いつか龍に至るまで   作:人間に憧れた熊みたいに見える鮭

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ちなみに前話のアエロスミスとの戦いで死んだ兄弟は主人公がきちんと弔いました
肉は食べたので、鱗とか食べづらい部分を土に埋めて供養したようです


ほんの一瞬の平和

アエロスミスを夢中で食べ満腹になったあと、俺はしばらく動かなかった

 

いや、動けなかった

 

身体中が痛い

噛みつかれた肩、風魔法で切り裂かれた身体

地面へ何度も叩きつけられた身体

全部が痛い

 

「……生きてる」

 

俺は身体を動かす

動く

 

なら、勝った

 

本当に、俺たちは生き残った

そして目の前には、巨大な食料がある

 

「……食うか」

身体の痛みも、少しずつ引いていく

 

「……こいつ一匹で」

 

かなり食える

アエロスミスは俺たちよりずっと大きい

 

数日分どころか、今までと同じように虫を取りながら少しずつ食べるようにすれば、一週間近く持つかもしれない

 

もちろん腐れば食べられなくなるが、この洞窟は涼しい

 

岩陰も多い、上手く隠しておけばしばらくは大丈夫だろう

 

俺は肉を岩陰へ運んだ

兄弟たちも手伝わせる

 

「そこへ置け」

 

「ギィ」

 

「お前はこっちだ」

 

【指揮】

 

まだこいつらを動かせる

 

空腹で弱まりつつあった指揮も

今は腹が満たされたことで、かなり安定している

 

……食料

 

やっぱり重要だ

腹が減れば、仲間ですら食料になる

 

腹が満たされていれば、少なくとも今は、殺し合う必要がなくなる

 

つまり、生き残るためには強さだけじゃない

 

食料も必要だ

俺は改めてこの世界の厳しさを理解した

 

――それから、数日が過ぎた

 

アエロスミスの肉を少しずつ食べながら、俺たちは洞窟の周辺を探索した

 

もちろん、今まで通り遠くまでは行かない

 

危険を感じたらすぐ戻る

 

 

小さな虫を見つける

蜘蛛

羽虫

小さな甲虫

ムカデ

ダンゴムシのような虫

食べられるものは、片っ端から食べた

 

この洞窟に隠れ潜んですぐの頃は、虫一匹を捕まえるだけでも苦労した

 

だが、今では違う

 

「そこだ!」

 

兄弟が飛びかかる

 

ガブッ!

 

百足を捕まえる

百足は暴れ、毒のようなものを全ての足から分泌し兄弟に噛みつこうとするが、それよりも早く百足の神経節を破壊し、動けなくする

 

「ギィッ!」

 

別の兄弟が走ってくるが、俺はそいつを止める

 

「待て」

 

【指揮】

先に捕まえた個体が食べる

 

その後、次を探す

 

少しずつ狩りが上手くなってきた

 

そして俺たちは、生きていた

 

一日、二日、三日、四日、五日、六日、一週間近く

 

あれだけ死んでいた兄弟たちが、今はまだ4匹残っている

 

俺も、まだ生きている

 

「……意外と」

 

なんとかなるものだな、そう思った

もちろん、油断していたわけじゃない

この世界が危険なのは知っている

 

天龍、レッサーグリフォン、アエロスミス

他にも、俺たちより強い生物はいくらでもいる

だから、警戒はしている

……しているつもりだった

 

その日、俺たちは洞窟の奥で休んでいた。

腹は満たされている

アエロスミスの肉もまだ少し残っている。

兄弟たちも、地面に身体を伏せていた。

 

「…………」

 

静かだ

何も聞こえない

 

風の音

 

遠くから聞こえる虫の鳴き声

 

たまにアエロスミスや他の生物が食い合っているようだがどうでもいい

 

それだけで、安心して俺は目を閉じる

その瞬間

 

――ガサッ

 

「……?」

 

目を開ける

 

何か聞こえた

俺は身体を起こした

 

「…………」

 

兄弟たちはまだ動いていない

なら聞き間違いか?

