パラレル・バーチカル・ウロボロ   作:馬憐狼詩

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第二十三話 【アルカナ編】地元のギャングを撲滅させよう【公開処刑、モノクル、皆殺し】

第五層六界-アルカナ

世界歴 104679年5月23日

──────

 

溢れかえる野次馬。

正座させられている三人組。

逮捕手続きをしている十数人のポリス。

 

公開処刑とも言える逮捕劇を一目見ようと、ポアロ探偵事務所の前に多くの群衆が集まっていた。

 

「うわー、なんだこれ。犯人達が可哀そうに思えるぜ」

「何言ってんの? 可哀そうなのは犯人達に加害された被害者でしょ。にしても野次馬がすごいねー」

「いや、ホンマ犯人達も可哀そうやで。見てみい、ラピス姐さんが連れてきたエンペラーなんてズボンずぶ濡れやで。ここいらで名が通ってるんちゃいますの」

「あなた達、素晴らしい働きね。各々がターゲットを捕まえたって連絡くれるたびに、依頼者に完了の連絡と、公開処刑するから知り合いに声かけて皆で来てって伝えたの」

 

そこにはエリザベスが声を掛けた依頼主とその一行以外にも、沢山の通行人が見物していた。

 

「ターゲットの捕縛と身柄引き渡しの場に、依頼主がいたらそれこそ大変。因縁をつけられるかもでしょ。人を隠すなら人の中ってね」

 

ラピス達がなるほどと頷いている間にも、着々と手続きが進んでいる。

 

「よう、エンペラー。いい加減に反社なんかやめちまえ。野次馬にチビってんの見られてんぞ。『あのエンペラーが』って」

「うるせぇ。殺すぞ」

「おいおい、公務執行妨害も加えるぞ」

 

ギャラクシーとモヒカンのチンピラ、リークスが怯えている。

 

「おい、お前らもエンペラーから仕事を貰ってたらしいな。署で詳しく聞くが、罪状はもとよりメンドーな連中の仕事を請け負ったな」

「ホントだよ。しかもギャラクシー、お前まだ学生だろ。多分、色んな意味で親御さんに迷惑掛けるぜ。そん時はすぐポリスに連絡って面会の時に言っとけ」

 

ギャングの仕事をした挙句に足が着く真似しちゃって、大変なことだよとポリスから言われる。

ギャラクシーもリークスも顔面が白い。

 

ついにギャラクシーが貧血を起こし、後ろ手に手錠を掛けられたまま地面に横になった。

 

「あー、見てらんない。どいつもこいつもダサすぎ」

「だな。なんでこう、目先の欲で突っ走るんだ? 挙句に貧血って」

 

ラピス達が、自分達でシメた連中に呆れている中、エリザベスは笑顔で依頼書を差し出した。

 

「はい、これ新しい依頼。ターゲットの捕縛写真と公開処刑の連絡をしたら追加で依頼貰っちゃった」

 

依頼主の知り合いも被害に遭っており、その知人がまた別のターゲットの捕縛と身柄引き渡しを依頼してきた。

 

こちらも魔法暴行と強盗。

犯人の人となりもわかっており、このターゲットも地元で有名なチンピラのようだ。

 

依頼書に目を通していると、辺りが騒がしくなり始めた。

 

「てめぇら! ギャラクシーか!? リークスか!? どっちがウタいやがった! あぁ!?」

「ち、違います! 俺じゃないです! マジで何も言ってません!」

「エンペラー君、自分もウタってないっすよ! マジで仲間にも言ってないっす!」

「ギャラクシー、おめーだろ! 俺と仲いいとかフカしてるらしいじゃねぇか! ゼッテーぶっ殺す! 糞ガキが!」

 

エンペラーが暴れて、貧血のギャラクシーを蹴り始めた。

泣くギャラクシー、自身も貧血になりかけるリークス、面倒くさそうに止めるポリス。

 

これら一連の公開処刑逮捕劇は、瞬く間に街中に知れ渡った。

『ポアロ探偵事務所が、最近の反社やチンピラの犯罪、それらの制圧にのり出した』と。

 

