パラレル・バーチカル・ウロボロ   作:馬憐狼詩

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第二十五話 【アルカナ編】地元のギャングを撲滅させよう【戦闘の格、制圧、自分の答え】

第五層六界-アルカナ

世界歴 104679年5月25日

──────

 

『クソッ! 一旦引けー!』『なんだあいつら!?』『魔法戦闘のレベルがおかしいだろ!』

事務所の周りを囲っていた、チンピラやギャングが一掃されていく。

 

ベルモント卿の本拠地を後にし、事務所に戻ってきたポアロファミリー。

『まずは目の前の敵を壊滅されたし』、と双子とクワガタが暴れ狂う。

 

「あーはっは! ほらほらほら! 避けないと死んじゃうよ!」

「暴発する炎(エクスブレイズ)! おい、ラピス! 本当に殺すなよ!」

 

ラピスは『わかってるよ!』と箒に乗りながら右足を上げた。

 

──10分前

探偵事務所にヘラクレスの空間をたどり帰ってきたポアロファミリー。

 

「いーい? 私は依頼主や顧客に、『心配おかけしてスイマセン、街の脅威を取り除いてました』と連絡しまくるから。外はあなた達に任せる」

「了解。じゃ、まずは事務所の前を片付けますか。母さんも連絡ほどほどにね。どうせ後で街中のニュースになるわけだし」

「そうね。あ、ラピス。ジャンヌは使わないでね。ハーレクインと箒だけ。ウルトはジッポだけだとインパクトが弱いから、暴発する炎(エクスブレイズ)もちっちゃめにね」

「なんで俺達の能力制限するわけ? その方が片づけやすいんだけど。それに、街の他のギャングは?」

「あとで説明するから、まずは家の前の連中を片付けてきてちょうだい。ヘラちゃんは敵が逃げないように空間魔法をジャンジャン使ってね」

──。

 

事務所を囲うギャングを蹂躙する。

とはいっても、魔法戦闘の格の違いを見せつけるのが主な目的。

 

『ポアロ探偵事務所には適わない』、そう思わせるために。

 

そしてもう一つはベルモント卿の失脚。

これを箒で飛び回り、ギャング共をいたぶりながら流布して回る。

 

「いいか! あんた達のボス、ベルモント卿は死んだ!」

「そうだ! 街に蔓延る悪党どもが! お前らを守ってくれるバックは消えたぞ!」

 

──ドッゴーン!ダッガーン!ボッバァァァン!ドゴッ!

統制もなく、逃げ惑うギャング達。

ラピスはハーレクインを使い脅し、ウルトは炎を上手く操り派手に脅かす。

 

ラピスは基本的にハーレクインを地面にぶつけるだけだが、たまにギャングの鳩尾にも食らわしてやる。

ギャングは痛みに悶えながらも、追撃を恐れヨロヨロと物陰に隠れようとする。

 

ウルトに至っては、空気操作でジッポと暴発する炎(エクスブレイズ)を織りなすだけで傷つけすらしない。

 

しかし、ギャング達が食らっている精神負荷は想像を絶するものだった。

 

事務所を離れようにも離れられない、逃げられない。

ヘラクレスの空間魔法で離れている方向に走っているはずなのに、すぐ動乱の渦中に戻ってきてしまう。

 

事務所からティーン二人が箒で出て来た時は、それはそれは活気にあふれていた。

しかし、手も足も出ず攻撃を繰り出すどころか逃げることもできず、ただ頭を抱えて走り回るだけ。

 

極めつけはギャング、引いては街の悪党のボスである、ベルモント卿が死んだ事実。

誰が? どうやって? もしかして、自分のことを狙って攻撃してくるこのガキ達が?

 

圧倒的な支柱たる人物の消失と、命を握られているという絶望が大きく精神を削った。

 

「そこまで!」

 

ギャング達に降り注いでいた、雨あられの攻撃が止んだ。

エリザベスがポアロ探偵事務所から出てきて、場を制止する。

 

「いいか、よく聞け! お前たちが聞いた通り、ベルモント卿は死んだ!」

 

ギャング達が改めて絶望する。

 

「そして私、エリザベス=ポアロを筆頭としたポアロ探偵事務所が、街のギャングを殲滅する!」

 

ついに膝を着くものが現れた。

 

「ベルモントをよく思ってなかったギャング達が躍起になるだろうね。好機、と。でもそれも許さない。ギャングを根こそぎ壊滅させるよ」

 

エリザベスの発する言葉の重みが凄まじかったのか、それとも死んだベルモント卿に対してか。

大の大人、しかも裏社会の人間が膝を着き、空を見上げ、泣いた。

 

絶望は人それぞれ、ハーレクインによって凸凹にされた舗装路も相まって、まさに光景がカオスだ。

 

「母さんの殲滅宣言で、自分の命の残り時間を計算して泣いてんでしょ」

「あー、そっち。俺はてっきりベルモント卿を思って泣いてんのかと」

「まあ、連中の中にはただのチンピラも混じっとるし、ラピス姐さんの方が多そうやけどな」

 

双子とクワガタが空中で語らう中、エリザベスは発言を続ける。

 

「ギャング殲滅後も、街の治安維持にこのポアロ探偵事務所が介入する!」

 

『え?』双子が顔を見合わせる。

 

「ここで絶望に浸ってるクズども! ……見逃してやる。その代わり、改心しな。戻って仲間にも言いな。改心するならこれで終わり。もしまだ悪さをするってんなら、その時は徹底的に潰す。意味わかるね? メタファーじゃなく物理的にだ」

 

