パラレル・バーチカル・ウロボロ   作:馬憐狼詩

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第三十話 【アルカナ編】世界を救いに行こう【切符、ビゴップ、テリオン】

第五層六界-アルカナ

世界歴 104679年5月29日

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「ダメよ」

 

エリザベスの強く静かな声が事務所に響く。

 

「俺達は行くぜ」

「母さん、残念。私達は言うこと聞く子供じゃないの。ゴメンネ」

「せやせや。女将さん、今回は堪忍やで」

 

各々がいつもの定位置に陣取る。

双子は向かい合ってソファに座り、ヘラクレスはウルトの肩付近をホバーして、エリザベスは執務用のデスクに座る。

 

『……ハァ』とため息をつき、エリザベスが虚空を見つめる。

 

「あなた達はわかってないわ。いかに危険かってね」

「なんで? 話を聞く限りはアルカナと大差なくない?」

「そうだよ。グランティだってアルカナは異常に発展してるって言ってたぜ?」

 

眉間にシワを寄せたラピスが、タバコの煙を吐き出す。

 

「母さんさ、私達に隠し事してる? 最近思うけど、異常だよね。ギャング潰そうって言ったり、交友関係に国防のトップがいたり」

 

ポアロ姉弟がエリザベスを見る。

 

「あのね、ギャングの件は探偵業の延長線だし、ミウラ先輩とは恩師が一緒ってだけの話でしょ。私が危惧してるのは単純なことよ。あっちでマナどうすんの」

 

双子が顔を見合わせて、『はいはい』としたり顔をした。

ラピスがヘラクレスを見ながらアゴをくいっと動かした。

 

「女将さんがマナについて心配するのもわかるわ。だからこそ、ワテの出番やな。アジトと宝物庫はそのままに、他3つの部屋はなるたけ大きくして、そこにアルカナの空気を充填するわ」

「なるほどね。そこで休養を取ればマナは回復すると。で、何日ぶんのマナを蓄えられるの?」

「姉弟全員で約2ヶ月くらいやな」

 

『……ハァ』とまたエリザベスがため息を吐いた。

 

「母さんが心配しているとおり。ウィンクルムの滞在日数レッドラインは2週間。その間にカルキンとか言うアガルタの王を潰せるのかがネックね」

「母ちゃんさ。俺達も日数は厳しいと思ってるし、ロックスにもアルカナに途中帰るかもって言ってるよ」

 

目的の世界に行くまで経由する第四層と第三層。

ウィンクルムに行くまで、ポータルのエネルギーの充填に合計で3週間かかる。

 

ポアロ姉弟が終始マナのことを気にせず、世界間移動ができる日数を計算する。

その結果、ウィンクルムの滞在日数が2週間というのは、目的遂行の期間として短く感じるのは当然だった。

 

「ウィンクルムに行って帰ってくるのに1ヶ月半かかるのよ? それだけで心配だし、ましてそこで戦闘となると……」

「ま、そこは自分の子供を信じることね」

「……マナが枯渇したら、戦闘においてアルカナ人は終わり。死にはしなくても魔法が出せない。……覚悟していきなさい」

 

ウルトは頷き、ヘラクレスはアゴを上下に動かした。

ラピスはタバコを持った手を上げ、『わかった』とサインを送り、そっぽを向いて煙を吐いた。

 

子供達の説得に折れ、エリザベスがカレンダーを眺める。

 

「2人の誕生日は祝えないわね。出発は6月1日だっけ? 前日の晩はパーティーね」

 

双子が顔を見合わせ、頷く。

上層に行く手段はあったが、母の了承という切符をなんとか手に入れた。

 

「今年の6月7日は10年ぶりに1人か」

「そんな落ち込まないでさ。子供達をパーっと祝ってよ。帰ってきたら土産話をプレゼントするから」

「あー、寂しい。たまには先輩でも誘って飲みに行こうかしら」

 

6月7日は双子の誕生日。

料理をしないエリザベスが、毎年盛大にラピスとウルトの食べたいものを買ってきて祝うのがポアロ家流だった。

 

──第五層六界-アルカナ

世界歴 104679年5月30日

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「ん? うーん」

「お、プレゼントかい? これな、珍しいんだ。宝石世界(ルクシア)産だよ」

 

目の前の露店に、オレンジ色の綺麗な柱状結晶のネックレスが陳列されていた。

 

ラピスへの誕生日プレゼント選びに難航するウルト。

 

値段も丁度いいか。

姉貴って言ったって俺より10分早く産まれただけだしな。

 

