パラレル・バーチカル・ウロボロ   作:馬憐狼詩

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第二十九話 【アルカナ編】世界を救いに行こう【ポアロ姉弟、古代超兵器、ワンラブ】

第五層六界-アルカナ

世界歴 104679年5月29日

──────

 

「ヒソヒソ。いいか、ことの発端をしっかり教えてくれよ」

「ヒソヒソ。ヤーマン。……その前に場所を変えないか? アイアンドアイは集中できないぜ。な、セーラ?」

「ヒソヒソ。ロックス、当たり前でしょ。あんたが話してるのはこの街の英雄よ? こうなるに決まってんでしょ」

 

ポアロ姉弟行きつけのオートマット。

ウルトの好物、ナイトロバーガーを目当てにこの店にしたのが悪かった。

 

ロックスと姉弟を、野次馬がぐるりと取り囲んでいる。

 

『やっぱラピスって可愛いな。強気なとこが惚れるぜ』『見ろよ、ポアロ姉弟だ』『ウルト君ってカワイイよね』

群衆が姉弟を見世物の如く、すきずきに感想や思いを言い合う。

 

今やポアロ姉弟、引いてはポアロファミリーは街の英雄だった。

特に双子の人気たるや、ギャング殲滅計画発足当時のエリザベスの想定を上回っていた。

 

どこに行っても、『聖騎士ラピスと箒を駆る現代のカウボーイ、ウルト』と騒がれる。

双子が槍を持ち、串刺しにしたフラッキーを高らかに掲げる教育に悪そうな絵が、街中に散見される。

 

「何が聖騎士ラピスだよ。私はあの件でMZR4を壊したんだけど。箒を駆るカウボーイ、ウルト? 私も駆りますが? そもそも、なんだよ駆るって」

「まーまー。ヘラクレスが計画通り、ギャングの資産をぶんどって来たんだからいいだろ」

 

ラピスがサブの箒を壊したことを嘆き、それをウルトが励ます。

ヘラクレスはラピスの合金魔法を駆使し、ギャングの金目の物を『宝物庫』と名付けた空間魔法由来の部屋に持ち帰っていた。

 

「ここがうるさい言うなら、ワテのアジトで話すればええんちゃうの?」

 

『それだ!』と双子がらしくハモりながら食べ物を持って空間の中に移動する。

ロックスもそれに続き、野次馬は『え!? 消えたぞ!』『すげーな! さすがポアロ姉弟!』なんて興奮した。

 

──ヘラクレス生成空間 アジト内

「……ワッダー。なんなんだ、本当にウヌらは規格外だ」

「それはウィンクルムの地上人目線? それともウィンクルム人、全体での目線?」

 

ヘラクレスが生成した空間魔法由来の部屋に移動し、動揺するロックス。

すかさずラピスが聞く。

 

「もちろん、地上人目線さ。ウヌらの魔法のようなものをアガルタ人は使うんだ。正確には魔具みたいなやつだな」

 

この会話を皮切りに、ロックスはポアロ姉弟に自分の置かれている状況を語った。

 

ポアロ姉弟の言うリアリスのように、存在する物質と自然法則のみで、ウィンクルムの地上文明が発展し生きてきたこと。

 

15年前に、突如としてアガルタ人が地底からやってきて地上を征服したこと。

 

今となっては一部のアガルタ人はそれを良しとせず、革命軍に加入して同胞を討つために技術を提供していること。

 

この事件を発端に自然エネルギーの存在や、世界がパラレルやバーチカルに存在している事実を知ったこと。

 

その技術でロックスが仲間探しの旅に出て、アルカナまでたどり着いたこと。

 

友人であるラピスとウルトが圧倒的な武力を有し、アガルタ人に対抗できる希望であると感じたこと。

 

「アイアンドアイはこれで、ここまで来たのさ」

 

ロックスがやけに年季の入った、セラミックのような素材の筒状のナニカを取り出した。

 

握った際に手からはみ出すほどの大きさのそれを操作する。

両手で筒の両端を持ち、右手で先端を捻ると『カチッ』と音がして起動した。

 

