スキル制ステータスで現代をお気楽に過ご……したい   作:逆鯖

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今後について

 

 

 

 9月8日の朝。朝飯の皿を洗い、洗濯機を回してからパソコンの前へ座る。

 

 今日は工場へ行かなくていい。昼までに予定している編集を済ませて、午後は好きに使うつもりだった。

 

 仕事用の画面を開くと、レナから次の撮影予定が届いている。先日納品した生姜焼きの動画は、そのまま投稿されたようだ。ハルトとゴウからも、送っていた分の確認が終わったという返事があった。

 

 必要なところへ返事をして、今日進める素材を開く。

 

 ハルトの配信では、ゲームで失敗した直後に、自分で原因へ気づいたところを使う。先に失敗した場面を見せてから本人の反応へ繋ぐと、何を言い訳しているのかも伝わる。

 

 ゴウの方は、製品の大きさを比べている場面だ。紹介している数字を確かめ、手元の映像に合わせて字幕を入れる。

 

 画面の形や文字の色は、今まで作ったものを使える。新しく考えるのは、その動画で何を見せるかの方だった。

 

 何本か仕上げて通しで確認し、書き出したものをまとめて送る。

 

 予定していた分が終わったところで時計を見ると、まだ昼には随分早い。

 

「……もうちょい掛かると思ったんだけどな」

 

 作業予定の欄に印をつける。

 

 レベル6に上げてから、本編だけでなくショートも進めやすくなった。今日は使う場面が指定されているものも多かったので、素材を探す時間も短い。

 

 次にやる仕事は分かっているが、今夜までに必要なものはこれで終わっている。

 

 椅子から立って洗濯物を干し、戻ってからBOOTHを開いた。

 

 ルゼの販売履歴には、前に確認した時から新しい注文が増えている。本体だけのものもあれば、衣装と一緒になったセットもある。衣装だけの販売も、ちゃんとついていた。

 

 問い合わせを確認すると、追加衣装を使う時の説明について1件来ている。該当する場所を案内し、ほかに返事が必要なものがないことを確かめた。

 

 売上の履歴へ戻る。

 

 発売して2日ほどで見た時は、7万7600円だった。そこから先にも注文が並んでいる。

 

 平日の昼に売れたものもある。その時、俺は工場で材料を運んだり、機械の前に立ったりしていたはずだ。

 

 帰宅してから新しいものを作ったわけでも、その人専用のデータを用意したわけでもない。既に置いてある商品を、買いたい人が選んでくれている。

 

 セットの6500円という数字を見てから、隣に開いてある編集の予定へ目を移す。

 

「今、全部でどんくらいになってんだ?」

 

 レナの本編が増えた時には、その分だけ計算した。

 

 ほかの依頼まで合わせたら、どうなるのか。これから同じペースで続いた場合の金額も、一度まとめておきたい。

 

 表計算の画面を開き、依頼主の名前と、本数、料金を入れる。

 

 ハルトは週14本、1本2000円。週2万8000円なので、4週間なら11万2000円だ。

 

 ゴウは週3本で6000円。同じく4週間で2万4000円。

 

 レナはショートが週3本で6000円。本編は週2本、1本1万2000円なので、こちらが2万4000円になる。合わせて週3万円、4週間で12万円だ。

 

 合計の欄へ計算式を入れる。

 

 25万6000円。

 

「今の給料とそう変わらねぇな?」

 

 声に出してから、もう一度本数を確かめる。

 

 ハルトの分が多いが、今までも引き受けている本数だ。レナの本編が加わった分も、先日の作業でどのくらい掛かるかは分かった。

 

 今、予定表へ並んでいる依頼を4週間分にしただけで、それだけになる。

 

 その下へ、モデル販売の欄も作る。

 

 こちらは履歴を見れば、既に売れた金額が分かる。今後の注文は、その時になってからだ。まずは今までの分をまとめて、振り込まれる予定の額も確かめる。

 

