第六層一界-リアリス
世界歴 104679年5月18日
──────
「さ、修業に戻りましょう」
グランティが唐突に修行へと話を戻した。
「ちょっと待ってくれよ。全部とは言わないけど、もうちょい聞かしてくれよ。世界の真理」
「じゃあウルトに質問。あんたは今までの話を聞いて何を思った?」
「何をって、そりゃ面白いなと思ったよ。……けどまあ、それとは別にだから何だよと思ったね」
グランティがうんうんと頷いた。
「そう。別に世界について知ったところで明日からの生活が変わるわけじゃない。だからこそ修行して成長しようと言ったのよ」
「じゃあ、なんでグランティは戦士になったわけ?」
「ラピス、今のあんた達のように、世界について語ってくれた先生がいたのよ。そして、私は戦士になることを選択して全てを知った」
『なるほどね』、そういうとラピスは立ち上がった。
「ヘラクレス、アジト」
「ん? ハイな」
ラピスが空間に消えていった。
グランティの言う戦士にはならないという意思表示としては十分だった。
「良いね。潔い。」
俺も立ち上がって服を払った。
「ウルト、遠慮しなくていい。どんどん攻撃しな。回数をこなさなければ見えない課題は沢山あるよ」
「わかった」
ヘラクレスと一緒にアジトに入った。
──1時間後
「インテーク!」
空中に空気を圧縮した足場を作り、そこに立ったウルトが叫ぶ。
──ブオォォォ!
グランティの後方に直径2メートルほどの真空を作り、そこに吸引する。
「ハハッ! 上手い!」
グランティは真空へ引き寄せられた瞬間、その吸引力を利用して自身の空間へ退避し、空中に消えた。
「ウルト!」
ラピスが叫ぶ。
消えた直後に、ラピスの
「オラッ!」
ラピスが指さした方向に、圧縮した空気の塊を複数放つ。
──キンッ、ッシュ
ジッポを開き、炎を灯す。
「
──弾指
バッダァァァアアァァアアアァァン!!!
空中に複数の炎の糸が現れた瞬間、大きな爆発が発生。
圧縮した空気へ繋げておいた酸素の糸を、ジッポの炎が瞬時に辿って爆発させたのだ。
「うお! バーニングウォール!」
「ちょっと!」
あまりの勢いにウルトもラピスも爆風に巻き込まれる。
ウルトは炎の壁で、ラピスは左手のアーマーを盾に変形させて防ぐ。
「ガラ空きだよ!」
グランティがウルトの背後に現れて近距離で特大のマナ弾を放つ。
──弾指
ボッバァァアン!
「ッヴ!」
緑色の髪の毛が、空中に舞った。
グランティが勢いよく後方に吹っ飛ぶ。
どうだ、俺の
──
空気を圧縮した状態をただ開放すればエクスパルジョン。
そこへ火を放って爆発させたのがエクスブレイズ。
エクスパルジョンに至っては、強い衝撃が加わればオートで暴発する。
一連の攻撃と虚像を上手く組み合わせ、虚像の中へ圧縮した空気を配置した。
「グランティに一発入れるの、ウルトに先手とられるとはね」
「っしゃ! デコイに掛かったな!」
「ん? おわっ! オカン、くらっとるやん!」
ウルトはバーニングウォールを使用したタイミングでアジトに戻っていた。
ヘラクレスと共に外へ出る。
「アーッハハハハハハハハハッ!!!」
攻撃を食らったグランティが、吹き飛ばされた先で微動だにせず、高笑いを始めた。
「ヒーッヒッヒッヒッヒ、アーハッハッハッハァー!!!」
人が変わったように、歪んだ表情で笑い続ける。
顔中にしわが寄り、目は虚空を見つめながら天を仰ぎ、大きく口を開け、腕は力ないように胸に添えている。
「いつまで笑っt」
「この世界を取ることが出来る!!!」
ラピスの言葉に被せて、グランティが声高らかに叫んだ。
「私、ヘラクレス=ブレント、ラピス=ポアロ、そしてウルト=ポアロ。この4人がいれば世界を手中に収められる! 今、この瞬間!」
「オカン、ちょい待ちや! なんやこの世界を取るって! リアリスのことかいな!?」
「ッフ、言い間違いさ。もちろんアルカナをだよ。とはいえ、それは可能かどうかの話であって、本当に国家転覆を考えちゃいないさ。ここに存在する武力に興奮しただけだよ」
いつものグランティに戻ったようだが、目が座っている。
師匠に念願の一発をかました余韻が一瞬で吹っ飛んだ。
グランティは何を言っている?
アルカナ世界を取る、だ? 世界征服発言じゃないのか? 本心は何だ?
「ラピス、あんたの魔法戦闘スキルはアルカナで10本の指どころじゃないわね。5本よ」
グランティが空中で並んでいる3人に向かって、右手を開いて5本のジェスチャーをした。
「そしてウルト、あんたは3本だ」
右手の親指と小指をたたんで、3本のジェスチャーをした。
俺がアルカナの魔法戦闘で3本の指に入るだと?
師匠の自称とは言え、あのグランティが言っている。鳥肌が立つ。
「あ? どういう番付だよ、グランティぃ。説明しろよ」
隣を見ると、ラピスが鬼のような形相でグランティを睨んでいる。
「ウルトはん。ラピス姐さん、どうしたんや? ウルトはんに負けてキレとるんか」
「わからない。けどマズいかも。昔キレた時に似てる……」
普段の綺麗な顔立ちは何処に。
ラピスの顔が怒りに震えている。
「その時はどうなったんや」
「……俺が右腕と左足の骨を折られたよ。母ちゃんが止めに入らなかったら、左腕も折られてた」
「いや、それ姉弟喧嘩の範疇やないで!?」
そう、俺が間違って──。
間違ってラピスが中古で手にいれた、ファビオの直筆サイン入りカードを傷つけたあの日。
「俺はあの日。顔面もボコボコで2か所骨折してる状態。その状態でファビオのサイン入りライダースカードの美品を、3万マグで買わされた」
「なんや、そりゃけったいな。……え、それ結果ウルトはんが悪いからですやん」
「お前さ、感覚がマヒしてきてるよ。俺に非があったとしてもだ、本気で謝ってる人間の腕にハーレクインをぶつけて骨を折るのはないだろ」
「……ほんまや。ワテ、ラピス姐さん相手に感覚がマヒしてもうてるわ」
過去の凄惨なラピスの
ラピスの顔が、先ほどのグランティの歪な笑顔の対比のように憤怒が溢れている。
「あたしゃあね、アルカナの魔法戦闘の強い奴はほとんどを知ってる。1位は不動、2位は多分だけど、こいつってね」
「じゃあ、ウルトが3位なら、私は4位か?」
「3位は合ってる。けど4位は私で5位がラピス、お前だ。5本に入るって言ったけど、こうやって順位付けするとそうなるね」
地中の鉄が、空中にいるラピスのアーマーへ吸い上げられていく。
さながら二本のロープが地上からラピスと繋がっているようだ。
「フカしてろよ、糞ババアぁ。一発ぶち込んで超えてやるよ」
ラピスのアーマー、もといジャンヌが大きくなっていく。
グランティの発言のナニカが、ラピスの怒りのスイッチを入れた。