スキル制ステータスで現代をお気楽に過ご……したい   作:逆鯖

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 今回もまた生成AIによる挿絵が後書きにあります。ご注意ください。




退職後の予定 【挿絵あり】

 

 

 

 9月9日の朝。飯を食べながら、昨日スマホへ入れたメモを読み返す。

 

 派遣会社の担当へ確認することは、短くまとまっている。契約の更新をどうするか、辞める場合はいつまで働くことになるか。その後に必要な手続きも、話を聞いてから予定へ入れればいい。

 

 連絡するのは明日の昼休みだ。

 

 昨日は金のことを随分調べた。今朝になって見直しても、月曜に相談してみようという気持ちは変わっていない。

 

 食べ終えた皿を洗い、パソコンの前へ座る。

 

 今日進める編集の予定を確認してから、モデルの制作画面を開いた。

 

 ルゼを作って売り始めてから、次も何か作りたいとは思っていた。最初の1体で覚えたことも多いし、今なら同じところで長く迷わずに済みそうだ。

 

 空いているファイルを作り、まずは顔のラフを描く。

 

 今回は、小柄で頭身の低い女の子にする。耳は狸。目尻を下げて、普段の表情から柔らかく見えるようにしたい。

 

 動物の写真や獣人のイラストを見ながら、顔へ特徴を足していく。

 

 目の周りには濃い茶色。鼻は小さく黒くして、口元を明るい色にする。頬の脇にも毛を出すと、顔を正面から見た時にも狸らしさが分かる。

 

 髪は栗色のボブにして、頬の横と毛先を膨らませた。耳の外側は髪より暗く、内側は薄いベージュ。目には琥珀色を入れてみる。

 

 描いた顔を少し縮め、全身の横へ並べる。

 

「いい感じじゃない?」

 

 ルゼの画像も開いて見比べた。

 

 灰紫の髪と青緑の目、小さな角。あっちは眠そうな顔の中にも、気の強そうなところがある。今描いている顔は、丸い頬と下がった目尻のおかげで、随分と穏やかに見えた。

 

 ただ、眉まで下げると常に困っているようになる。

 

 眉の形を戻し、目尻の下がり方を調整する。口角を上げすぎずに笑わせると、欲しかった感じへ近づいてきた。

 

 木の葉の形をした髪留めもつけてみる。

 

 小さい飾りだが、茶色の髪の中に緑があると見やすい。その色は衣装にも少し使えそうだった。

 

 顔がまとまったところで、全身の方へ進む。

 

 頭身は4から4.5くらい。手足も細長くせず、顔や髪の丸みに合う形で考える。尻尾は太く、毛の量を多くして、先端を濃い色にした。

 

 後ろ姿を描いてから、着せるものも横へ並べていく。

 

 普段着は、生成りのニットと焦げ茶のジャンパースカート。大きめのポケットに、小さな斜め掛けのポーチ。厚手の靴下と丸い靴まで描くと、全体の雰囲気が揃う。

 

 これを標準にして、今回もほかの衣装をまとめて用意したい。

 

 白い上衣と赤い袴の巫女服。黒と白のメイド服。最後は深緑のワンピースと短いケープに、とんがり帽子を合わせた魔女服だ。

 

 魔女の帽子は、そのまま大きく描くと耳を隠してしまう。

 

 耳が見える位置へ動かし、少し小さくする。ケープの留め具にも木の葉を入れてみた。

 

 服だけ変えたつもりだったが、4つを並べると印象も結構違う。

 

「……和洋折衷って感じ?」

 

 和風のものも、普段着も、こういうモデルなら着せられる。それを考えるのも、作っていて面白いところだった。

 

 ラフを保存し、素体の制作へ移る。

 

 ルゼで使ったデータから、今回も使える部分を取り出す。そこから頭と胴体、手足の長さを変え、新しい比率へ合わせていった。

 

 顔は別に作る。

 

 鼻と口元を正面だけで決めず、横から見た時の形も確かめる。頬の毛を出す場所では、髪と重なった時の見え方が気になった。

 

 視点を回し、形を直し、また正面へ戻す。

 