──時を同じく、街の某所

「ボス、このような事態になっています」

 

暗く、間接照明がムードを作る空間。

スーツを着た若めの男がマナケーの画面を、豪華な椅子に腰かけた老人に見せた。

 

老人はモノクルを付け、ひげを蓄えスーツを着ている。

 

「マナケーで見せられても小さくて見えんわ。それに、こういう情報は真実が時としてぼやけるからのう」

 

モノクルを付けた方の目で、眉間にシワを寄せながら画面を覗きこむ。

 

「ファミリーの若い衆が、街のチンピラどもに資金調達を命じてまして。その実行役達がまとめて捕まったそうです」

「ホウ。しかもそれを成し遂げたのがポアロ探偵事務所、か。聞かんな」

「えぇ。街のナンデモ屋のような事務所らしいのです。存じ上げないのはもちろんかと」

 

老人は立派なアゴ髭をなでながら物思いに耽る。

 

「のう、お前はどう考える?」

「我々で早々に、ポアロ探偵事務所を潰すべきかと。街のヒーローがすぐに壊滅し、プラスで公開処刑もしてやれば尚のこと、街も金もコントロールできると考えます」

「そうじゃのう。ワシもじゃ」

 

老人が立ち上がる。

 

「行こうか、ファウスト。馬車を回せ。若い衆に、街での勝ち方を教えてやろう」

「ファミリーの最高権威、ベルモント卿が直々に出向く。きっと、そのポアロはあなた様の顔を見ただけで震え、失禁するでしょう」

 

「フォッフォッフォ」と老人は高笑いし、部屋から出た。

──。

 

「この依頼は3人でパパっと終わらせちゃいなさい。で、ヘラちゃんのアジトと通して家の2階に戻り、大事なものを異空間に退避させること」

「もちろん日用品も、でしょ。これからいつギャングが襲ってくるかもわからないんだから」

「そうだな。ま、いざとなったらグランティの所で匿ってもらおうぜ。母ちゃんのこともグランティなら受け入れてくれるよ」

「そうね。それに、その時は忘却のグランティにもギャング潰しを手伝ってもらいましょう」

「なんや、完全にこの事務所のこと捨ててる前提なんが、一周回って味方ながらに怖いで。よう割り切れるわ」

 

改めて依頼書を見る。

今回の騒動でターゲットが普段の行動を変えず、逃げていないことを祈るしかない。

 

「私の計画ではこうよ。あなた達が任務に行ってる間、私は事務所で待つ。きっとその間にギャングが来るわ。急襲か、訪問か。これは一連の騒動の黒幕によるわね」

「母さんはどうするの?」

「もちろん急襲なら戦うわ。私の地図生成(マッピング)魔法は戦闘に向かないわけじゃないし。ただ本命は訪問ね」

「訪問って、どんな絵図だよ」

「中身はただの脅しよ。しかも断れば死。そんな極限の選択を悠々としてきてほしいわね。ご立派な紳士性をもってして、ね」

「で、それの回答を後日に回して、その回答日がギャング達の一番若い日になる、と」

 

『ご名答』とエリザベスがラピスを指さした。

計画の通りにラピス達が任務に出発した。

 

──公開処刑逮捕劇から、一時間後

ポアロ探偵事務所の前に一台の馬車が停まった。

 

ブースターを前方に二基搭載し、四輪は地面に着いており、広い客室が後方に配置されている。

ブースターのエネルギー排出口は客室の下部から後方に伸びている。

 

客室の扉が開き二人の人物が降りてきた。

 

事務所の椅子に座るエリザベスが手に持っている、透き通った板のような地図がリアルタイムに更新される。

エリザベスを中央に、半径300メートルの情報が、建物の間取りや人物の配置を含め逐一反映される。

 

「ふーん、急襲じゃなく訪問か。本命であってほしいな」

 

──コンコン

2人が建物に入り、事務所のドアをノックする。

 

「ハイ、開いてますよ」

 

中に入って来たのは、街を牛耳る張本人、ベルモント卿とその側近、ファウストが入って来た。

 

「あ、あなたはベルモント卿? ですよね。……その、私に何か依頼ですか?」

 

──バンッ! パリンッ!

