第五層六界-アルカナ
世界歴 104679年5月23日
──────
──コォォォォォォォォ
箒を飛ばして現地に向かう。
狙ってたターゲットはラピスに取られちまった。
ブー垂れてもしゃあないし、住居侵入の変態君をさっさと潰そう。
──30分前
「ってことで、私はこの彼にするから」
「おいおい、なんで魔法暴行の容疑者を取るんだよ。俺もそれがいいし、てかこいつの居場所わかってんじゃん」
「せやで、ラピス姐さん。その男が一番簡単やないか。」
テーブルの上には依頼書が三枚。
住居侵入、及び窃盗をした少年。
魔法暴行、及び強盗をした地元で有名なチンピラ。
性的暴行、及び強盗をしたチンピラ風。
「あのね。この良く言えば脳筋のクズは、地元で有名な札付きって書いてるでしょ? きっと仲介なしでギャングと繋がってる」
「だったらなんだよ」
「私ならしっかり煽って、ギャングがこの事務所を狙うように仕向けられるって言ってんの。あんたちゃんと煽れんの?」
──。
俺はあそこで言い返せないからなー。
てか、マジでどうやってギャングに喧嘩売ろうかな?
俺のターゲットはガキだし、すぐ見つかるのか? てかギャングと繋がってるのか?
依頼主が提供してくれた資料には10代後半の少年とある。
全身黒い服にフード付きパーカーで黒髪。
全身黒色のガキなんて100万人はいるだろ。
こんな情報だけじゃ見つけられるわけねーよ。
ウルトは活動の初手から詰みを感じ、行きつけのオートマットで腹ごしらえをすることにした。
入るとロックスがナイトロバーガーとトマトスープを飲んでいる。
「よう、ロックス。どうしたナイトロ食っちゃって! 金入ったのか!?」
「ヤーメン! ヨ、ウルト。そうさ、ついにアイ・アンド・アイはマグを手にいれたんだ」
「良かったじゃん……あ! ナイトロバーガーねーし! おま、ロックスので今出てる分終わりか!? おいおい、次出るまで3時間かよ。今日は違うのだな」
「ワッダー? なんか悪いな、アイ・アンド・アイが3つも食ったせいで。ウルトにジャーの恵みがあらんことを」
「犯人お前か! ……てかそれ高めだし、金の使い方考えろよ」
「そうなんだよ、明日からまたトマトスープだ、セーラ?」
『セーラじゃねぇよ! ホント大丈夫か?』なんて突っ込んでたら、店の奥が騒がしいことに気づいた。
「お前、マジ太っ腹すぎ!」
「先輩ごちっす!」
「マジで、俺が奢ってやったこと忘れんな? この金もエンペラー君から貰った仕事で稼いでっから。お前らもマジでやった方いい」
「エンペラーさんって伝説のヤンキーすよね、最近も喧嘩めっちゃしてるらしいじゃないすか!? 俺、怖くて話せねーっすよ!」
なんか、全身黒色でフード被ってる同い年くらいのガキがイキってんな。
仕事だ? エンペラー君?
ん? ラピスのターゲットってエンペラーとか言うキラキラネームだったような。
もしかしてあいつ。
「マジ、ギャラクシーお前怖いもの知らず過ぎ。エンペラーさんのこと君付けでいけねーから」
「ギャラクシー先輩もそのうち地元の頭張るんじゃないすか!?」
「は? お前らホントにチキンな。エンペラー君優しいから。まー信頼がなきゃ優しくされねーか」
ビンゴ。……と思おう。
俺のターゲットじゃなければエンペラー君の事聞いて、ターゲットならボコるか。
「じゃあな、ロックス。用事できた」
「ヤーマン? 知り合い?」
「ちげーよ。ま、今からの事は見なかったことに」
キョトンとするロックスに手を振り、真っ黒フードの所に向かう。
「ねー、エンペラーとギャラクシーって名前? 本名なら変わってるね。あと、ギャラクシー君? お前こないだ住居侵入と窃盗しただろ」
阿呆どもに絡む。
「あ!? 俺の名前が何だって!? 殺す! てか住居侵入だぁ」
「なに、君。ヒーロー?」
「エンペラーさんのことバカにしやがって! 死ぬぞ!?」
1人でヤンキー達に突っ込んで行った、ティーンが満面の笑みで煽る。
「雑魚がガタガタ、群れてうるせーよ。ちっちぇえ窃盗犯が。オラ、面貸せよ」
──ほぼ同刻
──ブゥゥゥウゥン
ブルーメタリックのクワガタが魔法に溢れた町を闊歩、もとい飛行する。
あれが依頼主の言っとった加害者やな。
心の殺人しといてからに、悠々と跋扈しよって。ホンマ許せへんわ。
ヘラクレスのターゲットは依頼主が他の探偵を雇い、隅々まで調査済みだった。
その後、身柄拘束、かつポリスへの引き渡しをその探偵が拒否したことでポアロ探偵事務所に依頼がきた。
『あそこなら格安でアウトローな依頼も請け負ってもらえるよ』と言われてだ。
見るからにアホそうなやっちゃな。
左右が刈りあげられたモヒカンスタイル、毛先が金髪。
黒のタンクトップにダメージジーンズで、顔や耳には所狭しとピアスやタトゥーが散見される。
依頼書に添付の調査資料のとおり、仲間たちと路地にたむろしていた。
さーて、扉開いてさっさと捕まえてトンずらやな。
ヘラクレスがターゲットの数メートルまで近づき、空間魔法で生成した部屋を空間に繋げた。
──弾指
──ビュオゴォオオオオオオ!
