スキル制ステータスで現代をお気楽に過ご……したい   作:逆鯖

1 / 1
なんだこれ

 

 

 

 最後の箱を台車に載せ、伝票の数字と中身を確認する。数は合っているし、記入漏れもない。あとは周りを軽く片づければ、今日の仕事は終わりだった。

 

「佐藤、そっち終わりそう? こっちもあと少しだから、先に集計だけ合わせときたいんだけど」

 

「これで最後っすね。伝票ここ置いとくんで、数字だけ見てもらっていいですか」

 

 返事を聞きながら、作業台に残っていた空き袋をまとめる。毎日似たようなことを繰り返しているせいか、時計を見なくても終業までどれくらいか、何となく分かるようになっていた。

 

 工場の仕事は、別に嫌いではない。

 

 覚えてしまえば余計なことを考えなくていいし、今の現場は残業もそう多くない。働くことそのものに情熱があるわけでもない直人にとっては、それなりにありがたい環境だった。

 

 だからといって、手を抜いて他人に後始末を押しつける気もない。自分の分は終わらせる。必要なことは伝える。それで定時になったら帰る。

 

 それ以上頑張って仕事を増やす理由もなかった。

 

 予定どおりの時間に仕事を終え、ロッカーから鞄を取って外へ出る。帰りにコンビニへ寄って弁当を買い、アパートへ戻った頃には六時を少し回っていた。

 

 着替えて電子レンジを動かし、その間にパソコンの電源を入れる。

 

 机の上には昨日飲んだペットボトルと、開封したままの郵便物。端の方には何に使ったのか覚えていないケーブルまで転がっている。

 

 別に汚部屋というほどではない。邪魔なら端へ寄せればいいし、必要になったら片づければいい。そう思っているうちに、微妙に散らかった状態だけが維持されていた。

 

 今日もマウスを動かせる程度に場所を空けて、椅子へ座る。

 

 その瞬間だった。

 

【スキルシステムを起動しました】

 

「…………は?」

 

 目の前に、白っぽい半透明の画面が浮かんでいる。

 

 パソコンのディスプレイではない。顔を横へ向けてもついてくるし、その向こうには普通に部屋の壁が透けて見えていた。

 

 直人はしばらく固まったあと、目元を擦った。消えないので片目ずつ閉じ、それでも駄目だったから、今度は両目を閉じて少し待つ。

 

 開けたところで、何も変わっていなかった。

 

「いや……そういうの、ゲームの中だけでいいんだけど?」

 

 昨日は普通に寝た。酒も飲んでいないし、変な薬を飲んだ覚えもない。体調が悪い感覚もないが、自分では元気なつもりだから大丈夫、で済ませていい話でもなさそうだ。

 

 スマホを取り出し、目の前の画面を撮ってみる。

 

 写真に写ったのは、いつもの机と壁だけだった。

 

「……写らないのかよ」

 

 スマホを下ろしたところで、電子レンジが鳴る。びくりと肩が跳ねてから、ただ弁当が温まっただけだと気づいて少し腹が立った。

 

 一度顔を洗い、冷たい水を飲んで戻ってみても画面は消えていない。隅にあった、広告などでよく見る×印へ意識を向けると、そこだけうっすら色が変わった。

 

 閉じようと思った途端、画面が消える。

 

「お?」

 

 少し安心したのも束の間、さっきの画面を思い浮かべると、また普通に表示された。

 

「出し入れはできる、と。普段の生活は困らなさそうだなぁ……いや、その前にこれ自体が困るんだが」

 

 とりあえず検索でもしようかと思ったが、何と入力すればいいのか分からない。

 

『視界にゲーム画面が見える』

 

 そこまで打ち込んだところで、直人は指を止めた。検索結果を見るより、この画面自体を確かめた方が早い気もする。

 

 起動通知はいつの間にか消えていて、その下に四つの項目が並んでいた。

 

 

【スキルシステム】

 

[ステータス]

[スキル]

[ミッション]

[ヘルプ]

 

 

 文字へ意識を向けると、×印と同じように枠の色が変わる。そのまま開こうと思えばいいらしく、手を伸ばす必要はなかった。

 

 少し戸惑いながら、まずステータスを選んでみる。

 

 

【ステータス】

 

氏名:佐藤直人

年齢:25歳

 

Lv:1 [?]