 ラフで可愛く描けたところを、立体でも同じように見せるには手を掛ける必要がある。《立体造形》と《デザインセンス》があるので、直したい場所は見つけやすいが、最初から全部決まるわけではない。

 

 それでも、ルゼを作り始めた時とは違う。

 

 顔を作った後に何を確認するか、服を合わせる前にどこを整えるか。先の作業が分かるので、今触っているところへ集中できる。

 

 昼飯を挟み、午後も続きを進めた。

 

 夕方には、髪と耳がついた頭を、全身へ合わせて見られるようになっている。

 

 色を仮に入れると、目の周りの模様もよく分かった。

 

 目尻を下げた顔を斜めから眺め、頬の膨らみを直す。正面では気にならなかったが、横へ回すと少し平たく見えていた。

 

 そこを整えてから保存すると、もう夕飯を作る時間だった。

 

 丸1日使っても、モデル全体から見ればまだ途中だ。ただ、今度作るものが画面の中へ出てきたので、続きを触るのが楽しみになっていた。

 

 

 翌日の昼休み、飯を食べ終えてからスマホを持って外へ出る。

 

 昨日見直したメモを開き、担当の番号へ電話を掛けた。

 

 何度か呼び出し音が鳴った後、聞き慣れた声が返ってくる。

 

「お世話になっております。佐藤です。今、少しお話しても大丈夫ですか」

 

『はい、大丈夫ですよ。どうされました?』

 

「次の契約更新の件なんですけど、今月の契約が終わったところで退職したいと思ってまして」

 

 口にすると、考えていた時よりはっきりした。

 

 担当は契約期間を確認してから、理由を聞いてくる。

 

「個人で受けている仕事が増えてきたので、そちらを中心にしたいんです」

 

『そうだったんですね。次のお仕事の紹介は、ご希望されない形ですか?』

 

「はい。今回は大丈夫です」

 

 編集やモデル販売の金額まで説明する必要はなかった。

 

 工場の仕事が嫌になったという話でもないので、そこは短く伝える。担当からは職場と調整したうえで、最終出勤日と手続きについて連絡するという返事があった。

 

 確認しておきたかったことを聞き、電話を切る。

 

 スマホのメモへ、今日伝えた内容を足した。

 

「……これで無職確定だな……いや、手に職があるからまた違うか」

 

 建物へ戻る前に時計を確かめる。まだ休憩は終わっていない。

 

 電話の前は、何か細かく聞かれるだろうかと考えていた。実際には、予定していたことを順番に伝えているうちに終わっている。

 

 返事が来たら、次の準備を進めよう。

 

 スマホをしまい、午後の仕事へ戻った。

 

 

 

 その日の夜は、編集を済ませてから狸のモデルを開く。

 

 顔の色を整え、髪の先と頬の毛が重なる部分を調整した。手の先や脚にも毛の色を入れると、服を着せた時にどんな姿になるか想像しやすい。

 

 翌日は普段着へ手をつけた。

 

 ニットの上からジャンパースカートを合わせ、肩紐とポケットを作る。小さい体へ全部詰め込むと窮屈に見えるので、ポケットの大きさやポーチの位置も確かめながら進めた。

 

 表面の細かいところは、まだ後でいい。まずは正面と横、後ろから見た時の形を揃える。

 

 尻尾が服の裾やポーチへ重なるところを直していると、思っていたより時間が過ぎていた。

 

 時計を見て、いったん保存する。

 

「休みなら、このままやるんだけどな」

 

 明日も工場へ行く。

 

 帰ってから使える時間は増えたが、朝から自分の予定で動けるのとは違う。今日はここまでにして、風呂へ入ることにした。

 

 水曜の昼、派遣会社の担当から連絡が届く。

 

 職場との確認が終わり、今回は契約を更新せず、9月30日で終了することになったという。

 

 最終出勤日は9月28日の金曜日。貸与されているものの返却や、その後の書類についても案内がついていた。

 

 文面を読み、日付をもう一度確かめる。

 

 今月末で、工場へ行く生活が終わる。

 

 担当へ了承を返し、カレンダーを開いた。

 

 9月28日に最終出勤、30日に契約終了と入れる。予定の文字がついただけなのに、その先の週が急に違って見えた。

 

 帰宅後、夕飯を済ませてから、届いていた案内をパソコンで開く。

 

