第四層五界-テリオン
世界歴 104679年4月5日
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「……チッ、ボスが電話に出ねえ」
2回電話をかけて、どちらも留守電。
事務所でナニカあったのか?
なんの動きもなく、ロルストンで組事務所を見張るキリト達。
──プルルルル~
電話が鳴った、ボスからだ。
「はい、カワズガタです」
「おう、キリト。今からオメーらに指示を出す。いいか、ノスタはそっちに現れねえ」
「え!? どういうことですか?」
キリトが驚いた顔で、そこにいる2人のメンバーの顔を見る。
「おう、サンベイがノスタにハジかれた。今、ノスタはこっちにいる。オメーらはそこの組事務所潰して、ノスタの弟分の首を取ってこい。そしたら俺らのノスタ殺しの計画は水に流して、しかもバックについてくれるとよ」
「ボス、意味が……。分かりませんよ」
「おう、やるこたぁ変わらねえ。いいか、そこの組長の首を取ってこい。もちろん事務所をぶっ潰してだ」
『おい、オイラに代われよ』と聞きなれない人物の声が聞こえた。
「よお、マイクんとこの若いの。テメェのボスが言った通りだ。オイラの弟分を組ごと潰せ。ダメだったら仲間もお前も殺す。成功したら今晩、メシでも食いに行こうや」
俺は今、あのノスタと会話したのか?
「おう、よろしく頼むぞキリト。気張れよ」
「……はい」
電話を持った手をだらんと脱力させ、キリトが遠くを眺める。
その引き攣った顔をみて、2人が困惑する。
「何がどうなってんの!? マイクさんはなんて!?」
「……サンベイがノスタにハジかれた。……ノスタが今事務所にいて、ボスとグレイのガラおさえてるって。俺らは予定通り組事務所を壊滅させて、ノスタの弟分の首持って帰る」
「……は?」
脱いでいたバラクラバを被り、そこから覗いたキリトの目がどんどん鋭くなっていった。
「舐めた真似しやがって。組を潰せなきゃ俺達を皆殺しだ? ボスとキリトがテメーを殺さねーのは格下だからじゃねーぞ、ノスタぁ!」
「ちょっとちょっと! どゆこと!? 全然ウチらわかってないんだけど!?」
「表もやってるにしても、俺達は裏やってんだ。ノスタは俺達を舐めてる、ゼッテー。おい、お前ら! やることは変わらねえ、今から組を潰す。行くぞ!」
躍起になるキリトの雰囲気に、シオンと『もう1人』が置いていかれる。
「ウチはまだしも、ティータンは稼業久々だし。もっと説明してくれないと」
「シオン、ティータ。仕事をする。全て片付いたらしっかり教えてやる。俺の態度に動揺するな、プロになれ。逆に、俺がなんでこんな状態になったのか知ったら余計に動揺するぞ」
シオン以上に、赤い髪色のショートヘアで褐色の肌をした女の子が不安そうにしている。
キリトの眼光に、それでも2人は無言で頷いた。
組事務所はロルストンの街外れ、古びたアパートの最上階。
3人はそこの非常階段を登った。
急襲を仕掛けるための出入り口に使う、避難出口の扉の前で耳を澄ます。
「なんで約束の時間から40分も経ってノスタの兄貴はこねぇんだ!?」
「組長、どうなってんでしょう? サンベイが兄貴をハジくんですよね?」
「ダメだ、サンベイも電話に出ねえ! 誰がノスタをハジくかなんて知らねえよ! 問題は兄貴が来ねーことだろ!」
組事務所の中から聞こえる怒声。
ターゲット達も混乱しているらしい。
好機。
「よし。お前ら、邪魔ならバラクラバを取れ。ティータは別にいいか、どうせ破れるし。ここからは計画通りにいくぞ。俺とシオンが先に行って急襲、そして交戦。多分チャカをぶっ放してくるから、それが止んだらティータが全員ぶっ潰す。いいな?」
「ウチは問題ないすけど。
「いや、シオンはあんま頼るなし。自分もそれでいいすけど」
3人ともバラクラバを取る。
マッシュルームヘアのオッサンと、2人の女子高生。
キリトとシオンが
スウェットを着たカエルと、耳がカールした猫がそこに現れた。
カエルが喋る。
「いいか、この扉を壊して中に入る。頭に入れた間取りを思い出せ。構成員は全員で8人だ、ドンドン殺せよ。銃声が止んだタイミングでティータを呼ぶ。そん時に事務所に入りながら
「了解すけど、一旦自分が『着ぐるみ』着るのだけ待ってもらっていすか?」
「マヂ、今日はティータンにかかってるからね」
「切り札じゃなくて、補欠要員の代打にんなこと言うなし」
ティータが真っ黒い布の塊に体を入れる。
着るというより、塊に体を入れている、の方が正しい。
怒声が鳴り止まない事務所の扉を前に、カエルが胸を張りのけぞった。
「着たっす。いいっすよ」
「ケロ」
──ッバゴン!
カエルが勢いよく体を前に倒すのと同時に、舌でドアを殴るように吹っ飛ばした。
──弾指
カエルは瞬時に中に入り、構成員の位置を把握すると物陰に隠れた。
猫はそのまま構成員の方へ走る。
──弾指
「ッシャァァァァアァアァァ!!!」
猫がヒッシングをしながら、右手で1人、そのムーブのまま左手でまた1人と首を掻っ切る。
血飛沫が上がり、天井に血が飛ぶ。
なおをも動きを止めない。
「なんだこいつらぁ!」
「カチコミじゃあ!」
構成員が引き出しや、ジャケットの中に手を入れる。
「ゴラァ! 死にs」
──ボゴォ!
