬化Lv1

 

————————————————————

 

 

「……」

 

特に変わったところはない。

 

そう思った。

 

だが――

 

「キ?」

 

よく見る。

 

指揮スキルと逃走スキル

 

昨日まではこんなものはなかった。

 

いや、あったのかもしれない。

 

俺がちゃんと見ていなかっただけか?

 

……これ、増えてる?

 

俺が兄弟たちを連れて逃げ回っていた時。

 

俺が先頭に立って、こっちへ逃げろ、あっちへ行けと指示していた。

 

その結果、何匹かが俺の動きを真似して生き残った。

 

それが関係しているのかもしれない。

 

もしかして……

 

俺は試しに、兄弟たちへ意識を向ける。

 

……集まれ

 

すると――

 

ゾロゾロ。

 

兄弟たちがこちらへ集まってきた。

 

 

【指揮Lv1】が原因か。

 

俺が命令すると、こいつらはそれに従う。

 

いや――

 

従っているというより、無理やり従わされている。

 

そんな感覚だった。

 

俺が「集まれ」と言えば集まる。

 

「逃げろ」と言えば逃げる。

 

「待て」と言えば、一応止まる。

 

だが、命令がなければどうなるか。

 

「…………」

 

俺が何も言わずに黙っていると、一匹の兄弟がゆっくりと別の兄弟へ近づいていった。

 

「ギ……」

 

「シャッ……」

 

二匹が睨み合う。

 

そして――

 

ガブッ!

 

「ギィッ!」

 

噛みついた。

 

「おい!」

 

俺が声を上げると、二匹がこちらを見る。

 

だが、止まらない。

 

「……止まれ!」

 

今度は二匹とも動きを止めた。

 

……やっぱり。

 

指揮がなければ、こいつらは好き勝手に動く。

 

しかも、その「好き勝手」というのが、ほとんど共食いだ。

 

俺が指揮している間だけ、無理やり一つの集団になっている。

 

「……まあ、使えるなら使うか」

 

【逃走】あたりに関しては、命懸けで天龍から逃げ、天敵から逃げて得たスキルだろう。

 

俺は兄弟たちを連れて、岩陰から少し離れた場所へ向かった。

 

まずは、たまたまいた蜘蛛で試してみた

こいつもただの虫とは違うようで、兄弟の7割くらいはあったが勝てるだろう

その時はそんな甘い思考をしていた

 

甘かった

 

蜘蛛は思ったよりもずっと早く動き、それどころか兄弟の一匹を蜘蛛の巣に嵌めて捕まえていた。

 

1体ならそこで死んでいただろう

 

その上、結局蜘蛛には逃げられた

 

協調性という言葉などない兄弟たちでは野生で生きている昆虫を初回で捕らえることはできなかったようだ。

 

次に狙うのは、さっきの蜘蛛よりさらに小さな蠅だった。

 

俺たちよりずっと弱い。

 

これなら食べられる。

 

「……あれだ」

 

俺が虫を見つける。

 

兄弟たちも一斉にそちらを見る。

 

「囲め」

 

指揮を使う。

 

兄弟たちは一斉に動き出した。

 

左右から回り込み、蠅を逃げられないようにする。

 

「今だ!」

 

一斉に飛びかかる。

 

ガサッ!

 

「ギィッ!」

 

一匹が蠅に噛みついた。

 

成功だ。

 

「よし!」

 

……と思った次の瞬間。

 

兄弟たちが一斉にその一匹へ飛びかかった。

 

「ギィッ!」

 

「シャッ!」

 

ガブッ!

