スキル制ステータスで現代をお気楽に過ご……したい   作:逆鯖

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スキルレベル6

 

 

 9月3日。工場から帰ってシャワーを浴び、夕飯を済ませたところで、レナからのメッセージに気づく。

 

 

レナ:昨日の動画、投稿したよ。概要欄に名前も入れといた。

 

 

 文面の下にあるURLを開くと、見覚えのある鶏肉が画面いっぱいに映った。

 

 ねぎ塩のたれがかかった完成品に、大きめの文字を添えたサムネイル。その隅には、箸を持ったレナの顔もある。

 

 自分が送った時は、ファイル名と動画の長さが表示されているだけだった。それにタイトルとサムネイルがつき、ほかの動画と並んでいる。

 

 普段からショートでは見ている光景なのに、今回はつい画面を眺めてしまう。

 

 再生すると、鶏肉の焼ける音が聞こえてきた。

 

 昨日、何度も聞いた音だ。続いてレナが映り、いつもの眠そうな調子で喋り始める。

 

 音量を確かめるつもりで開いたが、そのままスープを作り始めるところまで見てしまった。

 

「……これ見たの何度目だ?」

 

 自分で編集したのだから当たり前である。

 

 気になっていたのは、見た人がどう思うかの方だ。再生を止め、下のコメント欄へ移動する。

 

 鶏肉がうまそうだというものや、明日の夕飯に作るというもの。スープに使う野菜についての質問もあった。

 

 最後まで見てくれたらしい人からは、ご飯が炊けるまで待てなかったレナへの突っ込みがいくつもついている。

 

『最後、米が炊けるの待つ気なくなってて笑った』

 

『スープも一緒に作れるの楽で助かる。途中で何すればいいか分かりやすかった』

 

『なんか今日いつもより見やすい。料理してる時の音も好き』

 

 最後のコメントを、もう一度読む。

 

 自分でよくできたと思うのと、知らない誰かにそう言ってもらうのとでは、やはり違う。別に名前を呼ばれたわけでもないのに、口元が緩んだ。

 

 概要欄を開くと、材料や分量の下に、編集者としてナオの名前が載っている。仕事用のアカウントへのリンクも、ちゃんとついていた。

 

 試しに押すと、見慣れた自分のページへ飛ぶ。

 

 間違いがないことを確認してから、レナとのチャットへ戻った。

 

 

ナオ:確認しました。名前もありがとうございます。コメントでも見やすいと言ってもらえていて、嬉しいです。

 

レナ:それ、自分も見た。スープと肉の行き来が分かりやすいって。あと米待ってないところ、思ったより言われてる。

 

ナオ:あそこは、最後に入れてよかったですね。

 

レナ:編集してもらうと、自分の食い意地を客観的に見せられるの分かった。

 

 

 確かに、作っている間は腹も減るだろう。あれだけうまそうに焼けていれば、炊飯器を待たずに食べたくなるのも分かる。

 

 もっとも、その様子を選んで動画にしたのはこちらだ。

 

 

ナオ:おいしそうに食べていたので、見ている方にも伝わると思います。

 

レナ:便利な言い方だな。まあ、評判いいならいいや。次のやつも予定どおり撮るから、またよろしく。

 

ナオ:よろしくお願いします。

 

 

 返事を終え、もう一度だけコメントを眺める。

 

 投稿されてから、まだそれほど時間は経っていない。今後どこまで見てもらえるのかも気になるが、画面を更新し続けていても仕方がない。

 

 仕事用の予定を開き、今夜やる分を確かめる。

 

 先にこちらを終わらせて、寝る前にまた見に来よう。

 

 

 それから数日は、いつもどおり工場へ行き、帰宅後に編集を進めていた。

 

 ハルトの分は、できたものからまとめて確認してもらう。ゴウの動画では、紹介している製品の型番や数字を確かめながら字幕を入れる。レナのショートには、先日作った本編の素材を使った。

 

 どこに何があるか覚えているので、最初から全部見直す手間がない。

 

 長尺の方では料理の流れに合わせて使った場面も、短くまとめると別の見せ方ができる。本編を引き受けたことで、こちらの作業までやりやすくなっていた。

 

 ただ、予定表に並ぶ長尺動画の欄を見ると、1本に4時間という数字はそれなりに大きい。

 

 休日ならまとめて作業できるが、平日は夕飯や風呂を済ませてからだ。前回と同じだけかかれば、その晩はほとんど編集で終わる。

 

 途中で区切って2日に分けることもできるが、使う時間の合計は変わらないのであまりやる気が起きない。

 

 受ける前に考えた範囲ではある。それでも、実際に予定へ入ると、早く上げたい理由がよく分かる。

 

