第六層一界-リアリス
世界歴 104679年5月18日
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「この世界は降りるのは簡単だが、昇るのは難しい。そうだろ?」
確認しているというより、世界の真理について真言を語っている顔をしている。
「世界間の移動はポータルで行われるが、おおもとの基礎は空間魔法だ。そこに様々な魔法をかけ合わせて、あれほどまでに完成されたシステムを国が運営してる」
「空間魔法って、グランティも一人称で世界間移動できるの?」
「ラピス、その質問に今は答えないわ。それに関わることを今から喋るから」
ホワイトボードの図に赤ペンで斜線を入れていく。
ひし形の上の方ほど、色が濃くなるように描き足していく。
「つまり、前提としてアルカナの技術で出来るなら、第五層含め上位層は全て世界間移動ができるんだよ。なぜだかわかるかい?」
「ポータルの起動はマナが原動力だし、他の世界にも同等かそれ以上の自然エネルギーが存在しているからだろ」
「そうだねウルト、正解。ここ、最下層のリアリス以外には、全ての世界に何かしらの自然エネルギーが満ちている」
「せやからリアリスだけ第六層なんやな。そこは理解したわ」
グランティがヘラクレスにナイスと親指を立てた。
「問題は下層から上層への移動が基本はできないということ。パラレルか下層だけ」
「え、どういうこと? 私達は出来てるけど」
「そう、なんで出来るんだと思う? 世界にはねルールがあるの。炎が氷を溶かすように、人が空気を吸って生きているように。森羅万象の摂理が」
グランティは何を言っている?
俺達はリアリスに来ても、アルカナに戻れてるじゃないか。
「確かに。気にしてなかったけどアルカナから上層に行くポータルはないね」
「え、ラピス姐さん気にしてなかったん? ワテはてっきりアルカナとリアリスみたいに、上の四層も好きに五層に来れるし戻れるけど、アルカナは上に行けんと思っとったわ。ワテらから見たリアリスの立ち位置やからな」
「ヘラクレスの言ってることはその通りなんだけど、本質的ではないわね」
そこなんだよな。もちろんヘラクレスの言ってることは理解してた。
けど、そもそも自分たちが四層に行くって考えがそもそもなかったというか。
「まず、下層の自然エネルギーでは絶対に上層へは行けない。上層に行くには、その層以上の自然エネルギーが必要になる」
あー、なるほど。一同納得だった。
それなら俺達がリアリスを好きに行き来できていることに合点がいく。
「それがグランティの言う、森羅万象の摂理なわけ?」
「そうよ。学校では教えてくれないでしょ。さらに言うと、教える教えないの話じゃなくて根本的に意識がないのよ。上にも世界があるって事実だけ知ってる」
「けど、なんでそんなに俺達は意識しないんだ? 上層をさ」
「だってパラレルとリアリスを行き来できてるじゃない。それに世界の構造をこの絵のように習っても、世界全体を俯瞰して見るわけじゃない。絡まない世界に意識が向きにくいのは当然だわね」
ホワイトボードの世界構造は学校で習う。
けどグランティの言った『世界全体を俯瞰して見るわけじゃない』は、意識の根本を付いている気がした。
『それでね』。グランティが話を戻す。
「さっき言ったように、私は四層に行ったことがある。方法は簡単。上層の自然エネルギーを使って行ったのよ」
「待って、今時点で矛盾してない? 行った四層はアルカナみたいに発展してなかったんでしょ? 何をどの様にして四層の自然エネルギーを使ったわけ」
「フフ、ラピス興奮しすぎ。答えを先走るなんてらしくないわね。それに誰が四層の自然エネルギーで上層に行ったって言った?」
ラピスが悔しそうに目を細めてグランティを見る。
「私はね、『第二層二界ウィンクルム』の技術を使って行ったのさ」
全身に鳥肌が立った。
「0202のウィンクルムの技術を使って行った!? どういうこと!?……てかウィンクルムってどんな世界だっけ?」
「そうだよ! 二層は0201と0202の二つしかないだろ? その片方って……てか第二層の技術ってどんなだよ!?」
興奮する双子、温度差のあるクワガタ。
「なんでオカンはその技術を使えたん? てかなんで四層までで止めたん? 二層まで行けるやろ」
『確かに!?』と双子がらしく、ハモって叫ぶ。
「ウィンクルムの技術の出どころは教えない。……いえ、教えたっていいの。覚えてる? 師弟関係を結んだ時に言ったわよね、戦士の仲間が欲しいって。ウィンクルムの技術を知るということは戦士になると言うことだよ」
この言葉で、今までの話が国家機密に絡んでるんじゃないかと思えてきた。
好奇心と恐怖心が混ぜ合わさり、何とも言えない興奮を感じている。
「さすが忘却のグランティ。私も前に言った通り、戦士にはならない。貴重な話ありがとう」
「いいさ。それに教えないのはウィンクルム関連だけだよ」
「じゃあなんで四層までで止めたんだよ。ヘラクレスの言う通り二層にまで行けただろ?」
「そうね、正直怖かったから、かな。だってそうでしょ。二層の技術を手にした途端に、アルカナの技術やエネルギーでは絶対に行けない場所に簡単に行けるのよ」
それもそうか。
……そうなのか? 今、あのグランティが恐怖を口にした?