 途中で、BOOTHの手数料に目が止まった。

 

 売上の表示と、実際に振り込まれる額は違う。最初にセットが売れた時にも確認していることだが、こうして別の収入と並べるなら、その分まで入れておきたい。

 

 編集料の方も同じように考えかけて、今度は税金が気になる。

 

 机の引き出しから、給与明細を出した。

 

 支給額の下には、いくつも控除の項目が並んでいる。普段は最後の振込額を見るだけで、毎回詳しく読み直しているわけではない。

 

 工場の給料では先に引かれているものを、自分で稼ぐ方ではどうするのか。

 

 受け取った金を全部使ってから、後で払うものが出てきても困る。

 

「税金の分も考えねぇと駄目か。そうだよな」

 

 ブラウザを開き、給与以外の収入と確定申告について調べる。

 

 国税庁のページへ辿り着き、収入や必要経費についての説明を読んでいった。

 

 仕事で入ってきた金と、そのために使った金。それを記録し、請求書や領収書なども保存しておく。

 

 読むだけなら分かる。実際に自分の資料へ当てはめようとすると、確認したいことが次々に出てきた。

 

 編集料は請求書を作っているし、振り込まれた金も確かめている。ただ、納品の日付や入金の記録を、まとめて見られるようにはしていなかった。

 

 モデルの販売履歴はサイトにある。仕事に関係する出費も、普段の買い物とは分けて記録した方がいい。

 

 申告の時に必要になるものを調べているうちに、別の説明へ飛び、そこからまた元のページへ戻る。

 

 表は作れる。記録する項目も、見本どおりなら並べられる。

 

 しかし、資料を見ながら何をどう扱うか確かめていると、そちらの方で手が止まった。

 

 税金だけでなく、工場を辞めた後の健康保険や年金も調べる。

 

 健康保険は、今のものを任意継続する場合と国民健康保険に入る場合がある。自分の場合に掛かる金額を比べて、手続きも確認する必要があった。

 

 年金も、次の会社へ入るつもりがなければ切替えが必要になる。

 

 給与明細を横へ置き、必要な確認を書き出す。最初は収入の合計だけ見たかったのに、机の上も画面の中も、随分広がってしまった。

 

「会社行かなくていい方法調べてんのに、会社でやりそうな作業増えてんな」

 

 開いたままの説明を眺め、システムへ意識を向ける。

 

 こういうものにも、使える技能はあるはずだ。

 

 一覧で事務に関係するものを探すと、そのままの名前が出てきた。

 

 

《事務処理 Lv:1》

 

取得条件:なし

 

必要SP:1

 

 書類の作成・整理、記録、請求・入金管理など、事務作業に必要な知識と技量に補正。

 

 業務や各種手続きに必要な情報を整理し、作業の順序や不備の確認を補助。

 

 

「ああ、まさにこれだわ」

 

 今並べている資料に、ほとんどそのまま使えそうだ。

 

 毎回手探りで調べて整理するより、こちらにも補正がある方がいい。編集の仕事は楽になったのに、その後の金を扱うところで時間を使っていては面倒だった。

 

 ミッションを確認すると、今日の自炊とスキル使用は達成済みになっている。朝飯を作り、編集も何本か済ませたので、その分は終わっていた。

 

 報酬を受け取ると、所持SPは7。

 

 木曜の朝に50ポイントを使い切ったばかりだが、普段の生活でもまた貯まっている。

 

 まず1SPを使い、《事務処理》を取得した。

 

 机の上へ目を戻すと、先に揃えたいものが分かる。

 

 依頼の金額を確かめる資料、実際の入金を確かめる記録、仕事で払ったものを確認する資料。全部をいっぺんに見ていたが、目的ごとにまとめればいい。

 

 編集料の請求書と、口座の入金履歴を並べる。

 

