CyberPunk2077_Engram Controller 作:アルファルド・ロマネスク
ワトソン地区。初めての地区。私はそこにいた。
結構遠かったけど、タクシーをなんとか捕まえてやってきた。
なんというか、私とヘイデンが暮らしてるサント・ドミンゴよりは賑やかだけど、心なしか寂れている感じはする。
空を見上げるほどの高い建物があるの。
あんな綺麗な青空が、そびえ立つ摩天楼で隠れて見えない。
その摩天楼はメガビルって言って、多くの人たちがミッチミチに住んでいる。
なんか、地区全体がずっと狭苦しい感じがしてるし、凄くうるさい。
どこかの商品の広告がずぅっと流れ続けてて、耳がおかしくなりそう。
こんなところに皆どうして住んでいるんだろう。どうして住み続けられるんだろう。
気にする必要のない疑問を抱えながらも、私は目的地にたどり着いた。
アフターライフ。ヘイデンから聞くに、伝説と呼ばれるソロたちが何人も生まれた伝説の酒場。
なんでも死体安置所を改造して作ったみたい。
だから
実際酒場と言うより黄泉の世界への階段みたいな場所があった。
階段の前には機能してないボディーチェックゲートがあって、それを通り抜けて階段を降りると入り口があった。
すごく強そうなおじさんが扉の前に立っている。門番さんかな?
確かアフターライフは一見さんお断りだって言ってた。
だからいるのかな?
でも、今日の仕事はこの中で話をするってママさんは言ってた。
ママの名前を出せば入れるって。
「ごめんなさい」
すこし恐る恐る門番さんに声をかける。
門番さんは私を見るやいなや怪訝そうな顔で。
「嬢ちゃん、ここは酒場だ。嬢ちゃんみたいなのが来るとこじゃねぇ」
と、はっきり断ってきた。
それはそうとしか言えないけど、私も仕事で来てる以上下がれない。
「ママ・グレースって人に呼ばれたの。ここにいるって聞いてるよ」
「グレース? ちょっとまて」
ママさんの名前を聞いたら少し様子が変わった。
面倒くさいって様子を隠さないで、ホロコールをしてるみたい。
「グレース、お前に呼ばれたってガキがいま来てるんだか……あぁった」
コールが終わったみたい。
納得してないって顔だけど、端によって扉を開けてくれた。
「問題は起こすなよ? ようこそアフターライフへ」
門番さんに軽く会釈してから私は店内に入った。
入ってそうそう心地のいいロック・ミュージックが耳を撫でる。
店内にはそれ相応に人が入っていて、なんだか賑やかな感じ。
でも、その人たちからなんだか説明が難しい、オーラみたいなものを感じる。
色んな仕事をロバート以外にも色んな人達としてきたけど、その人たちとは何かが違う気がする。
ここは伝説を生む酒場って言ってたし、そういう伝説に近い人たちがいるってわけかな。
なら、私って場違いじゃない?
そんなすごい人たちと一緒に働けるかもっていうのは良いことだけどね。
実際なんか妙な視線を感じるし。
少し戸惑いながら私はカウンターへ向かう。
確かママさんがカウンターで少し待ってたら行くって言ってたはず。
カウンター席は運良くいくつか空いてたからそこに座る。
すると店員さんと思われる女の人が話しかけてきた。
「いらっしゃい! 随分若いね。その歳でアフターライフ入りっていうのはかなり凄いよ」
「ど、どうも」
「あら、緊張してる」
「大分……」
「あらあら、それじゃこれとかどう? あ、私のおごりね」
店員さんが1本くれた。
お酒じゃない、二コーラだ。私が結構好きな炭酸飲料。
おごりって言ってくれたし、遠慮なく貰っちゃおう。
プルタブを開けて一口、爽やかな炭酸が口を這う感覚、甘さとレモンの酸っぱさがとっても好き。
「私、あまり伝説とか詳しくなくて……ここは伝説が生まれる場所って本当?」
つい気になって聞いてみた。
すると店員さんは微笑みながら頷いて答えてくれた。
「勿論よ。メジャーどころだと、ほとんど生身でありながらありとあらゆる依頼を解決してきたモーガン・ブラックハンド。銀腕が象徴、最高のロッカーボーイ、ジョニー・シルバーハンドよ。あぁ最近のだとアラサカタワーにカチコミをかけたデイビッド・マルティネスね」
「た、沢山いるんだね……その人たちは今何処に?」
「墓地よ」
「墓地?」
比喩か何かと思ったけど、本当の意味でそうらしい。
皆死んでしまったんだね。
どうせなら会ってみたかったな。
「そうそう、お嬢さんにはまだあげられないけど、ここは伝説になった常連の名前でカクテルを作るのが流儀でね」
そう言ってメニュー表をちらっと見せてくれた。
さっき言っていた人たちの名前があった。
他にも私が知らない人たちが書かれている。
皆死んでしまったんだ。
私も、いつかは此処に名を残すのかな?