「へー、師範様にも恐怖が御有りだったんですねぇ。良かったですぅ、人間ってわかって」
「ラピス、私達の根源はマナだ。他の世界にはそれが無い。どういうことかわかるだろ? ガス欠、イコール死だ」
「で、行った所はリアリスレベルの発展感だったと」
グランティが頷く。
「まずね、自然エネルギーは感じるの。もちろんマナとは別な。そしてそれを人々が宿しているのもわかる、感じる」
「想像はできるな」
「でもね、アナログなの。もしかしたら自然エネルギーを使えるのを隠しているのかもしれない。そこのエネルギーがマナのように使い勝手が良いものでもないのかもしれない。だとしても、文明が発達していないの」
急につまらなく思えてくる。
上層はもっと面白くって、箒レースももっとエキサイティングなナニカになってると思ったのに。
「はっきり言って拍子抜けだったわ。一瞬の気のゆるみが命取りになるような、そんな所にわざわざ赴いたのに。これが四層? これが上層? ってね」
今の発言はいつものグランティだな。
戦闘狂と言うか。でもそんな死線に飛び込んだと思ったら、文明が発展していないのはがっかりするか。
双子とクワガタがオチのつまらない冒険譚に落胆しはじめる。
「で、アルカナに帰ってきたらこれでしょ? ありとあらゆる物がマナによって駆動されている。上層にはこんな賑やかさが静かに思えるくらいの、ナニカがあると思ってたのに」
完全に落胆する一同。
つまんねえな。
ウィンクルムの技術で上層に行ったまでは興奮したのによ。
「ね? あんた達は気付いたかい?」
「上層も大したことないねんな。……それかもしや、世界を俯瞰して見れないゆうことはや! 上層と思うとった世界はパラレルやったとか!?」
グランティが首を横に振る。
「アルカナのポータルには存在しない場所だったし。それに感覚の話だけどね、上に昇った感覚があったの」
「あー、わかる! パラレルに行くときは横に移動してる感覚があるし、リアリスは下がる感覚あるよね、ポータルの中でさ」
「あれな! こうGが掛かってるって言うか、こうグーンて感覚な」
「ワテはずっとホバーしてるから感じんのかいな? いや、だとしてもやな上層に行った証拠に欠けるゆうか……」
うーん、なんか思考実験みたいになってきたな。
ラピスも難しい顔をしている。
グランティが嘘をついてると思えないが、確かに上層に行ったという、確固たる証拠が無いというか。
本当に行った場所は上層だったのか?
グランティが上層に行ったと思ってるだけじゃないのか?
「異常なんだよ。アルカナが」
その一言で場の空気が変わった。
ゆるんだ緊張の糸が引き伸ばされた。
「気付かないかい? なんでアルカナはこんなに発展している? なんで他は発展していない?」
「言われてみれば、『ルクシア』は宝石とか鉱石だらけだし、『ペラギア』は島しかないリゾート地だし。……あ、ルクシアも観光地か」
「『マキナ』は栄えてない? リアリスのジャパンのトキオみたいじゃん、ネオンとかさ。あそこは『シグマ』だっけ? あっちのマナみたいなやつ。」
「そうね、マキナはアルカナの次に発展してるわね。けど個人のシグマの特性を活かして独自のナニカを個が有する、成長させるって段階まで発展してないし、ナレッジが出来ちゃいないよ」
「しかもそれをアルカナ人が教えたくても、教えられへんのやろ? モノがちゃうゆーて」
『その通り』とグランティが肯定する。
「ね? 第五層で二番目に発展しているマキナでさえ、そのレベルなの。多分その次がオカルティア。……もう一度言うわ、アルカナが異常なの。パラレルと比べても、私が行ったことのあるバーチカルと比べても」
ラピスは口に手をあて、ウルトは真上を眺め、ヘラクレスは体を左右に振って考え込んだ。
アルカナが異常?
俺達にとっての普通が発展している。いや、発展し過ぎてる?
「そして私はその理由を知っている。魔法の母『マナシウス』がマナを発見し生涯研究した、その功績だけが我々アルカナ人の文明発展の根源ではないの」
双子とクワガタがグランティの目を見る。
グランティが一人ずつ目を見ていく。
「この世界はね、発展するべくして発展した。だから私が戦士になった」
すでに修行のことなど頭になく、世界の真理への探求のみが思考を支配した。