EXP:0/100

所持SP:10 [?]

 

保有スキル

《機械操作 Lv:1》

《PC操作 Lv:1》

 

 

「名前も年齢も合ってる……そりゃ俺の頭が作ってるなら、間違える方がおかしいんだが」

 

 名前の下に並んだ数字はいかにもゲームらしかった。ただ、腕力だの防御力だの、それらしい能力値は見当たらない。

 

 LvとSPの横には、小さな疑問符がついている。先にSPの方を開くと、画面の手前に説明が重なった。

 

 

【SP:スキルポイント】

 

スキルの取得・強化に使用します。

ミッション達成や、通常レベルの上昇などで獲得できます。

 

 

「まあ、その辺は名前どおりか。で、レベルは何やったら上がるんだ?」

 

 説明を閉じ、今度はLvの方を選ぶ。

 

 

【通常レベル】

 

妖魔・怪異などの討伐で経験値を獲得し、必要量に達すると上昇します。

 

レベルアップごとに5SPを獲得します。

特定のレベルへの到達時には、追加のSP報酬があります。

 

各スキルのレベルとは別に記録され、通常レベルの上昇自体による身体能力の変化はありません。

 

 

「妖魔って何だよ。んなファンタジー色強いのは要らんのだが?」

 

 いよいよゲームじみてきた。化け物を倒してレベルを上げ、その報酬でスキルを買えということらしい。

 

 自分の頭がどこかで読んだ小説を参考にしているのでは、と疑いながら説明を閉じる。そんなものが実在するかどうかも分からないので、今は考えても仕方がなかった。

 

 保有スキルの二つには、まだ心当たりがある。

 

 工場で機械を触っている期間はそれなりに長いし、パソコンも昔から好きで使ってきた。どちらも専門家というほどではないが、人に聞かれて困ることはそう多くない。

 

 試しに《機械操作》を選んでみる。

 

 

《機械操作 Lv:1》

 

機械、設備、工具などを適切に扱う技能。

操作手順の把握、操作の正確さ、挙動や癖の理解などに補正。

 

次レベル:Lv:2

強化に必要なSP:2

 

[強化][戻る]

 

 

「まんま機械を扱う能力か。これが最初から入ってるのは、仕事で使ってるからかね?」

 

 説明自体は思っていた通りだった。とはいえ、なぜこの二つだけなのかは分からない。

 

 料理はないし、掃除もない。車の運転だってできるが、それも表示されていなかった。

 

 いったん最初の画面へ戻ってヘルプを開くと、操作方法やスキルの仕組み、ミッションについての説明が項目ごとに分かれている。

 

 その中から、スキルの取得に関する項目を選んだ。

 

 

【スキルの取得・成長】

 

システム起動時、一定の水準に達している既存の技能をスキルとして登録します。

 

新たなスキルは、取得条件を満たしたうえでSPを消費することで取得できます。

 

取得したスキルは、使用・訓練による習熟、またはSPを消費した強化によって成長します。

 

 

「一定の水準って何……? 基準はなんなんだっつーの」

 

 続きを読むと、技能系のLv1は、日常的に行える程度の水準から一段抜けたものを指すらしい。

 

 単に経験があるだけでは足りないということか。

 

「できるだけじゃ駄目で、得意って言えるくらいからスキルになるのかね?」

 

 普通に自炊できることと、料理が上手いことは別だ。掃除だって、やれと言われればできるだけで、手際がいいとは自分でも思わない。

 

 そう考えると、二つしかないのも納得できなくはなかった。

 

 さらに、技能系のスキルには技量と知識への補正があり、身につけた内容や技術も忘れにくくなると書かれている。最初から持っていた二つも、登録された時点で同じ補正が働き始めるらしい。

 

 ただ腕前を数字にしただけではないようだが、今のところ、それらしい変化は感じなかった。

 

 ヘルプを閉じ、次にスキルの一覧を開く。

 

「多すぎて草」

 

 表示件数が四桁あった。

 

 画面上部には検索欄があり、その横に絞り込み、並び替え、お気に入りと並んでいる。下にはスキル名と必要SPがずらりと続き、右端の細い棒は、まだほんの上の方にあった。

 

 