 どの請求に対する入金なのかを対応させ、まだ確認していないものへ印をつける。そのために必要な項目も、先ほどより選びやすかった。

 

 1でも、既に楽になる。

 

 このまま2まで上げれば、もう少し進めやすそうだ。

 

 

《事務処理 Lv:1 → Lv:2》

 

強化に必要なSP:2

 

 

 強化を選ぶと、所持SPは4になった。

 

 取得と合わせて3SP。今回整理したいものには、十分使いどころがある。

 

 表の項目を整え、実際の取引を順に入れていく。

 

 依頼主と内容、納品した日、請求額、入金した日。資料を見直したい時に、どのファイルを開けばいいかも分かるようにしておく。

 

 保存した請求書を開き、口座の履歴と照らし合わせる。確認が終わったものはまとめ、これから入る分は予定として見られるようにした。

 

 モデル販売も、売上と手数料、振込予定額を記録する。後から金が入った時には、こちらと照らし合わせればいい。

 

「お、こうしとけば後で楽だな」

 

 財布に入っていたレシートも取り出す。

 

 スーパーの買い物は生活費の方へ。仕事に関係するものは内容を確かめ、記録と一緒に保存する。

 

 紙の資料をまとめてしまい、編集の請求書も月ごとに整理した。

 

 机の上には、今使っている給与明細とメモだけが残る。

 

「……こういうのも取っとくもんだな」

 

 最初に《清掃》を取った時も、何から手をつけるか分かるようになっただけで、随分楽だった。

 

 今日は、その感覚が金や書類の方で起きている。

 

 ひと区切りついたところで、生活費の方をまとめる。

 

 家賃や光熱費、通信費。普段の食費も、口座や買い物の履歴から見ていく。

 

 最近は自炊が続いているので、以前のように帰りに弁当を買い、ついでにいろいろ足すことが減っていた。外へ食べに行く日はあるが、その分も含めて見ればいい。

 

 今の部屋で、今くらいの暮らしを続けるために必要な額を出す。

 

 その横へ、仕事の出費と、税金などの支払いに備える分を入れた。

 

 今年の給与も見ながら、後から払う分を考える。退職後の保険料は住んでいるところの案内も見て目安を出し、年金の分も生活費と一緒に見込んでおく。

 

 入りそうな金額をそのまま使う予定にせず、支払いに備える分を先に確保する。

 

 その上で、編集料から必要な支払いと生活費を引いてみる。

 

 差額はプラスになった。

 

 今くらいの暮らしなら、3人からの継続依頼で賄えそうだ。モデル販売の分は、その都度税金の備えも見ながら貯めていこう。

 

 口座の残高を開き、こちらも確かめた。

 

 普段の月に掛かる額と見比べると、次の入金までの支払いには足りる。仕事の報酬が入るたびに全部使っているわけでもなく、今まで工場で働いていた分も手元にある。

 

 編集だけで暮らした場合の月の数字と、今すぐ使える金。両方を確かめると、給与明細だけを見ていた時とは随分違う。

 

 編集の報酬が振り込まれたところには、見覚えのある名前が並んでいる。

 

 最初の3000円を確認した時は、それだけでも何度か画面を見ていた。自分から声を掛け、動画を作り、本当に金を払ってもらった。

 

 今は、その続きが毎週の予定に入っている。

 

 同じ3人から、次の素材や撮影の話が届く。レナは本編まで任せてくれるようになり、ルゼも売れている。

 

 収入が増えただけでなく、来週何をすればいいか分かるようになっていた。

 

「工場、辞めるのも考えていいんじゃねぇの」

 

 声に出してから、椅子の背へ体を預ける。

 

 以前から、家で稼いで暮らせたらいいとは思っていた。

 

 ただ、その時は何で金を作るのかも分かっていない。今は仕事と商品があり、料金も、必要な時間も分かる。

 

 次に気になるのは、工場へ行く方の時間だった。

 