 

「おい! 何してんだ!」

 

さっきまで協力していたはずなのに。

 

虫を食べ終わった途端、今度は仲間を食おうとしている。

 

「離れろ!」

 

俺が指揮を使う。

 

兄弟たちは嫌そうにしながらも離れた。

 

その目は、まだ互いを見ている。

 

餌を見る目だ。

 

「…………」

 

こいつら、本当に駄目だ。

 

指揮している間だけは協力する。

 

でも、それは仲間だからではない。

 

ただ、俺の命令に従っているだけ。

 

そして俺の指揮がなくなれば、すぐに元通り。

 

共食いを始める。

 

それでも、何度か繰り返しているうちに、少しずつ蠅を捕まえられるようになった。

また、ほかの蜘蛛や百足、ダンゴムシっぽいやつなんかも捕れるようになった

俺が指示する。

 

兄弟が囲む。

 

一匹が先走る。

 

別の一匹がそれにつられて動く。

 

失敗する。

 

またやり直す。

 

それでも、何度も繰り返せば少しずつ成功率は上がっていった。

 

「……なんか、俺たち結構強くなってないか?」

 

虫を食べれば経験値が入る。

 

レベルが上がる。

 

身体も少しずつ大きくなる。

 

そして、強くなる。

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 【ステータス】

 

名前:なし

種族:リトルレッサーリザード

Lv:4

HP:22/31

MP:13/11

筋力:13

防御:19

敏捷:11

魔力:9

知力:51

スキル:

・噛みつきLv1

・逃走Lv1

・危険察知Lv2

・指揮Lv2

・硬化Lv1

 

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生き残るためには餌が必要。

 

餌を取るためには狩りが必要。

 

狩りをするためには、数が必要。

 

だから俺は、兄弟たちを使う。

 

……そう考えていた。

 

だが。

 

数日もすると、別の問題が出てきた。

 

腹が減る。

 

とにかく腹が減る。

 

虫を食べても足りない。

 

当たり前だ、たかだか虫数匹食べた程度で腹一杯にはならない

それもこの数なら当たり前だ

 

兄弟たちも同じだった。

 

「…………」

 

ある時、俺が指揮を使おうとした。

 

「集まれ」

 

だが――

 

誰も動かない。

 

「……?」

 

もう一度。

 

「集まれ!」

 

一匹が俺を見る。

 

その目は、以前と違っていた。

 

そして、ゆっくりと俺へ近づいてくる。

 

「おい……?」

 

ガブッ!

 

「痛っ!」

 

俺は慌てて飛び退いた。

 

こいつ……。

 

俺を噛んだ。

 

「指揮が……効かない?」

 

いや。

 

正確には、完全に効かないわけではない。

 

だが、腹が減りすぎている。

 

命令よりも食欲の方が強くなっているのだ。

 

周りの兄弟たちも、俺を見ている。

 

その目は――

 

餌を見る目だった。

 

「…………」

 

怖い。

 

今まで俺についてきていたのも、仲間だからじゃない。

 

指揮に従っていれば餌を取れる。

 

天龍に襲われた時の恐怖が身体に残っている。

 

だから、俺についてきている。

 

俺の命令に従っていれば、少なくとも今すぐ死ぬことはない。

 

ただ、それだけ。

 

俺が失敗すれば。

 

俺が弱くなれば。

 

俺自身が餌になる。

 

それが、こいつらとの関係だった。

 

そして、そんな状況でも空からは容赦なく敵がやってくる。

 

「ピィィィ!」

 

バサバサッ!

 

鳥だ。

 

この岩の下は動きづらいようで、速くはあるが視認可能だ。

 

一匹の兄弟が逃げる。

 

だが、遅い。

 

「ギィッ!?」

 

バサッ!

 

一匹が空へ持ち上げられた。

 

「キシッ!」

 

俺は咄嗟に逃げろと叫ぶ。

 

兄弟たちが散らばる。

 

その中の一匹が、俺の命令を無視して動いた。

 

「キシッ!」

 

そいつは俺の方へ来る。

 

……違う。

 

俺についてきたんじゃない。

 

俺の後ろに隠れようとしている。

 

鳥が怖いからだ。

 

天龍の時と同じ。

 

こいつらは死にたくないだけなのだ。

 

また一匹。

 

そして、また一匹。

 

兄弟たちは少しずつ減っていった。

 

気づけば、7匹ほどいたはずの兄弟は五匹になっていた。

 

「…………」

もう一度鑑定で見る

 

 

 

 

————————————————————

 

 

 

【ステータス】

 

 

 

種族:アエロスミス

 

 

 

レベル:8

 

 

 

HP:58/61

 

