第四層五界-テリオン
世界歴 104679年6月1日
──────
「頼む! この通りだ!」
「アホか? お前をムゾクに沈めてやろうか?」
必死にグレイが、キリトに頭を下げる。
「いい加減にしろよ?」
キリトが、
「ッ! わかった、悪かった! わかったよ! 来週は俺が死体捨てるよ」
「グレイ、お前な? バイクのレース観戦は魔法の言葉でも稼業休む口実でもなんでもねーぞ?」
「それを承知でお願いしてんだろ。こちとら年間何回レースあると思ってんだ? スプリント含めて44レースだぞ?」
「なんで開き直ってんだよ」
キリトがカエルの状態で、顎付近を膨らませる。
舌を高速で口から出すための溜めであり、攻撃の意図を示すものである。
「わかったよぉ、怒んなよぉ。あーあ、次のレースも酒はほどほどにしねーとな。断られるに賭けた俺のバカ、また俺との賭けに勝っちまったよ」
「ったく、お前ってy」
── アイルビーゼア〜♪
キリトの携帯電話がなり、会話が止まった。
奴ヤッコを収めたキリトが着信を確認する。
「んー? なんだぁ? おいグレイ、見ろよ」
「ん?」
画面にはアブラヤ店主、ラングとのチャットが表示されていた。
『キリトく〜ん! お・つ・か・れ♡ 今晩さ、グレイ君とかシオンちゃんとか、皆んなよんで遊びに来なよー! きっと楽しいぞ!? ちなみに僕の奢りだよ〜』
とラングからメッセージが届いていた。
「だってよ。どうする?」
「奢りかー。まあ行くか。月曜だしシファも行けんだろ」
「おう。『何人か誘って行きます』と」
「てか、キリトとラングさんのやり取りきついな。もっとノってあげろよ。お前、『はい』とか『わかりました』しか返してねーじゃねーか」
「こんなんでいいんだよ」
マイク不在の事務所。
夕方の日差しが、応接ソファに座る2人の足元を照らす。
「キリト、今日ってもう予約ないよな?」
「あー、だな。ボスが早々に帰っていいってよ」
「アブラヤはもうそろ開店だし、もう今日は終わりにしてシオンとかに連絡してやろうぜ」
「だな。俺がシオン達に連絡するから、グレイはシファちゃんに声かけて来いよ」
──30分後
「いやー、ラングっち太っ腹ー!」
「マヂ、こういうのテンション上がるわー」
事務所にシオン、ティータの女子高生コンビとシファが合流し、会話が盛り上がる。
「お前らな、タンスの中に2億あんだろ。アブラヤの奢りでテンション上がんなよ」
「いや、上がるっしょ!? 人がご馳走してくれんのがいいの! ね、シファさん」
「そうだねー。アブラヤに私は最近行ってなかったし、ラングさんに会いたいなー」
『よし、じゃあボチボチ行くか』と5人が事務所を後にする。
事務所前の公園を突き抜け、繁華街に入る。
喧騒が聞こえ始め、それが怒声であると把握する。
その元凶はまさに今から入ろうとしているアブラヤの前で行われていた。
「だからぁ、入らねーって言ってんだろ!」
「おう、ゴラ! テメーなんでボコってんのに店勧めんだ? あぁ!?」
「ヤ、ヤーマン。ホントにここの飯は美味いんだ。ウヌらに、食ってもらいたい」
『うるせぇ!』とチンピラが叫び、ドレッドヘアで褐色肌の男を蹴る。
「どうする? 止める?」
「止める? じゃなくて。グレイ、止めてあげなよ」
「そーだよ、グレイさん。シファさんの前でたまにはかっこいいとこ見せないと」
「ティータお前、うるせーよ。おいキリト、行くぞ」
グレイとキリトが仲裁に入る。
なんでもドレッドヘアの男が客引きをしていたらしい。
殴っても誘ってくるからムキになったと。
「オメーらがマイクの部下なのは知ってる。オメーらとは揉めたくねー。ったく、おいドレッド野郎。救われたな」
そう言ってチンピラ2人は去って行った。
「なあ、ドレッドの。お前、見ねーやつだけど、どこの誰だ?」
「ヤーマン。アイアンドアイの名前はロックス。今は旅の途中で、前に知り合ったラングの所にお邪魔してるんだ、ジーン?」
「え、ラングってアブラヤの? 俺ら今から入ろうと思ってて」
「ヤーマン! そうか、ウヌらはアブラヤに来たのか! アイアンドアイは嬉しいぜ! な、ジーン?」
そう言うとロックスがアブラヤに誘導を始めた。
すでに中は騒がしい。
一同は促されるまま中に入った。
「ヤーマン! ご新規5名様だ!」
「へいらっしゃい! 安いよ安いよぉ! 今なら揚げ物なんでも半額だい!」
「らっしゃっせーらっしゃっせー! 今なら全品安いよぉ! 持ってけ泥棒!」
「アーハッハッハ! あ〜んた達、最高〜に面白いね〜!」
「ッヒー! ちょっと、ラピスちゃんもウルト君もギャグセンとノリ良すぎ〜」
いつも厨房にいるはずの店主ラングが、パートナーであるグランティとカウンターに座り大盛り上がりをしている。
厨房にはカッパー混じりの茶髪ウェイビーな髪型をした女子と、その子と顔の特徴が似て下まつ毛が伸びた、黒髪短髪の男子が立って騒いでいた。
なぜか男子の肩にはメタリックブルー色のクワガタが付いている。
「ん? おいロックス! なんでお前怪我してんだ!?」
「なに? お兄さん達が私の友達ボコったの?」
男子は慌てて状況を確認する一方で、女子は物凄い眼力でグレイとキリトを睨む。
「ヤーマン! 違うんだ2人とも! アイアンドアイが無理な客引きしたからこうなって、この人達は仲裁に入ってくれたんだ! ジーン!?」
「何も違ってないじゃない。私の連れがボコられたって、それって私がバカにされたようなもんよね?」
「いや、違うだろ! いいよ、ラピスそういうのは。ロックスの心配をしろよ。ったく、お客さん達もありがとうございます。お礼と言ってはなんですけど好きなのいっぱい注文してください。全部サービスしますんで」
「ちょっとウルト君! サービスしますを言っていいの僕だけだから!」
何がなんだかわからない。
見ない顔のこの連中はどこのどいつだ?
