第四層五界-テリオン
世界歴 104679年6月13日
──────
「寂しくなるなー。ね、グラちゃん。もうちょっとで皆んなとお別れか」
「ヤーマン。それで急なんだがあしt」
「でねー? よくアブラヤに来る車屋コンビとか女子高生コンビいるでしょ? 僕が皆んなに声掛けてさ、明日の夜はお別れ会をやろうと思ってたんだ!」
買い物を終えて、ラングの家に帰ったアルカナ一行。
急なラングの誘いにアルカナ一行が動揺するも、お互いの顔色を伺い問題ないことを確認し合った。
「ヤーマン! ありがとう、とても嬉しいよ! な、ジーン?」
「さっすがロックス〜! わかってるぅ!」
「俺達も嬉しいよ、な?」
「そうね。短い間だったけど楽しかった」
まだ狂気の濃い土曜の昼下がり。
煙の狂気に当てられたウィンデルの住人達を想像し、嫌気がさしながらもアルカナ一行は夜を迎え、また店に立った。
第四層五界-テリオン
世界歴 104679年6月14日
──────
「いくつになっても、祝われる側はソワソワするね」
「だな。早く皆んな来てくんねーかな」
「もう、ラピスちゃんもウルト君も、リラ〜ックス。皆んな盛大に送り出してくれるよっ!」
アブラヤで自分達を祝ってくれる人達を待つアルカナ一行とラングにグランティ。
ラングの計らいで今夜は店を貸し切り状態にしていた。
すでにグランティはベロベロに酔っている。
「な〜んら、お前達〜! な〜にが私そっくりの酒飲〜み師匠がいるだい? 聞い〜て呆れるよ〜! 酒を飲みな〜!」
「はいはい。ったく、どこも乾杯は皆んな揃ってからって決まってんでしょ。なにフライングしてる人がイキがってんのよ」
グランティの絡みにラピスが不満を返す。
しかし、それも一興とグランティは笑いながらグラスを空けた。
──ッドガァーーン!
外から突如、大きな衝撃音が聞こえた。
「おいおい、なんだよ!」
「ッチ! パーティーの前だってのに。ほら、皆んな行くよ!」
轟音に一同足がすくむも、ラピスの声がけで全員が店の外に出る。
音の元凶が店の目の前で起きたことは、外に出た瞬間に察した。
田舎ゆえに車があまり通らず、歩行者天国に近い仕様になっている繁華街の道路。
繁華街のブロックの端から端まで店が並ぶその一部、アブラヤの向かい側のテナント群が大きくダメージを負っている。
『なんだってんだよ!』『おい! 怪我人はいないか!』『あの野郎、
群衆が慌ただしく騒いでいる。
──ドッガァァアン!
壊れた建物の、テナントの一部が爆発する。
しかし、それでも道の真ん中に女の子が2人、虚空を見つめながら立ち尽くしている。
「ちょっとシオン! 早く行くよ! マズイよ!」
「やべぇ、カッケェ。惚れた。……ウチ、彼に惚れたんだけど」
道の真ん中に立っているのが女子高生コンビであると一同が気づき、ラピスが駆け寄る。
「何やってんの! 早く避難するよ!」
「ラピ! いや、自分も逃げたいけど、シオンが動かなくって! おい、バカシオン! 早く行くよ!」
「……うわぁ。マヂですげぇ」
ラピスとティータで無理矢理シオンをアブラヤまで引っ張る。
「避難どうする!?」
「まー、火はこっちまで来ないだろうし。来たら来たで逃げれるから、一旦お店の中に入ればいいんじゃない?」
「え、まじ?」
「ラングあんたねー? 外は建物壊れて火事になってんだけど!?」
「ヤ、ヤーマン。流石にこれも日常茶飯なんて言わないよな?」
「こんなのが日常だったら大変だよー。でも大したことないでしょ」
アルカナ一行が焦る中、ラングが余裕を滲ませる言葉を吐いてアブラヤの中に入った。
「ほら、シオン!」
「わかったよティータン、店に入るよぅ」
「自分らが起こしたようなもんなんだから! 早くフケないと!」
余裕なラング、ことの惨事のトリガー発言をする女子高生コンビ。
テリオン人に呆れながら、アルカナ一行は火事を背にアブラヤ店内に続いて入った。
「なあ、俺らが主役のパーティーなんじゃないの?」
「ホントそう。何がどうなったらお祝いの花火が火事になんのよ」
ポアロ姉弟が女子高生コンビを詰める。
しかし、シオンは上の空で聞く耳を持たない。