 

 

MP:75/125

 

 

 

————————————————————

 

 

いつもの恐怖の象徴だった

 

だが、そんなアエロスミスも食物連鎖に組み込まれていた

ほら……

 

兄弟を食べて満足気に空へと飛び上がった鳥が、さらに巨大な鳥によって食われた

 

 

————————————————————

 

【ステータス】

 

種族:レッサーグリフォン

 

レベル:27

 

HP:798/788

 

MP:521/596

 

————————————————————

 

そして、鷲のようなそれはアエロスミスの内蔵部分だけ食べ、残りは地面に捨てた

 

一匹では足りなかったようで、おれ達では捉えることすら難しかったアエロスミスを簡単に捕まえていき、何体かには逃げられたようだがあっという間に群れ一つ食べ尽くしたところで何処かへ飛び立っていった 

 

そして、俺たちの洞窟に弱ったアエロスミスが現れた

どうやらレッサーグリフォンから逃げる際に傷を追ったようで、翼はちぎれている

 

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【ステータス】

 

 

 

種族:アエロスミス

 

 

 

レベル:8

 

 

 

HP:18/61

 

 

 

MP:13/125

 

 

 

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またとない機会だ

ずっと舐め腐ってきた鳥野郎を食べてやる

 

 

どちらにせよ下位捕食者にすぎない上に群れからはぐれ、その上大いに負傷しているこいつすら捕らえられないようじゃ、この先生きていけないし、餌もない

 

 

食い殺してやる

 

俺は"指揮"し、怯えている兄弟たちを突撃させた

 

【蜥蜴戦闘中】

 

「行け!」

 

俺が指揮を使う。

 

怯えていた兄弟たちが、一斉にアエロスミスへ飛びかかった。

 

「ギィッ!」

 

「キシャッ!」

 

数は――五匹。

 

俺を含めれば六匹。

 

対するアエロスミスは一匹。

 

しかも、翼は片方が大きく裂けている。

 

飛べない。

 

なら、勝てる。

 

そう思った。

 

だが――

 

「ピィッ!」

 

アエロスミスが鳴いた。

 

次の瞬間。

 

ビュンッ!

 

「ギィッ!?」

 

風が走った。

 

目に見えない何かが、兄弟の身体を切り裂く。

 

「なっ……!?」

 

幸いにも直撃はしなかったが、掠っただけで一匹の鱗が裂け、血が飛び散り肉が見えた。

 

魔法?

 

見えない羽毛か何かを飛ばしたのか?

分からないが分かることはただ一つ

 

「全員、散れ!」

 

俺が叫ぶ。

 

兄弟たちが慌てて左右へ散らばる。

 

直後。

 

ヒュンッ!

 

先ほどまで兄弟がいた場所を、鋭い不可視の何かが通り過ぎた。

 

岩壁にぶつかる。

 

ザクッ!

 

硬い岩へ、まるで刃物でも突き刺したような傷が残った。

 

「……おいおい」

 

あれ、食らったら普通に死ぬぞ。

 

やっぱり魔法か何かか?

 

"鑑定"

 

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MP:10/125 

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MPが減っているあたり、魔法的な何かだろう

詳細は分からないが、今はあいつには遠距離に攻撃する手段がある

それだけでいい

 

 

忘れていた

 

翼が使えない。

 

身体も傷ついている。

 

それでも――

 

強い。

 

さすがにレベル8の魔物ということか。

 

俺が鑑定した時点ではHP18。

 

既に瀕死のはずだ。

 

なのに、この強さ。

 

いや。

 

むしろ――

 

こいつは傷ついているからこそ、逃げ場を失って追い詰められている。

 

必死なんだ。

 

俺たちを殺してでも、生き残ろうとしている。

 

「……上等だ」

 

俺も前へ出る。

 

「囲め!」

 

指揮を使う。

 

兄弟たちが左右へ散る。

 

アエロスミスの正面から一匹。

 

右から二匹。

 

左から二匹。

 

そして俺は後ろへ回る。

 

これなら、風魔法を撃つ方向も限られる。

 

「今だ!」

 

一斉に飛びかかる。

 

「ピィィッ!」

 

アエロスミスが叫んだ。

 

バッ!

