第六層一界-リアリス
世界歴 104679年5月18日
──────
──弾指
──ッゴッキュイイイィィィイイン
背中のブースターを最高出力でぶっ放し、瞬時にグランティに接近する。
「ッラァ!」
右手を大剣にし、グランティを突く。
──ッボ、ッスゥ
グランティが自身に向けてマナを放ち、その勢いで空中に消えた。
「うわ!」
「なんや!」
ウルトとヘラクレスが驚くほど広範囲に、ラピスが
「出てこい!」
両手のアーマーを変形させて機関銃の形に形成する。
──弾指
──ダッガガガガガガガガガガガガッガガガガガガ!!!
グランティのマナを検知した方向へ機関銃を撃ちまくる。
自身のアーマーから弾を生成しているらしい。
みるみるうちに、アーマーが小さくなっていく。
空中から放たれた弾丸の雨は地上に降り注ぎ、土埃が空中まで舞い上がる。
「お粗末!」
グランティがラピスの後方から出現しマナ弾を放つ。
地面に一直線に吹っ飛ぶラピス。
──弾指
「あれが私だったら良かったのにね」
グランティの首に左腕を回して裸絞めにし、右手の手首より先は鉄砲の形に変化していた。
ラピスはそれを、グランティの頭に突き付けている。
ラピスが吹っ飛ばされたと思ったものは、ジャンヌの一部だった。
「お見事。それでも今は4位。なんでかわかるだろ? 大丈夫。あんた達は甲乙付けれない、強い戦士になる」
「わかってる。戦士にはならない。ウルトに先を越されて私自身にイラっとしただけ、グランティを超したならそれでいい」
2人の戦闘が静かに幕を閉じた。
ラピスの怒りは、ひとまず静まったらしい。
「ウルトが一発入れた時。正直、私は何もしてなかった。それなのにグランティの個人的ランキングで昇格して、しかもウルトに負けるとなるとね。さすがにプッツンきちゃった、自分にね」
淡々とキレた理由を説明するラピス。
激昂の理由が判明しただけまだマシか。
とはいえ、今回は自分自身にキレたからこれで済んだけど、怒りが他人に向いていたらどうなっていたことか。
何はともあれ。
一旦落ち着いたし、まずは整理から始めよう。
「あー、えっとグランティさ。お褒めの言葉を頂いて申し訳ないけど、なんでたった一発で師匠を超えた判定なの?」
「ウルト、魔法戦闘で一発食らうってのは敗北、死、それらでしょ。それに、空間魔法は私一人ではこれが限界。十分本気でやってるわ」
「え、じゃあオカンと同じワテはもっと下やん」
「そんなことないわ。ヘラクレスにはラピスやウルトがいる。空間魔法やマナ吸収体質の度合いが私より劣ったとしても、仲間の力でカバー出来るわ」
そう言うと、グランティは大きな指輪を2つ取り出した。
球体の下部に指を通すための穴が開いており、その真上には綺麗な平たい鉱石が判子のように付いている。
「ラピスとウルトに一つずつあげる。お互い、その指輪にマナを込めなさい」
赤い鉱石をラピスに、青い鉱石をウルトに渡す。
鉱石には別々の刻印が刻まれていた。
「なにこれ」
「さっき言ってた、他人の魔法を使うための魔具よ。それを常に身に付けなさい。互いの能力をちょっとだけ使えるし、その能力の根本を知るのに役立つわ」
「オカン、ワテは?」
「ヘラクレス、焦らないの。ほら、まずは2人とも言った通りにやりなさい」
言われるがままに、リングを指にはめてマナを込める双子。
「凄い。マナが吸われていくというか、馴染んでいくというか」
「不思議な感じ。私の分身まではいかないけど、私を感じる」
「いいね。マナを込めれている証拠さ。その感覚が無くなったらもういいよ」
言われた通り、感覚がなくなったところで指輪を外す。
「よし。ヘラクレス、私の手に乗って顔を見な」
「ん? ハイな」
「2人とも、ヘラクレスの羽に、スタンプを押すように刻印を押しつけな」
ヘラクレスの硬い上羽に、双子が交互に指輪を押しつける。
右にラピス、左にウルト。
指輪を離すと、ヘラクレスの上羽に白い刻印がタトゥーのように残った。
「え、なにこれ? これでヘラクレスが私の能力使えるようになったの?」
「どうなってますの? ワテは何も見えてへんし、わからんのやけど」
「だから、ヘラクレスは焦らないの。2人とも、指輪を交換しな。」
指輪のサイズはどちらも同じらしい。
ラピスは左手の親指に、ウルトは左手の中指に装着した。
「ウルト、なんかやんなさいよ」
「お前こそハーレクイン作ってくれよ」
地中から鉄球が出現する。
ラピスがハーレクインを生成した。
「おお、なんか動かせそうな感じがするな」
「……ワテもや」
しかし、一向に動かせない。
ハーレクインは微動だにせず、表情だけが深刻になっていく少年とクワガタ。
