CyberPunk2077_Engram Controller   作:アルファルド・ロマネスク

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Act3.Day Work/初仕事

 シックスストリート、そう叫んだ人たち。

 ヘイデンが言っていたギャンクたち。

 今目の前にいる人たち全員そうなのかな。

 少なくともあの絵を付けてる人達はそうだと思う。

 ヘイデンは少し項垂れている。

 何をされるか分からないからかもしれない。

「そう警戒しないでくれ。寝てるところを攫ってきたのは悪かったが、取って食おうとは思っちゃねえよ!」

「攫ったって自覚はあるんだね」

 最初に声をかけてくれた男についツッコミを入れてしまった。

 男はガハハハと豪快に笑い飛ばしてから続けてくる。

「俺はアルバート、仲間はみんな爆弾アルって呼んでくれる、よろしくな!」

「爆弾? ……私はアイビス」

「おう知ってる、よろしくなアイビス!」

 アルバートが右手を差し出してくる。

 私は特に思うこともなくその手を取ろうとした。

 刹那、私の頭に電流が走った。

 本能的な何かだと思う。

 アルバートの右手を取ったと同時に、私は空いていた方の腕からマンティス・ブレードを展開してアルバートの喉元に寸止した。

 アルバートも、空いていた腕から何か砲のようなものか見えていた。

 腕部搭載型個人火砲(プロジェクタイルランチャー)。一目見ただけでそれがそういうインプラントであると気付いた。

 あのまま無防備に握手していれば、私の顔には炸裂弾が直撃していたかもしれない。

 他のシックスストリートのメンバーやヘイデンがあっと驚いている。

 一拍遅れてシックスストリートが銃火器を私に向けようと動き出そうとした。

「やめなっ!」

 即アルバートの怒号が場を支配した。

 私を除く全員が固まった。

 アルバートが一つため息をしたあと笑った。

「血気盛んで困ったもんだぜ……まあ、あんたを試すために砲を向ける俺も俺だがな。良い反応だ」

「どうも」

 アルバートがランチャーをしまった。私もブレードを腕に戻す。

「仕切り直しと行こう!」

 アルバートが左手を出した。

 私もそれを取った。

 今度こそ武器を向け合うことはなかった。

「さて、さっきの試しのことも含めて攫った理由を話そうか」

 近くの古びたソファにアルバートが腰を掛ける。

 座れと手で示された。

 特に抗う必要もないので私は座る。

「早速単刀直入に言う。アイビス、あんたを【ソロ】として雇いたい」

「……ソロ?」

「正面戦闘を得意とする傭兵の総称だ。要は、あんたの腕前を見込んで排除してほしい奴らがいるってことだ」

 ニッと笑うアルバート。対照的にさらに暗い表情になるヘイデン。

 ようは人殺しを頼まれてるわけだしね。

「断ったら?」

「別に何もしねぇ。本気で恩人に銃は向けられねぇ。ただ、受けてくれるならそれ相応の報酬は出すぜ」

 報酬の言葉に少し反応してしまう。

 一体いくらになるかは知らないけど、報酬次第だとヘイデンの足を治せるかもしれないって。

 視線がヘイデンに向いた。ヘイデンは必死に首を振って断われと示してくる。

「……ヘイデンの、足を治せるくらいのお金?」

「アイビスっ!」

「もちろん」

「乗った」

 ヘイデン更に項垂れた。でも私にはこれを断る理由がなかった。

 だって、これくらいしかヘイデンに助けてもらった恩を返せる気がしなかった。

 足さえ治れば、ヘイデンは別の仕事を探せるかもしれないし、そうでなくともゴミ山の漁りを少しは安全に行えるはず。

「心配しないでヘイデン。大丈夫だよ」

 何が大丈夫なんだと言い出しそうな表情に一瞬なったヘイデンだけど、飲み込んでくれた。

 俯いて、かなり考え込んでいる。

 でもヘイデンを周りは待ってくれなくて。

「そんじゃあ場所を伝えるぜ。このチップを挿しな」

 そう言ってアルバートはチップを手渡してきた。

 挿すと言われて何のことかと思ったけど、私の体がどういうことなのかを覚えてたみたい。

 手は自然にチップを首元へ持っていって、そのままそこに作られたソケットへ挿し込んだ。

 すると自分の網膜を通して映像が流れ込む。おそらくこれがターゲットなのかな。

 映像には一般人とはとても思えないアングラな容姿をしたロシア系中年男性が映っていた。

「ゴルバチョフ・ウラジミール。スカベンジャーの一人だ。うちのメンバーを三人バラして売りやがった。こいつは俺達だけでカタを付けに行くはずだったんだが、偵察に送った二人が帰ってこねぇ。偵察の奴らがどうなったのかも調べてくれたらボーナスをやる」