 

――ガサッ

 

今度ははっきり聞こえた

洞窟の入り口

 

俺はそちらを見る

いつも通りの暗闇がある

何も見えないが、何かいる

俺は危険察知を使う

 

「…………」

 

嫌な感覚

少しだけ、背中が寒くなった

 

「全員、起きろ」

 

指揮で兄弟たちが身体を起こす

その直後だった

 

「ギャッ!」

 

一匹の兄弟が吹き飛んだ

 

「!?」

 

何かが暗闇から飛び出してきた

 

ズドンッ!

 

兄弟が壁へ叩きつけられる

 

「ギ……」

 

動かない

 

「何だ!?」

 

俺は後ろへ下がる

暗闇から、ゆっくりとそれが姿を現した

 

緑色の肌

 

小さな身体

 

だが、俺たちより遥かに大きい

2〜3倍くらいはあるだろう

 

手には何かを持っている

棍棒?

先端に石をくくりつけただけの粗末な武器

 

そしてそいつは俺たちを見ると、口元を歪めた

 

「……ゴブリン?」

 

俺は異世界と言えば定番の名前を思い浮かべた

 

鑑定する。

 

————————————————————

 

【ステータス】

 

種族:ゴブリン

 

レベル:6

 

HP:52/52

 

MP:0/0

 

————————————————————

 

「……」

 

レベル6ならアエロスミスより低い。

HPも俺達と大きくは変わらない

それでも、俺は嫌な予感がした

 

アエロスミスは速かったし、魔法も使えた

 

だが、防御力はそれほど高くなかったし、死にかけだったがこいつは違う

 

身体が分厚いし、何より武器を持っている

 

さらに俺たちを見ている

ただ襲ってきたわけじゃない

 

俺たちの数、位置、逃げ道、それを見ている

 

「……こいつ」

 

多少頭が回る

ゴブリンが、棍棒を構える

 

「ギャギャッ!」

 

「来るぞ!」

 

俺が叫ぶ

兄弟たちが散開する

ゴブリンが走る

 

遅い、アエロスミスとは比べ物にならない

 

これなら――

 

「行け!」

 

俺【指揮】する

兄弟二匹が左右から飛びかかる

 

しかし、ゴブリンは慌てなかった

一匹へ棍棒を振る

 

「ギィッ!」

 

避ける

もう一匹が脚へ噛みつく

 

ガブッ!

 

「ギャッ!?」

 

効いた

だが、ゴブリンは倒れない

むしろ噛みつかれた脚をそのまま振り上げた

 

「ギィッ!?」

 

兄弟ごと持ち上げ、地面へ叩きつける

 

ドンッ!

 

「ギィ……!」

 

「くそっ!」

 

俺は飛び込む

 

ガブッ!

 

腕へ噛みつく

 

「ギャアッ!」

 

ゴブリンが腕を振る

俺は離れないが、硬い

 

噛みつきが、アエロスミスの時ほど深く入らない

 

「こいつ……!」

 

肉が硬い上に分厚い

油断していた

 

アエロスミスよりは弱いからと言って、俺達よりは格上なのは当たり前だ

アエロスミスに勝てたのは、相手は死にかけかつ舐めていたからにすぎない

 

なら、一匹ずつ

 

「足を狙え!」

 

兄弟たちが一斉に動く

 

脚、腕、背中

あちこちへ噛みつく

 

ゴブリンが暴れる

 

「ギャッ!」

 

「ギャギャッ!」

 

棍棒が振り回される

 

「避けろ!」

 

兄弟たちが逃げる

だが、一匹だけ遅れた

 

「ギィッ!」

 

棍棒が、横から叩きつけられる

 

ドゴッ!

