第五層六界-アルカナ
世界歴 104679年4月24日 10時45分
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そうなのか、やはり私は失敗していたのか? いや少なくとも先の選択は誤った。
見てみろ、ベズもジョージも笑いをこらえるのに必死だ。マッシが一杯食わされたってな。
エイプリリアファクトリー最高責任者のマッシは憂鬱な表情を浮かべていた。
「皆さんお揃いのようで良かったです。一次調査が完了したため戻りました」
「いやいや、ラピスちゃん? だっけ。無理あるよ!」
ジョージが笑いながら指を指してくる。
人を指さすな! 一瞬イラっとくる。いかんいかん冷静に。
「服をエイプリリアに換えたと思ったらさ! その箒にがっつりファビオのサイン書いてあんじゃん! 首にかけてるサングラスにも!」
ジョージのツッコミでついにベズも『ップ』と吹く始末。
あーあ、私がマンリーファンで何が何でもマンリーシャツを脱ぎたくなかったのがファビオのサイン欲しさとバレたか。
「そうなんですよー、先ほど調査中に偶然ファビオさんにお会いしまして。”たまたま”マンリー一色な格好だったもので、成り行きでサインを頂戴したんです」
「お、おまえ! ッヒ、だめだ! おもしれぇ!!」
「ちょっと、ジョージ笑いすぎだよ。ラピスちゃんも偶然って言ってんだろ? 変に勘繰って受け取るなよ」
「(いーなー、ここまでバカが振り切るとスターに絡んでもらえるんだ。こういうところでラピスに姉の要素を感じるぜ。学びをくれるという点で)」
マッシからしたら気が気じゃない。
自身の依頼を受けた人間が、自分の正義を通すために平気でクライアントに嘘をついてくるのだ。
「あの、ラピスちゃんさ……そn」
「安心してください。仕事は完璧にこなしますので。なにか意見が御有りのようですが、私達の信頼関係は任務の先にこそある物と考えます」
「……つまり今時点の評価を持っての発言は控えろと?」
ニコっと口角を上げ、軽く会釈し肯定した。
マッシはやれやれと言わんばかりに椅子の背もたれに凭れ掛かる。
「野暮な発言になりますが、私達は一つひとつの依頼の結果が顧客獲得の好機であると考えます。故に適当な言動などあり得ません」
「つまり護衛の任務は今回こっきりやのうて、これから先も引き続き頼んでほしいっちゅうことですわ」
唐突なヘラクレスの登場、ウルトから飛び立ちホバーする。
一同は固まり、ヘラクレスを凝視する。
「あ、スイマセン。これ名工が作った精巧な魔具で、たまに喋るんです」
「へぇ、それクールだな。誰の作品?」
「あ、いや、これ母が名工って言ってただけで我が家に伝わる家宝みたいな物でして」
「っちぇ、俺も買ってイレイシ辺りに自慢しようと思ったのに」
ヘラクレスの発言の一切を無視するラピス、ジョージに焦って説明するウルト。
ま、このタイミングで出てくれて良かったかもね。
「わかったよ。結果で君たちを評価しよう。過程じゃなくて結果だ。望み通りだろ? あとその名工の作品とか言うクワガタは緊急時以外は飛ばさないでくれよ」
「リョウカイデスワ」
すでにブルーム3は開幕している。
引き続きマッシ、ベズ、ジョージはミーティングに戻った。ブルーム3の転倒やラップタイムから情報を読み解きレースに備える。
私達はブルームジーピーの本戦準備まで外に出て観戦を楽しんだ。
13時18分。
エイプリリアファクトリーの面々と共にピットインする。
先ほどまでの朗らかな雰囲気が一変していた。
特にライダー2人から『キラー・メンタリティ』を思わせる圧を感じる。
中継カメラに気づけば、笑って手を振る。
しかしその瞳の奥は深淵に繋がっていると錯覚をするほどの黒だ。
ここまでベズは5連勝中、ジョージもエイプリリアのマシンにフィットし好調をキープしている。
これが世界最高峰の最前線、そして戦前の静けさ。
ラピスやウルトの魔法戦闘も一般人からすれば非日常、そんな環境に身を置く2人が肌で感じる殺気。
「すごい、最高だ。こんな素晴らしい体験はなかなかできないぜ」
「何言ってんの。完璧に依頼をこなして、護衛任務のリピート勝ち取るよ」
「おう。やっぱそのためには犯人確保はマストだな」
ライダーが立ち上がり箒に乗ってコースに出る。
けたたましい轟音、スラスターから映写されるチームグラフィックにスポンサー。
圧倒的な華が何台も駆けていく。レースの準備が加速していく。
各ライダーがピットレーンからコースに入り一周して各々のグリッドに着く。
ベズは堂々のポールポジション、ジョージも同じくフロントロウで3番グリッドだ。
レースの開始、正確にはウォームアップラップの開始までマシンや作戦の最終確認を行うために、コースにはパラソルガールを含め、多くの人がごった返す。
「レース見たいって言わないでよ」
「言わないよ。それより今いないスタッフとその動向は把握してるか?」
「ええ、ピットにはスペアマシン担当とデータエンジニアの5名だけ。それ以外は全員、マッシ含めライダーのとこ。合言葉は?」
「ヘラクレス。これ意味ある? ヘラクレスがライダーの所でメカニックを監視してるし、この時間にピットに来るメカニックに聞く意味なくない?」
「バカ、合言葉はちゃんとやってるアピールでしょ、クライアント様への。それに犯人は顔を変えてるっぽいし」
「確かに。にしても、コースにいたはずのメンバーがパーツ漁ってて、話しかけたらいつもと違う声で支離滅裂なこと言ってパーツ持って出てったまま戻ってこない、とか。結構、堂々とやってるよな」