ラピスが腹を立て、タバコを指で掴み火種をシオンに近づける。
「ちょっ、ちょっと! ラピ、ストップ! 自分が話すから」
ティータがラピスを制止し、ことの発端を喋り始める。
「さっきここに着いた時の話なんだけど……」
──10分前
「ねー、君達さどこで飲むの? いい店あんだけど、どう?」
女子高生コンビがガラの悪い男4人に囲まれる。
しかし、ウィンデルではよくある光景にすぎない。
弱肉強食の世界であり、弱者は強者に搾取される。
その構図のテンプレートが女子高生コンビを襲う。
「えー、ウチらの顔ちゃんと見えてる? バックがそこのマイクだけど?」
「よく自分らに絡むね。マイクさん呼んでいい?」
『バカ! こいつらマイクんとこのじゃねーか!』『え、じゃあグレイとキリトとも知り合いか!?』『何やってんだよ、フケるぞ!』
普通なら食いものにされて終わる状況。
しかし、女子高生のバックがマイクと知ると、すぐさま男達は離散し、女子高生コンビはことなきを得た。
はずだった。
「君達、困ってるの?」
全身を麻布のような物で覆った男が声をかける。
顔と手だけが露出し、そこから覗く容姿は淡麗で勝気な表情をしている。
「あ? 正義のヒーロー気取りが、来るのおせーよ。俺たちゃもう行くとこだ」
「はっ! かっこつけそびれたな」
「おい。彼女達、怖がってんだろ」
「……は?」
麻布の男が、チンピラ達の意にそぐわぬ言葉を発する。
──グッ
「この子達から、離れろよ」
チンピラ1人の胸ぐらを掴み、この場を去るように促す男。
ちょうどこの場を去ろうとしたチンピラ達の感情を逆撫でる。
日曜の夕方。
街に蔓延る狂気の濃度は、通常ほどに薄まっているとは言え、それでもチンピラ達を激情させるには十分すぎる行動だった。
「……あ? てめー、マジでふかしてんなよ?」
「いいよ、コイツやっちまおう」
「っつーわけでだ、にーちゃん。ちょっとツラ貸せよ、な?」
麻布の男がチンピラに肩を組まれ、胸ぐらを摘まれ。
挙げ句の果てには麻布越しに髪を掴まれ、路地に無理矢理連れて行かれそうになる。
「おい! ウチらに用があったんじゃねーのかよ!」
「マイクの犬に興味ねーし、願い下げだよ」
噛み付くシオンを流すチンピラ。
裏稼業人とて、
自身達を庇った男の背中を眺めることしかできない。
この状況に痺れを切らしたシオンが
「……前にやったんだよなー。こう、ブワっと出して。……あ、イケるな」
「あぁ? テメー、何ぶつぶつ語ってんd」
── ドッガァァアン!!!
麻布の男が
チンピラ達が一瞬で吹き飛ぶ。
土埃が舞って視界を奪った。
伸びたチンピラ、女子高生コンビ、通行人。
壊れるテナント、吹っ飛ぶ屋根、衝撃音。
──ボワッファアアァァア!
巨体が、舞った土埃を晴らす。
「……うわぁ」
尾を咥えたドラゴンのようなナニカが、羽を広げて宙に顕現していた。
突如現れた巨躯。
数多の居合わせた人間が、それを凝視する。
『ギョロリ』と尾を咥えて宙に浮いたそれは、シオンを見つめた後に飛び去った。
大きな街の破壊と言う、爪痕をその場に残して。
──。
「その直後に、皆んなが店を出て駆け寄ってきたの」
「あぁ、ウチの王子様。マヂどこに行ったのか、どこの誰なのか、知りたい」
──カランカランッ
店の扉が開き、グレイを筆頭にシファとキリトがアブラヤに入ってくる。
「さっき凄いのいたな! 俺達も事務所から見えてたぜ。皆んな見たんだろ?」
「見たも何も、自分らがチンピラに絡まれて、そこに助けに入ったやつが、あのでっかいドラゴンみたいなのになったんすよ!
「おいおい、面白すぎだろ」
合流したグレイとキリトが茶化す。
「にしても、どこのどいつだ? 平気で
その言葉を聞いて、ティータの顔色が変わった。
「……マヂすか? そいつ麻布みたいなの着て、顔と手のひら以外隠してましたよ? 飛んでった方向はこっちから見えなかったすけど、ムゾク沼の方向ってことは……」
「……え? じゃあムゾクの民だったかも知れねーのか?」
ムゾクの民の存在を知るグレイ、キリト、ティータが面食らう中、シオンが『ムゾクの民? なんそれ』と問いかける。
3人とも呆れ、シオンを見つめた。