パラレル・バーチカル・ウロボロ   作:馬憐狼詩

34 / 42
第三十四話 【テリオン編】裏社会の夜明け【バラクラバ、ビニールシート、成功報酬】

第四層五界-テリオン

世界歴 104679年4月5日

──────

 

──ロルストン

「ボス、聞こえますか? 例の時間から30分経ってますが、ノスタは現れません」

 

──ウィンデル

「……おう、引き続き頼む」

事務所のマイクが椅子に座り込む。

ロルストンにいるキリトからの報告内容が芳しくない。

 

──ロルストン

「マジ、全然現れないっすね」

「ま、こんなもんだろ。なんせあのノスタだ。トップが時間通りに来なくても、普通だろ」

「でもキリトさん。かれこれ2時間は見張ってるすよ。時間通りに来てくんないと、そりゃ疲れるくね?」

 

上下真っ黒のスウェットに、真っ黒のバラクラバ。

身元がわからない格好をした3人組がターゲットを見張る。

 

「2人とも、緊張の糸を緩めるな。ノスタが来て、事務所に入ったらそこで皆殺しだ」

「にしても、サンベイもイカれてるっすね。サンベイに寝返った、ここの組長も殺せとか」

「サンベイからしたら、簡単な2択なんだよ。土産を持ってきたアホを仲間にするか、土産だけ貰ってアホを殺すか。兄貴分を一回裏切ってるやつを信用できるか?」

 

キリトが二人に言い聞かせる。

裏社会の道理は、上納された物の良し悪しではないと。

 

「……ハァ。ウチらの事務所にはサンベイが来るし、こっちはノスタが来るし。なんかこう、スーってしてきた」

「俺達は役目を果たす、いいな。あっちは『ボス達』に任せよう」

 

──ウィンデル

事務所の前、自動車屋の敷地に一台の車が停まった。

太陽の光を鋭く反射させ、黒光してるボデーが高級感を演出する。

 

──ガチャ、バン

後部座席から一人の男が降りてきたのが見えた。

マイクに緊張が走る。

 

「……おう、俺もここまでか」

 

ガラス越しに見た男の顔に、つい弱音を吐くマイク。

右手の葉巻はそんな動揺を気にも止めず、ユラユラと紫煙を燻らせる。

 

「よう、お前がマイクか? オイラの顔見てビビっただろ。まあ茶でも出せや」

 

事務所に入ってきた男は、本来ここにいるはずがない存在だった。

 

「おう、悪いな。サンベイはコーヒーが好きだって聞いてて、茶はないんだ。コーヒーなら出せるけどよ、どうする『ノスタ』?」

 

白髪で短髪、顔に傷を負ったスーツの男に問いかける。

歳はマイクの一回り上そうだ。

 

「なんだ、茶はねーか。まあ、いいよ。じゃあ、オイラにコーヒーくれろよ。ここ、座っていいか?」

 

『おう』と返し、コーヒーの準備をし始めるマイク。

ソファにゆっくり座り、事務所を見渡すノスタ。

 

「自動車屋やってんのか? 表の稼業もやるってのは利口だよな。ただその分、事務所がパッとしねぇじゃねえか」

「おう、俺はこのくらいでいいんだよ」

 

湯気を立たせたコーヒーが、ノスタの鼻先をくすぐる。

 

「いい香りだな。上等品じゃねえか? サンベイの接待用か、ただ品がいいのか。……ズッ、うん、上手いな。オイラはあんまりコーヒー飲m」

「おう、いつ俺のタマ取るんだ? やけに喋るじゃねか」

「オイラが喋ってる途中だろうが」

 

マイクが葉巻を嗜みながら、ノスタを凝視する。

 

やけに落ち着いた男が、アウェーでゆっくりコーヒーを楽しむ。

すでに場の雰囲気はノスタの手中だった。

 

「ところでよ、お前んとこの若いのはいつ動くんだ? オイラの弟分の組がまだ襲われてねえけどよ。早くやっちまえよ」

「おう、まずは俺の知らないことを教えてもらおうじゃねえか。俺はy」

「ガタガタうるせぇよ馬鹿野郎! ぶっ殺すぞ!」

 

なおも、場の雰囲気がノスタに傾く。

 