「やっぱ50か。今までの20も結構使った気してたんだけどな」

 

 ステータスシステムを開くと、お気に入りの一番上に《映像制作》がある。

 

 レベル6に必要な50SPは、何度見ても同じだ。

 

 《立体造形》や《デザインセンス》を上げた時には、合わせて30SPを使った。それより大きく入れるのだから、今までで一番大きな買い物になる。

 

 ほかの技能を見れば、これで何個取れるのかと考えそうになる。今回は取得一覧まで開かず、ミッションの進み具合だけ確かめて閉じた。

 

 工場へ行けば運動とスキル使用は進むし、自炊も続いている。Weeklyの分も順に受け取り、使わずに貯める。

 

 そして9月5日の夜、所持SPが49になった。

 

「あと1。……ここまで来たか」

 

 月末の講習を終えた時には13SPだった。

 

 そこから5日分のDailyで15SP、今週のWeeklyで21SP。合計すると、確かに49になる。

 

 残っているDailyの項目がないか見たくなるが、今日の3つは全部達成済みだ。次に受け取れるのは明日の分になる。

 

 朝飯を作れば届く。

 

 数字を見ていると、明日の朝食が妙に楽しみになってきた。

 

 その時、パソコンの方で通知が鳴る。レナから次の素材が届いていた。

 

 

レナ:次の本編、素材入れた。今回は生姜焼きと、きゅうりのやつ。分量もメモにして一緒に入れてある。

 

ナオ:ありがとうございます。明日の夜から進める予定です。

 

レナ:了解。前みたいにその日のうちじゃなくても大丈夫だからね。

 

ナオ:はい。予定していた納期までには送ります。

 

 

 保存先を開き、映像とメモが揃っていることを確かめる。

 

 素材は56分。前回の54分とほとんど変わらない。

 

 メモには豚こまと玉ねぎ、それに付け合わせのキャベツ。もう1品は、きゅうりの塩昆布和えと書いてあった。

 

 調味料の分量もまとまっているので、途中で聞き直す手間は減りそうだ。

 

 映像が開けることだけ確認して、今夜は閉じる。

 

 作業時間を記録しているメモには、最初の本編の数字がある。食事で席を外した時間を除き、4時間と少し。

 

 明日は、これと比べられる。

 

 翌朝は、目覚ましが鳴ってから布団を出るまでが早かった。

 

 冷蔵庫から卵を出し、フライパンで焼く。冷凍しておいたご飯を温め、味噌汁も用意すれば、いつもの朝飯になる。

 

 焼いた卵を皿へ移してから、システムを開いた。

 

 

【Daily】

 

・1食以上、自炊する [達成] 報酬:1SP

 

 

 報酬を受け取ると、所持SPが50へ変わる。

 

 ようやく揃った数字を確かめ、すぐにお気に入りを開く。

 

 

《映像制作 Lv:5 → Lv:6》

 

強化に必要なSP:50

 

 

 ほかへ使う予定も、見比べたい技能も、今はない。

 

 そのまま強化を選ぶ。

 

 

《映像制作 Lv:5》→《映像制作 Lv:6》

 

 

「……よし。レベルが6になった」

 

 保有スキルの中で、6がついているのはこれだけだ。

 

 前から上げようと思っていたのに、モデルを作ったり、別の技能を取ったりして、何度か後回しになっていた。ようやく一番上の数字が変わったところを見ると、朝からかなり気分がいい。

 

 昨日届いた動画を、今すぐ開きたくなる。

 

 パソコンの方へ目をやってから、壁の時計を見る。朝飯はまだ皿に盛ったままだし、出勤までの時間もいつもと変わらない。

 

 試すなら、帰ってからだ。

 

 椅子へ座り、卵をご飯にのせる。食べながら映像制作の表示をもう一度出してしまい、我ながら落ち着かないと思った。

 

「帰ったら触れるんだから、飯くらい普通に食えっての」

 

 表示を閉じ、味噌汁を飲む。

 

 洗い物を済ませて仕事着を確かめ、いつもの時間に部屋を出た。

 

 その日の工場勤務は、普段と同じように終わった。

 

 仕事中は目の前の作業をしているので、家のパソコンを気にする暇もそれほどない。帰りに明日の分の食材を買い、部屋へ戻って夕飯を作る頃には、朝の浮ついた感じも落ち着いていた。

 

 ただ、片づけを終えると、自然にパソコンへ向かう。

 

 飲み物を机へ置き、昨夜保存した素材を開く。作業開始の時刻もメモへ打ち込んだ。

 

 19時まで、あと少し。

 