 

兄弟の身体が洞窟の壁へ飛んだ

 

「…………」

 

動かない

二匹目

 

「くそっ……!」

 

こいつ、強い

当たり前だ、ステータスがアエロスミスよりも遥かにしたで、HPが俺とそこまで変わらないからって侮っていた

一対一なら俺はこいつに絶対に勝てない

だが、四匹もいれば勝機はある

 

「全員で囲め!」

 

指揮し、兄弟たちがゴブリンを囲む

 

正面左右後ろの逃げ道を塞ぐ

ゴブリンが一瞬、周囲を見る

そして俺を見た

 

「……」

 

こいつは理解したのだ

俺が指示を出していることに

 

「ギャッ!」

 

ゴブリンが、突然俺へ向かってきた

 

「なっ!?」

 

速くはないが、狙いが正確だ

俺を殺せば指揮が崩れる

そう考えたのか

 

「止めろ!」

 

兄弟が飛びかかり、ゴブリンの腕へ噛みつく

 

一匹、もう一匹と噛みついていく

 

脚へ、そして俺も正面から飛び込む

 

「ガァッ!」

 

ガブッ!

 

首を狙う

しかし、ゴブリンが棍棒を振り上げる

 

「――ッ!」

 

まずい

 

「硬化!」

 

ガンッ!!

 

身体へ衝撃が走り、吹き飛ばされる

 

「ぐっ……!」

 

痛いがそれでも俺は生きている

俺が倒れなかったことで、兄弟たちも再び動く

 

「今だ!」

 

生き残りの三匹が一斉に飛びかかる

 

ガブッ!

ガブッ!

ガブッ!

 

ゴブリンが悲鳴を上げる

 

「ギャアアアアッ!」

 

そして、身体を大きく振る

 

一匹避けられなかった兄弟が吹き飛び、壁に叩きつけられて動かなくなる

だが、今度は逃がさない

 

一匹が脚を噛む

もう一匹が腕を噛む

 

俺は首へ噛みつく

 

 

「――これで!」

 

ガブッ!!

 

歯が、肉へ食い込む

 

ゴブリンが暴れる、棍棒を振る

 

「硬化!」

 

ガンッ!

 

「ぐっ……!」

混乱していて、適当に振り回した一撃、それでさえ硬化した俺を気絶させかねない威力だ

俺以外の兄弟なら先程の兄弟と同じように一撃で死ぬだろう

それでも離さない

 

「死ねぇっ!」

 

さらに噛み込む

 

ゴブリンの動きが少しずつ弱くなる

 

「!?」

 

ドゴッ!

 

「ギィ……」

 

兄弟が地面へ倒れた

動かない

 

「……!」

 

ゴブリンの力が抜けていく

身体がぐらりと揺れ、そのまま地面へ倒れた

 

ドサッ

 

俺は、ゆっくりと口を離す

 

「…………」

 

静かだった

さっきまで響いていたゴブリンの声も、武器の音も、全部消えている

 

【経験値を獲得しました】

 

 

 

頭の中に声が響いた

 

 

 

そして――

 

 

 

身体の奥から、熱が湧き上がってきた

 

 

 

「……またか?」

 

 

 

以前と同じ感覚がする

身体が熱い

 

 

力が溢れてくる。

念のため本当に倒せたのか確認しておこう

 

鑑定する

 

————————————————————

 

【ステータス】

 

種族:ゴブリン

 

レベル:6

 

HP:0/42

 

MP:0/0

 

————————————————————

 

「……倒した」

 

勝った

だが、今回は素直に喜べなかった

 

周囲を見る俺、そして、生き残った二匹の兄弟。

さらに、動かなくなった二匹。

 

アエロスミスとの戦いで一匹。

今回のゴブリンとの戦いで二匹。

 

最初はもっといた。

それが、もう俺自身を含めて三匹しか残っていない。

 

「…………」

 

俺は倒れている兄弟を見る。

 

助からない。

 

分かる。

 

動いていない。

 

呼吸もない。

 

「……二匹」

 

たった一匹のゴブリンを倒すために、二匹も死んだ

ステータスは俺と対して変わらなかったはずだ

 

もし、不意打ちじゃなかったら

もし、ゴブリンが武器を持っていなかったら

もし、もっと広い場所で戦っていたら

 