 朝起きて、支度をして、出勤する。定時まで働き、帰ってから夕飯や風呂を済ませると、夜に使える時間はそれほど長くない。

 

 映像制作を上げたおかげで、その中でも遊べる時間は増えた。

 

 工場へ行かなくてよくなったら、朝から自分の予定で動ける。

 

 資格の勉強だって、夜に眠くなってからやる必要はなくなる。ルゼのような商品を作る時にも、まとまった時間を取れる。

 

 考えているうちに、平日の予定表を開いていた。

 

 工場勤務の欄は、毎週ほとんど同じ形で埋まっている。その前後へ編集を入れ、空いているところを自分の時間にしてきた。

 

 あの大きな枠がなくなったら、随分違う。

 

「毎朝あの時間に起きなくていいだけでも、かなりいいよな」

 

 まだ先の暮らしなのに、何をするかはすぐ浮かんでくる。

 

 机の資料を片づけ、今度は派遣の契約書を取り出した。

 

 働く場所と時間が書かれているところを見てから、契約期間を確かめる。更新の時期も、予定表へ入れておいた。

 

 次をどうするかは、その前に相談することになる。

 

 辞める場合の相談時期や、確認しておくものをメモへ書く。相手は工場で一緒に働いている人ではなく、派遣会社の担当だ。

 

 今までは、必要な連絡が来れば返事をする相手だった。今度はこちらから、働き方を変える相談をすることになる。

 

 担当へ確認する内容をまとめてから、今月の編集予定も見直す。

 

 レナの本編は、継続になったばかりだ。これからの分も実際に回し、入ってくる金と使う時間を記録していこう。

 

 その数字を見ながら、次の契約をどうするか考える。

 

 相談するためのメモを保存すると、さっきまで漠然としていた退職が、自分で進められる予定に変わっていた。

 

 時計を見ると、昼飯の時間を少し過ぎている。

 

 動画だけならもっと早く終わっていたが、今日は金の整理まで進んだ。ここで切り上げて、買い物と飯を兼ねて外へ出ることにした。

 

 財布とスマホを持ち、部屋を出る。

 

 いつもの買い物先へ向かう途中で、定食屋の前に立ち止まった。外に出ているメニューを眺めると、焼き魚の定食がある。

 

 家でも魚は焼けるが、今日は何も用意せずに座って食べたい。

 

 店へ入り、注文してから窓際の席へ腰を下ろす。

 

 スマホで仕事用の通知を確かめたが、今すぐ対応する用件は来ていない。画面を閉じ、テーブルの端へ置いた。

 

 しばらくして、定食が運ばれてくる。

 

 焼き目のついた魚に、大根おろし。ご飯と味噌汁、小鉢もある。箸で身をほぐすと、思っていたより綺麗に取れた。

 

 ひと口食べ、ご飯を口へ運ぶ。

 

「……うま」

 

 昼間にこうして座っていると、休みの日だという感じがする。

 

 仕事は済んでいる。買い物をして帰っても、午後はまだ長い。

 

 平日だったら、今頃は午後の作業に戻っている時間だ。今日の自分は、次に何をするかも決めずに飯を食っている。

 

 食事を終え、お茶を飲みながら窓の外を見る。

 

 工場を辞めた後の暮らしを考える時、こういう昼が浮かぶようになっていた。

 

 朝のうちに仕事を済ませ、腹が減ったら飯を食う。その後は、自分で決めたことに時間を使う。

 

 好きに暮らすために必要な金も、今は具体的に数えられる。

 

 会計を済ませて店を出ると、スマホのメモをもう一度開いた。

 

 派遣会社へ確認することが、短くまとまっている。

 

 月曜の昼休みに、担当へ確認してみよう。

 

 画面を閉じ、買い物をする店へ向かう。今夜の飯を何にするか考えながら歩いていると、帰ってからやりたいこともいくつか浮かんできた。

 

 今日は、そのどれから始めてもいい。

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