 前回と同じくらいかかれば、終わるのは23時近くになる。

 

「どんくらい変わるかな」

 

 再生すると、台所に立ったレナが映る。

 

 手元には豚肉のパックと玉ねぎ。カメラの位置を確かめた後、レナが口を開いた。

 

『今日は生姜焼き。外で食べようと思ったけど、着替えるの面倒でやめた』

 

 出だしから、よく分かる理由だった。

 

 家で済ませると決めれば、食べた後に帰ってくる必要もない。俺も、冷蔵庫に何か入っていれば大抵はそうする。

 

 続けて映像を見ながら、使う場面に印をつけていく。

 

 レナは先にきゅうりを切り、袋へ入れて塩でもんでいた。そのまましばらく置き、玉ねぎとキャベツを切り始める。

 

 途中で手を洗ったり、調味料を取りに画面の外へ出たりするので、その辺りは飛ばすことになる。

 

 どの動作の後から繋ぐかを考えたところで、妙な感覚があった。

 

 袋を台へ置いた手と、次に玉ねぎを掴む手。

 

 その2つを繋いだ時の映像が、頭の中で自然にまとまる。きゅうりをしばらく置くことも伝わるし、レナの動きも途切れたように見えない。

 

 いつもなら候補の前後を何度か再生して、実際に並べてから確かめるところだ。今は、印を入れる時点で切る位置までほぼ決まっていた。

 

 そのまま続きを見る。

 

 玉ねぎを切り終え、合わせ調味料を作り、肉を焼く。フライパンの音で声が聞き取りづらくなる前に、レナは分量を説明していた。

 

 メモの内容と照らし合わせて、字幕にする場所も決めておく。

 

『袋で済むやつは偉い。洗い物増えないし』

 

 きゅうりの水気を絞り、塩昆布とごま油を混ぜながら、レナがそう言っている。

 

 喋っている間も手は動いているが、言い終わったところで袋の中を覗き、軽く頷いていた。

 

 ここは手元だけで終わらせるより、その顔まで使った方が面白い。

 

 そう思って印を入れた後、少し前へ戻して確かめる。頭の中で考えたところに、ちょうどその表情があった。

 

「……ああ、ここでいいんだ」

 

 自然にできているので、逆に確かめたくなる。

 

 見終わる頃には、冒頭から食べ終わるまでの流れがかなりはっきりしていた。

 

 完成した生姜焼きを短く見せ、外食をやめたというレナの話へ繋ぐ。その後は材料と調理。

 

 きゅうりを置いている間に肉の準備を進め、焼き上がる前に副菜もできるように見せれば、実際に作る時の順番も分かりやすい。

 

 編集画面へ戻り、使う部分を並べていく。

 

 さっき印をつけたところを取り出すと、前後がすんなり繋がった。余計な動作を削っても、何をしているかはちゃんと伝わる。

 

 レナが調味料を探しに行った時間は短くなるが、肉を返す直前の間はそのまま使う。焼き目が見える瞬間まで繋げると、自分で見ていてもうまそうだった。

 

 数か所を繋いだところで再生を止め、椅子へ座り直した。

 

「これ、だいぶ違うぞ」

 

 マウスを動かす手も、キーを押す指も、特に急がせていない。

 

 次に何をするかで迷う時間がほとんどなく、決めたとおりに操作すれば映像ができていく。切る場所を確かめるために同じ数秒を繰り返すことも、今回はずっと少なかった。

 

 しかも、できたものを見ると、ちゃんと気持ちよく繋がっている。

 

 面白くなってきて、そのまま作業を進める。

 

 材料名と分量を入れ、必要なところへ字幕をつける。長い文を読みやすく区切る位置もすぐに決まり、レナが喋り終わる頃には視線が自然に料理へ戻る。

 

 肉に調味料を回しかける場面では、BGMを抑えた。

 

 ジュッという音と一緒に湯気が上がり、レナがフライパンを揺する。その後で肉を寄せ、たれを絡めていくところまで見せると、さっき夕飯を食べたばかりなのに腹が減ってくる。

 

 ここは字幕を出さず、焼いている様子を見せる。

 

 音の大きさを整え、次の会話へ戻るところでBGMも合わせる。切り替わった瞬間に音楽が目立つこともなく、そのまま耳に入ってきた。

 

 画面の中で、レナが生姜焼きを皿へ盛る。

 

 キャベツの横へ肉と玉ねぎを寄せ、小鉢のきゅうりを置くと、ちゃんとした夕飯になっていた。完成品を見せてから、箸を持った本人へ戻す。

 

『うま。これ食べると、結局これでよかったなってなる』

 

 続けてご飯を食べるところまで使い、最後を整える。

 