そんなことを考えても意味はない

敵は、使えるものを全部使う

アエロスミスは翼と速度を使った

ゴブリンは武器と知恵を使った

俺たちは、数と指揮を使った

 

そして、勝った側だけが生き残った

 

「……食料」

 

俺はゴブリンの死体を見る

アエロスミスと同じように、こいつも食べられる

 

だが、その前に俺はゴブリンの武器へ目を向け。

石を木の棒へくくりつけただけの、粗末な武器

それでも、あれだけの威力があった

 

「……武器」

 

俺は、その武器をじっと見る

もしかしたら、俺たちにも使えるものがあるかもしれない

 

噛みつくだけじゃない

爪だけでもない

 

この世界で生き残るためには、他の生物が使っているものすら利用する必要がある

 

俺はゴブリンの武器を見ながらそんなことを考え、そしてレベルアップにより意識を失い、以前と同じように視界が暗転していった

 

 

—————————————————

 

 

 

 

どれだけ時間が経ったのか、俺はようやく起きた

 

 

自分のステータスを見る

————————————————————

 

【ステータス】

 

名前:なし

 

種族:リトルレッサーリザード

 

レベル:6

 

HP:1 2/52

 

MP:13/18

 

攻撃力:13

防御力:14(硬化発動時は20)

素早さ:11 知力:57

 

【スキル】

 

噛みつきLv3、逃走Lv2、危険察知Lv3、指揮Lv4、硬化Lv3、鑑定Lv4

 

次のレベルアップまで:14%

 

————————————————————

 

俺は自分のステータスを眺めた後しばらく兄弟が食べているゴブリンの死体を眺めていた

 

さっきまで俺たちを殺そうとしていた存在が、今はただの肉塊になっている。こうして見ると、やはり人間に近い姿をしていた

一部兄弟に啄まれてなくなっているが、思ったよりも原型は残っており緑色の肌に、痩せた身体。身につけているのは、布とも皮ともつかない粗末な衣服だけだった

 

人型の死体を見ても何とも思わないとか、俺本格的に蜥蜴になったんだなぁ

 

閑話休題

 

「……これ、服なのか?」

 

近づいて匂いを嗅いでみる

 

「くさっ」

 

思わず顔を背ける

 

汗と泥、それに長い間洗っていない獣のような臭いが混ざっている

とても身につけたいとは思えない

そもそも、俺たちは四足歩行だ。この服を着る意味も今のところ分からない

 

それよりも気になったのは、ゴブリンが使っていた武器だった

 

俺は地面に転がっている棒へ近づく。先端には丸い石がいくつか並べられ、それを蔦のような植物で何重にも巻いて固定してある

石そのものは特別大きくない

だが、あれで岩を砕き、兄弟を吹き飛ばした

 

「……これを作ったのか?」

 

俺は石と棒の繋ぎ目を見る

蔦はかなり強く、何重にも巻きつけられている。ところどころ結び目まで作られていた

 

「なるほど……」

 

ゴブリンはただ武器を拾ったわけじゃない

石を選び、棒を探し、それを蔦で固定した

 

つまり、こいつは道具を作っていた

 

俺はその事実に少しだけ驚いた。

 

今まで俺は、この世界の生き物は牙や爪、魔法や身体能力だけで戦うものだと思っていた

けれど違う。使えるものを組み合わせれば、自分の身体にはない力まで手に入れられる

 

俺は武器をもう一度見る

 

「……これ、使えないかな」

 

俺が前脚で触ってみる

重い

今の俺の身体では、まともに振り回すのは難しそうだ

それに四足歩行の身体では使えない

それでも、使えないと決めつけるのは早い

 

そのうち、何か別の使い道が見つかるかもしれない

そう考えながら、俺はゴブリンの身体へ視線を戻した

 

「さて……」

 

問題は食料だ

 