こいつらの存在がラングの言う『楽しい』なのか?
グレイ同様、一同が要領を得ぬまま立ち尽くしていた。
「みんなびっくりしすぎ〜! この子達は僕のト・モ・ダ・チ。今日から2週間、うちに居候するからお店手伝ってもらってるんだ〜。ま、僕1人の店だから手伝ってもらっても色々赤字なんだけど」
「さ〜すがラング〜! 太っ腹〜!」
「グラちゃん、そんなことないよ〜! ラピスちゃんにグラちゃんの寝室を貸してあげるんだし、グラちゃんも優しいよ」
『ね〜』なんて馬鹿ップルが騒いでる。
「んっんー! じゃあ自己紹介。私の名前はラピス=ポアロ。こっちが弟のウルト=ポアロで、そっちのドレッドがロックス=ナティよ。もう1人、いるにはいるけど説明がだるいから端折る。以上」
ウルトの肩にいるヘラクレスがクイクイっと顎を上下に動かし、不満をアピールする。
しかし、誰もそれに気づかない。
「俺が双子の弟のウルトね。短い間だけどよろしく。こっちに滞在してる間は基本ここにいるよ」
──ダンッ!!!
「ヤーマン! もう一回ウヌらの名を言ってくれ! なんて言った!」
「おいおい、今度はなんだよー。席に座らせてくれよ」
ロックスが叫び、ラングとグランティの間を割って入ってカウンターを勢いよく叩き、双子に名前を問いただす。
一向に状況が読めないキリトが眼鏡を取って拭き始めた。
「今更何? 前から知ってるじゃない。ラピスよ。で、こっちはウr」
「そうじゃない! アイアンドアイはウヌらの姓を知らなかった! 今知った! ウヌらの姓はポアロなのか? もしかして、エリザベス=ポアロを知ってるのか!? じゃあ知り合いのグランティってのは、グランティ=ブレントなのか!?」
「……いや、ロックス。知ってるも何も、エリザベス=ポアロは俺達の母ちゃんだぜ? それにグランティ=ブレントは俺達の師範だ。てか、母ちゃんとグランティは面識ないはずだけど……」
「な〜んで、アタシの名前を呼ぶ〜んだい! お前達が言う〜アタシ〜にそっくりな知人は、名前も一緒な〜のが奇遇だね〜! ハッハ!」
グレイやキリト達は『もう知らん』とカウンター後ろの席に座る。
グランティが会話に割って入る中、双子とロックスは緊迫した雰囲気でお互いを見ていた。
「ヤーマン。そうか、ウヌらの手元にあったんだな。アイアンドアイがアルカナで探していた『魔法戦士ピュアピュア』が」
「……ロックス、お前何言ってんだよ。……んなもん俺達知らねーよ」
「一旦この場で語らうのやめましょう。ロックス、後であんたが知ってること全部話して。私達が知らないことをあんたが知ってることは確かだからね」
「……ヤーマン」
『マホー戦士ピュアピュア? なんそれ』とシオンがテーブル席で言葉を発するも、双子とロックスは言葉を返さなかった。
「あ、あなた達、……アルカナから来たの?」
「そう、アルカナ。知ってるんだ、珍しいね」
動揺したような雰囲気でシファが突如呟き、それにラピスが圧倒的速さで質問を返す。
「え? あ、いや。め、珍しい名前のせk、国だなーって? 私は聞いたことないから、そんな所があるんだね」
「アルカナ、かー。確かに聞いたことねーな」
シファの発言にグレイが言葉を返す。
しかし、ラピスは『ふーん』と言葉を返しながらも、以前とシファを見つめ動向を観察していた。
「なあ、もう終わったか? 酒を頼みたいんだけど。まずは飲んでから語らおうぜ。ビール5つ」
「あ、はーい」
店に入るのも一苦労、酒を頼むのも一苦労。
キリトが苛立ちながら注文し、それにウルトが応える。
「いや、勝手に決めんなし! ビール1個なし! カシオレ! ティータンは!?」
「自分はビールでいいよ」
「え、マヂ? ……ティータンついに大人の階段上った感じ?」
突如として現れた素性のわからぬ双子とドレッド。
各々疑問が湧きつつも、それでも宴会は開かれたのだった。