「はい、そこまで。少なくとも、ラピスとウルトの能力を前より感じられるようになっただろ? 今後はそれを使えるように修行するんだ、やることは尽きないよ」
「グランティのリングも頂戴よ」
「あげないよ、そのためのヘラクレスだ。3人で連携を取ればいいさ。なんせそのリングはお守りみたいなもんだからね。」
「ワテはどこまで2人の能力を使えるようになるん?」
「なんとも言えないね。体という器は私の魔法で満たされてるし、ただ魂の重さを考えれば少しは使えると思うよ。ウルトとラピスがお互いの能力に精通する以上には、ね」
グランティの魂の重さ発言に双子が食いつく。
「なんなの? その魂の重さって」
「そうだよ。それがわかれば色々と理解できるんだろうけどさ」
『そうね』とグランティが肯定する。
「私たち人間は、魂の重さがみんな一緒。だから本来は他人のマナを注入されても、その人の魔法を使えるようにはならない。ただ自分のマナに変換されるだけ」
「へー、試したことないけどそうなんだ」
「もちろん生き物すべてに魂はある。そして重さにはルールがある。知能、それが重さを決める。つまり、基本は人間の魂が一番重いの」
3人共、真剣な眼差しでグランティの教鞭を受ける。
「ヘラクレス、悪く思わないでね。事実、クワガタは魂が軽い。そこにマナを注入するとどうなるのか。結論、魂が補強されて注入した人間の魔法が使えるようになる、よ」
一同、口を開けて驚いている。
おいおい、待ってくれよ。
じゃあ、俺やラピスが犬や猫にマナを注入したらヘラクレスみたいになるってことか?
「でも、そんなこと普通の人間は残念だけどできない。なぜなら注入するマナの量が、魂の補強が出来るほど大量に注入できないから。言い方を変えれば、注入中にガス欠するね」
「それをどうやって、お師匠様はやってのけたわけ?」
「おいおい、私の能力は空間魔法だよ? せっせとコンテナを大量に作ってたのさ。部屋じゃないよ? コンテナだ、自身のマナで満たしたね」
なーんだ。
俺も第二のヘラクレスを生み出して、空気魔法を指南し戦う。
とか、一瞬考えちゃったじゃんか。
「それって結局さ、具体的にどのくらいの量が必要なの? 本当に私には出来ない?」
「クワガタなら、私がマナ満タンの状態で5人分ってところだね」
「なるほど。残念だけど無理だね、わかった」
「俺も無理だな」
グランティは自分の能力でマナを保管できるから成せるのか。
そりゃ一般人には無理なわけだ。
双子はマナ注入による魂の補強に興味があった。
しかし『じゃあ犬ならグランティ何人分』のような不毛な問いしか出ず質問を自重した。
「あんた達、修業に来て何日たった?」
「そうね、8回目くらいじゃない? 往復代がたまったもんじゃないけどね」
「確かに、週2で来てざっくり3万マグだろ。キツイね」
グランティが目を細めて『……ハァ』とため息をついた。
「あんた達はお金のことばかりね。今の状態、状況がすでに足りていることを知りなさい。人生の幸せについてね」
「お金のことで同情するなら、徳の高い言葉じゃなくてお金頂戴」
「ラピス。恥ずかしいから、冗談でもやめてくれ」
またグランティが『ハァ』とため息をついた。
「あんた達、もうここに来るのはやめなさい。今日で終わり、解散」
「どうしたの、急に。負けたから教えるの嫌になったの? 師匠もらしくないね」
「あんた達は十分成長した。これ以上、戦いの事、世界の事について知りたいなら戦士になってもらうしかないね」
「ふーん、じゃあ今までありがとうございました。お世話になりました。」
見ていて、どっちも白々しい。
「なあグランティ、そんなこと言うなよ。もう修業はいいよ、ありがとう。けど遊びに来たっていいだろ?」
「そうやで、なんでそんな悲しいこと言うねん」
「そうそう、そういう反応を待ってたのよ。別に遊びに来てもらっていいわ」
「はいはい、つまり暇つぶしの方向性が戦士教育からお茶のみ仲間に変わったってことでいい?」
なんでラピスは免許皆伝のような場でさえ俺を困らせるんだ。
グランティの心中を考えると、ラピスの言動で胃が痛くなってくる。
「戦闘において、これ以上教えることはないわね。まずはご苦労様。出会って一ヶ月とちょっと。あんた達はセンスに実力まで加わった。もう敵なしだわね」
「なんか、まだまだ教わり足らない気がするけどな」
「そうね。まあ組手したくなった時は相手してよ」
「あとは実践あるのみ。組手はお茶してくれるならいつでもいいわよ。なんせ暇つぶしになるからね」
「それか戦士になる時やな」
グランティは笑い、ラピスは目を細めてヘラクレスを睨んだ。
師匠が師匠のまま友達になり、俺達の修行は幕を閉じた。
一旦は。