《料理 Lv:1》 必要SP:1

《清掃 Lv:1》 必要SP:1

《話術 Lv:1》 必要SP:1

《剣術 Lv:1》 必要SP:1

《プログラミング Lv:1》 必要SP:1

《デザインセンス Lv:1》 必要SP:1

《商売上手 Lv:1》 必要SP:1

 

 

 日常で使えそうなものから、仕事や趣味に繋がりそうなものまで大量にある。並んだ数字だけを見るなら、最初の十ポイントでもいくつか取れるらしい。

 

 そこまではまだよかった。

 

 一覧を下へ送っているうちに、《豪運》だの《魔術》だの、明らかに毛色の違う名前が混じり始める。《錬金術》までは小説で見覚えもあるが、《多腕》にはさすがに目が止まった。

 

「多腕って……腕増えるのかよ」

 

 説明を開くと、本当に腕を増やす能力だった。必要SPは5000。手持ちと比べるまでもない数字が、説明の下に表示されている。

 

 反射的に脇腹へ触れてから、馬鹿らしくなって手を離した。今のところ、腕は二本のままだ。

 

「しかも5000って。そんなポイント払って増やしたいか、腕……」

 

 閉じて一覧へ戻り、さらに眺めていく。

 

 今度は《ダンジョン作成》という名前が目に入った。

 

「……ダンジョン?」

 

 開いてみると、説明の下に取得条件がずらりと並んでいた。前提となるスキル名と必要なレベルが記載され、満たしていない項目には印がついている。

 

 名前すらよく分からないものが混じっているうえ、要求レベルも高い。条件となるスキルを選べばその説明へ移れるようだが、今はそこまで追いかける気になれなかった。

 

「とんでもないものも混ざってんな」

 

 少しだけ眺めてから、直人は画面を閉じた。

 

 危ない。いつの間にか、幻覚かもしれないものの攻略を考え始めていた。

 

「先に本物かどうか確認すっかぁ。使えるかも分からんしな」

 

 温め直す羽目になった弁当を食べながら、検証方法を考える。

 

 運が良くなるものでは駄目だ。仮に取得できたとしても、たまたまなのか、本当に何かが変わったのか区別しづらい。

 

 記憶や思考に関わるものも一覧にはあったが、自分の頭を疑っている最中に、さらに頭へ影響するものを試すのは嫌だった。

 

 身体能力系も、変化がどう出るのか分からない。まして腕を増やすなど、値段以前の問題である。

 

「何か、失敗しても困らなくて……その場ですぐに分かるやつはっと」

 

 画面上部の絞り込みを開くと、スキルの系統や必要SP、条件の達成状況を選べるようになっていた。

 

 技能系を選び、所持SPで取得できるものだけに絞る。それでも候補は多かったが、見覚えのある名前の中からなら選びやすい。

 

 机の上を見て、さっきの項目を開き直した。

 

 

《清掃 Lv:1》 ☆

 

取得条件:なし

必要SP:1

 

清掃、整理整頓、分類、仕分けなど、対象となる環境を適切な状態へ整える技能。

 

[取得][戻る]

 

 

「ちょうど部屋汚くなってきたし、分かりやすい方ではあるな」

 

 掃除が上手くなって困ることはない。仮に何も起こらなくても、部屋が少し片づくだけだ。

 

 名前の横にある星も気になったが、今は下の取得ボタンを選ぶ。

 

【1SPを消費して《清掃 Lv:1》を取得しますか?】

 

「一ポイント消費ね……まあ生活環境良くなるなら、ありよりのあり」

 

 了承すると、所持SPが十から九へ減り、取得完了の表示が出た。ステータスへ戻ってみれば、保有スキルにも《清掃 Lv:1》が追加されている。

 

 光ったり、頭の中へ声が響いたりはしなかった。身体にも特に変化はなく、手を握ったり開いたりしてみても、いつもと同じだった。

 

「……何も起きなくね?」

 

 少し拍子抜けしながら、食べ終えた弁当の容器へ手を伸ばす。

 

 そこで、ふと止まった。

 

 今これだけをゴミ箱へ持っていくより、先に机の上にあるゴミも集めた方がいい。郵便物は確認する場所を空けてから分ければ、途中で置き場に困らなくて済む。

 

 床にある袋もまとめて片づけるなら、最初に持ってきた方が早かった。

 

「……ん?」

 

 考えていること自体は、別に難しくない。言われてみれば当然のことばかりだった。

 

