第六層一界-リアリス
世界歴 104679年5月18日
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「……よし、早速修行を再開しよう」
「なに仰向けのままカッコつけてんの。私まだ疲れてるし」
ラピスを無視し起き上がると、グランティが満面の笑みを浮かべていた。
「何をやろうとしているか言いな。威力は認めるけど、実戦で使えるかな?」
確かに、グランティの言う通りだ。
咄嗟の閃きで何も考えずに実験してこの威力。
「ヒントを活かしたんだよ。真空のエリアを作って、一部に穴を開けて勢いよく吸気して正圧を作って、それを圧縮した」
「それで?」
「それを足元に向けて開放したら吹っ飛んだ。……吸気と排気は一連じゃなくて、吸気だけとか排気だけでいいかも。やったことなかったけど、大気を圧縮して放出するだけで使い物になりそうだ」
「よし、いいね。そしたらヘラクレスの部屋を使おう。1個は真空の部屋にしな。ヘラクレスはその部屋に穴を開けるだけで大きな吸気が発生する。意味わかるね?」
「敵の近くで穴開ければ足止めに使えるやろし、なんならそのまま吸い込んで部屋に閉じ込められるな」
いいぞ、ヘラクレスとの連携にもつながる発想だ。
排気の方は圧縮するエリアがデカければ、開放の時の威力も上がるだろ。
「その吸気と排気を分けるって案だけど、場合によっては一連でもいいと思う。時として、その方が強いでしょ」
ラピスの意見が引っかかる。
別に大気圧を圧縮すれば良くないか?わざわざ真空から繋げなくとも。
「確かに、汎用性を考えるなら分けて運用するべき。けど、ここぞって時に確実に敵に一発入れたい時は? 吸気で相手を引き付けて、圧縮からの排気じゃない?」
「……確かに」
『けどそうすると圧縮のタイミングでコンマ数秒ラグが出るよな?』
『じゃあ圧縮した空気を常に持ち歩いて、吸気は攻撃のタイミングならどう?』など今後の運用について語らう。
「2人とも良い感じね。ちなみにウルト、自分の姿を空気に映すって方は何か閃いたかい?」
「そっちはなにも浮かんでないよ」
「例えば、わたしゃマナを識別して攻防する。手練れはそうだ。だからあんたの言う『姿が見えなくても意味ない』は一理ある」
俺達はまだマナの識別だけで攻防はできない。
けど、その戦闘スタイルはグランティで見ているからイメージはできている。
「マナ識別以外に視覚も合わされば? 今はアジトからの出入りがメインだが、あれはあれでわかりやすいんだ。急にマナが出現するからね」
「うん」
「つまりねウルト、グランティは虚像を作って戦闘に織り交ぜろって言ってんの。そうすれば、透明なあんたがマナ検知されても攻撃が通るかもでしょ」
なるほど! 脱帽だ。
この数分のやり取りだけで、自分の可能性がどんどん広がっていく。
なんで俺は今まで思いつかなかった?