 

傷ついた翼が大きく広がる。

 

飛ぶことはできない。

 

それでも――

 

「グッ!?」

 

突風が洞窟内を駆け抜けた。

 

狭い空間。

 

逃げ場がない。

 

風が壁にぶつかり、反射する。

 

まるで洞窟そのものが風で満たされたようだった。

 

「ギィッ!」

 

兄弟の一匹が吹き飛ばされる。

 

そのまま岩壁へ叩きつけられた。

 

「ギッ……」

 

動かない。

 

「くそっ!」

 

俺が飛び出す。

 

アエロスミスはすでに次の標的へ向かっていた。

 

速い。

 

飛べなくても、2本の脚だけで十分な速度が出ている。

 

地面を蹴る。

 

一瞬で距離を詰め――

 

ガブッ!

 

兄弟の首へ噛みつこうとする。

 

「させるか!」

 

俺が横から突っ込んだ。

 

ドンッ!

 

身体をぶつける。

 

アエロスミスの身体が少しだけ横へずれた。

 

「ピィッ!?」

 

飛ぶことに特化しているらしく、かなり軽かった

その隙に、兄弟が逃げる。

 

危なかった。

 

だが。

 

次の瞬間――

 

バサッ!

 

翼が振られた。

 

ズバッ!

 

「――ッ!」

 

不可視の刃。

 

俺の身体を掠めた。

 

鱗が裂ける。

 

血が流れる。

 

「痛っ……!」

 

やっぱり、強い。

 

だが――

 

「逃げるな!」

 

俺が叫ぶ。

 

兄弟たちが再びアエロスミスへ向かう。

 

一匹が正面から噛みつく。

 

アエロスミスが避ける。

 

そこへ別の一匹が飛びかかる。

 

それも避ける。

 

さらにもう一匹。

 

「ギィッ!」

 

今度は脚へ噛みついた。

 

「ピィィッ!」

 

アエロスミスが叫ぶ。

 

だが、その直後。

 

バシュッ!

 

不可視の何かが爆発した。

 

噛みついていた兄弟が吹き飛ばされる。

 

「ギィッ!」

 

「離れるな!」

 

俺は指揮を使い続ける。

 

逃げようとする兄弟を止める。

 

そして、再び囲ませる。

 

「一匹ずつ行け!」

 

アエロスミスは速い。

 

正面から全員で向かえば、また不可視のあれでまとめて吹き飛ばされる。

 

なら――

 

数を活かして、順番に攻撃する。

 

一匹が攻撃。

 

避けられる。

 

別の一匹が攻撃。

 

また避けられる。

 

その隙に、さらに別の一匹が脚へ噛みつく。

 

「ピィッ!」

 

アエロスミスが振り払う。

 

だが。

 

確実に傷が増えている。

 

こいつも限界が近い。

 

「そのまま押せ!」

 

俺自身も飛び込む。

 

アエロスミスがこちらを見る。

 

目が合った。

 

「――ッ」

 

殺意。

 

本気の殺意だった。

 

次の瞬間。

 

アエロスミスが俺へ突っ込んできた。

 

「速っ!」

 

避ける。

 

間に合わない。

 

ガブッ!

 

肩に噛みつかれた。

 

「ぐっ!」

 

痛い。

 

鋭い嘴が鱗を貫き、肉へ食い込む。

 

そのまま引きずられる。

 

「離れろ!」

 

身体を捻る。

 

だが、アエロスミスは離さない。

 

俺の身体を振り回す。

 

「うわぁぁっ!」

 

岩壁へ叩きつけられる。

 

ドンッ!

 

「がっ……!」

 

身体中が痛い。

 

HPが一気に減った感覚がする。

 

まずい。

 

このままだと――

 

食われる。

 

さっきまで俺が他の兄弟へしていたことを、今度は俺自身がされている。

 

「……ふざけんな」

 

俺はアエロスミスの嘴へ噛みついた。

 

ガブッ!