 ただ、普段の自分なら弁当の容器だけを捨て、戻ってきてからペットボトルに気づき、その途中で郵便物を読み始める。そんな無駄な動きを、特に気にせず繰り返していた。

 

 今は、部屋を見ただけで何から始めればいいのか、自然にまとまってくる。

 

 試しにスマホで机の写真を撮り、時間を確認した。

 

「とりあえず、この辺だけやってみるか」

 

 ゴミ袋と空いていた箱を持ってくる。捨てるもの、確認するもの、残すものと置き場を分けてから手をつけると、妙に作業が止まらなかった。

 

 郵便物の中身を勝手に知れるわけではない。書類の日付も、自分で読まなければ分からない。それでも、判断した後に置き場所で迷わず、一度分けたものを何度も手に取ることが減っている。

 

 ケーブル類も使っているものと余っているものに分け、空いたところから埃を拭いていく。拭き終えた場所へ必要なものだけ戻せば、机の上が少しずつ整っていった。

 

「……なんか、手早くなった?」

 

 面倒なのは変わらない。

 

 埃は嫌だし、机の裏へ手を伸ばせば普通に疲れる。ただ、次に何をすればいいのか分かっているせいで、途中で投げ出すより続けてしまった方が楽だった。

 

 気づけば机の上が片づいていた。スマホを見ると、始めてから十二分ほど経っている。

 

「ほぉ、十二分ね? 普段だったらまだ郵便物の中身読んでるぞ」

 

 撮っておいた写真と、今の机を見比べる。

 

 単に物が減っただけではない。普段使うものは手の届く位置にまとまり、滅多に使わないものは邪魔にならない場所へ移っている。マウスを大きく動かしても、何かにぶつかることがなかった。

 

「普段の俺がこれをできるかと言うと……」

 

 もちろん、こんな手際よくはできない。

 

 それでも、今日はたまたま集中できただけかもしれない。もう少し確かめたくなり、今度は洗面所へ行って、鏡と洗面台を掃除してみた。

 

 汚れが勝手に落ちるようなことはないし、触れただけで綺麗になるわけでもない。ただ、無駄に同じ場所を擦ったり、拭いたところへまた水を飛ばしたりすることが減っていた。

 

 どこから手をつければ汚れを広げずに済むか、道具をどの順番で使えばいいか。これまで何となくやっていたことが、妙に整っている。

 

 十数分後、直人は洗面台の前で腕を組んでいた。

 

「……マージか、これ。掃除得意なやつって、普段からこんな感じなのか?」

 

 少なくとも、自分の行動には影響が出ている。それも、取得した《清掃》の内容に沿った形で。

 

 頭の中で上手くなった気がするだけではなく、実際に机も洗面台も綺麗になっている。しかも、同じことをもう一度やれと言われても、手順で迷う気がしなかった。

 

 しばらく考えてから、直人は一度息を吐いた。

 

「こりゃ本物だな……少なくとも、使えるのは間違いなさそうだ」

 

 完全に納得したわけではない。明日になれば消えている可能性だってある。

 

 それでも、今この瞬間には使えている。それなら使える前提で考えた方が話が早かった。

 

 机へ戻り、改めてスキル一覧を開く。さっきまで不気味だった画面が、今度は宝の山に見えてきた。

 

「掃除のレベルが1でこれだろ……じゃあ他のやつはどうなるんだか」

 

 絞り込みを解除し、検索欄へ意識を向ける。キーボードでも出てくるのかと思ったが、調べたい言葉を思い浮かべるだけで文字が入った。

 

 まずは運に関係するものを探す。

 

 該当するスキルはいくつもあったが、その中でも分かりやすく強そうなのが、さっき見かけた《豪運》だった。

 

 取得すれば、本人に関わる運へ強い補正が入るらしい。直人の頭に、競馬や宝くじ、その辺りが一気に浮かんだ。

 

「これ取って競馬やれば、かなり楽できるんじゃね?」

 

 そのまま詳細を開き、必要SPを確認する。

 

 

《豪運 Lv:1》 ☆

 

取得条件:なし

必要SP:500

 

 

偶然、巡り合わせなど、本人に関わる運へ強い補正。

 

「たっっか! 最初にもらったの十だぞ!?」

 

 五十倍。清掃に1ポイント使った今となっては、さらに遠い。

 