アエロスミスの肉は、かなり助かった

このゴブリンも食べられるはずだ

【指揮】を使い、ゴブリンの肉を食べている2匹の兄弟を退けさせて食べる

俺はゴブリンの腹へ噛みつき、皮膚を裂く

 

ぶつり、と肉が切れた

 

「……」

 

血の臭いが広がる

 

俺は少しだけ躊躇したあと、肉を口へ入れた

 

「――まずっ」

 

思わず吐き出しそうになった

 

硬い

 

臭い

 

それに、なんとも言えない苦味がある

毒がないのか知りたかったが、鑑定は生物にしか使えない以上なんともならなかった

アエロスミスの肉も美味しいとは言えなかったが、それでも食べられないほどではなかった

 

こいつは違う

 

「……なんだこれ」

 

俺はもう一度、ほんの少しだけ噛んでみる

やっぱり不味い

 

肉そのものが硬いというより、筋が多くて噛み切りにくい。そのうえ臭みが強く、飲み込んだ後もしばらく口の中に嫌な味が残る

通りで先ほど思ったよりもゴブリンの死体の原型が残っていたわけだ

これじゃ兄弟達もあまり好んで食べようとはしなかったのだろう

 

「食えるだけ、マシか……」

 

贅沢は言っていられない

俺は仕方なく肉を食べ始める

二匹の兄弟も近づいてきた

 

「お前らも食べろ」

 

俺がそう言うと、二匹も先ほどと同じようにゴブリンの肉へ噛みついた

 

「ギィ……」

 

一匹が嫌そうに顔をしかめる

 

「やっぱり不味いよな」

 

俺も同感だった

 

それでも腹が減れば食べるしかない

生き残るためなら、味なんてどうでもいい

 

そう思いながら肉を食べていると、腹の辺りから妙な臭いがしてきた

 

「……?」

 

俺は手を止める

 

胃の中だ

ゴブリンの胃を裂いてみる

すると、中から消化途中の何かが出てきた

 

「うわ……」

 

虫、木の実、何かの草

 

それから、よく分からない小動物の肉まで入っている

 

どうやらこいつも、俺たちと同じように食べられるものなら何でも食べていたらしい

 

「……まあ、そうなるか」

 

この世界では食べられるものを選んでいる余裕なんてない

 

ゴブリンだって、生きるために食べる

俺たちと同じだ

 

ただ、その胃の中身を見ていると少しだけ考えさせられる

 

「こいつも、生き残ろうとしてたんだよな……」

 

俺は死体を見る

さっきまでなら、ただの敵だった

俺たちを殺そうとした怪物

だから殺した

 

それだけだ

 

けれど、死んでしまえば、その身体は食料になる

武器も素材になる

胃の中身まで、何を食べて生きていたのかを教えてくれる

どんなものなら食べられるのか教えてくれる

 

「……変な感じだな」

 

俺はそう呟きながら、再び肉を食べる

やっぱり不味い

でも、食べられないほどではない

少なくとも、数日分の食料にはなるだろう

そして何より

 

「これで、少しは時間が稼げる」

 

俺はゴブリンの死体を見ながら考える

アエロスミスの肉は、もうかなり減っている

虫だけでは俺含めた三匹を満足させることはできない

 

だから、次の食料を探す必要があった

その意味では、このゴブリンとの遭遇は最悪ではなかった

 

二匹の兄弟を失ったが、それでも俺たちは生き残った

 

食料も手に入った

武器という新しい可能性まで見つけた

 

「……使えるものは、全部使う」

 

俺はゴブリンの武器を見て、思考に浸る

この世界で生き残るために必要なのは、強い身体だけじゃない

 

牙も、爪も、魔法も、仲間も、食料

そして――道具も

 

「次は、もっと上手くやる」

 

俺はそう呟き、残った二匹の兄弟を見る

 

 

————————————————————

 

 

 

【ステータス】

 

 

 

名前:なし

 

 

 

種族:リトルレッサーリザード

 

 

 

レベル:5

 

 

 

HP:9/38

 

 

 

MP:10/13

 

 

