第四層五界-テリオン
世界歴 104679年6月2日
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「正直、合点のいく方が多い。……ふーん、あのおばさんもやってくれるじゃない。腹立つ。……けど強くなれたことには感謝してる。ま、強くなりたいと思わされたのでは? と考えると、やっぱり母さんの掌の上だから腹が立つけど、ッネ!」
──ダガンッ!
しゃがんで会話していたラピスが、左手に地面から抽出した砂鉄を這わせ、ジャンヌのアーマーを装備した次の瞬間。
咥えていたタバコを指で挟み、それごと地面を殴った。
タバコの火種は吹き飛んだが、ラピスの怒りの火は消えていない。
「母さんはグランティと旧友どころか、もしかして忘却のグランティと呼ばれるが所以を作った人ってこと?」
「あー、クソ! 考えがまとまらねー。グランティは国から歴史書とか盗んで、それで忘却のグランティって言われてんだぜ? 本当に盗んでたのは歴史書じゃなくて魔法戦士ピュアピュアだってのかよ?」
「その方が合点いくでしょ。それに、どうやって国庫とかに侵入して、盗んだのか考えたことあるけど。グランティの空間魔法に、母さんの
忘却のグランティ。
彼女と手を組み、2人で国から国家機密の兵器を母親が盗んだんじゃないか。
その思考が双子の脳内で様々な可能性を巡らせていた。
「……ハァ。私達、問題児を2人揃って孤児院から引き取ったのは、そもそも戦士にするって名目があったからなのかもね」
「悲しい事実なんて思うなよ? どんな理由が母ちゃんの腹ん中にあったとしても、俺達をしっかり面倒見てくれただろ」
「そんなこと、言われなくてもわかってる。ただ、あの愛が本物なのか疑問に思っただけ。で? ロックス、その少女とやらは他になんか言ってなかったわけ?」
双子の会話内容から生い立ちを察するロックス。
しかし、励ましは野暮と考え、『……ヤーマン』と相槌だけ打って話を進めた。
「少女は『マナシウス』と名乗っていた。なんでも稀代の発明家、『ニコ=ラテス』がアルカナで作った最高傑作があるとか。『それの名前は魔法戦士ピュアピュア、弟子が盗んだ兵器がそれさ。来る大戦に向けてね』って言ってたぜ。な、ジーン?」
ラピスが『イカれてる』と声を漏らし、タバコを咥えて火をつけた。
ロックスの口からアルカナのビッグネームがどんどん出てくる。
少女はもとより、エリザベスという身近な存在までもが、大きな歪みとも、うねりとも言えない渦中にいる。
その渦の中に、自分達も引き寄せられているんじゃないか?
いや、もはや自分達も渦中の、それも真ん中にいるんじゃないか?
双子の表情が強張る。
なんなんだ、『来る大戦』って。
なんなんだよ。
俺達の把握していない、その範疇の外で何が起きようとしているんだ。
その事実だけで双子の脳は思考が焼けつきそうだった。
「その少女はマナシウス以外に名前言ってなかったか? ナマシウスってのは魔法の母と呼ばれてる歴史上の存在だぜ? 子孫だとしたらナントカ=マナシウスだろ?」
「あーあー、考えると疲れる。ニコは200年くらい前の人でしょ? 突如現れて、ありとあらゆる魔具の基本を設計した人。私達の乗ってる箒だってそう。ブースターに使われている、マナの単純エネルギー放出の安定供給機構は彼が発明して未だ現役で使われ続けてる」
「ニコに至っては、未だに生きてるって噂があるよな。色白の肌で、耳がやけにとんがってるとか、童顔とか色々と……」
そこにいる全員が顔を見合わせた。
「おい、ロックス。アガルタ人の特徴って……」
「ヤ、ヤーマン。肌が青白くて、童顔で、耳が横に突き出ていて、長生きだ……」
ラピスが前髪をくしゃっと掻き上げながら、『……ハァ』とため息をついて総括する。