筒の中央部から光が伸び、ロックスの目の前に青みを帯びた光で、長方形の操作パネルが浮かび上がった。

 

「……何これ、31世界が全部表示されてる。これは簡易ポータル? こんなの私、見たことない。」

 

ポアロ姉弟が息を飲み、パネルを見つめる。

そこにはアルカナの一般教養で習う、31の全世界が映し出されていた。

 

バツ印や色の濃淡で、世界が意味ありげな表示になっている。

 

「ヤーマン、これは簡易ポータル。このバツ印が付いてる世界には、そもそもこのポータルでは行けないんだ。言い方を変えれば、バツ印が付いてない場所には全部行ける。『適切なルート』を通れば」

「なんだよ、その適切なルートって」

「難しい話じゃない。このポータルはバーチカル移動専用なんだ。今はここ、アルカナだ。並行世界は色が薄くなって表示されてるだろ。これは行けないって意味だ、セーラ?」

 

パネルには世界が丸い図形と名前で表現されていた。

 

上から五層目、左から六個目のアルカナと書かれた丸い図形だけ緑色になっている。

 

その両横は全て暗い青色で、如何にも移動できませんといった見た目をしている。

それに反して、上下の四層、六層は濃い青色で表示されていた。

 

四層にはバツ印が付いている世界も散見される。

 

「つまり、今いる層の上下にしか行けないんでしょ? だから一層と二層も薄く表示されてる。ま、第一層一界の『アニマ』はバツ付いてるけど」

「すげーな、これがあれば二層まで行けるのかよ」

 

ロックスがパネルを見つめながら、真剣にポアロ姉弟に質問した。

 

「ヤーマン、ウヌらはウィンクルムに来てくれるか? 革命軍の戦士になって戦ってくれるか?」

 

左手でポータルを持ちながら、右手の人差し指と親指で、パネルをつまんで広げるような操作をして、ウィンクルムを拡大表示した。

 

「俺は行くよ。世界を助けるんじゃねーよ? ロックスとその仲間を助けにだ」

「私も行く。まあ、語弊が出ると面倒いからこれ以上は言わないけど」

「なんや姐さん。別にロックスはんのためって言うたらええやん。ワテも行k」

 

ホバーしていたヘラクレスがラピスのデコピンで、横回転で吹っ飛ばされた。

 

回転が収まり戻ってきたヘラクレスは、震えながらウルトの肩に留まった。

ロックスは『……ヤーマン』と初めて見るポアロ姉弟の喧嘩に恐怖を滲ませる。

 

「……ジャー(神)よ、ありがとう。アイアンドアイにアイドレン(兄弟達)を巡り合わせてくれて」

 

ロックスが目を瞑り、胸に手を当て神へ感謝を述べた。

 

「本当は、1週間後にアルカナを離れようと思ってたんだ。ウィンクルムで待つアイドレン(兄弟達)のためにもゆっくりしちゃいられない。マナも溜まったし、別の世界で仲間を探さないと。ってね」

「マナって? ロックスからマナは感じないけど」

 

ウルトの問いに、ロックスがポータルを『これさ』って具合に振って見せる。

 

「このポータルの起動は、行った世界の自然エネルギーを吸収して行うんだ。溜まるのに三層では1週間、四層で2週間かかって、アルカナじゃあ1ヶ月かかったよ」

「ふーん、エネルギーが溜まる間に仲間探しをしたけど進捗が無かったってことね」

「ヤーマン、それでもウヌらに出会えた。それだけで最高さ。革命軍には半年で戻ると伝えて、ウィンクルムを出て、すでに4ヶ月がたった」

 

『あ、そうそう』とラピスが聴きたかったことを思い出す。

 

「そのポータルってアガルタ人の物でいい? 私達の師範が四層に行ったことあるんだって。それもウィンクルムの技術で」

「ヤーマン、これは革命軍のアガルタ人が貸してくれたんだ。そいつの祖父のものらしい。3000年前の物だから、ウヌらの師範の物と同じかはわからないな」

「3000年!? 祖父!? アガルタ人はどうなってんだ!?」

 