 

攻撃力:12

 

防御力:10

 

素早さ:9 

 

知力:10

 

 

————————————————————

 

 

————————————————————

 

 

 

【ステータス】

 

 

 

名前:なし

 

 

 

種族:リトルレッサーリザード

 

 

 

レベル:5

 

 

 

HP:8/39

 

 

 

MP:13/13

 

 

 

攻撃力:15

 

防御力:8

 

素早さ:13 

 

知力:10

 

 

————————————————————

 

 

鑑定のレベルが上がったお陰か、残りの兄弟のステータスを見れた

 

 

 

取り敢えず、一旦休憩しよう

 

眠気に耐えられなくなり、俺は瞳を閉じた

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴブリンを倒してから、どれくらい経っただろう

 

俺たちは洞窟の奥で、ほとんど身動きせずにいた

 

ゴブリンの肉は不味かったが、食べられないほどではなかった

残った二匹の兄弟も少しずつ肉を食べ、今は身体を休めている俺自身もゴブリンとの戦いでかなり消耗していた

 

だから、しばらくここで休むつもりだった

 

洞窟の中なら、少なくとも外から簡単に襲われることはない

さっきのゴブリンみたいにきたとしても、少なくとも準備はできるし外で無防備に突っ立っているよりはずっと安心安全だ

 

そう思っていた

 

――ドン

 

「……?」

 

地面が、僅かに揺れた

最初は気のせいかと思った

だが、もう一度

 

――ドン。

 

今度ははっきり分かった

地面が揺れている

 

兄弟も顔を上げた

 

「ギィ……?」

 

何か大型の魔物が近づいているのだろうか?

ひょっとして近くでレッサーグリフォンやマイマザーのような大型の魔物が縄張り争いでもしているのだろうか

そう思った

 

けれど、違った

音は近づいているわけじゃない

もっと遠くから響いている

 

「……何だ?」

 

俺は洞窟の入口を見る

相変わらず外は見えない

 

ここからでは、マイマザーの巣があった場所も見えない

それでも、何かがおかしいことだけは分かった

森が静かだった

さっきまで聞こえていた鳥の声も、虫の音もない

まるで、世界そのものが息を止めたようだった

そして――

 

――グルルルルル……

 

地の底から響いてくるような音

 

「……」

 

身体が勝手に強張った

聞き覚えがある

この声を、俺は知っている

 

「……まさか」

 

次の瞬間、世界が、震えた

 

『――――――――――ッッッ!!』

 

咆哮

 

ただの声ではなかった

空気そのものが震え、洞窟の壁がビリビリと揺れる

天井から小さな石が落ちてきた

パラパラと砂が降ってくる

 

「っ……!」

 

俺は反射的に身体を低くした

兄弟はもっと酷かった

 

「ギィィィッ!」

 

一匹が悲鳴を上げ、洞窟の奥へ逃げようとする

もう一匹も身体を縮め、地面へ張りついていた

 

「待て!」

 

俺は指揮を使う

 

「動くな!」

 

命令が飛び、二匹の身体が止まった

だが、それでも震えている

俺だって同じだった

身体が震えている

心臓が異常な速さで動いている

そして、分かった

 

あの声の主を

 

「……天龍」

 

マイマザーを殺した存在

俺たちの巣を奪った存在

今も、巣跡地にいる

 

どうして咆哮したのかは分からない

何かに怒ったのかもしれない

何かを探しているのかもしれない

ただ一つだけ分かることがある

 

「……近い」

 

洞窟の中にいる。

ずっとずっと遠くに居て、見えないくらいの距離がある

それでも、安心なんてできない

 

むしろ逆だった

こんな洞窟なんて、天龍からすれば壁ですらないだろう こんな距離なんて、天龍からすれば散歩できる程度の距離だろう

 

俺はそう考えながら、入口を見つめる

 

すると、外から、何かが走ってくる音が聞こえた

 

ドドドドドドッ!

