第四層五界-テリオン
世界歴 104679年6月2日
──────
「まずは、整理から。ロックス、知ってること全部喋って」
「いや、その前に各々が思ってる疑問をあげよーぜ。咄嗟のことで話し合えなかったけど、あれってグランティだよな? 俺らの知ってるグランティ=ブレントと全く同じ見た目してるけど、記憶も性格も違いすぎるぜ」
「せやせや。つまるところ、テリオンのオカンゆーことでええのやろか?」
「ヤーマン。ラングのパートナーのグランティがウヌらの師範のグランティで、でもこっちの世界のグランティだから違くて。でもやっぱりグランティであr」
「ロックス、うるさい。黙って」
テリオンに来たアルカナ人一行が、ウィンデルの街に通る川の橋の高架下で、朝っぱらから語り合う。
テリオンのポータルアンカーがウィンデルにあり、着いて早々にラングの元を訪れ、泊まる宿は確保していた。
しかし、もちろんタダでとはならず、毎晩ラングの店、アブラヤの手伝いをすることになった。
「確かに昨日は語らう暇が無かったからね。まさかあんな急に異世界に来たと実感させられるとは。リアリスのグランティには会ったことないんだけどね」
──アルカナ人一行が到着してまもなく
第四層五界-テリオン
世界歴 104679年6月1日
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「ヤーマン。ここだ」
──ピンポーン
『はいは〜い! どちら様? 今手が離せなくて、ちょっとグラちゃん出れる!?』
『ええ、私が出るわ』
──ガチャ
「どちらさま? あら、あなたはこの前の。ちょっとラング! 前に話して意気投合してた、ほらドレッドヘアの!」
訪問したアパートのチャイムを押し、出てきたのは緑色の髪をした女性だった。
家の中の人間にロックスの訪問を叫んで教える。
「さ、入って入って」
その女性に双子とクワガタが目を離せないでいた。
「ま、待って。あんたグランティだよね?」
「え? そうだけど、ごめんなさい。何処かで会ってるんだっけ?」
双子が顔を見合わせる。
こいつ、グランティだけど、知っているグランティではない。
外界には外界の自分がいるのだろうか?
その疑問の答えは目の前のグランティが教えてくれた。
まさかこんなに早く、答えに辿り着くとは誰も想像していなかった。
「あ、いや。知人にそっくりだったもので。顔も名前も」
「あー、そうなの」
「そうそう。その人さ、結構強くて。私達の師範って言うか」
「お酒が? あなた達、若く見えるけど。マセてるのね」
「お酒? え、あーまあ。そう」
『なんで酒?』と双子が疑問に思うも、咄嗟の会話だっため適当に話を流す。
グランティが発した酒の意味を双子が知ることになるのはこの夜だった。
──。
「昨日はあの後すぐに店の手伝いに行ったから話せなかったけどよ。ま、異世界には同一の人間がいるってことでいいんじゃねーか?」
「そうだけど、『基本的には』じゃない? テリオンのグランティを観測したし、関わった。けど、同一人物がいないパターンもあるんじゃない? 事故なのか、そもそも生まれてきてないのか」
「それ思考実験の一歩手前でっせ。そこまでくると、もはや神のみぞ知る、やな」
議論を白熱させ始めるポアロ姉弟。
ロックスは『……ヤーマン』と話しにギリギリついて行けてない様子で相槌を打つ。
「ま、ヘラクレスの言う通りね。神のみぞ知る。なら、今は深く議論すべきではない、か」
「せやな、机上で語らってもしゃーないわ」
「……ヤーマン」
「他に疑問はあるか? 俺は自然エネルギーについて思うところはあるけど」
「……ヤーマン」
「ロックス、わかんないなら相槌うたないで。ウザイ」
ラピスのロックスに対する対応が日に日に激化していく。
まるでそれは年下の弟相手に独裁的な行動を行う、姉さながらであった。
しかし、ロックスはそれを嬉々として受け入れているのが、表情で皆に伝わっている。
ロックスにとって兄弟のように接してくれるということは、相手が心を開いているというバロメーターになっているからだった。
それがたとえ、自分より一回りも若い女子であったとしても。
「この世界に自然エネルギーを感じる。それに、昨日会ったこの世界の住人全員に、ここの自然エネルギーを感じた」
「だな。ロックスに何も感じないのがむしろ不思議だぜ。ウィンクルム出身なのになんで自然エネルギーを感じない? 今時点で枯渇してるのか?」