知らないことのオンパレードに、ポアロ姉弟を恐怖にも似た興奮が襲う。

 

「ヤーマン。アガルタ人ってのは、とても長生きなんだよ。肌は青白くて、子供も老人も見た目はまるで一緒。若々しいんだ。地上人の少年少女の見た目だな」

「言葉が出ないわ。私の想像を遥かに超えてる」

「だな。知ってはいけない事実を聞いてる感じだ」

「ヤーマン。そして奴らは耳が横に突き出て、とんがっている。そして何より、古代から続く超文明の技術が猛威を振るっている」

 

ポアロ姉弟が絶句する。

今から向かう世界にいる悪い奴らが、想像していた存在よりも遥かに高度である事実に。

 

「……ハァ。何はともあれ、私達はウィンクルムに行く。問題は山積みね。けど解決していくよ」

「せやな。切符を持っとっても使えないと意味ないで」

「だな。まずは母さんに話し通すか」

 

相談し合うポアロ姉弟の姿に感極まるロックス。

自分の世界を救うために思考を巡らす友たちを前に、真の絆を感じていた。

 

「……ヤーマン、ポアロファミリーに感謝だ!」

「感謝はまだ早いぜ。俺達何もしてないだろ」

「そうそう。つまるところゴールは何? 私達をウィンクルムの戦士にして、何を実現したいの?」

 

ロックスが簡易ポータルの電源を落とし、アジトに胡坐の姿勢で座った。

 

「アガルタ人にはカーストがある。少数のシャンバラ人か、それ以外か。要はアガルタの支配層がシャンバラなわけさ。セーラ?」

「そのシャンバラ人が何? 結局は地上にのさばっている、全アガルタ人を駆逐するんでしょ」

「ヤーマン、狙いはそうじゃない。……革命軍の狙いはシャンバラの王『カルキン』を討ち、奴の『古代超兵器(カルチャクル)』を奪うことだ」

 

『なんや、そのカルチャクルって』『王を潰せば他は退くわけ?』『え、それ武器?』

ポアロ姉弟が口々に喋る。

 

「ヤーマン、古代超兵器(カルチャクル)はアルカナの魔具みたいなもんさ。ウィンクルムの自然エネルギー、『ヴリル』によって駆動される」

「で? 肝心のアガルタ人達はステゴロなわけ? アルカナ基準で魔具頼みの戦闘って、大したことないけど」

「奴らは身体能力も異常さ。なんせ地底にいたんだ。重力が地上よりも強く、しかも地上人たちと違ってヴリルを体に宿している。な、セーラ?」

「うん、了解。つまりマナで肉体強化して、メチャ強の魔具でゴリ押してくるイメージね」

 

『ヤーマン』とロックスが肯定し、ラピスがハッピーストライクに火を付けた。

『姐さん、ここ禁煙さかい……』『聞こえなーい』と弟の言葉を流す姉。

 

アジトに煙が立ち込める。

 

「ヤーマン。ウィンクルムとその地上人が抱えている問題は、ざっくりこんなもんだな」

 

ラピスは咥えたばこで背伸びをし、ウルトとヘラクレスは考え込んでいた。

 

「よし、じゃあいつ行く? 時間ないんでしょ?」

「3日後とかでいいんじゃないか?」

「せやな。準備期間として充分やし、ええんちゃう?」

「……ヤーマン。家族への話はいいのか? まだウィンクルムに行く話をしていないんじゃないか?」

 

ロックスが驚き声を掛ける。

ポアロ姉弟は各々の顔を見合わせて頷き合う。

 

「問題ないぜ。俺達の意思で行くんだ。母ちゃんだって許してくれるさ」

「そーゆーこと。それに、この機会を逃したら上層に行けなそうだしね」

「ま、困った時はお互いさまや」

 

ロックスが目に涙を浮かべ、拭った。

 

「ヤーマン、アイアンドアイは感激さ。改めて、この『ロックス=ナティ』をよろしくな。ワンラブ」

 

ポアロ姉弟が第二層二界、ウィンクルムに立つまで。

残り三日。

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