 念のため《未来視》も見たが、こちらは取得条件の時点で諦めた。前提になるスキルすら一つも持っていないのだから、今考えることではなさそうだ。

 

「……ですよねー。そんな簡単に金持ちにはなれなさそうだ」

 

 仕方なく現実的な技能へ戻る。《プログラミング》《デザインセンス》《商売上手》と、この辺りなら取得はそれぞれ一ポイントだった。

 

 金に繋げられそうなものもあれば、《料理》や《話術》のように、普段の生活を楽にできそうなものもある。候補を眺めていると、残り9ポイントでは全部買えないことが早くも気になり始めた。

 

 数を増やすのと、一つを上げるのではどちらがいいのだろう。

 

 機械操作の詳細に強化ボタンがあったことを思い出し、もう一度ヘルプへ戻る。今度はレベルと強化費用の項目を開いた。

 

 費用は、スキルごとの基礎価格に共通の倍率を掛けて決まるらしい。一般的な技能は基礎価格が1ポイントなので、そのままの数字で考えればよかった。

 

 

【技能系スキルの目安・必要SP】

 

※基礎価格1SPの場合。

※各段階へ上げる際に、記載のSPを追加で消費します。

 

Lv:1 日常レベルから逸出 1SP

Lv:2 特技 2SP

Lv:3 売れるレベルの特技 5SP

Lv:4 三流 10SP

Lv:5 二流 20SP

Lv:6 一流 50SP

Lv:7 超一流 100SP

Lv:8 人間国宝 200SP

Lv:9 人間の限界 500SP

Lv:10 歴史に名を残す 1,000SP

X 人から逸脱 10,000SP

EX 神域 100,000SP

 

 

「最後の方、もう人間やめてんじゃん。10万ポイントって、何したら貯まるんだよ」

 

 それでも、上の段階だからSPでは上げられない、といった記載はない。必要な量を用意すれば、神域とやらにまで手が届くらしい。

 

 今の直人に大事なのは、もっと上の方に書かれた数字だった。

 

 取得に1ポイント、レベル2へ上げるのに2ポイント、そこから3へ上げるのに5ポイント。全部で8ポイントあれば、金を取れる技量になる。

 

「3まで上げても8か……手に職つけるだけなら、もうできるんだな」

 

 もちろん、腕がよくなっただけで仕事が降ってくるわけではない。必要な道具を用意して、何が売れるのか調べて、買ってくれる相手も探す必要がある。

 

 それでも、未経験のことを一から覚えていくよりは、随分と話が早そうだった。

 

 実際に使って育てられるという説明も、ここで効いてくる。最初だけSPで上げて、後は仕事や趣味で使い続ければ、ポイントを全部つぎ込まなくても済むかもしれない。

 

 すぐ何か買いたくなったものの、もう少し一覧を見てからでも遅くはなかった。

 

 スキル画面へ戻り、上部の並び替えを開く。名称順や必要SP順といった項目に混じって、おすすめ順があった。

 

「おすすめねぇ。手持ちで買えるやつとか出してくれるのか?」

 

 選んでみると、思っていたものとは違う名前が上に来た。

 

 

《記憶力 Lv:1》 必要SP:200

《思考加速 Lv:1》 必要SP:200

《並列思考 Lv:1》 必要SP:200

 

 

「いや、俺の手持ち9なんですけど。予算は無視する感じ?」

 

 一つずつ説明を確かめてみる。

 

 記憶に関する能力を底上げするもの、思考そのものを加速させるもの、複数の思考を並行して進められるもの。どれも、普通の技能とは明らかに違う働きをするらしい。

 

 一般技能と比べれば高い。ただ、腕を増やすのには5000ポイントも掛かるのに、こちらは200だった。

 

「……高いけど、この性能で200? 下手に腕増やすより、よっぽど便利そうなんだが」

 

 他の技能を覚えたり、使ったりする時にも役に立ちそうだ。おすすめの先頭へまとめて並んでいるあたり、システム側もこの辺りを取らせたいのかもしれない。

 

 もっとも、今は買えない。

 

 仮にポイントが足りていたとしても、頭に直接関係するものは、一晩くらい様子を見てからにしたかった。

 

 《記憶力》の説明を閉じかけて、名前の横にある星がまた目に入る。清掃の画面でも見かけたものだ。

 

 意識を向けると、「お気に入りに登録」という文字が浮かんだ。

 