その場の全員、ギャングもチンピラもエリザベスを凝視していた。

 

「どうすんだい! ギャング殲滅の序章として、ここで死ぬのかい! それとも気持ちを改めるのかい! ウチの子供達はわざと攻撃外して手加減してんだよ!」

 

今度は箒をホバーさせ空中にいるラピスとウルトを見上げた。

 

ラピスは無数のハーレクインを頭上でビュンビュンと弧を描くように回転させ、ウルトは演出で人間大の火の玉を作って腕を上げ、その掌の上に掲げている。

 

「……本当にベルモント卿は亡くなったんだな」

「ええ、確実に死んだわ。真っ黒こげになってね。今頃は建物と一緒に灰になってる頃だから首は見せれないけど」

「……そうか、わかった。……俺は足を洗う。だから見逃してくれ」

「もちろん。嘘はつかないわ。見逃してあげる。だからお前も嘘はつくな」

 

一人のギャングが口火を切り、俺も俺もとその場にいる全員が足を洗うことを選択した。

子供達に暴れさせ、言葉でその場を制圧するエリザベス。

 

「さて。ギャング卒業おめでとう! 反社卒業おめでとう! 卒業の儀だよ。この街のギャングの居場所を知ってるだけ吐きな」

「…ま、待ってくれ。必ず力になるから、まだ兄貴分がこのことを知っちゃいないんだ。兄貴にもこのことを知らせる猶予をくれ」

「もちろんいいさ。その代わり、今すぐ潰していいギャングを言え。でないとその兄貴ってのも屠るよ」

 

ギャング達との押し問答。

 

街の美化、もといギャング殲滅のためのリストが完成していく。

天使のリストか、はたまた悪魔のリストか。

 

「よし、解散! さっさと仲間たちに声かけて改心させな! それがわからないってんならここに来させな、ポアロが潰してやる」

 

蜘蛛の子を散らすように、ギャング達が逃げていった。

 

探偵事務所に集まるポアロファミリー。

 

「これがリストだよ。名の通ったギャングから、地元にいるだけのチンピラまで。ほぼ網羅されてる」

「凄ーい。街のエリア別に集計されてる。じゃあ私は北区ね」

「……北区って。ラピス、お前すくねーじゃねーか!」

「は? やる気の現れでしょ? さっさと終わらして他のエリアもやるよって意味じゃん」

「……じゃあ北区の次はどこやんだよ」

「東区」

「すくねーじゃねーか!」

 

パンパンとエリザベスが手を叩き制止する。

 

「ラピスは西区と北区。ウルトは南区と東区。2人とも北東辺りで落ち合って、最後に中央区をやってちょうだい」

「ほなワテは?」

「ヘラちゃんはこの家の護衛よ。そして私はネゴシエーション」

「ネゴってどこと? ポリス?」

「国防に決まってるじゃない。さっきも連絡してアポ取ってたのよ。トップとの会談をね」

 

ポアロ探偵事務所があるのは街の南区。

そこから殲滅を始めるのはいいとして、以降の発言が興味をそそる。

 

「国防? トップ? なんで母さんにそんなパイプがあんの? てか、ポリスはどーすんの」

「ポリス対策は万全よ。顧客の中にいる街の有権者に、口裏合わせの協力はお願い済み。国防トップとの会談は、今から街で起きるドンパチの担保よ」

「へー、母ちゃんやり手だな。なんか安心して動けるぜ」

「せやせや。女将さんに適うブレーンはこの街におらへんちゃいますの」

「国防トップとは同じ先生の教え子同士。ようは兄弟子ってとこね。ま、私の方が強いんだけど」

 

『は?』ラピスは声が漏れ、ウルトは口をポカンと開けて眉間にシワを寄せた。

 

「ラピスもウルトも箒で行ってね。私は国防に、ヘラちゃんは仕事有りの留守番。 よし! じゃあ、張り切ってギャングの殲滅スタート!」

「また、能力制限かよ。てか、俺は殺しはしないぜ?」

「私の読み通りなら、必ず魔法戦闘に特化したヒットマンが出てくる。ギャングの面子をかけて、お抱えの連中を放ってくるわ。その時に全開放、真の実力を見せつけて絶望させなさい。それに、殲滅が目的だから生死は問わないわ」

「けど、ギャングを殺しても、お咎めが無いようにしてくれてんでしょ? ネゴとやらで」

 

ラピスの一言で緊張が走った。

 

さっきみたいに言葉で制圧できればそれでいいだろ。

ラピスは本気で言ってるわけじゃないよな?

 

「そうよ。私達が犯罪にあたる行動をとっても、ギャングと言う絶対悪を盾に正当な行動だと言ってもらう。その土壌は作ってある」

「あっそ、了解」

「ラピス、クールにスマートに、よ。平静を得るためにベルモントの件を早々に塗り替えようなんて思っちゃダメ」

「別に、私は冷静だけど。大衆のど真ん中で襲われてるシチュエーションで、敵に説教して改心させるって絵が想像できていないだけ」

 

『それもそうね』とエリザベスは肯定した。

 

「綺麗に纏めるのはかなり酷なこと。それを覚悟して今回の作戦よ。だからどう転んでも大丈夫な地盤は作った。…いい? 正解も不正解もない。自分の答えを持って、それを守れるように尽くしなさい」

「わかってる」

「わかったよ」

「任しといてくれや」

 

母の口から語られる言葉、その一つひとつが重く双子にのしかかった。

 

この数時間後、国防やポリスの介在があるなかで、ギャング殲滅宣言が行われる。

それが街の伝説になることを、この時のポアロファミリーはまだ知らない。

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