「見りゃわかんだろ、馬鹿野郎! サンベイはここに来ねえよ、オイラが殺したからよぉ!」

 

雰囲気、流れ、それらをノスタが操る中でマイクは冷静だった。

 

なんでノスタが来たかは知らねえ。

だが、外の車には運転手が一人、ここいら一帯もこいつの部下はいねえらしい。

一人で乗り込んで来たならワケがあるはずだ。

 

しかし、だからと言ってノスタの動向を探るわけではない。

この世界はやるかやられるか、弱肉強食それだけだ。

 

『フゥー』と煙を吐き出すマイク。

 

「やれ、グレイ」

 

──弾指

上下黒のスウェットを着た『狼』がノスタを裸締めした。

そのまま、ソファから立ち上がらせる。

 

「よう、ノスタ。テメー、俺達を嵌めたのか? ロルストンの仲間に何しやがった」

「グッ!……へへ、オイラはサンベイをハジいた以外、何もしてねえよ。弟分から連絡がないから、いつ組事務所を潰すのか聞いただけだ」

 

グレイが奴(ヤッコ)を顕現させ、牙を顔の横で見せつける。

急に奴(ヤッコ)に拘束されても、ノスタは動じない。

マイクが葉巻を咥えながら席から立ち上がり、ノスタに近づく。

 

「……フー。おう、そもそも俺達はサンベイの依頼で、オメーのタマを取るのが目的なんだよ」

「なら良かったな。オイラをハジかなくても、よくなったじゃねーか。サンベイはもういねえんだからよ」

「おう、証拠は」

 

車の方を見て、ノスタがクイっと顎を動かした。

ノスタを拘束したまま、外に出る。

 

「おう、ゴラ! テメーら親父に何してんだ!」

「うるせぇ、コノヤロー! さっさとトランク開けて、こいつらにサンベイ見せやがれ!」

 

運転手が慌ててトランクを開けた。

そこにはノスタ同様、散々メディアで見てきた裏社会の重鎮、サンベイの死体があった。

トランク一面に敷かれたビニールシートの上に投げやりに放置されている。

 

顔は傷はなく綺麗だが、断末魔を放って果てたことが悠に想像できる表情をしている。

 

腹には大きな穴が開いていた。

血が飛び散っているのはもちろん、内臓が破壊され背中側に飛び出ているようだった。

 

「オイラの奴(ヤッコ)は象なんだよ。『サンベイ、お前ぇオイラのタマ取るらしいじゃねえか』つったらコイツ面食らってよ。だから真ん前からズブリと牙をぶっ刺してやったよ」

「おう、何が目的だ」

「さっさとオイラの弟分を潰せよ。そしたらお前ら全員見逃してやるよ」

 

何考えてやがる。ボスはどう出る?

 

「おう、グレイ。どう思う。俺はノスタの言う通り、キリト達を動かす」

「確かに、この状況でノスタが嘘ついてるとも思えません。奴(ヤッコ)も開示してますし、サンベイの傷も見た限りは象の牙が刺さったように見えます」

 

『ハッハッハ!』とノスタが笑う。

 

「オイラが今奴(ヤッコ)を出したらよ、お前らも腹に風穴開くんだぜ? 譲歩してやってんだよ」

「おう、やるか?」

 

緊張が走る。

 

「ガキが、やらねぇよ。どんな連中がオイラのタマを取ろうとしてんのか見にきたんだよ。裏切った弟分殺すのも面倒くせぇしよ。お前らが潰してくれたら、この件を水に流してバックについてやるよ」

「おう、上納金は月に100万か? 200万か? 邪魔な首輪付けられるなら今ハジくに決まってんだろ」

「金なんていらねぇよ。そんなにオイラはちっちゃく見えるか? お前ら気に入ったから生かしてやるって言ってんだよ。その代わり、なんかあったらオイラのために動いてくれよ」

 

マイクが一口、葉巻を吸った。

 

「おう、グレイ。解放してやれ」

「ハッハ、利口じゃねーか。じゃあ今すぐ組を潰してもらおうか。とはいえ成功報酬だ。弟分の首で、水に流してバックにつく」

 

運転手含め、一同が事務所に入る。

キリト達がしくじったら、結局俺達は殺されちまう。

 

マイクがケータイを取り出しキリトに電話した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。