 そう言って別のチップを渡してきた。

 多分ターゲットの居場所。

 私はそれを受け取って、今挿れていたチップを返す。

「チップに奴の居場所と行き方を示してる。それに従ってヤってくれ」

「……わかった」

 私は頷いてチップを挿し、居場所を確認した。

 地図は緻密に描かれていて、これなら私でも迷子にならなさそう。

 私は出発する前にヘイデンに視線を向けた。

 ヘイデンは顔を上げてくれた。

 言いたいことはたくさんあるだろうに、一息置いてからこう言ってくれた。

「アイビス、気をつけてな……」

「うん……行ってくる」

 私はひと言同じように返して、ゆっくりと目的へ足を進めだした。

 

 ターゲットの居場所はよくある空き家といった様子で、年季が入ってるのか崩落寸前だった。

 悪人が潜むにはうってつてと言った様子だけど、それはそれとしてあまりに静かだった。

 事情を知らない一般人たちの通りを歩く音や、変なデバイスを頭とお股に付けて跳ねてる人の音、タイヤが路面を走る音、パトカーが誰かを追いかける音。

 いろんな音がミキサーに押し込まれて混ぜられたような喧騒の中、この一軒家だけ異様なほど何の音も無かった。

 犯罪者が入っているからと言われたらそれまでだけど、それにしたってだ。

 慎重に、下手に音を立てないように私は家のドアを空けて入る。

 開けてすぐ部屋の異様さに気づいた。

 血の海、ひと言でそうとしか言えない光景が広がっていた。

 おそらくスカベンジャーと思われる人物たちの亡骸がたくさん横たわっていて、中にはシックス・ストリートの人たちが探すのを頼んでいた2人も混ざっていた。

 はっきり言って酷い。

 皆殺しって言葉がこれ以上に合う状態はない。

 でもなんで? 行く直前にシックス・ストリートの人から聞いたけど、スカベンジャーというギャングは人間を解体して、なかに入ってるインプラントや臓器を売るほぼ半グレ集団。

 こんな商品が駄目になってしまうようなバラし方はしない。

 嗅覚がおかしくなるような錆鉄の臭いの中をゆっくり歩く。

 抱えた疑問を一旦他所において歩みを進めていけば、地下への入り口があった。

 何がが引きずられたような跡が階段にこびりついていて、多分ここに犯人がいるかも知れない。

 両腕からブレードを展開して、警戒心を最大にしながらゆっくりと階段を下りる。

 照明が付いてないからかなり暗く感じる。

 音にも動きにも集中を向けて、歩みを留めずに進んでいれば……奴はいた。

「ゴルバチョフ……」

 服装と顔でわかった。

 その手には銃身とストックを切り詰めた水平二連ショットガンを構えていて、表情は異常そのもの。

 ただ何もない壁を、よだれを垂らしながらじっと見ている。

 瞳孔は完全に開ききっていて、正気ではないのが遠目でもはっきりわかった。

 何か小声で呟いてるようだけど上手く聞き取れない。

 とりあえず見つけたは良いものの、どう切り込んだものか。

 私の身体が普通の人間よりずっと硬いとはいえあんな大きなショットガンを至近距離で2発も受けたら耐えられる自信はない。

 こっちの手持ちは腕のマンティス・ブレードのみ。

 一瞬の隙を突いて刺し殺すしかない。

 虚空を見つめて固まったままのゴルバチョフ。何かを呟いてよだれを垂らして、やがて私ではない何か……多分ネズミかゴキブリかが鳴らした音に反応した。

 すごい速度でゴルバチョフがそっちを向いた。

 残像が見えるほどに速かったけど、明らかこっちを見ていない状態になった。

 今しかない。

 私は脚に意識を集中させる。

 アキレス腱から脹脛、そこに仕込まれたそれを身体が覚えている。

 ジェンキンス腱。人工的に作られた強化腱は短距離を走るときに真価を発揮する。

 一気に踏み込んで、まるで弾丸のように私はゴルバチョフへ走り出す。

 その瞬間速度は多分本当に拳銃弾並みになっていると思う。

 床を軽く踏み割って、周辺の空気を切り裂いて、普通の人間の目には映らない超スピード。それが視界外から来るのだから、私のブレードはゴルバチョフのコメカミに突き刺さるはずだった。