よくラピスが『アイデアなんて、所詮は既知の要素の新しい組み合わせだから』って言ってるけど。
俺に足らないのはアイデアを出す思考回路か、思い知ったぜ。
「ところでやで? あんさんらは当たり前のように言うてはるけど、なんでリアリスってマナが無いん? ここはオカンの作った空間の中で、アルカナの大気で満たされてるからいいとしてや」
「うーん。ラピスとウルトには魔法のなんたるかを、ヘラクレスには世界の摂理を、か」
「せやねん。ワテなりに上手くやってきたけど、わからんもんはわからん。最近よく会うロックスはん言う人からマナを感じへんねん。アルカナにおんのにやで?」
『そうそう!』と、双子も興味津々でグランティに意見を伺う。
「そいつ変なんだよ。オートマットでトマトスープ飲むんだぜ? で、マナを感じない」
「そうそう、言ってることはわかるんだけど意思の疎通に苦しむの、一方的で。しかもマナがない」
「いや姐さんそれ、ロックスはんの人となりや。てか、あんさんらもマナがないのわかっとったんかい!」
グランティは呆れてるのか、興味があるのかわからない表情をしている。
「確かにトマトスープを飲むってだけでアルカナ出身じゃなさそうね。……マナがない、ね。その認識をあんた達が今、初めて共有したのはいいとして、妙ね」
「でしょ? ヘラクレスを魔具って紹介したらさ、魔具にピンと来てないの。どこの出身だと思う?」
口に手を当てて考え込むグランティ。
『少なくともアルカナの出身ではないね』と言い、話を始めた。
「まずはヘラクレスのために授業からね。抽象的な問いになるけど、ヘラクレスは世界をどのように認識してる?」
「うーん、なんかこう階層になってるんでっしゃろ? 水平にも世界があって。ほいで、ワテらが下から2番目の第五層で、左から6番目の六界にいると」
「そうね。アルカナは第五層六界。魔法世界とか、0506なんて呼んだりするわね」
グランティは指南用のホワイトボードに図を描き始めた。
「ここ以外も含む世界全体は、合計で『31の世界』で構成されている。最高層の一層に1つ、二層に2つ、三層に4つで四層に8つ。アルカナのある五層に15あって、第六層にリアリスが1つだけ」
「んー、たぶんリアリスの存在がワテの理解を苦しめとるわ。第五層に16あった方がスッキリやん」
描かれた図は縦に長く、下が異様に短い菱形になっている。
図中に水平に線が引かれており、6つのエリアに分けられている。
「私達はこの第五層にいる。一般的には、層が上へ行くほど自然エネルギーも高次元になるとされているわ」
図の上から五番目、一番面積のあるエリアをグランティは塗りつぶした。
「『第一層のアニマ』は魂だけの世界があるって学校で習ったよね」
「だな。この世界は
「そうそう。あ、ヘラクレス。ジンゴは世界歴の元になってる人ね。けど、それも諸説あるよね。誕生日から世界歴が始まってる説もあれば、この世界に降臨したのは30代で世界歴イコール年齢じゃないとかさ」
アルカナ世界の一般教養を双子が語りだす。
「どれも一理あるわね。けど10万年以上前だから誰もわからないわ。それに降臨って、じゃあこの31世界以外に世界はあるのかってね。それこそ陰謀論ビジネスの謳い文句だわね」
階層世界、世界歴。
ヘラクレスが尚のこと悩み始める。
「なんや、壮大やな。リアリス人は魔法使えんけど、アルカナ人は使える。アルカナよりもっと上は魔法より凄いのを使うん?」
「そこよ。そもそもリアリスが最下層なのは『ほぼ自然エネルギーが無い』からよ。だから世界に存在する物質を組み合わせてやりくりしてるの」
「ほいで?」
「ズバリ、アルカナはかなり自然エネルギーとの共存が発展してる。これはパラレルに位置する他の14の世界の中でダントツ」
『そして、ここからが本題』とグランティは続ける。
「私は四層に行ったことがある。『テリオン』と『カタコンバ』よ。その2つとも、アルカナより自然エネルギーとの共存が進んでいない、正確にはリアリスと同様な生活を送っていたわ」
「ちょっとまって、どうゆうこと? 上層の人間は私達がリアリスで魔法を使わないのと同じように、アルカナに来ても上層のナニカは使っていないだけじゃないの? 発展してない?」
「そうだよ! 俺なんて観光で来てるけどいちいち上層出身って言ってないだけだと思ってるぜ?」
「ちょい待ちや、なんでパラレルだけやのうて、バーチカルにも世界があるのわかっとって、上層の人らのこと知らんの?」
グランティが一人ずつ目を見ていく。
「まず、アルカナで私は忘却のグランティ。書状はなんであれ、普通のアルカナ人より世界の真理を知っているわ」
また、一人ずつ目を見ていく。
「今から語ることは、私が今時点であんた達に教えてやれることだよ」
『今時点』という言葉に違和感は抱きつつも、学校教育では教わらない内容であると確信する一同。
忘却のグランティが口を開いた。