ウィンクルムへの出発前夜に、前倒しで催される双子の誕生日会。

毎年大なり小なりプレゼントを渡し合う双子が、各々プレゼントを用意するのは至極自然だった。

 

「今なら安くするよ! 彼女もきっと喜ぶぜ」

「いや、姉へなんだけど。じゃあそれください」

「毎度! ってあれ? もしかしてカウボーイウルト!? じゃあこれは聖騎士ラピスにか? マジか、友達に自慢していーか!?」

 

『いいよ、別に』と相槌を打ってその場を後にした。

 

──第五層六界-アルカナ

世界歴 104679年5月31日

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『ハッピーバースデー、ディア双子~。ハッピーバースデートゥーユー』

 

エリザベスとヘラクレスが歌う雑なバースデーソングを聴き終え、渦中の双子が蝋燭の火を消す。

 

食べかけのステーキに刺された蝋燭が煙を揺蕩わせる。

 

「まさか、この雑なバースデーソングをヘラクレスのハモリで聴く日がくるなんて」

「だな。テキトーすぎて祝ってんだか、わかんねーよ」

 

文句は言うものの、ご満悦な双子。

テーブルの上にはデリバリーフードが山のように並んでいる。

 

ピザ、ポテト、チキン、サラダにシャンパンやワイン。

そして、ヘラクレスが買ってきてくれた、ポアロ姉弟行きつけのオートマットのナイトロバーガー。

 

雑多に飾り気なくテーブルを覆った食事の数々。

ポアロファミリー名物の、料理が得意じゃないエリザベスによる渾身のディナーである。

 

「はいこれ! 誕プレ~」

 

酔ったエリザベスが双子にプレゼントを渡した。

 

「わー、なになに!? ……鍵?」

「えー、母ちゃん鍵って、嬉しいけどさ。古くない?」

 

双子が各々袋を開けると、中には皮の紐で結ばれて、ネックレスのようになった鍵が入っていた。

双子の鍵は同一のものらしい。

 

ポアロファミリーの住む国には、成人のタイミングで鍵を渡すしきたりがあった。

数十年前までは盛んだったが、今では本物の鍵を渡す親は少数派である。

 

ラピスとウルトは誕生日を迎えて16歳、成人でもなければ古いしきたりに縁があるわけでもない。

 

「いいじゃない。私が親から貰って嬉しかったからマネしたのよ。何の鍵かはヒ・ミ・ツ」

「ウザ」

 

ラピスが罵倒しながら首に鍵をかける。

 

「そうそう。ほら、ラピス。俺から誕プレ」

「え、ありがとう。うわ! ネックレスぅー? なんかキモいね」

 

ラピスが包みを開けて中身を茶化す。

鉱石がオレンジ色の光を反射させる。

 

「うるせーよ! 俺だってなあ、たった10分早く生まれただけの姉貴に何やるか悩んだんだぞ!」

「はいはい、ったく。これは私からウルトに」

 

ラピスから手渡されたプレゼントには、半額のシールが貼られていた。

 

「何これ」

「何って、箒のハンドルグリップ。あんたのMZR4のグリップがボロボロだったから」

「……うん」

 

エリザベスは指を指し笑い、ヘラクレスはひっくり返ってのけぞりながらテーブルの上で笑い転げた。

 

「私だって悩んだんだからね」

「……うん」

 

ラピスがプレゼントの石を凝視する。

 

「待って、これってルクシア産のやつ?」

「……うん、そう言ってた。露店の店主が」

「だよね! これ、私欲しかったやつじゃん! ありがと、あんたもこれ買った方いいよ」

 

唐突に喜び始めたラピスに、釣られてウルトも嬉しくなる。

口を尖らせながら、照れるウルト。

 

「いや、別に。俺はいいわ。でもラピスはそう言うの好きだろ? まあ、姉弟だからわかるわけよ」

「さすが。これ欲しかった御守りなんだよねー」

「なんやよーわからんけど、ウルトはんの思いが報われて良かったわ」

 

ラピスが『これねー、いつか買おうと思ってたんだけどねー』といい首にネックレスをかける。

 

鍵と宝石が光を反射させ、機嫌のいいラピスが目の前のグラスに注がれているシャンパンとワインを飲み干した。

 

「さあ、あなた達! 今のうちにどんどん飲みなさい! 次に飲んで食ってできるのなんて、いつになるかわかんないわよ!」

 

すでに出発の準備を終えているポアロ姉弟。

盛大に騒ぎ、笑いながら時を共有し、夜は更けていった。

 

──第五層六界-アルカナ

世界歴 104679年6月1日

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「じゃあ行ってくるから」

 