 返すもの、確認するもの、後から届く書類。内容を読みながら、済ませる時期ごとにまとめていく。

 

 昨日までなら、辞める場合の手続きだった。

 

 今は自分が実際に使う予定なので、連絡先や必要な資料も一緒にしておく。退職後の保険と年金について調べたメモも、こちらへまとめた。

 

 《事務処理》を取っておいてよかった。

 

 案内を読んで終わりにせず、何をいつするかまで決めてしまうと、後から何枚もの資料を開き直さずに済む。

 

 予定を保存してから、10月のカレンダーを見る。

 

 編集の依頼は、今と同じペースで入れる。ハルトとゴウの分も、レナの本編とショートも、何曜日までにどこを進めるかは分かっている。

 

 その上で、工場勤務の時間が空く。

 

 モデルを作るなら、朝からまとまった時間を使える。昼飯を食べてから続きを進めてもいいし、仕事を早く済ませて出掛けてもいい。

 

 夜に少しずつ触っている狸のモデルを思い出し、制作の予定を入れかけたところで、別のことも浮かんだ。

 

「……そういや、あっちもあったな」

 

 システムを開く。

 

 お気に入りには、使いたいものや面白そうなものが並んでいる。その中で、前に入れたままになっていた《霊能力》を選んだ。

 

 普通のステータスも確かめる。

 

 Lv1。EXPは0/100。

 

 動画を編集しても、モデルを作っても、この数字は変わっていない。こちらの経験値を得るには、妖魔や怪異などを討伐する必要がある。

 

 最初に調べた時は、そのための準備まで増やす余裕がなかった。

 

 工場へ行き、帰って編集をして、ほかのことを試すなら夜か休日。幽霊が見えるようになったところで、翌朝の勤務を気にしながら動くことになる。

 

 金と時間を先に何とかしようと思い、後回しにしていたのだ。

 

 その工場を、今月で辞める。時間ができるので考慮するべきだろう。

 

 詳細を開くと、前にも見た注意書きが出てきた。

 

 霊的な存在を認識し、干渉できるようになる。接続ができれば、向こうからもこちらへ干渉する可能性がある。

 

 見えるようになることと、相手から触れられるようになることは、一緒に考える必要があった。

 

 

《霊能力 Lv:1》

 

取得条件:なし

 

必要SP:5

 

 霊的な存在・現象の認識、および基本的な干渉を可能にする。

 

 霊力の保有・出力・操作に補正。自身や物体へ霊力を纏わせるなど、基礎的な扱いを補助。

 

 

 以前は幽霊を見るところが気になっていたが、今はその下の説明まで読む。

 

 力を体や物へ纏わせられる。

 

 それなら、見えるようになった後に戦う方法も、ここから考えられるのだろう。

 

 用語の説明を開くと、霊力と魔力についても載っていた。

 

 呼び方は地域や流派によって違うが、由来となる力は同じ。そこから何を学ぶかで、扱う術や手順が変わる。

 

「魔術、ねぇ……」

 

 霊能力から、幽霊や妖怪の方ばかり想像していた。

 

 同じ力で魔術も使えるなら、調べたいものは随分増える。

 

 関連するスキルを開き、前提条件と必要なポイントを見ていった。

 

 《魔術》は、《霊能力》を前提に10SP。

 

 呪文や術式、魔法陣などを使うための知識と技術がある。基礎となる力を扱えるようにしてから、こちらで具体的な術を学ぶ形だ。

 

 《陰陽道》と《道術》も、《霊能力》を前提に10SPずつ。

 

 符や印を使うもの、式神を扱うもの。説明を辿っていると、同じような目的でも方法が違うのが分かった。

 

 どれかを選ぶ時は、使ってみたい術から考えた方がよさそうだ。

 

 次に《巫術》を開く。

 

 こちらは霊との交信や降霊、憑依などに関係している。前提は同じく《霊能力》で、取得に10SP。

 

 《祈祷術》と《呪術》も10SPずつだった。祈りや儀式による浄化や加護、対象へ働きかける呪いと、その解除。

 

 名前だけ眺めていた時より、できることが具体的になってくる。

 

 ひとまずメモを開き、スキルの名前と取得条件、必要SPを入れた。

 