でも、死んで名を残すよりもヘイデンの側にいたいな。
「まあ一人だけ、生きたまま伝説になったやつもいるけど……」
「どんな人?」
「あれを人というのはちょっとあれだけどね……アダム・スマッシャーという男よ」
アダム・スマッシャー。初めて聞く名前のはずなのに、なぜか私はその名前に強い既視感を感じた。
アダム・スマッシャー。おかしい、私は彼を知っている?
「全身義体のフルボーグ。脳幹のみを専用のケースに入れて、機械に人間の脳を仕込むタイプのクローム人間」
「あら、知っていたの?」
「ううん……知らないはずなんだけど……知っている」
「? おかしなことをいうのね」
なんだろう、とっても大切なことを忘れている気がする。
私の失った記憶の中に、アダム・スマッシャーがある? でも、そこからさらに思い出そうとすると頭がとても痛くなってきた。
私が頭痛に苦しんでると、何処からから声が聞こえていた。
ロバートの声だと気付いた私は振り返る。
奥のボックスでロバートと誰か二人が席に座っていた。
一人はかなり腕利きの空気を醸し出している銀髪の女性。
もう一人は筋肉ムキムキのおじさんなのに女性向け化粧品で物凄くメイクしてる。
多分、彼がママさんかな?
合ってたみたいで、ママさんは私にウインクを送ってくれた。
なんか、バチコーンって音が鳴りそうなくらい勢いがあったね。
とりあえずそっちに向かって空いてる席に座らせてもらうかな。
「こんにちはロバート。隣の人がママさん?」
「ええ、面と面を合わせるのは初めましてね。私がママ・グレースよ」
そうママさんが言ったあと、空いてる自分の隣の席をポンポンと叩いた。
そこに座れってことかな?
私は特に疑問に思うことなく座った。
その後、ママさんは私の知らない女性に手を向けて。
「今回の仕事に同行してもらう子よ。名前はイルダ」
「どうも、今回はよろしく」
少しぶっきらぼうにイルダって呼ばれた人は返した。
顔にはいかにも「子どものおもりなんて」っといった不満が見え隠れしてた。
ロバートの時も、それ以外の仕事相手の時もそうだったけど、この身長だと最初はそう思われても仕方がない。
勿論仕事が終わったあとは皆私を認めてくれていたけど。
「イルダは別のフィクサーから受けた仕事の関係で協力することになったわ。幸いにも、今回の仕事はどちらにも益があったのよね」
「どんな仕事?」
私が聞けばママさんは簡潔に答えてくれた。
ママさんが私とロバートに渡したい仕事はデータ強奪。
ミリテクおよびシックス・ストリートと繋がりがある可能性が強い政治家のスキャンダルが収められた監視映像、それが入ったパソコンをクラックしてデータを盗んでくるって仕事。
クラック自体はロバートがするけど、そのパソコンを強奪するのが私のメインの役割。
で、ここからイルダが受けた仕事に関係があって、そのパソコンがある工場でミリテク警備の一人が突如暴れ出したらしい。
サイバーサイコシスの可能性が強いということで、レジーナという別のフィクサーからの仕事らしい。
「ところで、サイバーサイコシスってなに?」
「あんたマジで知らないの?」
冗談よしてよって顔でイルダが言う。
知らないものは知らないんだから知らないって言うしかないんだけど……
そう言おうとするとイルダは深いため息を付いたあと答えてくれた。
「クロー厶を入れすぎた人間が何らかの要因で人間性を喪失し、手当たり次第に周りを攻撃しまくる怪物になることの総称よ」
「へぇ……共通点とかある?」
「焦点が定まらない視点、ひどく震える手足、支離滅裂な言動……人によることが多いけど、だいたいこのあたりが共通するわね」
それを聞いて、初めてシックス・ストリートから受けた依頼で対峙したあの人のことを思い出した。
あぁ、あの人もサイバーサイコシスだったのかな。
そんなことを私が考えていると、折れた話の腰を戻すべくママが話を再開する。
「サイバーサイコはイルダの仕事、データ強奪は私たちの仕事。向かう道筋は2つとも同じなのよぉ。だから協力することになったわけ」
「つまり俺達はサイバーサイコを殺してデータを取ってくればいいってことか?」
「殺しちゃダメ、生け捕りが条件よ」
ロバートの問いにイルダがつけ足す。
ロバートはそれを聞いてかなり面倒くさそうって顔した。
そんな顔にもなるよね。私はサイバーサイコに会ったはあの1回だけだと思うけど、あれと同じようなものを生け捕りしろって言わているわけだし、私も同じ顔になってるかも。
「レジーナ側のイルダが私たち側のデータ強奪を手伝ってくれる以上、こっちもそれなりの誠意を返すべきでしょう? 面倒だと思うかもだけど、二人ともよろしくねぇ」
手を振ってニッカリ笑うママさん。
私とロバートは顔を合わせて、互いに頷いたあと諦めた。
こうして偶然が生み出した即興チームによる依頼が始まろうとしていた。