パラレル・バーチカル・ウロボロ   作:馬憐狼詩

44 / 44
第四十四話 【テリオン編】狂気の狭間で【阿鼻叫喚、乱痴気騒ぎ、異常な異物】

第四層五界-テリオン

世界歴 104679年6月5日

──────

 

繁華街に入ると、そこはカオスと化していた。

 

煙に当てられたであろう街の住人達が、絶叫し、暴徒化している。

風紀や秩序と言った言葉の全てが存在しない世界が眼前に広がる。

 

一見は阿鼻叫喚のはずなのに、人々の顔は快楽に歪んでいる。

 

「おいおい、たった数分でこれかよ……」

 

アブラヤへの足を緩めた直後、洗礼が襲いかかる。

 

「へい! 彼女ぉ!」

「ッつ!」

 

チンピラ、暴徒、シャブ中。

そのどれとも取れる煙に当てられた人間が、ラピスの肩に手を回す。

 

「ラピス!」

 

──弾指

──ドッ!

「ッうぐ!」

 

ウルトが叫ぶのと同時に、ハーレクインを鳩尾にお見舞いするラピス。

 

「さっさと行くよ。アルカナのゴロツキより程度は低いけど、ゾンビみたいにゾロゾロ来られたんじゃ埒が開かない」

 

ラピスの発言の通り、何目的なのかはっきりしないものの、アルカナ一行を見つけるやいなや、絡もうと街の住人か近づいてくる。

 

アブラヤまで駆けるアルカナ一行。

 

『ゴラァ!』『上等だこの野郎!』『ハハハハ!』『おい! 酒持ってこい!』

 

罵詈雑言が飛び交う無法地帯。

しかし、どの住人も口角だけは上がっている。

 

「こいつらの自然エネルギーも強まってるよな!?」

「そうね! まるで煙から出たエネルギーを吸収してるみたい!」

 

アブラヤに着くと、ドアが開かれたままになっており、中にはすでにハイになっている住人が二人、乱痴気騒ぎを起こしていた。

 

住人の侵入は、鍵をかけずに出たアルカナ一行の落ち度ではあるものの、ドアに蹴られたような跡があり、好き放題やっているそれらを前に、ラピスの怒りが瞬時に沸点に達した。

 

「ゴミどもがぁ、表でろゴラァ!」

「あ!? アヒャヒャヒャ! お前かぁ? コンパニオン呼んだのはよ!?」

「知らねーよ! よう、彼女! こっちきて酒つげy、ッブ!」

 

──弾指

ラピスが片方の住人の顔面にハーレクインを喰らわす。

直径20センチの鉄球をモロにくらった住人は、『パァン!』とも『ドゴッ!』とも違う、複雑な音を立て地面に倒れた。

 

「だからぁ。表でろって言ってんだろ、ゴミどもがよぉ」

「おい、ラピス! テリオンで殺しはまずいだろうが!」

 

ラピスのやりすぎた応酬にウルトがストップをかける。

倒れた住人はガタガタと痙攣し始め、明らかに生死に関わる状態であることがわかる。

 

「なんだぁ!? 何しやがった、この女ぁ! その鉄球はなんだ!? あぁ?」

 

もう片方の住人が叫ぶと同時に、目の瞳孔が横長になり、顔は前に伸びて骨格が変わっていき、白色の短毛が肌を覆って、ツノが頭に生えた。

 

服を着た山羊が目の前に現れる。

しかし、牛達を見たばかりのアルカナ一行は怯まない。

 

「手加減はした、伸びてる方は死にはしない。けど、私に逆らうなら2人とも殺す」

「ざけんなぁ! こいつが誰だかも知らねーよ! 居合わせた他人だゴラ! テメェ、奴(ヤッコ)がなんだか知らねーがイキんのも、今のうちだ!」

 

山羊がアルカナ一行に突っ込んでくる。

 

──弾指

「ふんっ!」

「おわっ!」

 

──ダガンッ

突如として背後からラングが現れ、山羊を吹っ飛ばす。

 