 同じ前提から取れるものはまとめ、その先に必要なものがある場合は繋げておく。

 

 《仙術》は《道術》が前提で、20SP。

 

 肉体や精神の修練、体内で力を巡らせる扱いを学ぶものらしい。《道術》を取った後に進める分野として、そちらの下へ入れる。

 

 《退魔術》は《霊能力》から取れて、5SP。妖魔への攻撃や祓い、霊的な干渉に対処するための技術がまとまっていた。

 

 防御に関係するものを探すと、《結界術》も出てくる。

 

 取得には5SP。前提は、今見た術系スキルのうち、どれか1つだ。

 

 選んだ術のやり方で結界を作る。符を使うならその配置、魔術なら術式や魔法陣というように、基になるものがある。

 

 攻撃だけでなく、こういうものも覚えられるのか。

 

 お気に入りへ入れながら、さらに一覧を見ていく。

 

 そこで、製作に関係する項目が目に止まった。

 

 

《錬金術 Lv:1》

 

取得条件:《魔術》

 

必要SP:20

 

 物質の精製・変質、および特殊素材の作成に必要な知識と技量に補正。

 

 

 詳細には、特殊な性質を持つ金属や薬草など、術を使って作成する素材について書かれている。

 

 元になるものを用意し、魔術の知識と力を使って加工していく。そのために《魔術》が前提になっているらしい。

 

 作った素材の用途を辿ると、今度は薬が出てきた。

 

 

《神秘薬学 Lv:1》

 

取得条件:《錬金術》

 

必要SP:10

 

 神秘的な薬の効能、素材、調合および使用に関する知識と技量に補正。

 

 作成には、錬金術によって用意された特殊な金属・薬草などの素材を必要とする。

 

 

「……薬、怪しいもんって感じだな」

 

 傷の回復を助けるもの、霊力を回復するもの。解毒や、呪いへの対処に使う薬もある。

 

 地域によって薬の名前や作り方は違っていても、このスキルではそうした分野をまとめて扱うようだ。

 

 《霊能力》から《魔術》へ進み、そこから《錬金術》。材料を作れるようにして、最後に《神秘薬学》で薬を調合する。

 

 必要なポイントを足すと、5、10、20、10で45SPになる。

 

 取得だけで、それだけ掛かる。

 

 映像制作を6へ上げる時には50SP使ったので、見たことのない数字ではない。ただ、薬を作れるようになるまでに、いくつかのスキルを順番に取る必要があるのは分かった。

 

 その隣には《神秘道具制作》もあった。

 

 こちらも《錬金術》が前提で、10SP。特殊な素材を使い、力や術を込めた道具を作る。

 

 武器や護符、身につけるもの。錬金術まで進めれば、薬と道具の両方へ繋がる。

 

 薬の方へ使う材料と、道具を作る材料では、必要な加工も変わるだろう。詳細を開いていると、何から試すかまで考えたくなってくる。

 

 両方を取る場合の55SPも、メモへ入れた。

 

「未知のものを作れるってのは面白そうなんだよな、これ」

 

 幽霊や妖怪を探すところから始めたはずなのに、途中で魔法と錬金術が増え、薬や道具まで出てきた。

 

 作ったものを自分で使えるなら、いろいろ試したくなる。

 

 編集で金を稼ぐ方法を考えていた時にも、一覧から次々に使えそうなものが見つかった。今度は、やってみたいことの方が増えている。

 

 気になった項目をお気に入りへ入れ、メモを見直した。

 

 ただ、最初に妖魔の件を確かめるためには、何を揃えるか。

 

 そちらの方へ戻り、《霊能力》の干渉について詳しく読む。

 

 体や武器へ纏わせた霊力は、霊的な存在への攻撃にも使える。術を覚える前でも、この基礎的な扱いで戦うことはできるようだ。

 

 攻撃の威力には、物理的な力に加えて、込められた霊力が大きく関わる。

 

 拳の勢いが弱くても、そこへ強い霊力が込められていれば、有効な攻撃になる。武器の場合も同じだ。

 

 だったら、最初から腕力を大きく上げるところへポイントを使う必要はなさそうだった。

 