 

一匹じゃない

何匹もいる

いや――

 

数えきれないほどの大量の足音が地面を叩いている

 

「……何だ?」

 

俺は入口から外を覗く

そして、息を呑んだ

 

最初に見えたのは、ゴブリンだった

五十匹

百匹

 

いや、もっといる

武器を握りしめたまま、こちらには目もくれずに走っていく

 

 

俺たちがさっき命を懸けて倒した相手

あれと同じ種族が、何百匹もいる

やはり強さ的に群れて生活しているのだろう

そう考えたらさきほどきたのがたまたま孤立したゴブリンでなければ死んでいた

だが、そんなことを考えている暇はなかった

 

その後ろから――

 

「……アエロスミス」

 

見覚えのある姿が飛び出してきた

アエロスミスだ

俺たちを苦しめた、あの魔物

あの速度

あの風魔法

 

あれほど厄介だった魔物が、今は地面を這うようにして逃げている

 

しかも、10匹や二十匹じゃない

 

何百匹もいる

 

「……」

 

次に見えた光景に、言葉が出なかった

さらに奥

巨大な影が走ってきた

 

四足歩行、大きな身体、岩のような皮膚

 

「……あれ」

 

見たことがある

正確には、同じ姿を見たことがある

マイマザーと同じ種族

ロックリザード

ただし、マイマザーより少し小さい

それでも、俺たちからすれば十分すぎるほど巨大だった

 

「……ロックリザードまで逃げるのかよ」

 

あいつらは強い

少なくとも、俺が生まれた時に見たマイマザーはそうだった

 

レベル43

 

あれほど巨大な身体を持ち、俺たちを簡単に殺していた存在

あれを明確に上回る存在なんて、天龍くらいだろう

少なくともレッサーグリフォンですら、一方的にはならないくらいには強い

その同族らしき魔物が、今は必死に逃げている

 

そして――

 

ズンッ

 

地面が大きく揺れた

 

「……?」

 

木々の向こうから、巨大な鹿が現れた

普通の鹿とは比べ物にならない

身体だけで数メートルはある

角なんて、木の枝と見間違えるほど太い

 

そんな巨大な鹿が、周囲の木々をなぎ倒しながら走っている

 

「……あれも魔物か」

 

鹿がこちらへ向かってくる

一瞬、目が合うかと思った

だが、完全に無視された

 

俺たちのことなど、最初から存在していないかのように横を通り過ぎていく

 

「……」

 

その直後、森の奥からさらに巨大な影が現れた

最初は大木だと思った

だが、動いている

長い、あまりにも長い

 

少なく見積もっても二十メートルはある

巨大な蛇が身体をくねらせながら、地面を這っていく

その身体が通っただけで、草木が押し潰されていく

 

「……二十メートルはあるよな」

 

俺は呆然と呟いた

あんなものに襲われたら、今の俺たちではどうしようもない

それどころかあんな蛇が俺達の近くを通るだけで死んでしまう

 

それなのに、その蛇ですら――逃げている

そして最後に、俺は絶対に見間違えたくない姿を見た

 

巨大な翼

鋭い爪

灰色の身体

 

「……レッサーグリフォン」

 

身体が固まった

あいつだ

アエロスミスを簡単に屠った存在

 

俺たちが直接戦えば、勝負にすらならないだろうと思っていた化け物

俺達を認識して、餌にすらしなかった化け物

 

あの時、アエロスミスは十匹以上の群れであったのに一匹逃げることが精一杯だった

 

そのレッサーグリフォンが

 

「……逃げてる」

 

レッサーグリフォンが飛び立った

だが、いつものような堂々とした飛び方ではない

低い、速い

必死だ

翼を何度も激しく動かし、森の奥へ逃げていく

その姿を見て、俺はようやく理解した

 

この辺りにいる魔物の中で、強いとか弱いとか、そんな話をしている場合じゃない

 

ゴブリンも

アエロスミスも

ロックリザードも

巨大な鹿も

二十メートル級の蛇も

そして、アエロスミスを容易く殺したレッサーグリフォンですら

全部、同じ方向へ逃げている

 

