第六層一界-リアリス
世界歴 104679年5月18日
──────
「ヘラクレス! ドア開けて!」
「ハイな! インアウト!」
剛速球の鉄の球が消えたかと思えば、まったく別の場所から出現した。
標的を狙い炸裂する。が、まったく的外れな方向に飛んでいく。
「ハハハ! そんなの、形だけの連携だよ」
標的となっている師範、グランティは悠々と避けながらカウンターを仕掛ける。
空中を疾走するラピスを機関銃の如く、マナ弾が襲う。
「バーニングウォール!」
ラピスとグランティの間に、ラピスを追随するように炎の壁が出現した。
ラピスの姿が炎に隠れ、そこをマナ弾が打ち抜いていく。
──弾指
グランティの後頭部に『大剣』の切っ先が向く。
突如、”空中”から現れたラピスが、狩りをする獣の如く、背後からグランティに襲い掛かる。
「なるほど、上手いね。確かに、その戦法なら目くらましは好手だね」
──弾指
ボッフ!!!
マナを背後に放出し、ラピスを大きく吹っ飛ばし、後退させる。
振り向かずにラピスの急襲をいなすグランティ。
──弾指
ッゴォォオオオォオ
空中から、巨大なバーナーの如き火柱が3本現れた。
しかし、これもグランティに対し、的外れな方向に放たれる。
「これもダメね。ヘラクレスの空間魔法を攻撃のバスにするのはいいんだけどね。如何せん、コントロールが悪い」
──弾指
「っこの!」
グランティの左斜め上空から、生身のウルトが火剣で切りかかる。
──弾指
ッボフゥー!
ラピス同様、吹き飛ばされるウルト。
顔をしかめ、受け身をとった態勢のまま、空中に消えていった。
戦場は高度50メートル。
攻防のほとんどが、指を弾くほどの短い時間で行われていく。
掃除用の箒に跨り浮遊するグランティ、微動だにしない。
──キィイィィイイイィィィイン!
飛ばされた地点から大きく旋回したラピスが、グランティの前方に飛び込んでくる。
全身にアーマーを纏い、背中に装備されたブースターが高密度のマナエネルギーを放出している。
右手の手首より先が、大きな剣の刃と化している。
「クソッたれぇ!」
──ボフン!
グランティがマナを放つ。
「っく! っそ!!!」
ブースターの出力を上げ、グランティのマナ放出を肉弾となって耐え、突っ切る。
「うるぁぁあ!」
顔に装備したアーマーを解除し、手首以降の大剣を指のような形に変化させた。
グランティを肩から切り裂くように振りかぶる。
──ッス、ブン!
グランティは後退し空中に消えた。
大きな獣の掌のようなラピスの腕が、虚空を切り裂く。
「ッチ! ヘラクレス!」
ラピスも後退し、空中に消えた。
「っあー、腹立つ! ぜんっぜん当たんない!」
「空間から放出する攻撃のコントロールは気にしないようにしよう。そっちの成熟よりもグランティを追い詰める策を練る方が先だな」
「せやな、コントロールは正直しんどいわ。なんならミリ単位やで。それよりもオカンを捕まえる方が先やな」
「てか、もはや休憩時間じゃない? この空間を出たら、広場にグランティいるんじゃないの?」
ヘラクレスが生成した空間、『アジト』に退避し作戦を練る2人と1匹。
ラピスの一言で、ヘラクレスが空間から出て状況を確認する。
「なんや、オカン休憩しとるやないかい」
「そうね、退屈だったからね。2人にも休憩と伝えてこっちに呼んで」
グランティはラピスの発言の通り、広場の倒木に腰かけていた。
『退屈て』と思いながらアジトに入り、2人を招集する。
「うーん……ラピス、あんた素晴らしいね。間違いなく対人スキルはアルカナで10本の指に入るよ」
師範にトップテン入りを宣言される姉。
マジかよ。確かに魔法戦闘なんて、国防の人間くらいしか本職じゃない。
魔法戦闘を心得ている人間は少ないには少ないけど。
それでも、そう言わしめるか。
「グランティに一発も入れれないでトップテンなんて言われてもね。嬉しくないね」
「もちろん、私やあんた達のように、魔法戦闘のモグリも含めてトップテンだ。保証するよ」
「どうだっていい」
おいおい、師範が自分と同列って言ってんのにキレんなよ。
けど、さすがラピス。悔しさが勝つか。
「あのね、わたしゃ攻撃が当たらないから強者なの。それに、修業とは言えこっちは攻撃してる。それをいなしてる」
「で? 私はどう動くべき? グランティみたいに攻撃が当たらない敵を相手にさ」
『……ハァ』とグランティがため息をつく。
「あのね、冷静になりなさい? これは修行なの。実際に私みたいなタイプと対峙した場合、倒すまで戦闘を続ける?」
──ビタン
ラピスが天を仰ぎ、右の掌で額を叩いた。
「ね? ターゲットの打倒が目的なら倒すわね。けど大概は別のことが目的じゃない? あくまで、この修業は攻撃パターンの実践的経験が主な目的よ」
「……そうだけど、腹立つ」
いやいや、問題は俺だろ。
「あのさグランティ、俺はかなり危機感があるというか。なにか伸びしろないかな? ラピスみたいに対人向きじゃないにしろ、今はヘラクレスにおんぶに抱っこだ。」
「そうね。ウルトはユーティリティだけど、対人が課題ね。一緒に考えましょう。」
「それゆーたら、ワテもや。生成してる空間をもっといいように使える気がするわ」