身構え、ハーレクインを飛ばそうとするラピス、それを必死に止めるウルトとロックス。

ヘラクレスは衝突のタイミングに合わせて、山羊を異空間に転送する気だった。

 

そのアルカナ一行の全ての思惑をラングが蹴散らす。

 

「貴様ぁ! 僕の店と友達に何をしてくれんだぁ!? ミンチにして油で揚げるぞゴラァ!?」

「あぁ!? 僕の店ぇ? 知るか、ボケが!」

 

山羊がすぐさま受け身を取り、応戦しようとする。

が、ミスに気づきその場を動けないでいた。

 

「狂気に当てられて奴(ヤッコ)出しやがって。貴様ぁ、山羊の奴(ヤッコ)だって覚えたからなぁ」

 

山羊があからさまに動揺している。

 

体が動物になるってことは隠すべきことなのか?

いや、奴(ヤッコ)と呼ばれるそれが動物への変身で、その変身先が知られることがよくない?

 

そこへ煙、もとい狂気に当てられたグレイ達が到着する。

 

「よう、ラングさん! 酒を出してくれ! ん、なんだぁ? 何騒いでんだぁ?」

「キャハ! 見てグレイさん! 山羊の奴(ヤッコ)出してるやつがいる!」

「ホントだなぁ! なんだぁ、テメーは? ぶっ殺すぞ!」

 

グレイが奴(ヤッコ)を顕現させる。

 

アルカナ一行は瞬時に目配せし、この状況を見守ることにした。

ラピスはハーレクインを体に沿わせ服の中に隠し、ヘラクレスはウルトの肩にとまる。

 

なんでグレイはすぐに奴(ヤッコ)? を出した?

見られてはいけないんじゃないのか?

 

それともグレイは、今見た状況から考えられるルールに対するワイルドカード?

 

「い、いや! 違うんだ! お前、マイクのとこの!? 違うんだ、これは! 奴(ヤッコ)は間違って出したんだ! 決してオタクらとやり合いたいとかじゃねーんだ!」

「あ?」

 

山羊が弁明し、狼が口角を上げて舌舐めずりをしながら近づく。

 

「本当に違う! 悪かった! 狂気に当てられてつい! すまなかった! 許してくれ!」

 

山羊のツノが徐々に短くなり、白い毛や骨格なども人間に戻っていった。

 

「わかった、許してやる。ところで俺の奴(ヤッコ)が狼って口が裂けても他言するな? 知ってる奴は仲間と死んでいったターゲット達だけだからよ」

 

狼が見下ろす先に、体を丸めるように土下座した人間がいた。

 

「あ、あの。……すいませんでした!」

 

人間が慌てて外に飛び出し、グレイは奴(ヤッコ)を引っ込めた。

 

「おい、こいつどうする?」

「キャハハ! 外に捨てればいいんじゃない?」

 

ハーレクインを喰らって伸びてる人間を、グレイが外に放り投げ扉を閉めた。

 

「もう! ロックス君達、災難だったねぇ。この街は金曜日はこうだから、言っとけば良かったね〜」

「ラング! んなことより、酒だ酒! 今日、グランティは来ないのかい?」

「でもさー、さっきの外に捨てた男の人の顔、凄いことなってたよね! 誰がやったの!?」

 

ラングはいつもの感じに戻り、シオンの母、カノンは酒を要求。

シオンだけが、伸びていた男の顔を疑問に思った。

 

「ホント、びっくりしたー。この街って金曜日はこうなの? 私達の地元は狂気が薄いからさー。てかグレイさんは狼出していいわけ? もちろん、私達は誰にも言わないよ」

 

ラピスがすかさず、テリオン生まれテリオン育ちの前提剥き出しで問いかける。

ラピス以外のアルカナ一行は、一瞬肝が冷えながらもグッジョブとラピスの問いに傾聴の姿勢を示す。

 

「そうなんだよね〜。ウィンデルってただでさえ狂気が濃いのに金曜日はいっつもこれ! 僕なんて狂気が体に満ち過ぎて人が変わっちゃう時あるよ〜。あ、カノンさん、グラちゃんすぐ来ますよ!」