「……天龍から」

 

喉が震える

俺たちは洞窟の中にいる

なのに、誰も襲ってこない

いや、襲う余裕すらないのだ

 

目の前を通り過ぎていく魔物たちは、こちらを見ることすらしない

 

普段なら捕食する側の魔物でさえ、俺たちを獲物として認識していない

 

ただ逃げている

一刻も早く、この場所から離れようとしている

 

「……なんだよ、これ」

 

俺は震える身体を抑えながら、洞窟の奥へ少し下がった

兄弟はもう動けない

一匹は地面に伏せ、もう一匹は俺の身体にぴったりとくっついている

 

指揮なんて関係ない

命令する必要すらない

二匹とも、本能的に理解している

ここにいる

 

あの存在の近くにいる

それだけで死ぬ

 

「……」

 

俺も同じだった

 

天龍は、まだ俺たちを見ていない

この洞窟の存在すら知らない

俺たちを殺そうとしているわけでもない

 

ただ、何かに苛立って咆哮した

それだけ、それだけなのに

 

山ほどの魔物が逃げている

その中には、俺たちが今まで恐れていた魔物すらいる

認識すら出来ていなかった魔物達が居る

「……俺たちは」

 

言葉が出てこない

自分がどれだけ弱いのか

そんなことは、もう十分に分かっているつもりだった

 

ゴブリンに二匹殺された

アエロスミスにも一匹殺された

俺自身も、何度も死にかけた

だから強くならなければならないと思った

 

レベルを上げて、スキルを鍛えて、もっと強い魔物を倒して

いつか、この世界で生き残れるくらいに

 

でも

「……まだ、こんなに遠いのか」

 

俺は空を見た

洞窟からは天龍の姿なんて見えない

それでも、存在だけは分かる

あまりにも大きな存在感

あまりにも圧倒的な力

 

俺たちがいくら強くなったところで、今のままでは到底届かない

 

いや、もしかしたら届くという考え自体が間違っているのかもしれない

 

「……」

 

その時、再び遠くから咆哮が響いた

 

『――――――――――ッ!!』

 

ビリビリと空気が震える

兄弟が身体を縮める

俺も歯を食いしばる

 

そして、外を走っていた魔物たちがさらに速度を上げた

 

ゴブリンも

アエロスミスも

ロックリザードも

巨大な鹿も

巨大な蛇も

レッサーグリフォンも

 

誰も振り返らない

誰も戦おうとしない

ただ逃げる

 

「……そういうことか」

 

俺はようやく理解した

この世界には、強い魔物がいる

その中にも、さらに強い魔物がいる

 

そして――

 

その頂点に近づけば近づくほど、世界の見え方そのものが変わる

 

俺たちが必死になって倒したゴブリン

俺たちを追い詰めたアエロスミス

アエロスミスを容易く殺したレッサーグリフォン

マイマザーと同じ種族の魔物

 

そんな連中が、今は全部逃げている

 

「……天龍」

 

俺は小さく呟く

 

あれが、この世界の強さなのか

それとも、あれすら、まだ上があるのか

分からない

今の俺には、何も分からない

 

ただ一つだけ、確かなことがある

俺たちはまだ弱い

弱すぎる

 

だから、今は戦わない

洞窟から出ない

天龍がどこかへ行くまで、息を潜める

 

「……生き残る」

 

俺は二匹の兄弟を見る

そして、自分自身にも言い聞かせる

 

「今は、それだけでいい」

 

強くなるのは、その後だ

この世界で生き残るために

いつか、もっと先へ進むために

 

今はただ――

天龍に見つからないことだけを願って、俺たちは洞窟の奥で息を潜め続けた

 




ちなみに天龍くんの咆哮がなかったらその内殺したゴブリンからこの洞窟の中に獲物が居るってバレて十匹くらいのゴブリンに嬲り殺しにされていました 
なので蜥蜴君は天龍様に感謝しよう
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