「つまり、私達の母さんはグランティとマブダチで、5年ほど前に国から『魔法戦士ピュアピュア』なる兵器を強奪した。その2人の師匠が魔法の母、マナシウスの名を語り、ロックスにあれやこれやを指南。魔法戦士は、かの名高い稀代の天才発明家ニコ=ラテスの発明で。そのニコはウィンクルム出身のアガルタ人かもしれない。……ハァ、これでいい?」
一同が虚空を見つめる。
「……それならグランティの、ウィンクルムの技術で上層に行ったって発言も確度が高くなるな」
「なるほどな、承知や。いやー、途中から訳分からんなりよーて、狸寝入りしとったわ。ワテ、クワガタやk、ッブシ!」
ラピスのデコピンが、ホバーしていたヘラクレスにクリーンヒットした。
すぐに体勢を立て直すも、カクカクと震えながらウルトの肩に縋る。
ロックスも、恐怖と悲しみに満ちた表情でヘラクレスを見つめた。
「さ、どうする? 2週間経ったら進むか、戻るか。もはやアルカナに戻って、母さん達に喝入れて魔法戦士奪ってもいいんじゃない?」
『またまたー』なんて返せない、真面目な表情をしたラピスの眼光に、皆が即答できなかった。
「ヤーマン、このまま進もう」
「その心は?」
「まず根拠がない。アイアンドアイがそう聞いたから、アルカナに滞在し魔法戦士を探していただけだ。真実とは限らない。それに、今はウヌらがいる」
ロックスの言葉でポアロ姉弟が平静を取り戻す。
確かにロックスの言う通りかもな。
母ちゃんとグランティの関係性や、何処かにある兵器の存在を知ったところで、本来の目的は変わらない。
「アルカナに戻るなら、兵器を回収してウィンクルムに行くのにかなり時間がかかる。けど、それのお陰で世界救済の難易度が下がるなら?」
「ヤーマン。ウヌらなら兵器なしでもやってのけるさ。それに、その時間が命取りになるんだ」
「どう言うことだよ。ウィンクルムの仲間には半年くらいで帰るって言ったんだろ? 今のペースでさえ一か月は早く着くじゃんか。期日はあって無いもんなんじゃないのか?」
『ヤーマン? 言ってなかったか?』とロックスが少し不思議そうな顔をしながら話を続けた。
「アイアンドアイやウヌらの目的は、地底のヒエラルキーのトップであるシャンバラ人、その王であるカルキンを討つことだ。この計画を革命軍では『地上戦線』と呼んでいる」
「それはアルカナでゆーとったやつやな」
「ヤーマン。もう一つは奴らアガルタ人が15年前、地上に現れた際に作った穴の探索。『ピサベル攻略』だ。これはアガルタまで人類が踏破し、もぬけの殻になった地底の街に眠っている
「聞いてないけど、それがなんだってのよ」
ラピスが眉間に皺を寄せつつも、ニコチンが足りてるからか幾分か柔らかいトーンで問う。
「そのピサベル攻略のための、踏破ルート調査隊が帰ってくるのが今から大体1ヶ月後。つまりアイアンドアイがウィンクルムを出て半年後なんだ。そこに間に合えば柔軟に対応ができるだろ? 例えばラピスは地上戦線でウルトはピサベル攻略とか。というのも、調査隊の指揮をしている人間がルート調査の帰還後に、すぐにピサベル攻略に行かないとも限らないんだ」
「なんだなんだぁ? 統率が取れてなさすぎやしないか?」
「ヤーマン、逆さ。こう見えてアイアンドアイは革命軍から信頼されててな。半年経って戻らなかったら亡き者として計画を進めるように言っていたのさ」
「なるほどね。たしかに、ロックスが連れて帰ってくる戦士が1人かもしれないし、100人かもしれない。人的リソースの分配は柔軟にできた方がいいね」
「ヤーマン。だから、このままウィンクルムを目指そう。混乱させる事実を言ってすまなかったな」
ウィンクルム到着まで、およそ三週間。
アルカナに戻る場合は、ポータルへの起動用エネルギー吸収のために合計で一ヶ月半ほど時間のロスが生じる。
「ま、グランティとの関係だの、魔法戦士だの、師匠だの。それらは今度帰ってから、母さんをとっちめましょう」
ラピスがまとめ、一行はウィンデル散策に赴いた。