「っ!?」

 ありえない速度でゴルバチョフがこちらを振り向いた。

 まるで時間でも止められたかのようなスピードで、真後ろから襲いかかった私のブレードの根元を掴んで止めた。

 ゴルバチョフと目が合った。

 眼球が常に動き回っていて明らかに正気じゃない。

 ショットガンが私の腹部に押し付けられようとする。

 瞬間、私の脳に迸り出す大量のアドレナリン。

 一瞬世界が遅くなったかのような錯覚と共に身体の挙動が加速する。

 その衝動のままに右足を上げる。

 右の膝がそのままショットガンの下部に直撃して銃身が跳ね上がる。

 即座に発砲、無数の弾が私の顔の前を通っていったのが加速した世界で辛うじて見えた。

 間一髪、でも危機は去ってない。

 私は掴まれてない方のブレードでゴルバチョフの目玉を狙う。

 察されたのかゴルバチョフは私を思いっきり投げる。

 自分で言うのもあれだけど、私は身長に反してかなり重いはず。それをボールでも投げるように軽々と壁面へ投げつけた。

 叩きつけられる前に身を空中で翻し、両足で壁に付く。

 同時にゴルバチョフがショットガンの再装填を終える。

 撃ってくる。

 直感が訴える危険に身を任せ、壁を蹴って天井へ。

 自分がいた場所に炸裂する無数の散弾。

 コンマ遅れて天井を蹴り、ゴルバチョフの頭上から私が仕掛ける。

 流石にこれには反応が遅れた。

 ブレードがゴルバチョフの鎖骨と肩甲骨の間にスルリと入り、肺を上から下まで貫く感覚を感じた。

 肺胞と毛細血管を刃で切り裂いていく触感。

 間違いなくほぼ即死級の致命傷。

 でもゴルバチョフは呻きもしないで私の頬に拳を叩き込んだ。

 右頬に伝わる強い衝撃。響き渡る鈍い金属音。

 痛みは不思議とまったくなかった。

 むしろ殴ったゴルバチョフの手から軽い出血が見えた。

 けど、殴られて体勢を崩した私はブレードをゴルバチョフからすぐ引き抜かざるを得なかった。

 抉るように抜ければ確実に仕留められていただろうけど、あの体勢だと無理だった。

「ジョアンナ……おまえなのか?」

 ゴルバチョフが血反吐を大量に吐きながら私を見て何か呟く。

 相変わらず焦点は合ってない。

 私を見てるけど私を視ていない。

「ジョアンナ、父さんは、ジョアンナ、どうして、ジョアンナ、ジョアンナジョジジジジジジッツジッ!!」

 ショットガンとは別に、ズボンからリボルバーのような大きな銃を引き抜いて乱射してくる。

 狙いはさっきと違って全く定まっていない。

 いや、逆に定まってるんだ。

 彼には私に見えていない何かを必死に狙って撃っている。

 だけど、それは好都合。

 脚にもう一度集中を向け、一気に走る。

 肺をやられたからか、ショットガンを握る力は大きく弱まっていた。

 私の狙いはそのショットガン。

 近づいて、持っていた手にブレードを這わせて手首ごと斬り飛ばす。

 宙に舞ったそれをつかみ取り、すぐに弾を確認。

 予想通り一発まだ入ってる。

 銃を構えた記憶は頭にはない。

 でも、身体は銃を構えた記憶がある。

 何故かとても懐かしい感じを覚えながら私はそのショットガンを構え、そのまま一気に懐へ飛び込んだ。

 

 世界が、遅くなった。

 

 違う、私の頭の中にさっきよりも過剰なアドレナリンが溢れ出す感じがある。

 身体の中にあるそれを私は思い出した。

 ケレズニコフ。神経ブースト系サイバーウェア。

 スポーツ選手とかがたまに起こすゾーン状態を意図的に数秒発動させることができるインプラント。

 今の私は、意図的に起こしたゾーンの中にいる。

 多分約2秒、けれど脳神経が極限まで加速した私にとってはもっと長く感じる。

 敵も自分もゆっくりな世界では、銃で狙いをつけるなんてとっても簡単なこと。

 私のスピードについてこれなくなった世界で、ゴルバチョフが何かを叫んでいるようだけど遅すぎて聞き取れない。

 でもそれでいい。

 私はショットガンの銃口をゴルバチョフの空いた口に突っ込んだ。

 引き金は、驚くほどに軽かった。

 水風船が割れるような音と、雷が鳴り響いたような音が地下室で同時に乱反射する。

 爆ぜた爆ぜた、綺麗に赤の花が爆ぜて咲いた。

 下顎から上が消えてなくなったゴルバチョフは、流石にもう何かを叫ぶこともできずに倒れた。

 降り注いだ彼の血で真っ赤に染まった私は、何とかなったことに安堵して、大きく深く息を吸って、また吐いた。

「……終わった」

 疲れた。特に何度もアドレナリンを多量に供給された頭が特に疲れた。

 過度の緊張が抜けた私は、それでも終わったことを早く伝えたくて、疲労困憊の身体を引きずって来た道を引き返すのだった。

 帰って直後大変な目に合うことを、この時の私はまだ知らない。

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