英雄になり損なった元エースパイロット、辺境で敵から逃げ延びてきた王女様を助けたので、今度こそ英雄を目指します 作:¼夜城
灰色の人型が、蒼白い光を残しながら星空を背景に駆け抜けていく。
続けて翠の光条が昏い宇宙空間を裂き、巨大な鈍色の塊が中途から折れ、光球となって散る。
…今この瞬間、宇宙進出が果たされた遥か未来で、一つの国家が消えようとしていた。
『戦艦アベンジャー、轟沈!』
『グリム隊、シグナルロストしました』
『第3ライン、突破された模様』
通信で飛び交うのは全て友軍の損害報告で、精強な軍人達がただただ宙へと散って行く。
そしてそんな絶望的な戦場に、一筋の光が舞った。
「ハァッ…!」
『バカなッ!』
ビームブレードが翻り、緑と白で配色された人型が両断される。
…別たれた残骸を押し退け、陰から姿を表したのは、純白の躰を蒼で彩られた人型兵器。
そのコックピットの中で、1人の男が叫んだ。
「〈コネクター1〉より全部隊ッ!首脳陣の退避は完了した!撤退しろッ!!」
表情を歪め、通信機へ怒鳴る男。
しかし、敵は彼の叫びなど知ったことかと向かってくる。
『良い加減死ね、〈蒼狼〉!!』
『ここでテメェを倒せば俺も…!』
「クッ、邪魔をするなッ!」
男は上段から振り下ろされるブレードを躱し、すれ違いざまに手前の敵機を両断。続けて向かってきたビームをブレードで散らして、後方の敵機へ急速接近。
『なんッ…』
「墜ちろ!」
閃光。
光瞬く戦場に、光点が一つ増える。
「ハァ…ハァ…クソ………コネクター1より繰り返す!首脳陣の退避は完了した!殿は俺が引き受ける!撤退しろ!」
肩で息をしながらも、再び戦域の友軍へ叫ぶ男。
だが次の瞬間、1機の灰色の人型が、彼と背中合わせになる。
続けて別の人型がライフルを肩に担ぎながら近寄り、更に別の人型がバズーカを投げ捨て、ビームブレードを抜き放ちつつ接近する。
その何れもが、男と同じく肩に〈盾を貫く剣〉のエンブレムを備えていた。
「おいお前ら、何しに…」
『〈名無しの英雄〉殿にご同伴願います』
『同じく、アナタにばかりデカイ顔させませんよ』
『丁度いい死に場所を自分だけで独占するつもりですか?』
「……俺はそんなケチじゃねぇよ」
呆れたように言いつつも、その表情には笑みが浮かんでいた。
本来であれば、死んでも逃げろと言うべき場面だ。しかし、男はそれ以上何も言わず、ただ機体を前に向ける。
「…良いぜ、覚悟のあるやつだけついて来い。最期に俺とデカイ花火を打ち上げたいなら…遅れるなッ!」
叫び、男はスロットルペダルを全力で踏み込んだ——————
◇
「ッ…………チッ、夢か」
狭苦しい採掘用ワーカーのコックピット内で、俺はそんなことを呟く。眼下には紅い鉱石が山積みになっていて、周囲を作業服姿の人間が動き回っていた。
「…まだ引きずってんのか」
あの戦争が終わって、既に5年。
今日も俺は、この辺境の小惑星帯で
「おやっさん、今日も頼む」
「あいよ、ちょっと待ってな」
こちらの言葉にいそいそと鉱石の量を計算する筋肉だるまに頷き、俺はカウンターにもたれかかって視線を上にやる。
視線の先、天井で古ぼけた警告灯が瞬き、配管からは紅い液体が滴っていた。
…一定のリズムを刻むそれらを眺めていると、金属音と共に宇宙港に補修跡だらけの輸送船が入港してくる。
「マルトか、今日も元気なこって」
「なんでもカジノで1発当てたらしい、雑な入港だぜ全く」
おやっさんがそんな事を言いながら、金額の表示された端末を渡してくる。
「はいよ」
「さんきゅ」
…よし、まぁ大体4日分の飯代にはなるか。
などと受け取った金を数えつつ、俺は換金所を後にし自分の格納庫に向かう。
途中の通路でボロい服を着た同業者や最近売られてきたガキ達とすれ違いつつ、「No.6」とデカデカと書かれたハッチの前で足を止めた。
-認証完了-
手のひらをセンサーに当てると電子音が響き、やや遅れて金属音を立てながらハッチが解放される。中に入ると、先程まで乗っていた採掘用ワーカーが整備された状態で搬入されており、更に新調されたレーザードリルも届いていた。
「ったく、採掘装備のサポートだけは良いんだよな…」
ボヤきながら俺は格納庫の明かりを付け、床に放ってあった椅子に腰かける。時折バチバチと音を立てて瞬く電灯にも、とっくに慣れてしまった。
…そして格納庫の奥で天井から吊るされたクレーンを眺め、脳裏に先ほどの夢の内容が蘇り、自然とため息が出る。
(なんで、生き残っちまったんだろうな)
あの時、俺は死ぬつもりだった、いや、死ぬはずだった。
だというのに、今もこうして日銭を稼ぎ、飯を食い、風呂に入って、寝る。
別に自己嫌悪の感情があるわけじゃない、ただ自分がなんのために生きているのか、あの時からずっと見えていないんだ。
「はぁ…でもまぁ、こんな事でウジウジしてたら
やりたいことがなくても明日は来る。ならばせめて備えくらいはしておくべきだろう。
ふうと息を吐き、立ち上がる。そのままハッチの奥へ歩みを進め、鎮座する「それ」から布を剥ぎ取った。
布の下から顕れたのは、片膝をつき至る所からフレームが露出した、オンボロの白い人型。
「改めて見ると、よくまぁここまで復元したな俺」
RS-500 通称〈パスファインダー〉。
2年前にブラックマーケットに流れていたのを見つけた、かつての愛機…の旧型機だ。
なんでマーケットからコイツを買ったのか、今も修復を続けているのかは、俺もよく分からない。ただそうするべきだと直感が告げたんだ。
「おーい、手伝いに来たよ」
「よぉカナ。今日も頼む」
「任せて!」
陽気な声と共に格納庫に入ってきたのは、茶髪の少女〈カナ・シンダール〉。この採掘基地にて整備士をやっている。
腕はもちろんのこと、人当たりの良さからガキ達にもかなり好かれてるらしい。
「…んじゃ、今日もやっていきますか」
同時刻。
先ほどの換金所に1人の金髪の女性が訪れていた。
……頭から血を流しつつ。
「すまない、ここにケイという人物が居ると聞いたんだが」
「あぁ居るには居るが、先ずはその傷の手当を…」
「悪いが時間がない、すぐに案内してほしい」
「………分かった」