ターゲットは空間が繋がった直後、一瞬でヘラクレスの部屋に吸い込まれた。
ん? 多分ターゲット以外も吸引してもーたわ。
ま、こういうのは多いに越したことはないで。
ターゲットの2メートルほど後ろに真空の空間を繋ぎ吸引。
部屋は15メートル四方、開けた穴は吸引用が直径2メートル。
時速150~200kmで吸い込まれるため反対の壁にクッションを敷き詰めてある。
真空に入ると身体へのダメージが深刻なため、吸引用の穴を開くと同時に、気圧調整用の穴も二つあけ生存率を上げる。
なんや、もう終わりかいな。扉も閉じたし問題ないな。
これなら一番乗りかもしれへん。真空作ってくれたウルトはんに感謝やで。
『おい! どこ行った!?』『あいつらを探せ!』
怒号が鳴り響く中、クワガタは悠々と帰路についた。
──ウルトがヤンキーに喧嘩を売る10分ほど前
「悪かった! この通りだ!」
土下座するチンピラ。
ビル街の一等地、タワー型集合住宅の高層階。
バルコニーのガラスが盛大に割れ、部屋の中は荒れ果てている。
ありとあらゆる物が壊れ、散乱し、所々に血が飛んでいる。
「だーかーらー。エンペラーちゃん? あんた誰に喧嘩売ったかわかってる? エリザベス=ポアロよ? 私の母」
「だから! 売ってもねーし、そのエリザベス? も知らねーよ! 勘弁してくれ、この部屋は親分が女のために借りてる部屋で俺はs」
──弾指
──ドッ!
「イッダァァァァァアアアアア!」
土下座をしてる右手の指先にハーレクインをかまし、フローリングにめり込ませる。
「親指は残してあげた。いい? ポアロ探偵事務所には街の声が集まるの。母はね、そういうのを放っておけないの」
チンピラがガタガタ震え、涙を流しながらラピスを睨む。
「だから母が許さないと憤慨したことは、娘である私も許さない。母のために、街のために、私の美学のために」
「……あぁ? ……美学だぁ?」
「えぇ、美学。お前みたいなゴミも、法に反した罪は罰で償えるかもしれない。けど私が自分の美学に反したら? 何に償う? だから私は、私に反さないの」
──弾指
──ドッ!
「グァァアアァ! ックゥゥウ……」
左手の指先にもハーレクインを見舞った。
すでに右手は紫色に変色し、パンパンに膨れ上がっている。
「どーしよ。あんたを殺すでもいいし、ナニカ旨い話があるなら耳を貸すけど? 正直、地元でしかイキれないお前みたいな低能、バックいんだろ? 誰の音頭だよ」
土下座の態勢をキープできず、かと言って立ち上がれないチンピラ、エンペラー。
額をフローリングに擦り付け、何とかバランスを保っている。
「誰の音頭かだけ言えや。最近、街にいるお前の同類がうるせーだろ? 誰の書いた絵図だ?」
「お前らは殺される。たかだか街のちっちぇえゴタゴタに探偵ごときが出張ってきやがって。死ね、殺されろ」
手の形をした鉄塊を生成し、エンペラーの髪を掴んで空中に持ち上げた。
ラピスは腕を組み、仁王立ちでエンペラーの目を見る。
「だから、お前のバックは誰だよ?」
「ッペ」
エンペラーがラピス目掛けて血交じりの唾を飛ばした。
ハーレクインで唾を相殺する。
「バイバイ」
鉄塊の手はガラスの割れているところから、バルコニーの外に出てエンペラーを空中に放った。
エンペラーはその間、何も言葉を発しなかった。
バックが大物で下手なことを言えないか、単にエンペラーの肝が据わってるか。
マジでどっちでもいいけど、早くウルト達に報告しないと。
ラピスは瞬時にジャンヌを展開し、高速で落下するエンペラーのもとへ向かった。
──ピロリン
ウルトのマナケーが鳴った。
目の前にはボコボコになったギャラクシーの一味が伸びている。
「おい、阿呆どもこれを見ろ」
ウルトが自身がシメたヤンキー達に、ラピスから送られてきた画像を見せる。
そこには、白目を剥いて泡を吐き、失禁してズボンを濡らしたチンピラが映っていた。
「え? エンペラー君? え?」
「まあ、そういうこった。俺の母ちゃんに喧嘩売ったツケってやつだ」
すでに意気消沈しているヤンキー達が、なおのこと絶望に浸る。
「あのな、誰々君と知り合いだの、仲良いだの。そういうお前らは何者だよ。とりあえず、ギャラクシーは過去に住居侵入と窃盗。それを俺が咎めたら喧嘩になって制圧。って弁護士に言うから」
最早、何も聞こえていない。
「もしもーし。聞いてるか? 被害届をお前ら出さない方いいよ、いろんな意味で」
事務所を出て、およそ一時間半。
三件の依頼が全て完了した。
「『こっちも片付いた、アホを1人連れていく』っと」
マナケーで進捗を共有する。
あ、いいこと思いついた。
空気の密度を変化させて行う空中ダッシュの応用で、空気の密度操作でロープっぽいの作れねーかな。
ウルトは箒で、ギャラクシーを空気密度を変化させたロープで吊るし、実験を兼ねて事務所へ向かった。
箒の後端から数メートル下で、手足の自由を奪われた少年がぶら下がったまま移動している。
事務所に向かう途中でギャラクシーが二度落下することを、この時当人たちは知る由もなかった。