 試しに頭から再生すると、材料を紹介していたレナが、いつの間にか完成した料理を食べ始めていた。

 

 編集している間は、どこで切ったかも、どこを短くしたかも分かっている。それでも通して見ると、その作業がほとんど気にならない。

 

 料理を作って、時々どうでもいいことを喋り、できたものをうまそうに食べる。

 

 レナの動画として見慣れた内容が、すんなり最後まで続いていた。

 

「腹減ってくるなぁ……」

 

 再生が終わってから、思わず口に出す。

 

 料理の工程を追うのも楽だし、レナが黙っているところまで見ていられる。前回も気に入っていたが、今見ると、もっと気持ちよく繋げられた場所がいくつも分かる。

 

 材料の数字をメモと照合し、字幕の誤字と音量を確認してから書き出す。

 

 できた動画は13分少々。保存されたファイルを開き、最初から最後まで再生した。

 

 机の飲み物を取ったところで、ほとんど減っていないことに気づく。始める前に用意したまま、ずっと画面を見ていたらしい。

 

 飲みながら最後まで確認し、作業時間を記録しようとして時計を見る。

 

 まだ21時前だった。

 

「……もう終わった?」

 

 開始時刻を見直す。

 

 素材の確認から書き出した動画のチェックまで、2時間と少し。途中で食事もしていないので、差し引くものもほとんどない。

 

 隣にある前回の記録は、4時間と少しだ。

 

 元の映像は今回の方が2分長い。できあがった動画も、ほぼ同じくらいの長さになる。

 

 半分ほどの時間でできて、仕上がりは今回の方がいい。

 

 比較できるように記録したつもりだったが、ここまで変わるとは思っていなかった。

 

「50使うだけの価値があるわ、これ」

 

 動画を送る準備をしながら、自然に笑ってしまう。

 

 週2本の本編にかかる時間が、これなら4時間ほどになる。前回1本を作った時間で、2本とも終えられる計算だった。

 

 今回からの報酬は、1本1万2000円。

 

 時間も気になるが、この仕上がりで送れることが嬉しい。自分で見て、前よりいいと分かるものを渡せるのは、やはり気分がよかった。

 

 

ナオ:次の本編ができました。確認用の動画を送ります。材料と分量は、いただいたメモに合わせてあります。

 

 

 送信してから、予定表の今回の分を確認待ちに変える。

 

 ほかの納品予定も確認したが、今夜中に終えなければいけないものはない。明日やる分まで開きかけて、時計へ目を戻した。

 

 普段なら、まだ編集画面の前で作業している時間だ。

 

 今夜も、寝る前までかかるつもりでいた。風呂も夕飯も済んでいるので、仕事が終わればもう用事がない。

 

 席を立って背を伸ばし、コップを持って台所へ向かう。

 

「何か、得した気分だな」

 

 冷蔵庫から冷たい飲み物を出し、コップへ注ぐ。

 

 今日は朝から工場へ行き、帰ってきてから動画を1本仕上げた。それでも、まだ遊べる。

 

 いつもなら休みの日に回していることを、今夜やってもいいわけだ。

 

 部屋へ戻り、ゲームを起動する。

 

 平日に少しずつ進めていると、操作を思い出した頃に終わりの時間が来たりする。今日は先まで進めそうだ。

 

 20分ほど遊んで区切りがついたところで、仕事用の画面を確かめる。レナから返事が来ていた。

 

 

レナ:見た。前のもよかったけど、今回かなり好き。作ってるところから食べるところまで、見てたら終わってた。

 

ナオ:ありがとうございます。今回は全体の流れが、うまくまとまったと思います。

 

レナ:きゅうりのとこ、自分あんな顔してたんだね。袋見て納得してるの、じわじわくる。

 

ナオ:あそこは使いたかったです。料理してる時の喋りも、今回かなり入れやすかったので。

 

レナ:よかった。これで投稿するね。次の分も撮れたら連絡する。

 

ナオ:承知しました。引き続きよろしくお願いします。

 

 

 修正もなく、これで今回の分は完了だ。

 

 完成版を納品し、予定表の印を変える。作業時間のメモには、レベル6に上げた日付も添えておいた。

 

 後から見た時、どこで変わったのかすぐに分かるだろう。

 

 仕事用の画面を閉じ、ゲームへ戻る。

 

 椅子の背へ体を預けて時計を見ると、まだ寝る時間までは随分ある。

 

「……いいな、これ。平日でも遊べる時間作れんじゃん」

 

 コップを手の届くところへ寄せ、止めていたゲームを再開する。

 

 今夜はまだ、寝るまで2時間くらいある。

 

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