 

「ピィッ!?」

 

アエロスミスが驚いて首を振る。

 

だが、離れない。

 

なら――

 

もっと噛む。

 

ガブッ!

 

ガブッ!

 

「ピィィィッ!」

 

アエロスミスが暴れる。

 

俺の身体が地面を引きずられる。

 

それでも離さない。

 

「お前を……!」

 

さらに噛みつく。

 

「食ってやる!」

 

その瞬間。

 

背後から兄弟が飛びかかった。

 

ガブッ!

 

一匹。

 

さらにもう一匹。

 

「ギィッ!」

 

「シャッ!」

 

アエロスミスの身体へ噛みついていく。

 

「今だ!」

 

俺が指揮する。

 

全員が一斉に飛びかかる。

 

アエロスミスは必死に暴れる。

 

翼を振る。

 

また何かが爆発する。

 

一匹が吹き飛ばされる。

 

二匹目も飛ばされる。

 

それでも、仕留めきれない。

 

逃げられない。

 

しかも洞窟だ。

 

翼を広げることもできない。

 

「ピィィィィッ!!」

 

最後の力を振り絞るように、巨大な風が巻き起こる。

 

「うおっ!?」

 

兄弟たちが吹き飛ぶ。

 

俺も身体が浮く。

 

まずい。

 

この風をまともに受けたら――

 

だが。

 

その瞬間。

 

俺の身体が、岩壁へ叩きつけられる直前。

 

本能的に――

 

『硬化!』

 

力を込めた。

 

一瞬。

 

身体が硬くなる。

 

ドンッ!!

 

背中から岩壁へ激突した。

 

「ぐっ……!」

 

痛い、肉が見えている気がする。

 

だが――

 

耐えた。

 

硬化。

 

こいつを使えるなら。

 

もう一度。

 

俺は地面を蹴った。

 

アエロスミスは、すでに息を荒くしている。

 

HPはもうほとんど残っていないはずだ。

 

それでも、こちらを睨んでいる。

 

「終わりだ」

 

俺が飛びかかる。

 

アエロスミスも向かってくる。

 

この速さにも慣れてきたと思っていたが、火事場の馬鹿力か先ほどよりもさらに早い

 

嘴が迫る。

 

それでも、俺は身体を横へ捻る。

 

右腕の筋肉と引き換えに噛みつきを避ける。

 

そのまま――

 

首へ。

 

ガブッ!

 

「ピィッ!」

 

噛みついた。

 

硬い。

 

それでも離さない。

 

アエロスミスが暴れる。

 

俺の身体が振り回される。

 

「離すかよ!」

 

兄弟たちも一斉に飛びかかる。

 

脚へ。

 

腹へ。

 

翼へ。

 

そして俺は――

 

首へ噛みつき続ける。

 

「ギィィィッ!!」

 

力を込める。

 

歯が鱗へ食い込む。

 

さらに噛む。

 

さらに。

 

さらに――

 

ブツッ。

 

何かが切れた感触。

 

アエロスミスの身体から力が抜ける。

 

そして――

 

ドサッ。

 

地面へ倒れた。

 

「…………」

 

動かない。

 

しばらく待つ。

 

それでも動かない。

 

恐る恐る、鑑定する。

 

————————————————————

 

【ステータス】

 

種族:アエロスミス

 

レベル:8

 

HP:0/61

 

MP:0/125

 

————————————————————

 

「……勝った」

 

俺はその場に座り込んだ。

 

身体中が痛い。

 

肩から血が流れている。

 

兄弟たちも何匹か倒れている。

 

一匹は動かない。

 

だが――

 

勝った。

 

「……キシッ」

 

その瞬間。

 

【経験値を獲得しました】

 

頭の中に声が響いた。

 

そして――

 

身体の奥から、熱が湧き上がってきた。

 

「……またか?」

 

以前と同じ感覚。

 

身体が熱い。

 

力が溢れてくる。

 

どうやら、レベルアップが近いらしい。

 

俺はアエロスミスの死体を見る。

 

さっきまで俺たちを殺そうとしていた怪物。

 

それが今は、ただの死体になっている。

 

そして――

 

「……食える」

 