「それはウィンクルムに行けばわかるんちゃいます? 今はここの自然エネルギーと住人との紐付きの方を考察すべきやで」
「ヘラクレス、わかってるじゃない。ウルトみたいに本筋ズラすの今日は禁止ね。なんせ今から色々と感情の起伏が激しくなりそうなイベントが控えてるから」
「んだよ、イヤミ言いやがって。だって気になるだろ? なんでここの連中はみんな自然エネルギーを宿してるのに、ロックスからはリアリス人みたいに何も感じないんだ? まあ、話の方向を違う向き先にしたのは悪かったよ」
昨日のアブラヤでロックスが見せたポアロ姓に対する反応と、『魔法戦士ピュアピュア』なるナニカに対する情報開示という大イベントが控えている。
しかし、そのイベントを持ってしても、その前に語らいたい議題が終わらない。
「ヤーマン。あえて聞くが、なんでウヌらはテリオンの情報を求める? アイアンドアイが言うことじゃないが、目的はウィンクルム救済であって、テリオン探訪じゃないだろ?」
「ホント馬鹿。好奇心が暴走してるだけに決まってんじゃない。こちとら上層に来るのが初めてなの。ロックスみたいに上層出身じゃないからね」
「そういうことだ。百聞は一見にしかず。せっかく来たならトコトン探究しねーと」
「せやせや」
テリオンに来訪し2日目。
語らうネタが尽きないほどに、アルカナの自然エネルギーとの共存レベルとは比べものにならないほど、テリオンはアナログだった。
しかし、マナではない、テリオン独特の自然エネルギーはしっかりと感じ、存在している。
「とりあえず、ここの自然エネルギーについても、一旦は議論しなくていいんじゃない? 残りが今日入れて13日。その間に色々調べれば」
「それもそうだな。じゃあロックス、一大イベントの幕開けといくか。なんでお前が母ちゃんを知ってる。なんで母ちゃんとグランティが繋がってる。魔法戦士ピュアピュアはなんだ。お前が知っていることを全て話してくれ」
『ヤーマン、どこから話そうか……』と宙を眺め、考えを巡らせるロックス。
「アイアンドアイがウィンクルムから来た理由は仲間探しだ。けど、それぞれの世界の詳細や文明レベルなんてわからない。暗中模索だったんだ」
「そう言ってたな」
「ヤーマン。それで全ての世界に行って仲間を探すって目標を早々に切り替えた。戦士になって欲しい人物がいたら救援を依頼しよう。1人でもいいから連れて行こうってな。一度に何人も探すより、それが確実だと思ったんだ」
そこからのロックスの説明は皆が想像していた通りだった。
ウィンクルムのアガルタ人並みに、発展した技術を有している世界を見つけたら、そこで人を探そうと考えたこと。
五層のアルカナに来たら、運良く自然エネルギーとの共存が発展していたこと。
「ヤーマン。明らかにアルカナは自然エネルギーと高度なレベルで共存してた。一目でわかるレベルでな」
「そうね、リアリスなんかと比べたら一目瞭然ね。空は箒が飛び交って、皆んなマナを使って商売してるからね。視界に入る情報が賑やかすぎる。もちろんここ、テリオンと比べても」
『ヤーマン』とロックスが相槌を打ち、話を続ける。
「そいつは突然現れたんだ。アイアンドアイがアルカナに来て2日目、飲まず食わずで倒れそうだったから路地の日陰で休んでたんだ。そしたら全身をローブで包んで、隙間から目だけ見えてる女の子が話しかけてこう聞くんだ。『君、どこから来たの? 何を探しているんだい?』って。だからアイアンドアイはアルカナに来た理由を言ったのさ」
「なんで全身隠してるのに女の子ってわかったわけ?」
「ヤーマン。身長が小さかったし、声も少女だったからな。で、そいつが言うんだよ。『じゃあ僕の弟子に会うといいよ。エリザベス=ポアロとグランティ=ブレントに。彼女達が国から奪った兵器が役に立つんじゃないかな』って」
ロックスは何を言っているんだ。
混乱する未来は想像できていた。
しかし、実際に聞くと疑問が湧き上がり思考が止まらない。
俺達がグランティの所に修行に行ったのは、母ちゃんの手引きがあった?
カブトムシ奪取の依頼も母ちゃんからだし、そもそもあのカブトムシはどこに行った?
依頼主は本当にいたのか?
少なくとも一つだけ答えが出た。
じゃあ、母ちゃんもグランティの言う戦士だったんだ。
ポアロ兄弟が面食らう中、ロックスは話を再開するタイミングを見計らった。