「俺が奴(ヤッコ)を出す分には問題ねーよ。理由は言いたかねーが。ま、仕事柄な」

「キャハ! 言えばいいじゃん、裏稼業やってますって! ウチとグレイさんは裏社会の人間なんだ! ねー、さっきの男の人の顔ってラピスちゃんがやったの? それともウルト君?」

 

少しずつわかってきた。

やっぱり動物になることを奴(ヤッコ)って言うらしい。

しかも、自然エネルギーを狂気と呼んでいて、街全体の自然エネルギー上昇は金曜日のイベントらしい。

 

「へー、そうなんだ! じゃあシオンちゃんも奴(ヤッコ)を出すの? 奴(ヤッコ)を出すなんてアウトローだなーと思ったけど、シオンちゃん達からしたら日常茶飯事なんだね! あと、あの顔はウルトが殴ったんだ!」

「キャハ! そうそう、しょっちゅうね! この間なんて、グレイさん達がケツモチ殺してきてビビったよ! ウルト君やるじゃん! もち、奴(ヤッコ)を顕現させたんでしょ? 奴(ヤッコ)なんなの?」

「えー? 言えねーよぉ、俺達は裏稼業人じゃないしさ! しがない旅人だぜ?」

「キャハハ! それもそうだよね!」

 

テリオン人達が狂気当てられテンションが高い。

ラピスとウルトは、自身達もテンションが高いフリをしながら、上手く話を合わせて情報を集める。

 

「アーハッハ! な〜んで誰も酒を飲んでいない〜んだい! ほら、ロックスと双子達、ちゃ〜んと働き! 泊めてやらないよ〜!」

「やっと来たね、グランティ! さ、こっちの席にも酒を持って来な!」

「ところ〜で、……なんでロックスはいつものままなんだい? 狂気を感じないのかい?」

 

グランティが到着しカノンと酒盛りを始める、かとおもいきや予想だにしない言葉が飛び出す。

 

「……ワ、ワッダー? アイアンドアイがいつもどおりだって!? な、何言ってんだ、ジーン!?」

 

グランティの口調が酔っぱらいのそれではなく、冷静かつ冷酷にお前はどこの誰だと態度で問い詰める。

 

深淵を思わせる黒目でグランティがロックスを見る。

 

「……っつ!」

 

ロックスが焦って視線をグランティから外し、ラングを見る。

 

しかし、ラング、グレイ、シオン、カノン。

テリオン人全員がロックスを、ただ無表情で見つめる。

 

態度による問いかけ、『お前はどこの誰?』と。

狂気に満ちた街で、煙に当てられない奴は『異常な異物』と判断されている。

 

弁明の言葉は間違えられない。

 

「ワ、ワッd」

「ロックスは狂気を感じないんだよね? ほんと可哀想! こんなに気分がいいのに! 生まれつき奴(ヤッコ)もないんだよね!? 幼少時期の記憶も無いし! 今回の旅もロックスが地元に帰るって言うから、私達も故郷見たいって付いて来てるだけで、帰っても家族はいないんでしょ!?」

 

すかさずラピスが助け舟を出す。

『奴(ヤッコ)がねーだ?』とグレイが首を傾ける。

 

「そ〜うだったのかい! それは野暮なことを聞いちまったね〜! シファも奴(ヤッコ)が天使で部屋から出れな〜いし、色んな人がいるもんだ〜!」

「あぁ、そっか! そうだよな! シファは今も家で震えてんだ! 確かに、人それぞれか!」

 

グランティがいつもの調子に戻り、グレイも納得したようだった。

ロックスが、引いてはアルカナ一行がなんとか難を逃れた。

 

どう言うことだ?

奴(ヤッコ)は動物だけじゃないのか?

今グランティは『シファは天使』って言ったぞ。

シファってこないだ来たグレイのパートナーだよな?

 

ポアロ姉弟に新たな疑問が生まれ、『ヤ、ヤーマン。そうなんだよ。皆んなに変ってるって思われたくなくて、言ってなかったんだ』とロックスが会話を締めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。