仕事用の大きなローブを纏った双子と、ウルトの肩に乗るヘラクレス。

 

「ええ、気をつけて。地底人をぶっ飛ばして、世界を救って来なさい! ……土産話待ってるわ」

 

エリザベスが我が子達を見送り、ポアロ姉弟が家を後に歩き出す。

目指すは行きつけのオートマット、ロックスと合流する。

 

「ヤーマン。朝ごはんは食ってくか?」

「そうだな。連日のナイトロバーガーだ」

「ホンマ好きやなー」

 

4人がテーブルを囲い朝ごはんを食べる。

人間は全員ナイトロバーガーを食べ、ヘラクレスは持って来ていた黒糖ゼリーを食べた。

 

相変わらず外野はポアロ姉弟に反応し、ガヤガヤと騒ぎ始める。

それを気にもせず、4人は計画を語らう。

 

「ヤーマン。今から行くのは第四層五界の狂気世界(テリオン)だ。そこでポータルにエネルギーを充填させるために、2週間滞在する」

「狂気世界(テリオン)か、グランティが過去に行ったとこだよな。あまり自然エネルギーとの共存が発展してないって言ってたけど」

 

ウィンクルムまでの道のりを確認する。

ポアロ姉弟にとって、上層の世界は圧倒的な未知。

 

ウィンクルムまでのルート選定は、全てロックスにかかっていた。

 

「にしても、狂気ってなんや仰々しいな」

「ヤーマン。そこなんだ。一度行ってるんだがウィンクルムの地上と変わらない、普通の世界だった。だから安心かと思ってね。ジーン?」

「まあナントカ世界なんて昔の人が名付けただけで、意味なんてきっと無いでしょ。てかご飯とかお風呂の算段は立ってんでしょうね」

「ヤーマン! アイアンドアイが仲良くなった人の所にお邪魔する予定だ。美味い揚げ物を食べさせてくれる、いい奴なんだよ」

 

男達だけの移動なら考慮事項は多くない。

しかし、ラピスという傲慢で年ごろなティーンがいると、考えることが増える。

 

「ヤーマン、大丈夫さ。その男には彼女がいるし、ラピスはそっちに泊まればいい」

「いや、なんであんたが勝手に決めてんの。相手の都合があるでしょ」

 

ラピスは吸っていたタバコを消すと、背伸びをした。

 

「あーあ。バーチカル世界か。……あっちの世界にはあっちの世界の私がいるのかな?」

「どうだろうな。いたら俺だって会いてーよ」

「昨日も女将さんが言っとったけど、『空の星のように、観測できるけど実態は誰も知らない』ってのが世界の摂理やろな」

 

『バーチカルの世界に行った証拠は何で確かめる?』『ただの空間移動の説もあるやんな』『厳密な証拠は無理でしょ。この疑問は堂々巡りになって終わり』

ポアロ姉弟が考察を始める。

 

「ヤーマン。ウヌらにはそんなに好奇心があるんだな。……いや、イヤミじゃないんだ。ビゴップ、ジーン?」

「はいはい。とりあえず、私達の知的好奇心と世界を救うためにここを出ましょ」

「なあロックス。どこでポータルを起動する?」

「ヤーマン。他の人達を間違っても第四層に送りたくない。人がいない場所がいいな」

「はいな。ビルの屋上でいいやろか?」

 

四人が店を出て、数人の野次馬がついて来たが、店を出た瞬間からアジトに移動し一瞬で野次馬をまいた。

 

ミウラとエリザベス、そしてヘラクレスが双子のドンパチを観戦したビルの屋上に出る。

 

「ヤーマン。ここなら良さそうだ」

 

ロックスがポータルを起動し、青白いパネルが光り輝く。

第四層五界、狂気世界(テリオン)を選択する。

 

「準備はいいな? アイドレン(兄弟達)」

 

『ああ』『ええ』『はいな』

 

まばゆい光が四人を覆った。

万物の理では干渉できない上層界に、アルカナ出身のポアロ姉弟が足を踏み入れた。

 

──第四層五界-テリオン

世界歴 104679年6月1日

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「頼む! この通りだ!」

「アホか? お前をムゾクに沈めてやろうか?」

 

──アルカナからポアロ姉弟とロックスがテリオンに来た頃

 

必死に天然パーマの男が、マッシュルームヘアの男に頭を下げる。

 

「いい加減にしろよ?」

 

マッシュルームヘアの男の体が、『ツヤのある緑』に変わった。

 

「ッ! わかった、悪かった! わかったよ!」

 

三十一世界の狂気世界(テリオン)には、今日も狂気の沙汰が蔓延っていた。

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