「なるほど、ブックマークか。毎回探すの面倒だし、これは入れとくか」

 

 選ぶと星が塗りつぶされ、登録完了の表示が出る。一覧上部のお気に入りを開いてみれば、今登録した《記憶力》だけが並んでいた。

 

 ちゃんと機能していることを確認してから、《思考加速》と《プログラミング》も入れておく。《豪運》も登録したが、それだけで少し楽しくなってきた。

 

 買えるかどうかは別として、欲しいものを並べるのは悪くない。

 

 問題は、そのためのポイントをどう増やすかだった。

 

 最初の画面へ戻り、まだ開いていなかったミッションを選ぶ。

 

 

【ミッション】

 

[Simple]

[Daily]

[Weekly]

[Monthly]

[Yearly]

 

 

 種類ごとに分かれているらしい。まずは、一番気軽そうなデイリーを開いてみた。

 

 

【デイリーミッション】

 

・30分以上の運動を行う 報酬:1SP

・一食以上、自炊する 報酬:1SP

・スキルを3回以上使用する 報酬:1SP

 

※デイリーミッションの内容は固定です。

 

 

「随分と生活寄りだな。もうちょい無茶なこと要求されるかと思った」

 

 三つ目の説明を開くと、スキルの補正が働く作業を一区切り終えることで、一回として数えられるとあった。

 

 進捗は二回。机周りの整理と洗面所の掃除が、既に記録されているらしい。スキル名を口に出して発動するような使い方でなくても、ちゃんと判定されるようだ。

 

 毎日同じ内容なら、明日は自分で飯を作って、どこかで運動する時間を取ればいい。3ポイント全部を毎日欠かさず、と考えると少し面倒だが、一つずつなら難しくなさそうだった。

 

 続いてウィークリーを開くと、こちらは7つの課題があり、報酬はそれぞれ3ポイント。

 

 説明によれば、内容は週ごとに入れ替わるものの、運動や学習、仕事、生活改善といった似た系統から出されるらしい。毎週まったく同じやり方で済むわけではないが、普段の生活にも組み込めそうだった。

 

 マンスリーは三つで、報酬は5から10ポイント。こちらは月によって内容の違いが大きく、週間よりは少し腰を据えて取り組むものになっている。

 

 一度きりの課題は、難度に応じて報酬も変わるようだ。Yearlyも覗いてみたが、今は発生中の課題がないとだけ表示されていた。

 

「まあ、初期ポイントだけで終わりじゃないならいいか。化け物倒さなくても増やせるんなら、それで十分だわ」

 

 今すぐ200だの500だの貯めるのは無理でも、一般的な技能なら数日でいくつか買える。働きながらでも、少しずつできることを増やしていけそうだった。

 

 残りは9ポイント。

 

 今日使った1ポイントも、今の机を見る限りでは十分元を取っている気がする。金を稼ぐことばかり考えていたが、生活を楽にするだけでもかなり便利だった。

 

 ひじを置いても郵便物を潰さないし、足を伸ばしても床の袋に触れない。それだけのことが、思っていたより快適だった。

 

 直人はもう一度スキルの画面へ戻り、検索欄に《ダンジョン作成》と入れた。

 

 相変わらず条件は遠い。必要スキルも多いし、要求されているレベルも高い。それぞれの先にある条件まで追いかけていけば、今夜だけでは終わらなさそうだった。

 

 それでも、取得不可能とは書かれていない。

 

「……まあ、いつかだな。今はこっちに入れときゃいいか」

 

 名前の横にある星を選び、お気に入りへ登録する。

 

 現実的な技能や、金策のために欲しい能力が並んだ中で、《ダンジョン作成》だけが随分と場違いだった。それを見ていると、少し笑えてくる。

 

「本当に作れるなら、一つくらいダンジョン作りてぇな。自分用の秘密基地とか、そういうのでもいいし」

 

 どんな形にするかまで考えかけたところで、机の隅の時計が目に入った。思っていたより時間が過ぎていて、直人は軽く顔をしかめる。

 

「おっと、風呂入るの忘れてた」

 

 明日も仕事がある。面白いものを手に入れたからといって、朝が遅くなるわけではない。

 

 残り9ポイントの使い道は、風呂に入りながら考えればいい。直人は画面を閉じ、椅子から立ち上がった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。