「キャッ!」

 

ファウストが鉄砲を放ち、エリザベスの隣の棚にあったロックグラスを割った。

 

「のう、ウィスキーを出してくれんかの。美味そうじゃ」

 

エリザベスが震えながら、割れていないロックグラスにウィスキーを注いだ。

 

──カタカタカタ

震えながらベルモント卿にウィスキーを差し出す。

出す際、グラスがテーブルとぶつかり音を立てた。

 

「ところで、貴様の味はどうじゃ? ワシは興味ないが、売れるじゃろ?」

「……へ?」

 

ベルモント卿がエリザベスの目を、モノクルを付けた方の目で覗き込む。

 

「へ? じゃねーだろ糞ガキ。貴様は後戻りできないことをした。死ぬか?」

「……え、あ、いや、その」

 

ベルモント卿がドスを利かせ、エリザベスがより一層震えながら後退る。

 

──バンッ!バンッ!バンッ!

「キャーーーーーー!!!」

 

エリザベスが頭を抱え、地面に伏せた。

ウィスキーのデキャンタ、棚、テーブルが発砲で破壊され、傷つけられる。

 

「てめぇのガキも活きのいい美人らしいじゃねーか。親子で可愛がってやる。野郎も売れるとこ知ってんだ。な、意味わかるか?」

 

ガタガタと顎を震わせながら、エリザベスは涙と鼻水を流しながらベルモント卿を見る。

 

「名誉ある死か、街の群衆に公開処刑されながら生きるか選べ。もちろん猶予はやる」

「……こ、子供達には手を、だ、出さないで、くださぃ。……私なんd」

「じゃかあしいわ!」

 

ベルモント卿が立ち上がり、エリザベスの髪を掴んでまた目を覗く。

 

「ワシの事務所は知っとるのぉ? 2日後じゃあ。2日後にワシの所に来い。来なければ親族皆殺しじゃあ。もちろん全員ムゴイ死に方させて、その後にキサンじゃあ!」

 

エリザベスは顔をグシャグシャにしながら、ただ口をパクパクとさせるだけだった。

 

ベルモント卿が手を上げ、撤収の合図をファウストに送った。

 

「じゃあの。また2日後に、フォッフォ」

 

ベルモント卿が、事務所に来た時とのような、老紳士の雰囲気に戻った。

ギャング2人が事務所を後にする。

 

「えー、ダッサー。なんで母さん、あんなにやられた雰囲気だしたの?」

 

すでに任務を終え、二階でことの顛末を見守っていたラピスが顔を出した。

鼻をかみ、顔を拭くエリザベス。

 

「えー、名演技だったじゃない。ああいう怖いって言われたり、思われるのがカッコいいと考える人にはこういうのが刺さるの」

「だとしても、やられすぎだろ。なんなら今あいつらを叩けばいいじゃねーか。俺は腹立つぜ!」

「まあまあ、私の計画通りじゃない。後はこの2日間でポアロ探偵事務所の名が落ちる。至る所でギャングが今日のことを言いふらすだろうね」

「待って、よくよく考えたら最悪か? 友達とかにも私がギャングの手に落ちるって噂が流れるんじゃ……」

「だからいいんでしょ。これからきっと、この家をチンピラが襲ってくるわ。しかも地上げ屋みたいな訴えられないネチネチした方法で。でも、2日後に蓋を開けたら結局ギャングは壊滅」

 

『まあ、それはそうか』とラピスが納得する。

 

「それにしても、ワテでも名前知っとるような、この街のボスが出てくるんは想定外やったわ」

「釣れた魚はデカいってやつだろ?」

「あなた達、忙しくなるわよー! あんな変態ジジイはぶっ潰しちゃいましょう」

 

家にベルモント卿が来た事実に、現実味を感じない双子。

街の首領(ドン)との対立の構図を意識し始め、理解したのはこの数時間後だった。

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