シオンを狙った構成員を、キリトが舌で吹っ飛ばす。
顎に綺麗に入った。
目視で確認した構成員は5人。
2人死亡、1人失神。
残りの2人の中にターゲット、すなわちノスタの弟分がいた。
「何してんだぁ! お前らも
ターゲットが鉄砲を撃ってくる。
奥から構成員が3人現れた。
「シオン! 引け!」
──パンッ!パンッ!パンッ!
無数の弾丸を、テーブルやタンスを倒して作ったバリケードで防ぐ。
キリトのカエルは舌で離れた物も持ってこれる。
常日頃のカチコミの常勝スタイル。
奇襲で、グレイとシオンがなるべく敵を倒し、その間にバリケードを建てて攻撃をいなしながら作戦会議をする。
しかし、本日はグレイの代わりにシオンのズッ友、ティータが代役参戦。
戦略を変える。
「3人はやったっしょ!」
「だな。多分、撃ち終わったらあいつら
銃声が止む。
『ゴラァ!』『カラダ持ってくぞ、クソ共!』『サンベイ、てめー図ったなぁ!』などと怒声を上げる連中を見る。
ゴリラ、カメレオン、カメ、ハイエナ、猛禽類の何か。
「よし、あいつら
ターゲットを含めた構成員が
「ティータ!」
ティータを呼ぶと同時に、キリトとシオンが事務所を出る。
シオンとティータがハイタッチをしながらすれ違う。
「あぁ!? ガキじゃn」
ティータが肘を突き出し、ヘッドスライディングの用に頭から飛び込む。
──弾指
──ダッッガッァァァアアァアァァァン!!!
一瞬にして巨大化したティータ。
「うお!?」
「な、なんだぁ!?」
「やべぇ! 壁が! ッグェ! ッア……」
巨大化の勢いのまま構成員達を後方に押し、壁とティータの腕の間で挟み込む。
「イテテテテ!」
事務所の床、壁、天井、用品。
ありとあらゆる物をティータの体が圧迫し、アパート全体を軋ませた。
その分、ティータも痛みを伴う。
──ドガァァン!
構成員達を挟んでいた壁がついに壊れた。
壁の残骸と共に構成員達は表の道路に落ち、ティータは即座に
「ティータン大丈夫!? これ替えの下着と服! ウチは生き残りいないか見るから、早く着ぐるみ片付けよ!」
「イテテ、大丈夫大丈夫。はいはい、そっちも気をつけて」
事務所は土埃が舞い、爆発の爆心地のような有様だ。
道路側の壁は脱落し、大きな黒い布が床を覆って、その中がモゾモゾと動いている。
「奥にはいなかった! ティータン服着た?」
「着た。今着ぐるみから出る、シオンは着ぐるみ回収すんの手伝って。自分の下にも構成員いたし。あーやば、体がダルい」
ティータから蒸気が上がり、顔は真っ赤になっている。
2人で着ぐるみ、もといティータの
マイクがオーダーして作った物で、それを2人が避難出口の所で必死に引っ張り袋に詰めていく。
先に倒していた3人が見えた。
「後はティータン1人で大丈夫っしょ。ウチはあいつらにとどめ刺してキリトさんに撤収可能って伝えるから」
「オーケー。自分は先に車行ってるからね」
穴の空いた壁を目指してシオンが走る。
途中、先に倒れて瀕死、または死亡させていた3人に、サイレンサー付きの鉄砲で1発ずつ発砲した。
1人は胸に、2人は頭に。
穴の空いた壁から外を見る。
構成員が5人とも死んでいるのが、5階の高さからでも確認できた。
どの構成員も
四肢はグニャグニャに折れ曲がり、全身が腫れたような紫色で、物によっては頭が瓦礫に挟まれている。
「ケージー! オールクリアー!」
シオンが撤収可能のサインを叫ぶ。
ティータの入れ違いと同時に、アパートの外にいたキリトがターゲットの殺害を確認していた。
ケージーはキリトの名字である『カワズガタ』の略。
稼業中の他人に聞こえる意思疎通は、お互いをコードネームで呼び合う。
外はすでに野次馬でごった返していた。
キリトがターゲットの体を持ち上げアパートと隣接する建物の間の路地に走って入る。
野次馬が後を追うが、即座に
それを見てシオンが事務所を後にし、ターゲットを観察していた立体駐車場に着いた頃には、キリトもティータも撤収作業が完了していた。
「うわ。キリトさんマヂはやすぎじゃね?」
「ぐずぐずしてらんねえぞ、早く乗れ」
任務時に使用する商用車のトランクに、ティータの着ぐるみと死体を積んで出発した。
車には、『帝都重工ソリューションズ』『作業車』などマグネットシールが貼ってある。
ポリスの目を眩ますための仕様であり、もちろんナンバーも他の車両の物をつけている。
「キャップ被って、上の服だけでも作業着羽織れ。シオン、ボスに写真と一緒に進捗を送ってくれ。完了ってな」
「ケータイに届いてるこの写真っすね、了解かいっす。うわー、身体グチャグチャすぎてヤバいんだけど。見てティータンこれ、ヤバくね?」
「うわー、我ながら壊しまくったなー」
「ティータには感謝だな。急遽きてくれて、しかも大役をこなしてもらってよ。巨人の
「てか、
完璧な装備で帰路に着く。
駐車場を出る寸前、目の前をサイレンを鳴らしたパトカーが通った。
同じ方向だったので平然と後ろを着いていく。
パトカーは組事務所の方へ向かい左折した。
直進しながらその方向を見ると、緊急車両や警察官で溢れかえっている。
それを横目に、運転手のキリトはタバコに火をつけ窓を開けた。