 まずは霊力を扱い、相手へ当てる方法を用意したい。

 

 武器に関係する一覧を開く。

 

 剣や槍の名前も並んでいるが、今の自分が使うものを考えると、もっと身近な形が浮かんだ。

 

「バットでいいんじゃねぇの」

 

 握って振る打撃武器なら、買うものも想像しやすい。

 

 関連する技能から《棍棒術》を選ぶ。

 

 

《棍棒術 Lv:1》

 

取得条件:なし

 

必要SP:1

 

 棍棒などの打撃武器を扱う知識と技量に補正。

 

 振り方、間合い、身体の使い方など、戦闘に必要な動作と判断を補助。

 

 

 こちらは、今まで取ってきた一般的な技能と同じだ。

 

 《霊能力》で力を纏わせ、《棍棒術》で武器を扱う。取得に必要なのは合わせて6SP。

 

 これなら、最初の準備として考えやすい。

 

 《身体強化》も見つかった。霊能力が前提で、取得には5SP。霊力で筋力や耐久力、反応などを強化するものだった。

 

 そちらも使いどころはありそうだが、まずはバットを扱う方から始めたい。

 

 メモの上へ、《霊能力》と《棍棒術》を移動する。

 

 バットを用意して、扱いを確かめる。その後で霊力を纏わせることを試す。初めて使った時にどのくらい分かるのかを見ながら、強化するレベルも考えていこう。

 

 妖魔を探す方は、その準備を進めてからだ。

 

 前に読んだ説明では、場所自体が霊的な影響を受けていることもある。何がいるか分からないところへ行くなら、見つけ方や周囲の状況も確かめたい。

 

 調べることを短く書き足し、保存する。

 

 退職後の予定に、試したいことが1つ増えた。

 

 普通のレベルを上げられれば、そちらからもSPが入る。術や製作系へ進む時に、その分も使えるだろう。

 

 しかし、今はポイントの計算と同じくらい、自分で霊力を扱えることが気になっていた。

 

 目に見えないものが見えるようになる。

 

 物へ力を纏わせたり、覚えた術で何かを起こしたりできる。

 

 これまでスキルで料理や編集が上手くなったこととは、また違う経験になりそうだった。

 

 システムを閉じ、モデルの画面へ戻る。

 

 作りかけの狸が、生成りのニットと茶色の服を着て立っている。ポケットや肩紐はまだ基本の形だが、ラフで考えた姿には近づいてきた。

 

 顔へ視点を寄せ、口元を調整する。

 

 小さな獣鼻と目の周りの模様があるので、口角を動かすだけでも印象が変わる。笑わせた時に頬の毛が不自然に見えないか、横からも確かめた。

 

 普段の顔と笑った顔を見比べ、目元も直す。

 

 少し手を掛けると、さっきまでより表情が分かりやすくなった。

 

「……うん、可愛くできた」

 

 保存してから、衣装のラフを開く。

 

 巫女服、メイド服、普段着、魔女服。

 

 帽子や服を作る時に何となく考えていたものが、さっき調べた一覧にも並んでいた。画面の中へ作るだけでなく、自分でも使えるようになるらしい。

 

 モデルの制作予定を見直し、次に進めるところを入れる。

 

 顔と素体を整えて、普段着を仕上げる。その後で残りの衣装を合わせ、動かした時の見え方も確認する。

 

 退職後なら、そのための時間もまとまって取れる。

 

 カレンダーには、今月末で終わる工場勤務と、その後に続く編集の予定がある。新しいモデルと、霊能力を試す準備も、そこへ加わった。

 

 全部を毎日詰め込むつもりはない。

 

 やりたい時に時間を取れるようになるのが、今は一番嬉しい。モデルを作りたい日は朝から触れるし、外へ出たい日は、先に仕事を済ませればいい。

 

 明日も工場へ行くが、その生活には終わる日がついた。

 

 今日の制作データとメモを保存し、仕事用の画面を閉じる。

 

 寝るまでは、まだ時間がある。

 

 ゲームを起動している間に、さっきの狸の顔をもう一度見た。目尻の下がった琥珀色の目で、こちらへ笑っている。

 

 今度の休みは、服の続きを作ろう。

 

 バットも見に行ってみたいところだ。

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