俺はアエロスミスの死体へ近づいた。

 

その瞬間。

 

兄弟たちも一斉に近づいてくる。

 

「待て」

 

指揮を使う。

 

兄弟たちが止まる。

 

「……俺が先だ」

 

当然だ。

 

俺が指揮して。

 

俺が作戦を考えて。

 

俺も命を懸けて戦った。

 

なら――

 

こいつを食べる権利くらいはある。

 

俺はアエロスミスへ噛みついた。

 

ガブッ。

 

「……硬い」

 

鳥の肉なんて食べたことがない。

 

だが、そんなことはどうでもいい。

 

腹が減っている。

 

夢中で食べる。

 

肉を引きちぎる。

 

血を飲む。

 

骨にまで噛みつく。

 

そして――

 

身体の奥へ力が流れ込んでくる。

 

「……うまい」

 

思わず、そう呟いた。

 

人間だった頃なら、絶対にこんなものを食べたいとは思わなかっただろう。

 

なのに今は。

 

もっと欲しい。

 

もっと食べたい。

 

これが――

 

魔物として生きるということなのか。

 

ふと、兄弟たちを見る。

 

こいつらも腹を空かせている。

 

目が死体に釘付けだ。

 

指揮を解除したら、間違いなく飛びかかってくるだろう。

 

「…………」

 

俺は少し考える。

 

そして。

 

「お前らも食え」

 

指揮を解除した。

 

次の瞬間。

 

「ギィッ!」

 

「シャッ!」

 

兄弟たちが一斉にアエロスミスへ飛びかかった。

 

肉を奪い合う。

 

噛みつく。

 

引き裂く。

 

食らう。

 

やはり。

 

こいつらに仲間意識なんてない。

 

腹を満たすためなら、何でも食べる。

 

俺も同じだ。

 

……たぶん。

 

今はもう、俺もこいつらと大して変わらない。

 

それでも――

 

一つだけ違う。

 

俺には考える頭がある。

 

そして。

 

こいつらを動かすことができる。

 

「指揮」

 

このスキルがある限り。

 

俺は一人で戦う必要がない。

 

俺が考え。

 

兄弟たちを動かし。

 

敵を倒す。

 

それなら――

 

もっと強くなれる。

 

「……まだだ」

 

俺はアエロスミスの死体を食べながら、そう思った。

 

これだけでは足りない。

 

まだ、全然足りない。

 

この世界にはレベル27のレッサーグリフォンがいる。

 

レベル43のマイマザーがいた。

 

そして――

 

レベル87の天龍がいる。

 

あんな化け物たちを見てしまった以上。

 

俺はもう、ただ生き残るだけでは満足できない。

 

「……いつか」

 

牙を剥く。

 

「俺も、あそこまで……」

 

言葉が止まった。

 

自分でも、何を言おうとしたのか分からない。

 

ただ。

 

あの巨大な存在を思い出す。

 

空を覆う翼。

 

圧倒的な力。

 

すべてを蹂躙する存在。

 

そして――

 

あの時、恐怖しながらも感じた。

 

あの力への憧れ。

 

「……龍に」

 

俺は呟いた。

 

「いつか、龍になってやる」

 

その言葉が、この世界で初めて自分自身にした誓いだった。

 

だが――

 

その直後。

 

身体の奥で、また何かが弾けた。

 

【レベルアップ条件を達成しました】

 

「……え?」

 

————————————————————

 

【ステータス】

 

名前:なし

 

種族:リトルレッサーリザード

 

レベル:5

 

HP:28/38

 

MP:15/13

 

攻撃力:10

 防御力:11(硬化発動時は16)

 素早さ:9 知力:54

 

【スキル】

 

噛みつきLv2、逃走Lv1、危険察知Lv2、指揮Lv2、硬化Lv2

 

次のレベルアップまで:92%

 

————————————————————

 

「……レベル5」

 

また身体が熱くなる。

 

そして俺は――

 

少しずつだが。

 

確実に。

 

強くなっていた。

 

 

 




尚実はこの鳥は生まれてから数週間の成鳥したての経験なしのアエロスミスのなかでの雑魚だった模様
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