緊迫したピットボックス、固唾を飲みながら刻一刻と微量ながらも変化する環境をモニタリングするメカニック。
中継には普段映らない、この時間のピット内の独特な雰囲気に身をまかせる。
「ところでラピスさ、ちゃんと罠はってんの?」
「もちろんでしょ。”月”ならとっくに停めてるよ」
「じゃあ尚のこと合言葉いらねーなぁ?」
「ウルトいい加減さ、探偵のプロ視点とクライアントが求める安心の目線の高さを合わせるってとこ気にしたら?」
「いや、マンリーシャツ事件のお前に言われたくねーよ」
「人間、信頼はマイナススタートの方が早く築けるの。私からしたら一石二鳥な本能と言うか心理の仕組みと言うか、使わない手はないでしょ」
万事オーケー。やるときはこのチームを狙ってよね、害虫野郎。
──時は遡り
第六層一界-リアリス
世界歴 104679年4月12日 21時03分
「ハァ、ハァ……」
「おいおい。あんた達、これくらいで息を切らせてどおする。しかも命中してる始末。相手によっては数回は死んでるよ」
グランティとの初の稽古。
まばたきすら許されないほどの速さのマナエネルギー弾をかわし続けること1時間半、疲れはピークに達していた。
「(ただでさえ目視しにくいってのにこの速さ。クソッ! すでに5発は当たってるぞ。ラピスは3発くらいか)」
「どんどん撃ってきなさいよ。(もう4発も当たってる。4回死んだ、か。現実は常に残機1だし、残酷なほどに私は雑魚ね)」
グランティが手を上げ休止を告げる。
ウルトは天を見上げ崩れこみ、ラピスは四つん這いになった。
汗は滝のように流れ、双子の形相はまるで地獄行脚の最中を思わせる。
「なんや、あんさんら。こんなんで音ぇ上げとったら、先が思いやられまっせ」
うるせぇよ! 心の中で叫ぶだけで声に出せない、発せない。
「なんだい、今日のうちにヘラクレスとの連携イメージまで話せればと思ったけど、無理そうね」
ふざけるな、何が『じゃあ早速マナ弾避け続けて』だよ。
延々と終わらないこの状況。
開始は箒で避け続けガス欠、後は地面で魔法を使用し避け続けすでに数発命中。
その間に何か教えるわけでもない、ニタニタ笑いながら撃ち続けやがって。
このサディスト鬼師範が。
「こうしてみようって案の一つや二つも出た?」
「出てるけど試す間がない」
「右に同じく」
相手にしているのは単なるマナ弾。
目視では空気が歪んでるように見えるくらい、故に反応が遅れる。
しかし、実践はそんなもんだ。見えない、又は認知していないものが急に襲ってくる。
つまり、この高速、かつ視認性の悪いマナ弾に対応できる”ナニカ”を身に付ければ、汎用性高くスキルを運用することができる。
「まあ、考えついているとは思うけどヒント。あんた達はメテオラやアーマー装着でハーレクインを操作する時、何を意識してる?」
グランティの言いたいことはわかってる。
要はマナを察知し、瞬時に分析すればいい。それをシステム化すればいいんだ。
私達はお互いのマナを認識し合っている。
マナってやつは不思議だ、色も匂いも無いけどマナは誰のものか判別がつく。
今、双子が求められているスキルはたった一つ。
死なない、そのために汎用性、及び可用性共に高い水準のスキル。
そのカギが”マナの解析”。
「ま、簡単な話と言えばそれまでだよね。要はウルト以外のマナは敵って認知できるナニカがあればいいんだから」
「その通りね。ゆくゆくはヘラクレスや味方のマナもだけど。ま、その索敵スキルはラピスの方が向いてるわね」
「そりゃそうだろ。俺がやろうと思うと、俺のマナを含ませた空気で対象エリアを覆うことになる。索敵してることを敵に勘づかれるスキルは意味ないよ」
私みたいに極々小さい鉄粉を空中に”点”で散布するのと、ウルトみたいに”エリア”をマナで覆うのは敵から見たマナの認知レベルに雲泥の差が出るか。
「ウルト、半分正解だね。けど誤解してる。相手に気づかれてもいい状況ならわざと気づかせなさい。敵からしたらそのエリアは死角がないことになる」
「……それもそうか」
「つまり、隠密な索敵なら私が、一対一の状況なら私もウルトも能動的な索敵エリアの開示が必要ってことでいい?」
「そうよ」
よし、方針なら決まった。
「なら私は隠密、及び戦闘時の対人マナ検知に極小の鉄粉を四方で配置することにする。隠密なら1メートル間隔、戦闘なら10センチ間隔。名付けて『
「素晴らしい。四方の操作とその濃度は修行や戦闘でブラッシュアップしていきなさい」
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──時は戻り、現在
「(さて、上手くコースに出たし、ここからピットに戻るフリをしよう。顔は……あのエイプリリアメカニックに変えるか)」
エイプリリアファクトリーのメカニックに成り済ました何者かがラピス達の居るピットに向かう。
「ビンゴ! ウルト、阿呆がノコノコとやって来たよ。ピットに来てから感知してないマナをフリーズムーンが検知した」
「よし、きっと顔はチームメンバーの誰かだろ。『あれれー? さっきコースに行ったのに何かあったんですか? 』作戦実行だな」
稼ぐ気満々の犯人、捕まえる準備万端の双子。
ラッキー、でもそりゃレースの前に来るか。
さっさと終わらせてピットボックスからレース観戦するぞー!
ウキウキで犯罪者を待つティーンエイジャーの双子。
口角が上がるのを必死に耐えながらその時を待った。