ヘラクレスはグランティにマナを分けて貰っている。
だからクワガタなのに喋れるし同じ能力を使えるが、それでも空間のサイズなどは同等に作れない。
「ちょっと待って。そもそもなんでヘラクレスはフルでグランティの能力を使えんの? 下位互換とは言えさ」
「ラピス、割って入んなよ。今は俺の話だろ?」
「は? 私に5万マグよこしな。そうしたら、対人スキル成長のヒントを教えてやるよ」
グランティは何か考えるように遠くを眺める。
「……そうね。そもそもあんた達には戦闘以外のことも教えなくてはならないね」
「でしょ? そもそもウルトがヘラクレスみたいにさ、私の能力を使えれば『ジャンヌ』を使えるわけだから解決じゃない?」
──モード:ジャンヌ
ラピスの対人戦闘の要であり、グランティとの修行で身に着けた能力。
全身を鉄のアーマーで覆い、箒のブースターから着想を得た背中の飛行装置で高速移動を可能にする。
アーマーは変形可能で、今は大剣か鉤爪を主に使用し、近接戦闘の修行に励んでいる。
「無理ね。『魂の重さ』が同等だもの。まあ方法がないわけではないけど、出来てもせいぜいハーレクインの方向修正くらいね」
「それって修行が必要なのか?」
「いいえ、ノーリスクで今すぐに出来るわよ。要は使用したい人間の魔法を刻んだ魔具を装備すればいいのよ」
「あのさウルト、出来る出来ないじゃなくて、ナゼ出来てナゼ出来ないかを知りたいんだけど」
ヘラクレスがホバーしながら顎を左右に振っている。
「そんなことよりも、ワテやウルトはんの戦闘スキルの向上の話が先でっしゃろ!」
グランティが肩をすくめる。
「ウルトの前にヘラクレス。あんたは今、部屋を何個作れてどのように使用してる?」
「部屋は5つや。拠点となるアジトが1つと、その他はアルカナの空気で満たされた部屋やな。箒やラピス姐さんのブースターのマナ取り込み口に付ける用や」
「今は箒を使用しない前提で修行してるし、その使い方は冗長だわね。アジト、マナ供給用、他三つは別の何か。これがベストじゃない?マナ供給用は一番大きくしな」
「なるほどな。そうすれば3つの部屋をどう使うかで戦闘スタイルの幅が広がるっちゅうわけや」
この風景を見てても思う。修行は本当に勉強になるし助かる。
俺もグランティが居なかったら、未だに酸素濃度上げて火を着けてってだけの戦闘スタイルだったぜ。
「ラピス、さっきの5万マグ相当のヒントを私に話しな。本当にそれだけの価値があるか、ウルトが払う前に判断しようじゃないか」
ラピスが立ち上がりグランティに耳打ちする。
「……コソコソ、……コソコソ、でそうすれば常に、……コソコソ。しかもヘラクレスにも、……コソコソ」
「うん、素晴らしい。5万以上、10万と言ってもいいかもね」
満面の笑みで、肩にかかったウェイビーな髪をはらうラピス。
値段上がってんじゃねーか! でもそれだけの情報なのか?
「ウルト、リアリスの車やバイクって知ってる? さらに言えばエンジンは?」
「……あー、リアリスの移動手段だろ? 知ってるけど。そのエンジンってのは名前だけだな」
「あんた、エンジンを体現しなさい。あと空気操作で透明になれるでしょ」
俺は任意の範囲を透過させる空気操作を会得していた。
しかし、その任意の範囲はマナで操作するため、隠密のおの字もない。
「だったらなんだよ。あんなマナの塊、リアリスくらいじゃなきゃ隠密にも使えないよ」
「隠密にする必要はあるの? 対人戦闘で重要なのは駆け引きよ。前にも索敵範囲の開示が重要って教えたでしょ。」
は? 何が言いたい?
戦闘中に姿を隠してもマナで場所がわかるだろ。
「グランティ、20万払って。ヒント言い過ぎ。商売になんないから賠償金払ってね」
「いいわよ、ラピスちゃん。けどジャンヌの雛型をアイデアから昇華させてあげた30万が未払いだから、10万を私に払って」
無言、かつ無表情でラピスが中指を立てる。
「おい、ラピスよせよ。後で飯奢ってやるよ」
「あ、ウルトはん。アジトの使用料でワテにも黒糖ゼリー頼んますわ」
『今はそういうのいいんだよ』とツッコミを返す。
「エンジンってのはね、爆発する気体を吸い込んで圧縮するの。それを爆発させて動力にするのよ。で、その爆発した気体は排気されると」
「気体を吸い込んで爆発ぅ?」
「そ。吸入、圧縮、燃焼、排気。エンジンの四大行程。あと、透明になれるなら鏡のように自分を映すことも可能じゃない?」
空気を吸い込むって?
真空を作ればそこに大気が流れる、つまり吸気は再現できるな。
爆発って、それは無理だろ。
いや、そもそも真空に吸気された分を圧縮して、それを一方向に放出すれば……。
「吸入、圧縮、燃焼、排気……。それと俺を映す……、鏡……」
「ウルト、言ったからな。帰りにオートマットd」
──ッダッガーァァアン!!!
轟音。時が止まる。
ウルトが数十メートル後方へ吹っ飛んだ。
ウルトが立っていた場所には大きな窪みができている。
ウルトは仰向けで手を天に掲げている。
静寂がその場を支配する。
「……あんた、何したの?」
自身の可能性に思考とドーパミンが止まらず、姉の声も届かなかった。